マインドフルネスのおすすめ本紹介『感情の取扱説明書』

今回は谷 孝祐さんの著書『感情の取扱説明書』をご紹介します。

マインドフルネスのコンセプト「自分を観察する」「今ここ、に心を向ける」を実践するための方法の一つである瞑想では 、自分の中にある感覚や感情を捉えることを行います。
瞑想を始めた段階では、
 ①ありのままに感じること
 ②捉えた感情や感覚を認識する(ラベリング)
の両方がセットで行われることが望ましいと考えます。
以前ご紹介した『実践!マインドフルネスDVD』では、①の感覚や感情を捉えるための具体的な瞑想法についてとても丁寧に書かれています。
今回ご紹介する本書では、②の捉えた感情や感覚をどのようにラベリングして、それらをどう扱うかについて項目・段階ごとに詳しく説明されており、まさに『取扱説明書』、辞書的に使える一冊だなと感じました。

個人的には、この『捉えた感情を分析・分類してラベリングする』ということは、マインドフルネスのコンセプトの一つである『評価・判断しない』に反するかな?とも一瞬考えましたが、本書では

いま自分が感じている感情と言葉が一致することで、感情を素直に感じやすくなります。素直に感じると感情的なストレスが生まれにくくなり、最終的には『私は何者であるか?』という自己理解が深まることが期待できます。

『感情の取扱説明書』p89より引用改変

と書かれていました。つまりズレていた感情と言葉(ラベリング)が自分の中で一致していけば、次第にただ感情や感覚を感じるだけで『いまここ』に戻って来やすくなるのかなと感じました。

著者、谷 孝祐さんについて

経営コンサルタント。株式会社 今を生きる人 代表
人が生まれもった本来の才能を発揮できる「抑圧のない社会形成」を目指して活動。
心理学・物理学・生物学・脳科学・生理学・論理学・経営学・歴史・宗教など、多岐にわたり研究し「人間の幸せには、精神的な癒しと自己理解力の向上が重要である」という結論にいたる。 また、それを踏まえて、日本古来から伝わる「心の癒やし」の手法を用い、多くの成果をあげつづける。
主な成果は、親子関係や夫婦関係をはじめとする人間関係の改善、転職や独立などのキャリアアップ、生きる目的や存在意義の発見など、その数は約1万人以上になる。
活動の一環として、日本全国はもとより、世界75カ国以上を訪問し、「感情の取り扱い」こそが多くの人々に求められている課題であると感じるようになり、2014年6月より、自ら体得し構築した理論を元に「感情カウンセラー」の育成事業をはじめる。

Amazonの著者プロフィールより

感情をテーマにした本などは多数出版されていますが、本書では著者の谷さんの研究と豊富なコンサルタント経験を元に構築された独自の理論に基づいて、感情について理路整然と解説・説明されています。
読後の感想として、著者の感情との距離感の取り方が心地よく、深入りし過ぎず、かといって冷静すぎず、過去生やバーストラウマなどについても言及しながら、感情に影響を与えうる要因などをわかりやすく順を追って説明されており、読みやすかったです。

どのような人におすすめか?

本書で
『感情が安定するとより多くの人と深く関われる
→ 人生における安心感が増す』
と述べられている通り、ビジネスマン・ビジネスリーダーだけでなく、社会生活を営む上で多くの人と関わっていくことが求められる現代社会に生きる全ての人におすすめできます。特に長い時間をかけて自分の感情とじっくりと向き合い、安定化させたいと考える人と相性が良いと感じました。

私自身の体験でお話すると、仕事上、『論理的であること・発言に根拠があること・世の中の常識とされていることを鵜呑みにせずに疑いを持つこと』が求められることが多いです。そのため、それらを追求し行動・実行していくことで、冷静である状態と感情的に安定していることがごちゃ混ぜになって混乱してしまい、『仕事をする上で感情は不要で邪魔なものでは?』と感じていました。そして自分の感情(怒りや不安、恐れ)や体感覚(疲れた、無意識に体に力が入っていて凝っているなど)を見ないように蓋をしてしまう傾向がありました。
そのような状態に長くいると、「情緒が安定しているね」と言われるようになり(この本を読めば、『情緒が安定していること』と『感情に蓋をすること』の明確な違いがわかります。苦笑)、さらにその状態のまま放置すると周りから「この人は何をしても怒らない、無理だと言わない」と判断され、ほかの人が放り投げた難題の無茶振りが雪だるま式に積み重なり(それを「こいつならやれる」と信頼されていると勘違いしていました)、パンク寸前になりました。

状況を改善すべくビジネス書や心理学など本も読み、よく聞くような「どんな感情も味わい尽くすことで消えて無くなる」というのも実践してみましたが、やり方がよく分からないまま『感情を味わい尽くす』ことに取り組んでしまうと、一番辛いところでしんどくなってしまって止めてしまい、うまく抜け出せないまま辛い状態のままで留まり、結果として余計に辛くなってしまう、ということが多々ありました。(まさに前回の『マインドフルネス瞑想を独学でやってはいけない人』でした)

そのような状態から抜け出すためには専門家の方の助けを借りるのが一番だと思います。
例えば、私は産後半年ほど体の不調が続いて、整体や鍼灸院、整骨院、マッサージなどに通った結果、自分が冷え性で、体の使い方の癖や、無意識に体に力を入れてしまい凝り固まっていることを、施術師の方に指摘されて初めて気付きました。『餅は餅屋』、体のことは体のプロ、心や感情のことはそれらのプロに指導を仰ぐことで、自分でも気づかない思考癖・認知傾向などに最短距離で気づくことができます。
一方で、日本ではまだまだそのような受け口が足りていないとも感じますので、まずは本書を読むことで、感情の全体像を掴みつつ自分が抱えている感情の課題について理解することができるかと思います。

私自身は、冷静であることと感情に蓋をすることの違いや、そこから抜ける方法をもっと早く知っていたら、過剰な修羅の道をくぐり抜けることもなく、今よりも楽な人生を生きられたかもしれないと感じたり、逆にこのような修羅道を体験したからこそ、それらがなかった人生よりも速く、マインドフルネスや自分の感情に興味を持つところにまで到達できた、とも考えています。

また、一卵性双生児と二卵性双生児の比較研究から、音楽や数学の才能や知能などは親からの遺伝的影響によって決まる割合が高く、一方、自尊感情などのパーソナリティは遺伝的影響が占める割合が知能などと比べて低い、ということも分かりつつあります (慶應義塾大学の安藤寿康氏の論文「行動の遺伝学-ふたご研究のエビデンス」)。つまり、性格は生まれ持った形質だけで決まるのではなく、感情と主体的に付き合い感情を安定化させることは、誰にでも実現できる可能性を示唆しています

本書では成長・発達段階における親の言動の子供への影響(エゴの本来の役割)なども述べられており、子育て真っ最中の私にも色々と勉強になりました。育児書を読み漁ってきたけれども、より堅実で理論的な育児書を求める人にもおすすめです。

感情とは

そもそも感情とはなんなのでしょうか?Wikipediaでは下記のように説明されていました。

感情(かんじょう)とは、ヒトなどの動物がものごとや対象に対して抱く気持ちのこと。喜び、悲しみ、怒り、諦め、驚き、嫌悪、恐怖などがある。
精神医学・心理学では感情(英: emotion)と気分(mood)を区別することがあり、前者の方がより一時的なものをさす。
脳科学的には、感情は大脳の表面(大脳皮質)、および脳の深部(辺縁系など)、身体の密接な相互作用で成り立っているとする。また感情と思考や認知は、たとえその人が意識にのぼらせなくても密接に関係し合っている。

Wikipedia『感情

生物学的・生理学的観点からの感情とは

生理学的な観点では、感情とは脳の電気信号や脳波、アドレナリンやセロトニンに代表されるような神経伝達物質のシナプス間の授受、それらに伴って起こる自律神経系の反応などによって引き起こされる活動である、と言えます。

また、感情そのものが発生したり受容するのは脳だけではありません。
例えば、ストレスを感じてお腹が痛くなったりお腹を下したり、怒りの頂点に達することを「はらわたが煮え繰り返る」「頭に血がのぼる」と表現されたり、緊張して胸(心臓)がドキドキした、などのように、感情を様々な体の部位で感じられることは体験的にご存知かと思います。
それらを詳細に科学的根拠を元に分類し示すことはまだ難しいですが、『ある』ということは実感できるかと思います。

本書で定義される感情とは

本書では、『感情』と『心』、『自分』の三つに分けて考えます。
『自分』はさらに『自分領域』と『自意識』に分けることができます。
これらを本書で述べられている例えを使って簡易的に描くと、下記のようになります。

『感情の取扱説明書』 p31の図より引用改変

『心』と『感情』の明確な違いを示す生物学的な定義は得られていませんが、本書では心とは『自分の持っている全てのものが眠っている場所』と書かれています。

同じ外界からの刺激を受けても、心の状態の違いによって受ける感情も違ってきます。
また感情がクリアだと、心の声が自意識に届きやすくなるとのことです。

前述しましたが、以前の私は仕事を行う上で感情は邪魔なもの、面倒なもの、できればないほうがスムーズに仕事をこなすことができると考えていました。
しかし感情には、
 ・自分の心の状態を自意識や他人に伝える
 ・感情が揺れ動くことで行動に向かわせる原動力が得られる
など重要な役割があり、なくてはならないもの、どこまで取り扱ってもなくならないもの、であると本書を読んで感じました。

感情の分類

感情の分類なども様々な分野の研究によって諸説ありますが、本書では感情の根源は大別して下記の二種類に分類しています。

 ・ネガティブなものとして『不安』
 ・ポジティブなものとして『喜び』

これらの感情の強さや深さなどは人それぞれですが、基本的に誰しも常に持っているもの、どれだけ取り扱いが上達しても、なくならないものであり(むしろ『不安』が全くない状態で野生に放り出されたら、生命の危機に晒されます)、振り子のように『不安』と『喜び』の間を行ったり来たりしていると考えます。

例えば日々生活していく上で、原因が分からずモヤモヤしたり、漠然とした不安が続いたり、現実を前にして落ち込んでしまう、イライラしているのか悲しいのかもよく分からない…ということもあります(これらはどちらかと言えば上述のmood, 気分と分類されるかもしれません)。
基本的にいま感じている感情は一種類であることは少なく、様々な感情が入り混じっている状態であると考えられます。瞑想などのトレーニングを続けていくことで、どんな感情や感覚が自分の中にあるのか?をよりクリアに捉えることができるようになったり、自分の感情だと思っていたものが実は他の人の感情を感じ取ってしまっていた、ということが自覚できるようになってきます。

一般的に『喜び』は抵抗なくその場で受け入れ感じやすい傾向があるので、すぐに感じ切ってなくなりやすく、逆に『不安』や『怒り』などは人によってはなかったことにしようとしたり、過去の体験なども掘り起こして自分の中で不必要に長く留まらせてしまうことで、次第に変質してしまうこともあります。
これらの傾向は『感情を味わい尽くすと消えてなくなる』ということと一致しているかと思います。

感情との付き合い方

本書では感情と付き合う上で、下記のようないくつかの段階を時間をかけて順番に進んでゆくことを提案しています。
(この順番は、自分で取り組む場合に望ましいものであり、専門家などの助けを借りる場合はこの順番である必要はなくスキップすることも可能だと書いてあります)

感情を感じようとすること、存在を認めること(自分の感情に対して主体的に関わることができるようになる)
   ↓
抱えきれなくなる前に出す(適切な距離感で付き合う)
   ↓
感情の中に入る、感じ尽くす
   ↓
常に感情を感じ尽くす意図を持つ(感情のクリアリング)

それぞれの段階での取り組みで、例えば『このような感覚や感情が感じられたら時期尚早なので、焦らず前のステップに戻って取り組みましょう』というような具体例も書かれています。きちんと段階を踏んで進んでいくことで、私が以前陥っていたような『思いの外、深く自分の中に入り込みすぎてしまって、逆に辛くなってしまう』という状態も回避できそうです。

感情を安定化させたその先にあるもの

感情が安定化した状態にまで到達できていない私から見ると、『その先』が正直よく分かりません。感情がなくなってしまうのか?常に御釈迦様のように微笑みを携えて一喜一憂することなく、人生ゲームの上がり・ゴール、その先で私は何をしたらよいのか?というぼんやりとしたイメージがありました。(そこまで到達するには様々なプロセスがあり、捕らぬ狸的な妄想ではありますが)
本書では感情が安定化した先には以下のような状態になることが期待できる、と書いてありました。

自分のエネルギーをロスせずに使えるので余裕が生まれてくる
 ↓
バランスよく人間関係、お金、健康、自分の人生にも意識を向けることができる
 ↓
自分の人生がコントロール可能な実感が得られる
 ↓
不安ではなく安心感の中で生きられるようになる

『感情の取扱説明書』p26より引用

感情がクリアになった先には、軽やかに地に足をつけて生きている実感が生まれ、穏やかで継続的に幸せを感じられるようになり、本当の自分の姿を見つめることも容易になる、と述べられています。
(逆に感情のアップダウンが激しかった人は平和であることに物足りなさを感じて、あえて感情に自らのみこまれに行ったりする、と書いてあり、まさに同じことを体験したなと思いました 苦笑)

さらに感情がクリアになった先では、『心』や『想い』『バーストラウマ』などについても同様なステップを踏んで取り組んでいくこともできるとのことです。これら全てのものに取り組むことは容易ではないですが、そのうちの一つ『感情』がクリアになるだけでも、見えてくる視界も世界も変わってくるのだそうです。

私はまだそのような状態に意図的に到達できた経験がないので、そこから見える景色はどのようなものなのか、とても興味深く、この人生の中でぜひ体験してみたいなと思いました。

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ABOUTこの記事をかいた人

ライター。 生物学の博士号を取得後、博士研究員・教員として教育研究に10年以上従事。9割以上が男性の業界で女性として働く難しさを感じつつ紆余曲折を経て、2012年頃から小島美佳さんからシータヒーリングやマインドフルネスを学ぶ。 現在は心理学や精神世界のことなど様々な視点も学ぶことで、本職の生物学の理解もより深めることができないか模索中。 適応障害で心療内科に通院しつつ、自身を使ってマインドフルネスの効果を調べている瞑想歴1-2年の初心者です。