生物学の視点で読む マインドフルネスおすすめ本 『思考のパワー』

近年『マインドフルネス瞑想の継続によって、思考や意識が変わる』とあちこちで聞かれるようになりました。また思考や意識が変わると具体的にどのような変化が起こりうるのか?についてはこのコラムでも述べてきました
今回は分子生物学や遺伝学といった科学的な見地も踏まえて、思考や意識が生体や生命現象にどんな変化を起こしうるのか?その可能性について考察し、思うところを述べてみたいと思います。

それに先立って、2018-19年の本コラムでのPeter Bliss さんの連載 ⑨『マインドフルネスで視点をシフトさせる』でご紹介した、 『「思考」のすごい力 心はいかにして細胞をコントロールするか』(ブルース・リプトン著、2009年邦訳本発売)の続編、思考のパワー 意識の力が細胞を変え、宇宙を変える 』(2014年邦訳本発売) という本を読みました。
著者のリプトン博士自身はアメリカの細胞生物学者として1970年代から1990年代頃に活躍され、一流紙のScience等にも論文を掲載、ウィスコンシン大学医学部やスタンフォード大学医学部で教鞭を取っておられたとのこと。また共著のベヘアーマン・スティーブ氏は、『作家であり、政治・文化コメンティター。スワミ・ビヨンダナンダの別名で20年以上にわたって執筆やコメディー制作の活動をしている』と紹介されています(Amazonの著者紹介より)。

そもそも思考とはなにか?

そもそも思考とは?意識とは?何なのか、最初に辞書的な定義をWikipediaでおさらいしておきます。

思考(thinking)とは考えや思いを巡らせる行動であり、結論を導き出すなど何かしら一定の状態に達しようとする過程において、筋道や方法など模索する精神の活動である。

意識 (Consciousness) とは、一般に、「起きている状態にあること(覚醒)」または「自分の今ある状態や、周囲の状況などを認識できている状態のこと」を指す。

Wikipediaより

本書「思考のパワー」では、
”現代の科学至上主義の世の中では、『生物学的な人間とは遺伝子によって制御された機械のようなもの』、『思考とは脳の機能のメカニズムから二次的に生まれたもの』とされています。つまり『肉体こそが本物で、思考は脳が作り出す想像・幻想で実態のないものだ』という定義になっています(「思考のバワー」p33)が、本当にそうなのでしょうか?”
という問いかけから始まります。

筆者らは『プラシーボ効果・偽薬』『火事場の馬鹿力(戦うか逃げるか反応)』『DID (人格障害、解離性同一性障害)』などを例に上げて、脳や思考については現代科学だけでは説明できない現象が多数報告されていること、また『脳は調和して動く制御装置』(p56) であると述べています。

ヒト以外の動物でも、自分で考えて工夫したり学習できることも知られていますが、これらの動物とヒトが異なる最大の特徴は、自己を認識することができること自意識をもつ)です。鏡を見て自分を『他人とは別の自分である』と認識できるのはチンパンジーとヒトしかできないと言われており、それは脳の前頭葉の発達によってもたらされたと言われています。
またヒトは、自意識・想像力・フィクションを作る力によって自分の考えを他人に伝え、遠く離れた人ともコミュニケーションを取り、大きな社会を形成し、文明を発達させてきました。

人間の脳にある「意識」や、前頭葉の「自意識」は、「適切な環境の状態を判断して、それに反応できるか」「自分の行動によって、現在だけではなくその先に何が起こるかという結果が認識できるか」につながる。(中略)そしてこの自意識と同じくらい大切なアイデンティティは、「心」と呼ばれているわずかなエリアに存在している。そしてさらに周囲をモニターして、呼吸から運転している時まで常に心をコントロールしている部分が潜在意識だ。

「思考のパワー」p66より引用

また本書では、

生命を形づくる知覚とは
 1) 遺伝子によってプログラムされたもの(本能)
 2) 潜在意識によって記憶されたもの
 3) 自意識にもとづく行動

「思考のパワー」p77より引用

の三つに分類できると述べています。

時代の流れと精神主義&物質主義

これまでの人類史上で文明は四つのパラダイム、すなわちアミニズム(汎霊論)多神教一神教物質主義、を経験してきた、ということで考古学者と歴史学者の間で意見が一致しています。
本書では、世の中を物質から成り立つ物質的領域と、物質以外のもの(スピリット・精神、目に見えない力、エネルギー領域)から成り立つ非物質領域に分け、精神と物質の文明との関わり、つまり時代によって神やスピリットが大事だと考えられていた精神時代や、物質や科学が正しいとする物質時代の間を行ったり来たりしていると述べています。

具体的に時系列を追ってみていくと、最初は自然の要素を偶像にしたアミニズムから始まり、紀元前2,000年ごろにはギリシャ神話などに代表される多神教でより精神主義寄りとなり、400年ごろの一新教に精神主義を極めました。
その後、徐々に科学の発展とともに物質主義へと移行しました。

16世紀 コペルニクスによる地動説
1687年 アイザック・ニュートンによるニュートン力学
とこの時期、西洋では文明開化の時期を迎え、宗教的な伝統よりも理論と個人主義を重んじる啓蒙活動が盛んになり、科学を通して自然を理解することで神と調和して生きることができる、と考えられていました。(ちょうど物質主義と精神主義の両方の関係を重んじていた時代)
続く、1865年 メンデルの法則
1895年 ダーウィンの『種の起源
あたりから、生物個体の中では遺伝子のランダムな変異が起こることが示されました。その後の様々な解釈により、進化の過程における『自然選択説』などが受け入れられ、宗教よりも科学や技術によって生命、宇宙の理論を全て説明できると信じる物質主義に偏っていきました。

1940年代 ネオダーウィニズム・新ダーウィン主義
自然選択説のみでは説明できない事象に集団遺伝学などの理論も取り入れられた新ダーウィン主義が出た頃は、本書では物質主義がもっとも重んじられていた時代としています。

2003年 ヒトゲノムプロジェクトの終了
詳細は後述しますが、この辺りから『ゲノム情報を解明することで生命の設計図である遺伝子を理解することができ、生命の神秘を解き明かすことができる、全貌解明へと繋がる』と信じられていた神話が崩れ、生命のしくみは予想以上に複雑であることがわかってきました。
つまり科学だけで全ての現象を明らかにすることは難しいと理解されはじめ、現代は物質主義と精神主義の中間地点へと向かっていると考えられます。

このような現代の傾向は、儒教の概念である中庸とも一致しているかと思いますが、どちらか一方に偏るのではなく、両極にあるものをバランスよく保持することは良い傾向だと思います。(参考過去記事『【禅とビジネス】中庸の極意』)

生命・生体をコントロールするものは何か?

本書では、リプトン博士は細胞の機能を規定するのは遺伝情報ではなくて細胞膜だ、という主張をしています。
つまり遺伝情報を担うDNAは単なる生体の設計図に過ぎず、実際に重要な役割を担っているのは細胞外からの様々な刺激を受け取る細胞膜(下図参照)と細胞膜に存在する種々の受容体(レセプター)で、それらを介して刺激が細胞内に伝えられ、遺伝子の活性制御がなされ、細胞の機能が制御・調節されるということ。よって外からの刺激とその伝達がなければ、DNAはただの設計図に過ぎない、と述べています。

リプトン博士は細胞がどのように機能するか?を決めるのは、核 (nucleus) 内のDNAに含まれる遺伝情報ではなく、細胞膜 (cell membrane)である、と主張しています。
Source : What is a cell? yourgenome.org

(厳密な話をすると、脂溶性物質である性ホルモンなどは、レセプターを介さず細胞膜を透過して、直接ターゲットとなる遺伝子領域のDNA上に結合して調節を行うのですが…ここでは割愛します)

さらにポストゲノム時代の新しい概念として『エピジェネティクス』も出てきて、今も世界中の分子生物学者、細胞生物学者、遺伝学者などによって盛んに研究がなされています。
このメカニズムが、思考や意識など目に見えないものが生体に影響を与える正体なのではないか、というのが今回のコラムのポイントになります。
よって、まずはこの耳慣れない『エピジェネティクス』について、背景から説明したいと思います。

ヒトゲノム計画でわかったこと、わからなかったこと

科学的物質主義的に見ると、人間というのは単なる遺伝子に支配された生き物だと考えられてきました。


Source : Amazon

実際、ヒトゲノムの全塩基配列を解読するプロジェクトであるヒトゲノム計画が終了 (2003年)する以前の1976年に書かれ、世界的ベストセラーとなった『利己的な遺伝子』では、「自分のコピーを増やすことを最優先にする遺伝子が、どれだけ動物たちの行動や本能を操るのか?」と書かれています。
つまり有性生殖で子孫を残す私たちの形質や運命は、両親から受け継いだDNAによって規定され、それに贖うことはできない、と考えられて来ました。

しかし実際は違いました。
ヒトゲノムの30億塩基対もの塩基配列を全て解読して分かったことは、
①機能的な意味を持ち実際の遺伝情報を担う遺伝子の数が予想よりもかなり少なかったこと (これは先の研究でその他のより下等とされるモデル生物のゲノム解読が成され、キイロショウジョウバエの遺伝子数が約14,700個、シロイヌナズナの遺伝子数が約26,500個であったことから、より高等な生物であるヒトは10万個以上の遺伝子を持っているだろうと期待されていたのですが、予想に反して約22,000個とシロイズナズナよりも少なかったとのこと)、
②それらの遺伝子の機能は塩基配列だけでは生命現象について説明することはできないこと、よって機能解析(アノテーション)にはさらに時間がかかり、解析は現在も続けられています。

このようにヒトゲノム計画ではヒトの高次機能を説明しうる情報は見つからず(チンパンジーとヒトのDNAも98-99%一致している、という話を聞いたことありませんか?)、『遺伝子によって生体がコントロールされている』という神話が覆されました。

さらに、全ゲノム情報を明らかにすることで医学的にかなり進歩し、様々な遺伝病などの疾病を治療できると期待されていましたが、実際には遺伝的要因(遺伝子変異や染色体異常など)によって先天的な障害を持って生まれてくる人は全人口の約5%程度とわかりました。
残りの正常な遺伝情報を持って生まれてくる約95%の人の病気の原因は、
①外傷や毒性のもの(農薬や環境ホルモン、活性酸素などの化学物質のみならず、紫外線、放射線なども含む)の摂取等の環境要因によるものと、
②脳や心の働きである『思考』によるものである、と本書で述べられています。

よって、ヒトゲノム計画前に期待されていたような遺伝子治療(先天的な遺伝子異常による疾患の原因となる塩基変異を特定し、正常な配列を持った遺伝子を外部から異所的に入れる治療法)は、オフターゲット効果による副作用の可能性も示されたこともあり、現在のところ期待されたほど汎用される治療法とはなっていません。

一方で、遺伝子配列情報の蓄積により遺伝子検査技術は確立しつつあります。例えばアメリカの俳優のアンジェリーナ・ジョリーが遺伝子検査によってがん抑制遺伝子「BRCA1」の変異が見つかり、乳がんになる可能性が高いことから予防的処置として乳房・卵巣・卵管を切除したことが報道されたことは記憶に新しいと思います(https://president.jp/articles/-/15072)。
しかし、遺伝子検査や出生前検査などが一般的に広がることによって、入社試験や結婚に遺伝子検査が求められたりと優生思想が広がる懸念もあり、一般化には慎重さが求められています。

エピジェネティクスによる新しい可能性

上述の『利己的遺伝子』のように、私たちは親からの遺伝によって引き継いだDNAによって支配されていて、その運命からは逃れられないと考えられていました。しかしJ.ワトソンF.クリックDNAの二重らせん構造を発見した1953年よりも前の1942年にコンラッド・H・ウォディントンによって提唱された『エピジェネティクス』という概念によって、新しい可能性が示されました。ヒトゲノム計画の終了間近の2000年ごろから研究が盛んとなり、「思考のパワー」では『エピジェネティクスとは遺伝子を超える力』と表現されています。

◾️ エピジェネティクス (Epigenetics) とは

エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列の変化を伴わない、遺伝子の活性化状態を分裂後の細胞へも引き継ぐ機構、と定義されています。

私たち人間の生体は5-60兆個の細胞から成り、それら全ての細胞一つ一つは全く同じDNA塩基配列を持っています。細胞の中のDNAの約8-9割は眠って(遺伝子など意味のある配列ではない領域や、機能がOFFになっている)おり、必要な遺伝子が必要な時期・必要な場所(臓器など)でのみ活性化します。
例えば、肝臓に関わる遺伝子は全身の細胞の中に等しく入っていますが、肝臓でのみ必要な時にONとなり肝臓以外の臓器では眠っています(他の臓器でも働く遺伝子もあります)。肝臓特異的な遺伝子から作られたタンパク質は、肝臓を形成・再生したり、有害物質の解毒・分解、グリコーゲンの貯蓄、胆汁の合成・分泌などの肝臓の役割を果たすために働きます。

このような時期・組織特異的な遺伝子発現制御機構の一つがエピジェネティック制御です。

◾️ エピジェネティック制御機構は4つのメカニズムに大別される

エピジェネティック制御は具体的に以下の4つに大別されます。

DNAのメチル化;DNAを構成する4種類の塩基 A; アデニン、 T; チミン、 G; グアニン、 C; シトシンのうち、C, シトシンのみがメチル化 (-CH3, メチル基の付加) され、遺伝子が不活性化する

DNAのメチル化, シトシンの赤で示した部分がメチル化 (CH3基の付加) されることによって、クロマチン構造 (DNAが糸巻きタンパク質であるヒストンに巻きついた構造体)が凝集し、遺伝子が不活性化する。Source : Wikipedia

ヒストンの化学修飾;核内でDNAを巻きつけコンパクトに収納するための糸巻きの役割を果たすタンパク質ヒストンの翻訳後化学修飾(アミン酸残基リジン (K) やアルギニン (R) のメチル (Me) 化、アセチル (Ac) 化、アミノ酸残基セリン (S) 、スレオニン (T) のリン酸 (P) 化など)、

DNAのメチル化の量と、ヒストンタンパク質の翻訳後修飾の入り方によってクロマチン構造が弛緩(ゆるくなって活性化している状態)したり凝集(不活性化)したりする。
Source : 国立環境研究所『エピジェネティクス』

ATP依存的なクロマチン構造制御;上述の①や②の化学修飾の後に、生体内のエネルギー物質であるATPを利用してクロマチン(DNAとヒストン等タンパク質の複合体)の構造を変える反応。抑制的な構造では凝縮 (下図A) し、活性化したクロマチンは弛緩した構造 (下図B) を取る。

(A) 抑制的な凝集したクロマチン構造 (B) 弛緩した活性化した状態のクロマチン構造 Source ; What is chromatin?

non-coding RNAタンパク質に翻訳されないRNAの総称で、その中でもsmall RNAやlncRNAが関与することが知られている

詳細の説明は省きますが、様々タンパク質やDNA, RNAの特異的な場所へほんの小さな化学修飾が可逆的に着脱されることによって、遺伝子のON/OFFがとても精巧に制御されているんだなぁ、と理解しておいていただければと思います。
またこれらの精巧なメカニズムの一部が破綻することによって細胞の制御系統が暴走し、がん化などの疾病が起こることも知られています。

◾️ エピジェネティック制御に影響を及ぼす因子

エピジェネティクスによる遺伝子のON/OFF制御は、細胞外からの刺激、や環境因子によって成されます。
具体的には、内因性のホルモンや摂取した栄養素(食生活)、光、温度、ダイオキシンをはじめとした毒物、などの外的環境因子のみならず、精神的なストレス、心理状態、幸福度、抑鬱状態、など様々な心理的内的要因によっても影響を受けます。(Wired 『環境と遺伝子の間:あなたのエピジェネティクスは常に変化している』参照)
2013年に発表された論文では幸福の種類によって免疫に関与する遺伝子の発現パターン(ON/OFFのスイッチング)が変化するということも報告されています。

また現代物理学においては、粒子と波の両方の性質を持つ電磁波と定義されているように、非物質である光の刺激を受け取るなんらかのセンサーを細胞が持ち、エピジェネティック制御を介して遺伝子の活性化状態に影響を与えることが明らかとなっています (次に述べる明暗周期や花の開花などがそれにあたります)。

◾️ エピジェネティクスによって制御される生命現象

またエピジェネティクスによって制御されることが分かっている具体的な生命現象の一例としては、
・ミツバチの女王蜂化(働き蜂も女王蜂も遺伝的には同じであるにも関わらず、幼虫期にローヤルゼリーを食べたメス蜂だけが女王蜂になる)、
明暗周期(概日リズム、Circadian rhythm) 代表的な例として時差ボケや昼と夜とで代謝や脳波の状態、細胞の中の機能が異なることが知られている。これらは目から入る光の刺激が視神経を通して脳に影響するものと考えられていたが、実験室内の培養細胞や目が退化した地中生物でも同様な現象が見られることから、エピジェネティクス制御を介して細胞の機能を調節する一例であることが分かっている。
植物の開花(温度と光周期での活性化)、
カロリー制限 (Caloric restriction) による寿命の延長や老化の抑制
など多岐に渡ります。

以上のことから、親から受け継いだ遺伝情報以外にも、食生活を始めとした生活習慣や環境、思考や意識などの精神活動などによっても眠っている遺伝子がONになったり、働くべき遺伝子がOFFになったりして、私たちの健康状態や寿命のみならず人生の在り方そのものも変わりうる可能性があると言えるかと思います。

◾️ 後天的な獲得形質が遺伝する!?

長い間、DNAの塩基配列のみが遺伝情報として親から子へ引き継がれると考えられていましたが、近年このエピジェネティックな制御によって後天的な獲得形質も遺伝することがわかってきました。

当初は妊娠中の母体の栄養条件やストレス状態などが胎児に影響を与えると考えられていました(実際、第二次世界大戦中の飢餓状態の時に妊娠・出産した低出生体重児は、成人した後に成人病や精神疾患を発症する割合が有意に高いことが知られています。日本産婦人科医会資料参照)。
しかしながら2010年にラットでの実験で、受精前の父親の栄養状態(具体的には高脂肪食負荷)によって子が2型糖尿病になる確率が高くなること、またこの獲得形質はエピジェネティックな制御を介して子に遺伝することが示されました (Nature, 2010)。

その後も線虫など(Nature, 2011, 京都大学プレスリリース, 2017年)様々なモデル動物を用いた研究が成され、 現在では広く受け入れられている概念となっています。

この部分を話し始めるととても難解かつ長くなってしまうので割愛しますが、私たちが努力や鍛錬(肉体・精神を問わず)によって獲得した後天的な形質が、次の子の世代に遺伝しうるということは、生物界の概念をひっくり返すようなものすごい発見でした。(それまでは塩基配列以外のエピジェネティックな情報は、受精卵で一度全部消去されると考えられていました、体細胞クローン羊ドリーの研究から)
もちろん、現在のところは受精前の親の獲得形質(ストレス耐性や栄養条件など)が子にも影響しうるという話(すなわち配偶子を介した遺伝なので、受精後の親の獲得形質は子には遺伝しない)です。一方で、一世代だけではなく何世代も遺伝すること、本能で天敵を知っている現象なども説明できることをマウスを使った実験で示されています (Nature Neuroscience, 2013)。

意識や思考などが生命現象に影響しうる可能性

私たちの意識全体のうち、自覚されている意識である顕在意識が10%程度、価値観、習慣、思い込みから形成された自覚されていない意識である潜在意識が90%を占めると言われています。
さらに認知学では私たちの行動のうち、自意識が関わっているのは約5%程度しかなく、残りの約95%の意思決定、行動、感情、振る舞いは潜在意識からのものである、と述べられています(「思考のパワー」p68)。
また心理学では、脳などで無意識のうちにオートランしている潜在意識のうち約7割がネガティブな思考だとも言われており、それらによって私たちの日々の行動や精神状態が影響を受けている可能性も言われています。

つまりマインドフルネスによって「今ここ」に集中することで感情や過去や未来にとらわれ過ぎず、顕在意識でありのままの自分を認知することで、自分の行動や潜在意識が変わってくるのではないかと考えます。

ものの考え方(すなわち哲学)こそが最終的には生物の意思を決定する。脳の機能は、潜在意識と実際の世界で体験したことをつなぎ合わせることだ。

「思考のパワー」p80より引用

実際、非物質的で精神的な活動が生体に影響を与える例について科学的なデータが取られつつあります。

・祈りは遺伝子を「活性化」する 慈悲の心が免疫機能の強化につながる(筑波大学名誉教授・村上和雄 産経ニュース, 2018年)
・慢性的なストレスによるコルチゾールの増加が記憶力や思考力を低下させ脳の収縮まで引き起こす (Neurology, 2018)
・洞察瞑想時に自伝的記憶関連脳領域間の結合性が低下することを発見 -今この瞬間に生じている経験にありのままに気づくことの神経基盤 (京都大学プレスリリース, 2018年

(最後に…) 現代社会への警告

著者らも、2018年3月に亡くなったホーキング博士の遺言でも、現在の地球上の問題、爆発的な人口増加、地球環境破壊や貧富の差の拡大、戦争・テロの激化に言及し、このまま人間たちが意識を変えなければ間違いなく破滅へ向かうだろう、と警告しています。

私たちが現在直面している戦い、
人間が本来持つ能力や可能性を否定してしまうような内なる意識、限界を作り上げてしまう無意識に対しての闘い
戦争や貧困がはびこるのが世の中だという概念を仕方のないことだと受け入れていないか?

「思考のパワー」p109より引用

現在の新型コロナウイルス (COVID-19) 感染症の地球規模での流行から、「またコロナ前の日常に戻るのはいつなのか?」「いつ収束するのか?」といった質問を総理記者会見などで聞くことがあります。

ウイルスや細菌と聞くと病原性ばかりが注目され、ワクチンや治療薬によって根絶しなければならない『悪』のように捉えられがちですが、実際には人体に有害な微生物はほんの一部です。むしろ、生物の進化はダーウィンが提唱するランダムに起こる遺伝子変異の蓄積だけでなく、ウイルスが持つ変異スピードの速さが飛躍的な進化に必須であったことも明らかになりつつあります。
例えば、哺乳類の特徴である胎盤や乳腺といった組織の獲得にレトロウイルスによるトランスポゾンが重要な役割を担っていたことが最近分かってきました (Nature, 2013, 東工大プレスリリース, 2019)。

このコロナ禍の機会に我々一人一人が立ち止まり、これまで常識・日常と感じていたことを見直してみたり、意識や思考を変えることでイニシエーションのきっかけにできたら良いのかなと感じています。


次回は脳科学の研究領域からとらえた意識や思考について、お話したいと思います。

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ABOUTこの記事をかいた人

ライター。 生物学の博士号を取得後、博士研究員・教員として教育研究に10年以上従事。9割以上が男性の業界で女性として働く難しさを感じつつ紆余曲折を経て、2012年頃から小島美佳さんからシータヒーリングやマインドフルネスを学ぶ。 現在は心理学や精神世界のことなど様々な視点も学ぶことで、本職の生物学の理解もより深めることができないか模索中。 適応障害で心療内科に通院しつつ、自身を使ってマインドフルネスの効果を調べている瞑想歴1-2年の初心者です。