マインドフルネス瞑想文献 要旨解説(精神医学)

 こちらでは、『マインドフルネス瞑想 文献リスト』でご紹介した論文の内容について、簡単な要旨の解説を随時追加・公開していきます。

 マインドフルネス瞑想は言葉では説明しづらい領域も含んでいて、「とにかく一度体験してみてください」と言われるものの、「何だか良くわからない」と感じられる方もいらっしゃるかと思います。
 そこで、現在発表されているマインドフルネスの効果や生体への影響などについての研究論文やレビューをご紹介していくことで、そういった不安や不信に思っていらっしゃる方がマインドフルネスに興味を持っていただくキッカケになったらいいなと思っております。

精神医学への腸内細菌叢と食事療法の効果:特にうつ病患者への影響について(Review)

The gut microbiome and diet in psychiatry focus on depression

(Dash Saraha, Clarke Gerardb, Berk Michael, and Jacka Felice N., Current Opinion of Psychiatry, 2015)

 うつ病性障害に関する研究において、近年発見され急速に進展している知見の一つとして、気分と行動に『マイクロバイオーム(皮膚を含めた体内に存在する微生物群の総称)-腸-脳 軸』の関与を示唆する研究が挙げられます。同様に最近、不健康な食事とうつ病が相関関係を示し、危険因子になるとも指摘されています。このレビューでは、食事とうつ病との関連を仲介する重要な鍵である腸内細菌叢(腸内フローラ)について述べます。
 新しい技術の開発により、食事が腸内細菌叢の組成と活動にどのように影響し、うつ病にどのように影響するかについての理解が深まりました。また、プレバイオティクス(腸内にもともと存在する善玉菌を増やす作用のあるもの、食物繊維やオリゴ糖など)とプロバイオティクス(健康に有用な作用をもたらす生きた善玉菌)製剤および発酵食品(ヨーグルト・乳酸菌飲料・納豆・漬物など、ビフィズス菌や乳酸菌を含む食品)のメンタルヘルスへの有効性も示唆されています。
 まだ研究の初期段階ではありますが、ヒトマイクロバイオームに関する研究成果は、腸内細菌叢がヒトの脳の発達、行動、気分に影響し、重要な役割持つことを示しています。食事やストレスなど他の環境リスク要因と腸内細菌叢は双方向に作用することからも、腸内細菌叢をターゲットとした一般的な精神障害の予防法や治療法の開発は有望であると期待されます。

<関連論文>
・The microbiota regulate neuronal function and fear extinction learning
微生物相がニューロン機能と恐怖消去学習を調節する
(Nature, 2019) 日本語要約

・腸と脳の密接な関係(ヤクルト HEALTHIST, 2017)

注意・集中をベースにしたメンタルトレーニングよりも、社会的視点を得るトレーニングの方がコルチゾール-ストレス反応をより低下させる

Specific reduction in cortisol stress reactivity after social but not attention-based mental training

(Veronika Engert et al, Science Advances, 2017)

 ドイツのマックス・プランク研究所において行われた、瞑想やメンタルトレーニングの種類によってストレス反応の指標であるストレスホルモン・コルチゾールレベルがどのように変化するかを調べた論文です。同じ号に同様なトレーニングを行った際のfMRI測定で脳の変化を調べた論文も載っていました。
 この論文では、 9か月間、いくつかのグループに分けて、
①注意力 (Presence module, 呼吸法やボディスキャン瞑想)
②社会的感情(Affect module, 思いやり、慈愛の瞑想、感情ダイアド)
③社会的認知能力(Perspective module, 遠近法、メタ認知・視点獲得、思考観察)
を対象としたメンタルトレーニングを行い、心理社会的ストレス軽減のための効果的な手段を検討しました。
 ストレスレベルは、被験者本人の主観的な感覚以外にも、内分泌、自律神経、および免疫マーカーを含む複数の因子を測定することにより、生物統計学的に評価しました。
 313人の参加者を、ストレステスト (TSST; Trier social stress test、具体的には聴衆の前でフリースピーチや暗算を行う) を行い意図的にストレス状態にした後、メンタルトレーニングを行うグループと何もしないグループに分け、ストレスレベルの変動を測定(ストレステスト前、直後、メンタルトレーニング後の3点で測定)し比較しました。その結果、3種のメンタルトレーニングすべてが自己申告レベルでのストレスの著しい低下が認められました。
 また生理学的なストレス応答、特にHPA(視床下部-下垂体-副腎)軸最終産物であるストレスホルモンのコルチゾールの分泌量の変化を調べた際、②の社会的感情および③の社会的認知能力を標的としたトレーニングでは、最大で51%減少させることがわかりました。一方、多くのマインドフルネス プログラムで実施されている『今この瞬間』への注意・集中と相互受容的認識に焦点を当てたメンタルトレーニングでは、何もトレーニングを行わない群とストレステスト後のコルチゾール量の回復レベルにほとんど差がなく、注意・集中のトレーニングの効果は自己認識レベルでのストレス低下のみが認められました。そのほか調べた自律神経系や免疫マーカーでは、トレーニングの種類によって差はありませんでした。
 今回の結果から、慢性的な社会的ストレスの低減や関連疾患の発生率を最小限に抑え、社会への実質的な経済的負担を軽減するための有望なメンタルトレーニング法の確立に繋がる可能性があります。


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瞑想や休暇が、免疫、ストレス応答や老化の進行に影響することが遺伝子レベルの解析でわかった

Meditation and vacation effects have an impact on disease-associated molecular phenotypes

(E.S. Epel et al., Transl Psychiatry, 2016)

 瞑想やバケーション(休暇)が与える影響について、遺伝子発現レベルで解析(採血し、血中のRNAシークエンシングによるトランスクリプトームの網羅的解析)した論文です。個人的にはとても興味深く、もう少しn数(被験者数)を増やしてやったら面白いのではないかと思いました。
 この研究では30人程度の以下の3つのグループを設定しました。(全て本人の希望で確認)
・リゾート施設で休暇を一週間楽しむグループ
・リゾート施設で瞑想やヨガなどのリトリートを受ける瞑想初心者のグループ
・日常的に瞑想を行なっているグループ(リゾートに一緒に参加、通常瞑想グループ)
 参加前、一週間後、1ヶ月後、10ヶ月後、と追跡調査を行なったところ、心理的な幸福度は一週間後に3グループとも大幅な改善が見られたものの、1ヶ月後の抑うつ効果は瞑想初心者のグループの方が休暇のみを楽しんだグループより優位に高くなっていました。
 遺伝子発現変化については3つ全てのグループで、ストレス反応、免疫機能、炎症、アミロイドベータ(Aβ, アルツハイマー病の発症に関与する)の調節関連遺伝子の発現レベルの変化が検出されました。あまり差は大きくなかったものの、通常の瞑想者では、タンパク質合成とウイルスゲノム活性が低くなっているという特徴が見られました。また通常の瞑想者は、テロメラーゼ活性が増加する傾向(老化の抑制)を示しました。
 このようなリゾートでの生活、という高度に管理された居住空間を用いた比較研究によって、瞑想の実践によって休暇とはまた異なった細胞レベルでの健康に影響がある可能性を示唆しています。

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