心理学の視点で考える マインドフルネスの役割

近頃、マインドフルネスを実践しているリーダーが、少しずつ増えてきています。

そんな中、リーダーとして判断を求められる時、大きな決断をしなければならない時、マインドフルネス実践の効果を肌で感じる方もおられるかもしれません。

さて、マインドフルネスの役割とは、どのようなものなのでしょうか。今回は、臨床研究の知見を紹介したいと思います。

マインドフルネスは、「思考や感情に巻き込まれて、"心ここにあらず"になることから抜け出す」「思考や感情に巻き込まれにくくなる」ことに関係しているようです。
ここで、認知行動療法と呼ばれる心理療法の1つである

アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)行動療法」

の説明を借りて、紐解いていきます。

マインドレスな行動パターン

まず、マインドフルネスな状態の逆の、「マインドレス」な状態を見てみましょう。マインドレスな行動パターンには、以下の4つがあります。

  • 体験の回避    :苦痛な思考や感情を回避する行動
  • 認知的フュージョン:思考と現実や自己を混同する行動
  • 過去と未来の優位 :時間概念と「現実」を混同する行動
  • 概念化された自己 :自己概念と「自己」を混同する行動

(ルオマ・ヘイズ・ウォルサー,2009)

上記のマインドレスな4つの行動パターンのなかでも、特に、「体験の回避」と「認知的フュージョン」が重要です。

それではここで、「体験の回避」と「認知的フュージョン」について見ていきましょう。

熊野宏昭著「実践!マインドフルネス今この瞬間に気付き青空を感じるレッスン」(株式会社サンガ)から引用して紹介します。

体験の回避とは

体験の回避は、嫌なことを感じないでおこう、忘れてしまおうといった行動のことです。
誰しも、不安になりたくないし、落ち込みたくないものですよね。しかしながら、不安をなくそうとすればするほど、逆に不安が気になる。何とか落ち込まないようにしようとすればするほど、逆にそこから抜け出せなくなるのです。

認知的フュージョンとは

考えていることと現実を混同したり、考えていることと自分を混同したりする、といった行動のことをいいます。そのために、「こんなに落ち込んでいたら、何もできない」とか、「こんなに不安だから、きっと失敗してしまう」などと思って、体験の回避をしてしまうわけです。
「あのような体験は、もう二度とイヤだ。もう、感じないでおこう」と、心を閉じてしまうわけです。このように、体験を回避すると、現実が感じられなくなるわけです。

認知的フュージョンを起こすことで、思考は現実を遮断する効果をもちます。考えることでバーチャルな世界が作り出されて、現実との接点が失われます。考えることは、体験の回避をする場合には、もってこいなのです。

マインドフルネスの役割とは

「嫌なことを感じないでおこうとすること(体験の回避)」を防ぎ、「現実と思考を混同したりするところ(認知的フュージョン)」を切り替えていこうということが、マインドフルネスの役割の一部であると考えられます。

実際に役立つのは、「もう、不安なら不安でもいいよ」とか、「落ち込むのなら、落ち込んだっていいじゃないか」という考え方です。実際に不安に思っていることが起こるかどうかは分からないものです。

なので、やってみてその結果を見てみればいいわけです。「いや、そんなこと、できるわけないよ」と思ったことが、やってみたら「思っていたほど大変じゃなかった」ということも起こり得るのです。
リーダーとして、慎重になりたい時ももちろんあると思いますが、気持ちや考えにのまれそうな時こそ、『今ここ』との接点を取り戻し、行動を起こして結果をみてみてはいかがでしょうか。

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ABOUTこの記事をかいた人

臨床心理士/早稲田大学人間総合研究センター招聘研究員。 2006年より、タイ・ネパールを訪れ,、瞑想を実践する。現在は、 医療機関・教育機関にて認知行動療法やカウンセリングを行うと共に、企業において働く人のメンタルヘルス相談にも携わっている。また、「気分障害による休職者の復職支援」と「過敏性腸症候群の認知行動療法の効果検証」に関する研究を行っている。マインドフルネスが個人のパフォーマンスや組織に与える影響にも関心がある。