ビジネスパーソンに特化したマインドフルネス講座を全24回に渡ってお届けしています。前回は『ここ』に集中するポイントとなる『カラダ・姿勢を意識する』についてお話しました。
4回目の今回は『ここ』に集中するポイントとなる『カラダ・感覚を意識する』についてお話ししていきます。
目次
身体感覚とマインドフルネス
身体に意識を向けていくだけで、身体の緊張が緩まりリラックスが進んでいくことがあります。「リラックスしたい、緩みたい」と思ったら、身体を感じるのが良いです。しかしリラックスする際には副交感神経が優位となり、心も身体も緩んでしまうので、やるタイミングとしては仕事前や仕事中よりも、寝る前の方がオススメです。その結果、眠りの質も深まってくると思います。
その他にも身体感覚が免疫力に影響するということが神経系での研究等で理解されつつあるんですが、特にマインドフルネスを積極的に広めた研究者が「身体感覚がとても重要だ」と言っていて、現在も身体感覚については研究されています。
身体感覚と体性感覚
空間にある体を『ここ(here)』と意識できるようになると、自分を過去や未来への思考から離して戻れるようになります。過去や未来への囚われから離れる時間が多くなればなるほど、『今ここ』にいる時間が増え安定感が増してきます。

前回は空間の中の体はどこにありますか?という姿勢の話をしました。
今回は体性感覚とよばれる身体の内側の感覚(皮膚感覚、深部感覚、内臓感覚など)にダイレクトに意識を向けていきます。
呼吸は今この瞬間の『時間』に戻るための錨である考えると、身体は『空間』に位置するもので『今ここ』の『ここ』に戻るための錨です。
時間と空間の両面から『今ここ』に意識を置くマインドフルネス・トレーニングの基本として、呼吸と身体を意識するということを実践していきましょう。
ソマティックマーカー仮説
刺激に対する反応プロセスについては、アントニオ・ダマシオという人が唱えたソマティックマーカー仮説というものがあり、最近では、この仮説が正しそうだという研究結果も集まりつつあります。
ソマティックマーカー 仮説の例
例えばなんらかの刺激を人間が受け取ったときには、下のモデル図の様にその人の中では電光石火のように様々なプロセスが起こり、最終的にはロジックで考えて意思決定をしていくと思います。
実は意思決定(下図の論理)の前に、刺激に対して1番最初に反応するのが身体感覚であるということがわかってきています。
刺激を受けて快・不快を知覚した瞬間に身体感覚・身体反応が引き起こされます。ここには脳の扁桃体も関わっていることが分かっていて、これらをソマティックマーカーといいます。この時、瞬時に意思決定の選択肢もパッと現れていると言われています。

Source : BLUE JIGEN
この身体感覚や身体反応は心、脳など様々な場所で情動(一時的で急激な感情の動き)にもリンクしていきます。
具体的には感情的な反応がパッと起きたり、「こっちの方がいいよね」などの選択肢が浮かぶといったことが起こります(上図の感情)。
これはポジティブな場合だけではなく、逆にすごいネガティブなサイクルに入ってしまっていると、悪く考えてしまって悪い方を選んでしまったり、ということもあります。この辺は全て瞬時に起こり、その後に思考論理プロセスが起こってきます。
なので『刺激→意思決定』の後に感情や感覚が引き起こされるのではなく、『刺激』と『論理的な意思決定』の間に、『感覚・感情』というプロセスがあり、これらが意思決定に関わっている、というのがソマティックマーカー仮説です。
身体感覚を高めると意思決定も変化する
マインドフルネスを実践していくと感覚や感情などに気づきやすくなり、スペースや余裕が出てくるので、意思決定にも変化が出てきます。「なんかこの話きな臭いぞ」みたいなアンテナが元々高い方もいるかもしれませんが、そういう方は、この辺の感覚で察知しているのかもしれませんね。
そういう嗅覚のような感覚を持ちつつ、ロジカルやロジックもしっかり働かせて検証するといったことも、この仮説に沿えば実現可能だと考えます。
またリーダーシップへの応用という点で考えると、過去の体験に基づいた感覚や感情のプロセスに無意識のうちにはまって意思決定をしていないか?っていう振り返りもできるようになります。
さらに感覚や感情にスペースと余裕ができると、過去の体験・経験から自由になり、意思決定の前に浮かぶ選択肢も増えます。つまり身体感覚を高める重要性は、ビジネスの分野でもとても高いと捉えていただければと思います。
今はまだニッチな領域なんですけれども、心理学の研究分野では重要性は年々増していますし、最近リーダーシップや組織開発分野でもこのソマティックマーカー仮説の話題は広がりを見せ始めています。
身体感覚を高めるトレーニング
身体感覚を高めるための方法として、ボディースキャンという方法があります。これは頭の上の方から身体の部位にゆっくりと順番に意識を向けて感覚を感じていくというものです。
例えば仕事中でも、今自分の顔の表情がどんな感じか?を実際に手で触れて確認してみたり、首の後ろに手を当ててみて首が凝っていないか?どんな状態かを感じてみたり、体の表面を手でさすってみたり、といった行動でも身体感覚に意識を向けることになります。
これを続けて行くと身体感覚がだんだん研ぎ澄まされていきます。そして熟達してくると「今自分の肩はどんな感じかな?」と体のある部位に意識を向けるだけで、凝っていることに気づいて力を抜きリラックスする、ということも可能になります。
実際のボディスキャン瞑想のガイドも録音したので是非、寝る前などに実践してみてください。
【松村憲】ボディスキャン瞑想ガイド(約10分間)
次回、第5回はじっと座っていることが苦手な方にオススメの『歩く瞑想・歩行瞑想』についてお話します。