ストレスと脳|扁桃体 【マインドフルネス24講 第13回 リーダーシップ感情編】

ビジネスパーソンに特化したマインドフルネス講座を全24回に渡ってお届けしています。

前回まではリーダーシップにおける思考や自己認識の重要性やそこにマインドフルネスをどう活用していくか?といったことをお伝えしてきました。
今回からはリーダーシップ感情編、ということで6回に渡って、自分自身の感情に気づきうまく付き合うにはどうしたら良いか?といったお話を脳科学やマインドフルネスの作用点なども絡めてお話していきます。

過去への囚われ・未来への不安がストレス要因となる

集中を高めるための禅の修行の一つに、『数息観』という呼吸の数を数える基本の瞑想があります。最初は雑念が湧いてきてどこまで数えたか分からなくなることも多いと思いますが、雑念が湧いたことに気づいたらまた1から数え直すということを5分、10分と続けていくと集中力がどんどん鍛えられていきます。

集中力が鍛えられると、今ここに在る、ということができるようになります。今回のストレスのお話とも関連してきますが、まだ起きていない未来への不安で実際にはそのほとんどは現実には起こらないと言われていたり、これまでの蓄積や記憶(失敗やトラウマ)など過去に意識が向いている状態で、それらがストレスの原因ともなり得ます。
そこにマインドフルネスを取り入れることによって、今ここへの集中が高まり、現状にどう対処していくか?という意識、思考や行動力がついてくると、状況も少しずつ変化してきます。

マインドフルネスをビジネスに活用する上で目指す状態

マインドフルネス瞑想の実践を通じて目指したい状態は、集中力の高い状態かつさらにリラックスも高まっている状態です。最初はなかなか難しいと思いますが、集中が高まっていて力みは完全に抜けている状態は、クリエイティブでいわゆるフロー状態です。

皆さんの人生のピークの時とか思い出していただくと、1度ならずともこういう時期があったと思います。これを意識的にマインドフルに作っていけるようになるという事ですね。
ここで集中力は高いけれどもリラックスが低くなってくると戦う姿勢、ストレスフルな状態になってきます。このリラックスが低い状態が続くとストレス的に危険な状態で心身に悪影響も出てき始めます。
そしてリラックスが低く集中力が下がっている状態は、バーンアウト(燃え尽き症候群)状態です。

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キラーストレスとは 

キラーストレスと言う単語を聞いたことあるでしょうか?
NHKスペシャルで話題になった内容で、ストレスはある日突然死因に変わる、ストレスの閾値を超えると病気が発症するそのメカニズムや予防法としてマインドフルネスも紹介されて話題にもなりました。
ストレスを引き起こす原因であるストレッサーは生きていたら避けることができない、私たちの周りにありふれているもので、それら刺激がストレス反応(血圧、心拍数、血糖値の上昇、血管の拡張や血流量の増大など、いわゆる闘争逃避反応)を引き起こします。しかしストレス反応が慢性化したり一時期に大量にストレッサーがやってきて閾値を超えると全てアウトプットできなくなり、その結果病気が発症する、というメカニズムが提唱されています。

ストレスが関係する病気

蕁麻疹、アレルギー、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、脳卒中・心筋梗塞、糖尿病、円形脱毛症、エコノミークラス症候群、や精神疾患としてうつ病などが挙げられます。脳卒中や心筋梗塞などは自覚ないうちに症状が進行して発症したときには致命的になりうるので、これらもキラーストレスと呼ばれる理由といえます。

ストレスによって免疫を担うリンパ球の一種、ナチュラル・キラー細胞(NK細胞)の活性が減少したり、免疫細胞間の情報伝達を担うサイトカインが減少することも知られており、それらによる免疫力の低下の結果、癌になりやすくなる、という報告もあります(日薬理誌, 2011)。

さらには日本整形外科学会と日本腰痛学会が作成した腰痛診療ガイドライン2019では、3ヶ月以上腰の痛みが続く慢性腰痛の原因の一つとしてストレスをあげており、その治療にマインドフルネス・ストレス低減法が有効、とも言及しています。

<ストレスの原因>

主に、転居・結婚・離婚・死別などのライフイベントが多いのですが、昇進もストレスリスクになります。環境変化に対して人はそんなに強くないので、一時期にたくさん重なる時は要注意です。

実際に今自分自身はどのようなストレスの原因にさらされているか?は、先ほどのNHKスペシャル厚生労働省のHPでストレスセルフチェックテストなどもありますので、一度試してみてください。意外とたくさんのストレス要因を抱えているんだな、もう少し無理せずリラックスを心がけよう、と気づくきっかけにもなるかもしれません。

<ストレス反応の作用機序>

扁桃体の位置
Source : Wikipedia

ストレス刺激を最初に受け取るのは脳です。その機構としては、

1) ① 主に視床から大脳皮質を介して大脳辺縁系の一部である扁桃体(右図)へ伝達される経路と、
② 大脳皮質を経由せず直接 大脳辺縁系の一部である皮質下核から扁桃体に伝わり、
扁桃体からHPA軸 : hypothamic-pituitry-adrenal axis (視床下部-脳下垂体-副腎皮質軸, 内分泌系) へと繋がる経路、

2) 脳幹で受け取り、SAM軸:sympathetic-adrenal-medullary axis (交感神経-副腎髄質軸, 自律神経系) へと伝わる経路、

の2種類が知られています。

HPA軸への刺激入力に働く大脳辺縁系は大脳の中でも内側に位置し、古からの快・不快、恐怖、闘争逃避反応などの情動や本能(サバイバル反応)に結びつく機能に関与し、生存に必須な領域でもあります。 これらの反応で結果として副腎皮質からストレスホルモンであるコルチゾールが分泌され、心拍の増大や血流や血圧の増加などの身体的反応が引き起こされます。

最近の脳科学では、ストレス状況下に置かれ続けると扁桃体が肥大化し、記憶形成に関与する海馬が縮小すること、
逆にマインドフルネス瞑想の実践によって扁桃体の反応を抑制することもMRIを使用した研究でも明らかになっています。

マインドフルネス以外にもランニングやウォーキングなど、日々皆さんの心が落ち着くことをやる(リラックスと副交感神経の活性化)と、ストレス反応の沈静化がよりスムーズになります。

Source : 瞑想チャンネル for Leaders

ストレスの刺激によって扁桃体が活性化すると 思考などを担う前頭葉の働きが低下して、考えるよりもまず動け、という戦うか逃げるか反応が引き起こされます。これも後述するように火事場の馬鹿力的に瞬発力でその場の危機を切り抜ける上では必要なものです。

通常であればストレス反応はその役割を終えると、抗ストレスホルモンの分泌によって沈静化、ストレス状態の解消・正常な状態に戻ります。一方で過剰で慢性的なストレスにさらされ続けていると、ストレス反応が収まる前に次のストレス反応が引き起こされ、闘うか逃げるか反応が続く状態となり、その結果、心身に異常を来します。

2種類のストレス

ストレス、と一言で言っても大まかに分けて2種類あり、その中には良い作用をするストレスもあります。

1, 頑張るストレス

主に体のストレス反応。仕事に精力的に取り組む際に必要になるストレス。アドレナリンなどのストレスホルモンはこうした際に役立つものとなります。
ぐっと緊張するのは良い部分もあります。やる気やモチベーションが高まり、その結果 戦える、動ける、仕事や勉強に取り組める、集中力が高まる、ということにつながります。

2, 我慢するストレス

主に心のストレス反応。例えば満員電車などの環境要因もあれば、職場の環境、前向きになれない人間関係、慢性的に継続するストレスはある日突然キラーストレスへと変化します。
自分では選べないストレス要因が積み重なると、ストレスが慢性化すると危険因子となります。

心理的安全状態と心理的危険状態の脳の働き

第9講でお伝えしたようにマインドフルネスは、考える力・思考力や感情的な反応のバランスを取る上でかなり効果を発揮することも分かっています。また扁桃体を沈静化することで、恐れや恐怖などの扁桃体由来の感情が減り、過剰なストレス反応の減少にも繋がります。
つまり環境が変わらなくても脳の中の神経回路が変わる結果、ストレス刺激に対する認知も変化し、結果的にストレス反応も自然と減少していきます。

【実践】呼吸に全集中してストレスを解放する5分間瞑想

最初にお伝えした『数息観』のような、自分自身の呼吸に集中して集中力を高め、ストレスを解放するための瞑想ガイドです。

Source : 瞑想チャンネル for Leaders