マインドフルネス瞑想文献 要旨解説

 こちらでは、『マインドフルネス瞑想 文献リスト』でご紹介した論文の内容について、簡単な要旨の解説を随時追加・公開していきます。

 マインドフルネス瞑想は言葉では説明しづらい領域も含んでいて、「とにかく一度体験してみてください」と言われるものの、「何だか良くわからない」と感じられる方もいらっしゃるかと思います。
 そこで、現在発表されているマインドフルネスの効果や生体への影響などについての研究論文やレビューをご紹介していくことで、そういった不安や不信に思っていらっしゃる方がマインドフルネスに興味を持っていただくキッカケになったらいいなと思っております。


さまよう心は不幸な心。心の迷走状態についての研究

A Wandering Mind Is an Unhappy Mind

(Matthew A. Killingsworth, and Daniel T. Gilbert, Science, 2010)

 私たちの思考や感情は日々無意識のうちにあちこちにさまよってしまい、マインドフルネス瞑想を行うことによって、いかに自分は様々な思考や雑念、感情を頭に浮かべているのか気付かされます(心の迷走状態、モンキーマインドやパピーマインドと呼ばれます)。
 本研究ではハーバード大学の研究チームが新たにスマートフォン技術を開発し、人々の考えや感情、行動がどのように移り変わるかのサンプリングを行いました。
その結果、
(i)人々は何が起こっているのか?を考えるのとほぼ同じ頻度で、まだ起こっていないことについて考えていること、
(ii)そうすることで通常は彼らが不幸であったり悲観的な考えになりやすい。
とのことです。
 マインドフルネス関連の書籍などでもしばしば引用されている論文です。

職場でのヨガと瞑想による効果的かつ実現可能な心身ストレスの軽減、ランダム化比較試験

Effective and viable mind-body stress reduction in the workplace: A randomized controlled trial.

(Wolever, Ruth Q. et al, Journal of Occupational Health Psychology, 2012)

 こちらは『企業のマインドフルネス事例紹介 | 米エトナ社における効果測定』でもご紹介した論文です。
 瞑想やヨガといったマインドフルネスベースのストレス低減プログラムに、きちんとコントロール比較対象群も置き、239人と大人数の従業員ボランティアが参加し、さらにプログラム参加前と参加後、の全6グループについての生物学的統計データということでとても価値のある論文です。
 具体的に調べた測定データは、睡眠の質、気分、痛みのレベル、仕事の生産性、注意力、血圧、呼吸数、心拍数の変動性(自律神経バランスの尺度)の8つです。
 その結果、対照群と比較して知覚されるストレス、睡眠の質、および心拍変動に有意に大きな改善を示しました。このように、マインドフルネスが従業員の高いストレスレベル、睡眠の質、自律神経バランスを改善するための実現可能で果的である可能性が示唆されました。

意識的になること:マインドフルネスの科学

Becoming conscious: the science of mindfulness

(Steve Paulson, Richard Davidson, Amishi Jha, and Jon Kabat‐Zinn, Ann N Y Acad Sci., 2013)

 私たちの多くは、意識的な経験・行動を十分に認識していない状態、すなわちほぼ自動運転で日常生活を送っています。
  本レビューでは、To the Best of OurKnowledgeのエグゼクティブプロデューサー兼ホストであるSteve Paulsonと共に、神経科学者のRichard DavidsonとAmishi Jha、および臨床マインドフルネスの専門家であるJon Kabat-Zinnが、心身の健康における意識の役割について語りました。
 心はより柔軟で順応性があり、マインドフルネスと瞑想的な実践により意識が変化することについての最先端の神経科学の知見についてまとめられています。

マインドフルネス瞑想の神経科学 (Review)

The neuroscience of mindfulness meditation

(Yi-Yuan Tang, Britta K. Hölzel & Michael I. Posner, Nature Reviews Neurosci., 2015)

概要
 過去20年間の研究は、ストレスの軽減と健康増進のために広く実践されているマインドフルネス瞑想が、心身の健康と認知能力に有益な効果を及ぼすという主張を広く支持しています。近年のニューロイメージング研究によって、これらのマインドフルネスが良い効果をもたらす脳の領域と神経ネットワークが明らかになりつつあります。しかし、基盤となる神経細胞などでの作用機序は未だ不明なままであり、マインドフルネス瞑想によって起こる脳内の変化の神経細胞間および神経細胞内での分子基盤を完全に理解するためには、さらなる方法論的にしっかりとしたアプローチの研究が必要です。

keypoints

  • マインドフルネス瞑想が効果を発揮するメカニズムは、注意力の制御、感情・情動の調節、自己認識を含む、自己の調節を強化するプロセスであることが示唆されています。
  • マインドフルネス瞑想に関する研究では、既存の研究の『解釈を制限する研究デザイン』を使用しているという、多くの重要な課題があります。
  • マインドフルネス瞑想によって、様々な脳の構造変化が起きるということは明らかになりつつあります。
  • マインドフルネスの練習は注意力を高めます。それは注意力に関連する領域である前帯状皮質が、マインドフルネス瞑想によってそこの活動・活性および/または構造の変化が起こることよるものだ、と様々な研究チームから報告されています。
  • マインドフルネスの練習は、自身の感情の扱い方を改善させ、ストレスを軽減します。大脳辺縁系の前部ネットワークはこれらのプロセスに関与し、マインドフルネス瞑想により多様な係合パターンを示します。
  • 瞑想の実践は、自己参照処理に影響を与え、今この瞬間の認識を向上させる可能性があります。自己認識をサポートするデフォルトモードネットワーク (DMN) は正中線前頭前野後帯状皮質に含まれ、マインドフルネストレーニングの後に変化する可能性があります。
  • マインドフルネス瞑想には、臨床的障害改善の可能性、健康な心の育成と幸福感の向上を促進する可能性があります。
  • 過去の調査結果を検証するために、将来的にはマインドフルネス瞑想に関する研究は、被験者数をさらに増やし、ランダム化かつ積極的にコントロールされた縦断的研究を行う必要があります。
  • 神経構造と機能へのマインドフルネスの実践の効果は、将来の研究において、認知的、感情的、社会的機能などの行動パフォーマンスへと繋げる必要があります。
  • マインドフルネスによって引き起こされる複雑な精神状態は、大規模な脳内のネットワークの変化によってサポートされる可能性があります。つまり今後の研究では、単一の脳領域の活性化の有無に着目するのではなく、複数の脳領域間の連結や関連付けなどの変化も考慮に入れる必要があります。

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マインドフルネストレーニングは認知能力を向上させるか? 神経心理学的知見に基づいたレビュー

Does mindfulness training improve cognitive abilities? A systematic review of neuropsychological findings

(Alberto Chiesa, Raffaella Calati, and Alessandro Serretti, Clinical Psychology Reviews, 2011)

 本レビューでは、客観的測定を用いて調べたマインドフルネス瞑想法 (MMP) の認知機能への影響について現在報告されている論文などを元に概説しています。 5つのデータベースと、注意力、記憶力、実行機能、さらに多方面での認知の測定を含む23の研究が含まれていました。 そのうち15件は対照またはランダム化比較試験であり、残りの8件はケースコントロール研究でした。
 これらの研究では全体的に、集中瞑想的なマインドフルネストレーニングの初期段階は、選択的で実行力のある注意力を大幅に改善する可能性を示唆しました。一方で、内部・外部の刺激を俯瞰するオープンモニタリング(観察・洞察)瞑想は、より改善された焦点の定まらない持続的注意力に関与する可能性がありました。
 MMPはワーキングメモリー容量といくつかの実行機能を強化すると考えられています。一方で、報告されている研究の多くは方法論的な限界も見られ、否定的な結果もあります。これらはそれぞれの研究における研究デザイン、研究期間、患者集団の違いなどを反映していると考えられます。
 したがって、本レビューで紹介した結果は、『MMPが認知機能を強化することを示唆する第一歩』となる証拠を提供しましたが、臨床応用などにはさらなる慎重な検討が必要であり、より標準化されたマインドフルネス瞑想プログラムを調査するさらに質の高い研究が必要と言えます。

精神医学への腸内細菌叢と食事療法の効果:特にうつ病患者への影響について(Review)

The gut microbiome and diet in psychiatry focus on depression

(Dash Saraha, Clarke Gerardb, Berk Michael, and Jacka Felice N., Current Opinion of Psychiatry, 2015)

 うつ病性障害に関する研究において、近年発見され急速に進展している知見の一つとして、気分と行動に『マイクロバイオーム(皮膚を含めた体内に存在する微生物群の総称)-腸-脳 軸』の関与を示唆する研究が挙げられます。同様に最近、不健康な食事とうつ病が相関関係を示し、危険因子になるとも指摘されています。このレビューでは、食事とうつ病との関連を仲介する重要な鍵である腸内細菌叢(腸内フローラ)について述べます。
 新しい技術の開発により、食事が腸内細菌叢の組成と活動にどのように影響し、うつ病にどのように影響するかについての理解が深まりました。また、プレバイオティクス(腸内にもともと存在する善玉菌を増やす作用のあるもの、食物繊維やオリゴ糖など)とプロバイオティクス(健康に有用な作用をもたらす生きた善玉菌)製剤および発酵食品(ヨーグルト・乳酸菌飲料・納豆・漬物など、ビフィズス菌や乳酸菌を含む食品)のメンタルヘルスへの有効性も示唆されています。
 まだ研究の初期段階ではありますが、ヒトマイクロバイオームに関する研究成果は、腸内細菌叢がヒトの脳の発達、行動、気分に影響し、重要な役割持つことを示しています。食事やストレスなど他の環境リスク要因と腸内細菌叢は双方向に作用することからも、腸内細菌叢をターゲットとした一般的な精神障害の予防法や治療法の開発は有望であると期待されます。

<関連論文>
・The microbiota regulate neuronal function and fear extinction learning
微生物相がニューロン機能と恐怖消去学習を調節する
(Nature, 2019) 日本語要約

・腸と脳の密接な関係(ヤクルト HEALTHIST, 2017)

オープンモニタリング瞑想(洞察瞑想)は、過去の記憶に関連する脳領域の結合性を低下させる

Open monitoring meditation reduces the involvement of brain regions related to memory function

(Masahiro Fujino et al, Scientific Reports, 2018)

 京都大学 藤野正寛先生の論文。京都大学のサイトにて著者の方々による日本語の詳しい解説が載っています。
 マインドフルネス瞑想には集中注意瞑想(FAM) とオープンモニタリング瞑想 (洞察・観察瞑想 OMM) があります。どちらもデフォルトネットワーク(DMM) の活性化を抑えたり、心がさまよったりすることを減らすことがわかっています。FAMについての脳科学的な研究はかなり進みつつありますが、OMMについての研究はまだあまり行われていません。
 そこで17人の瞑想熟練者(平均瞑想時間、920.6 hr) を被験者として、機能的核磁気共鳴画像法 (fMRI) を用いて、OMMとFAMの比較、さらに安静前、瞑想中、安静後の3つの状態(計6状態)での線条体(終脳の皮質下構造であり、大脳基底核の主要な構成要素のひとつ)の機能的接続を調べました。
 その結果、FAMとOMMを実践した場合どちらも、線条体とDMNのコアハブ領域である後帯状皮質の間の機能的接続を低下させました。
 さらにOMMは、意図的に注意を向けることに関連する視覚野とDMNの記憶機能に関連する脳梁膨大後皮質 (帯状皮質の一部、エピソード情報の想起に関係する)の両方と腹側線条体(快感・報酬・意欲・嗜癖・恐怖の情報処理に重要な役割を果たし、意思決定や薬物中毒の病態の責任部位であると考えられている)との機能的接続性を低下させました。逆に、FAMではこれらの領域での機能的な接続性を高めました。
 今回の調査結果は、OMMは意図的な集中注意を減らし、自伝的記憶からの分離を増加させることを示唆しています。この分離は、OMM中の『評価・判断しない』という在り方において重要な役割を果たす可能性があります。これらの結果から、OMM(洞察瞑想)の実践が幸福感や健康に繋がることを示す、新たな作用機序の解明に繋がることが期待されます。

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直観の発達:尾状核における認知スキル学習の神経相関

Developing Intuition: Neural Correlates of Cognitive-Skill Learning in Caudate Nucleus

(Xiaohong Wan et al, Journal of Neuroscience, 2012)

独立行政法人理化学研究所の論文。
『素人でも訓練によりプロ棋士と同じ直観的思考回路を持てる
-直観的思考は継続的な練習の積み重ねで養われる-』
日本語のプレスリリースはこちら

 将棋の経験がない20人の被験者に、コンピュータープログラムを使って将棋を単純化した「5五将棋」の訓練を4カ月間行い、訓練前後の脳の働きの変化をfMRIを用いて調べました。
 その結果、訓練を通じて5五将棋の詰め将棋を短時間に解く直観的思考能力が上達し、訓練後にはプロ棋士と同じように直観的思考の時に尾状核大脳基底核に位置する神経核。自発運動のコントロールのほか、学習や記憶にも関与する)の神経活動が活発化していました。さらにその神経活動の強さと正答率には相関関係があることも分りました。

 この結果は、素人でも一定期間集中的に訓練すれば、プロ棋士が使っている直観的思考の神経回路を発達させることが可能なこと、つまりプロ棋士が持つ直観的思考回路は特別なものではなく、地道な訓練によって養われることを示しました。

直観とは
 知識の持ち主が熟知している知の領域で持つ、推論など論理操作を差し挾まない直接的かつ即時的な認識の形式のこと。ふいに感覚的に考えがひらめく直感(インスピレーション)とは異なる。将棋プロジェクトの先行研究の時にプロ棋士をインタビューしたところ、直観過程はプロ棋士では日常的に起こるものだが、実戦の中でプロ棋士がインスピレーションに頼ることはほとんどないという結果が出た。

理化学研究所プレスリリースより

・先行研究
『プロ棋士の直観は、尾状核を通る神経回路に導かれる
―プロ・アマ棋士の脳機能画像研究が、直観的思考の神経基盤を明らかに―』
理化学研究所プレスリリース(2011)
The Neural Basis of Intuitive Best Next-Move Generation in Board Game Experts (Xiaohong Wan et al, Science, 2011)

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瞑想体験によって、大脳皮質の厚さが増加する

Meditation experience is associated with increased cortical thickness

(Sara W. Lazar et al, Neuroreport, 2005)

 これまでの研究で、長期間の瞑想の実践によって安静時の脳波パターンが変化すること、すなわち脳活動が変化することが示唆されました。そこで筆者らは瞑想の実践によって、脳の物理的構造そのものの変化も起こるのではないか?と仮説を立て検証しました。
 磁気共鳴画像法 (fMRI) を使用して、洞察瞑想(内部体験への集中瞑想も含む)の経験豊富な20人の被験者の大脳皮質の厚さを評価しました。その結果、前頭前野(思考や創造性を担う)および右前部島を含む、注意、相互受容および感覚処理に関連する脳領域が、対照群と比較して瞑想経験者の方で厚くなっている傾向が見られました。前頭前野の厚さの違いは高齢者で最も顕著であり、加齢によって大脳皮質が薄くなる傾向を瞑想経験が抑制する可能性を示唆しています。さらに、2つの領域の厚さは瞑想の熟練度と相関していました。このように、この論文では、瞑想の実践経験による大脳皮質の構造的変化が初めて証明されました。

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