古からのストレス反応に対処する | 闘争逃避反応とDMN

ビジネスパーソンに特化したマインドフルネス講座を全24回に渡ってお届けしています。

リーダーシップ感情編ということで、今回は『古からのストレス反応に対処する、闘争逃避反応-DMN』についてお話しをしていきます。まずは一つビジネスの事例を紹介していきます。

思いやりを大切にするCEO ジェフ・ウェイナー氏

 Linked Inという会社のジェフ・ウェイナー会長をご存知でしょうか。

 この方は思いやり、コンパッションを大事にしている会長として有名です。Glassdoor社の支持率調査で、従業員からの支持率97%という驚くような結果を出し、”世界で最も愛されているCEO” と言われたこともあります。この支持率の高さはアメリカの先進企業の中ではかなり高いと思います。

ジェフ・ウェイナー氏 Source : wikipedia

 しかし以前の彼はそうではなかったそうです。これは本人の談話からの引用ですが、
「とても傲慢だったんだ。仕事に自信があったし評価されていた。
だからチームに自分のコピーを作れば、素晴らしい成果が出ると考えていた。」

 合理的に考えたらそうですよね。きっともし会社のスタッフ全員がウェイナーさんだったらそうなるでしょうが、そうもいかず、1年後には会社のスタッフがみんな退職してしまったそうです。もしかしたら「なんで自分のようにできないんだ!」と言ってしまったのかもしれないですね。

 この時に彼は、もっと一緒に働く人々の立場に立って考えなければいけないと悟ったそうです。スタッフの強みややりたいことを理解したり、できない原因に不安や弱さなども潜んでいるのではないか?と理解する必要があるとも言っています。共感力がすごくあるという事ですね。

 そして、共感思いやりはしばしば混同されがちですが、英語でもシンパシーとコンパッションと単語が異なる通り、厳密には意味が異なります。
 相手の困難な気持ちを理解するところまでが共感で、理解した上でそこから少し距離をとり、相手と一緒にその困難を乗り越える行動を起こすことが思いやりのマネジメントなんだ、と彼は言っています。つまり思いやりには行動が伴います

 共感から少し距離をとる、というところがマインドフルですよね、客観視する、デタッチする。共感して入り込みすぎると一緒に疲れてしまう(共感疲労)ので、理解しつつも距離をとりつつ、一緒に困難を乗り越えるための行動・アクションを起こすことまでをやることが思いやりのマネジメントなんだ、ということです。

 この思いやりのマネジメントを実践し続けて、ウェイナー氏は従業員からの支持率をあげたのかなと思います。リーダーが部下に共感してくれて、「一緒に良くしていこうよ」と鼓舞して一緒に動いてくれる、そんな人だと言うことです。

マインドフルネスをビジネスに活用する上で目指す状態

 マインドフルネスの実践で目指す状態は、集中が高まっていて かつリラックスしている状態です。これはある程度余裕がないとできないものですが、クリエイティブな状態です。

 そしてリラックスが減り戦う姿勢に行ってしまうのが闘争モードです。闘争スイッチが入ってしまうのと、「集中力さえ高ければ、できるよな」というような、かつてのウェイナーさんはここにいらっしゃったと思われます。
 逆に辛い体験があると回避したくなる、楽な方に逃れたいという回避モード・逃避モードと言うのもあります。

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 闘争逃避モードはストレスと深く関係があります。第10講では外界からの刺激によって闘争逃避反応のスイッチが入ること、また前回はストレスには2種類あり、良いストレスや強さに入れるストレスについてもお話ししました。

https://mindfulness-news.org/about_mindfulness/lecture24/stress-amygdala/#%EF%BC%9C%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9%E5%8F%8D%E5%BF%9C%E3%81%AE%E4%BD%9C%E7%94%A8%E6%A9%9F%E5%BA%8F%EF%BC%9E

 ストレスの元は外部からの脅威です。例えば怒られたくないと思ったら構えるじゃないですか?構えているっていうのは、「どうやって戦おうか?」「どうやって逃げようか?」を瞬時に考えているような、生存のための防衛システムですね。

 かつては命の危険から身を守る必要があったのでこういった本能は絶対必要だったんですけれども、外部環境はこれだけ進化して安全になっり生命危機はかなり減少したにも関わらず、人間の神経系は依然古いままで同じ反応をしてしまうのです。つまり情報やテクノロジーは進化しているのに、我々の脳神経系は古いままで乖離してしまっている状態です。

マインドフルネスでストレス反応を減らし、リラックスするには 

 扁桃体の位置
Source : Wikipedia

 前回もお話ししましたが脅威を知覚したときに最初に反応するのが脳の扁桃体です。扁桃体をスタートとしたストレス反応は役目を終えると、一連のストレス反応は収束する必要があります。
 例えば、今緊張して集中して頑張って疲れたけれど、プロジェクトをやり切りました、もう終わったのでこれ以上は絶対に無理です、と断り抜いてストレス状態を脱すると、ストレスホルモンであるコルチゾールの副腎からの分泌が減少し警告反応が停止、健康な通常状態に戻ります。しかし、これが終わらなくて持続すると、キラーストレスとなりメンタルヘルスや身体の不調を引き起こすこともわかってきています。

 ここで、ストレス反応と深く関わってくるのが脳の機能の一つであるDMN(デフォルトモードネットワーク)です。


デフォルトモードネットワーク(DMN)とは

 DMNは自動車のアイドリングのように、脳をこれから起こるかもしれない出来事に備えて待機させている状態で、何もないとき、ぼーっとしている時も脳内のさまざまな神経活動を同調させ統括しています。
 つまり闘争逃避反応は古からのサバイバル反応、そしてDMNは闘争逃避反応の前段階の脳機能であり、まだ起こっていないストレスや外部の危険に対していつでも直ちに反応できるよう待機している状態、と言えます。

DMNの3つの特徴

1, 運動や動作、思考など何もしていない状態、ぼーっとした状態でも働く脳のシステム

2018年のNHKスペシャル人体の『脳』でCGを使ったDMNの際の画像も出ているので、ご興味があれば見てみてください。(こちらのサイトで見ることができます)

2, 脳の消費エネルギーの60から80%占める

 DMNは寝ている時も働いています。何もしない状態でDMNで消費されるエネルギーは、意識的な反応や行動で脳が消費するエネルギーの20倍近くになるとも言われてます。
 マインドフルネスでは考えないようになること、無になること、とよく言われるんですけれども、ほんとに無になってるかどうかはもう少し研究が進まないとわからないですね。
 ただ、ぼーっとしてアイドリング状態のDMNのままでいるよりも、意識的に何かを行なっている方が脳の消費エネルギーが少ないので、呼吸に意識を向けるマインドフルネスは脳が休まることに繋がります

3, 自己の囚われや雑念と関係しています

 ぼんやりしている時も過去や未来に思考がさまよい雑念が続いていると、ストレスと感じて扁桃体が反応してしまいます。そうなると脳は常に待機状態のDMNを稼働させ続けなければならず、身体はストレス反応を生み出し続けてしまいます。そこでマインドフルネスで『今ここ』に意識を集中すると、過去や未来など今の目の前にある状況以外のことについて思い悩むことを意識的に減らし、脳の疲労回復にも繋がります。

マインドフルネスで過剰な脳のアイドリング状態を沈静化できる

 ストレス反応というのは意図的・意識的に終わらせることはできないのですが、マインドフルネスはこのデフォルトモードネットワークが過剰な状態から安定化させることがわかってきています。


 瞑想の熟練者と対照群との間で脳のfMRI画像を比較した結果、瞑想を行うとDMN主要領域である内側前頭前野(mPFC)後帯状皮質(PCC)活性が抑制される、つまり瞑想によって脳のアイドリング状態が抑制される、といった脳の変化も明らかになっています (Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity, PNAS, 2011)。
 さらに瞑想はストレス反応の最初のスイッチである扁桃体を沈静化し、海馬の萎縮も回復することがわかっています。ここ部位は記憶とかに関係しています。

 さらにヴィパッサナー瞑想の熟練者では、扁桃体が感じ取った怒りや不安などの情報が前頭前野(学習、思考、意思決定、認知や人格、社会的行動などを担う脳領域)に伝わらなくなり、意思の力で前頭前野をコントロールできるようになるそうです(マインドエクササイズの証明より)。これは過去へのトラウマ反応にも効果があり、適切な判断と適当な感情のバランスが回復することにも繋がります。

 これらの細かい脳や身体反応のメカニズムについては、こんなことが体の中で起こっているんだなぁ、くらいに思ってもらえればと思います。

 要点としては

  • ストレス反応の最初はスイッチは扁桃体です。
  • 闘争逃避反応は扁桃体をスタートとして起きてしまう防衛反応(本能)
  • 過剰なストレス反応を緩めるために、マインドフルネスのトレーニングが役立ちます。なぜなら各種さまざまな瞑想でも扁桃体の活性が抑制されることが科学的に明らかになっているからです。

自然なストレス反応との付き合い方

 以上を踏まえて、生きている上で避けられない外部からのストレスと上手に付き合うコツを6つお伝えします。

1, 緊張したり回避しようとしたりするストレス反応があってもオッケーと思ってください

 これは古からの本能による反応、生き延びようとしている反応なので、緊張や回避したいな、という思いにマインドフルに気づき、そう思っているんだなぁと認めるようにしましょう。

2, 闘争逃避反応は自然のサバイバル本能と受け入れましょう

 現代での闘争逃避反応の例としては、何かワーッと緊張状態やパニック状態になると、意識がちょっと飛んだり頭が真っ白になったり、汗がぶわっと出てきたり、震えたり、ということがあるかと思います。それも「そうなってるなぁ」と受け入れると、より気づけるようになってきます。

3, アクションを完了させてみましょう

 緊張に気づいたら逆にぐっと力を入れてみる。または「嫌だなぁ」と思ったら、そこから距離をとってみたらどうか?逃げるとどうなるだろう?と想像してみて、逃げることを許可してみると緊張状態から早く抜けられるようになります。

4, 身体感覚にマインドフルな気づきを持ちましょう

 先ほどの緊張状態で汗が出る、震える、心臓の鼓動が早くなる、血の気がひく、鳥肌がたつ、などの身体の変化を気づくようにしてみてください。

5, 感じていること感情にも気づきましょう

 マインドフルになり自分の感覚感情に気づき認めるという事は、気づきや緊張を許容していくことにつながります。そして結果として緩んだり感じるスペースも出てきて、感情を感じるEQ心の知能指数も上がってきます。

6, 日々マインドフルネスの実践を重ねましょう

 これも繰り返しになりますが、マインドフルネスでストレスを許容できるようになり、思いやりのマネジメントができるような余裕も出てきます。1日1分でも良いので、続けてみてください。

【実践】ストレス反応に対処する3分間瞑想

 毎日続けられるよう、3分間と短めの瞑想ガイドにしました。
 ガイドに従って呼吸に意識を向け集中することで、 ストレス反応の軽減やストレッサー(ストレスを引き起こす原因)への減少に効果を発揮することが期待できます。

Source : 瞑想チャンネル for Leaders

(編集:s子)