【脳科学の最新研究】観察瞑想・洞察瞑想と集中瞑想の違いとは?メリットや効果を徹底解説

現代社会でストレスや課題に直面するビジネスマンにとって、瞑想は心身の健康やパフォーマンスを高める有効な方法の一つです。しかし、瞑想にはさまざまな種類があります。この記事では、前回の集中瞑想の効果に引き続き、

観察瞑想・洞察瞑想
 (ヴィパッサナー瞑想 / Vipassana Meditation,
  オープンモニタリング瞑想 / Open monitering meditation,
  思考観察瞑想 / observing-thoughts meditation)

の効果や、集中瞑想と違いについて脳科学的な研究から解説します。


観察瞑想・洞察瞑想とは?その特徴や効果

集中瞑想では、呼吸や音など一つの対象に意識を集中させることで、思考が散漫になっていることに気づいたら意図した集中対象に戻る訓練を続けます。
一方、観察瞑想・洞察瞑想では、今この瞬間に生じているすべてのこと(体験・感情・感覚など)に注意を払い、評価判断することなくありのままに観察し、気づくことを目指します。

最初に観察瞑想を一人でやってみるのは難しいかもしれないので、以下の8分間の音声ガイドをご活用ください。繰り返し行なっていくことで、思考・感情や感覚に気づき続ける感覚が分かってくると思います。

Source : 瞑想チャンネル for Leaders


観察瞑想・洞察瞑想で得られる心身のメリット

焦点を一つに決めず分散させることによって、以下の効果が期待できます。

  • 認知的・感情的にものごとを捉えることが減る
  • 評価判断することなく観察する能力が養われる
  • ひいては日常生活においても過去の経験や感情に捉われることなく、状況を全体的に把握し、迷わず選択できる能力が養われる

(リチャード・デビッドソン博士のレビュー, ref1 より引用)。

これらの効果は、自分の思い込みや先入観にとらわれず、物事を客観的に見ることができるようになるということです。これは、ビジネスや対人関係で起こるトラブルや誤解を減らすことにつながります。

 

観察・洞察瞑想の脳に与える影響とは?

・観察・洞察瞑想を行った際、脳波計museで測定した結果 “neutral(注意が分散している状態)” と “calm(意識が一点に集中してリラックスしている状態)” でした。また“active(思考が活発になっている状態)” はほとんどありませんでした。これは、観察・洞察瞑想では、思考に没頭することなく、自分の内面や外界の変化に気づきやすい状態になっていることを示しています。

自律神経の状態を心拍変動(HRV) と心拍数の変化を測定することで調べた論文では、呼吸に集中する瞑想ではリラックスしていたのに対し、思考観察瞑想や慈愛の瞑想ではリラックスしていなかったという驚くべき結果が得られました (ref2)。
これは観察瞑想や慈愛の瞑想は、トレーニング的な努力や生理学的な覚醒が必要というメソッドを反映したものと考えられます (ref2)。
またこの結果は、観察瞑想をおこなった際に脳波計museで “calm” だけではなく “neutral” となった結果とも一致しています。

一般的に何かの対象に注意を向け続ける際は、集中力が途切れてしまう注意のまばたき(attentional-blink)が起こります。
一方で、ヴィパッサナー瞑想のトレーニングを受けた人は、注意のまばたきの頻度が約20%低下し、注意が途切れづらくなっていました。さらに、そのまばたき頻度の低下の程度は、瞑想経験の長さと正の相関を示していましたref3)。これは、観察・洞察瞑想に注意力を高める効果があることを示しています。

 

観察・洞察瞑想が脳に与える影響を脳科学の研究論文を元に解説

観察・洞察瞑想を行うと、脳の構造や機能にどのような変化が起こるのでしょうか?京都大学の藤野先生の論文 (ref4) を参考に、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)で測定された観察・洞察瞑想時の脳内での変化について紹介します。

1) 観察・洞察瞑想はDMNを抑制する

線条体の位置。Source : wikipedia

DMNとは、デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network)の略で、脳が何も考えていないときに活性化するネットワークです。DMNが活性化しているときは脳の消費エネルギーも増加しており、脳のアイドリング状態と例えられています。
観察・洞察瞑想では集中瞑想と同様に、DMNに関連する後帯状皮質(後頭葉と頭頂葉の境界付近にある皮質)と線条体大脳基底核の一部で運動機能や意思決定に関わる部位。※注1 参照)の間の機能的接続を低下させました (ref4)。これは、観察・洞察瞑想が自分の思考や感情に囚われることを防ぐ効果があることを示しています。

※注1:線条体は、大脳皮質の各領域から受けた入力情報を再度大脳皮質に出力します。機能的に異なる複数のループ回路を形成しているため、線条体と他の脳領域間の関係に注目することで、それぞれの瞑想が脳活動に与える影響について検討することも可能となります。
 背側線条体尾状核被殻、ストリオソーム、マトリックス)と腹側線条体側坐核、嗅結節) から構成されています。


2) 注意ネットワーク活性が低下 – 注意・観察できる範囲が広がる

視覚野の位置 Source : What’s design

注意ネットワークとは意図的で集中的な注意を制御するための脳のネットワークです。このネットワークは、外界からの刺激に対する注意の向きや、内的な目標に対する集中力を制御する役割を果たし、脳内の視覚、聴覚、運動、前頭前野など、複数の領域が関与しています。
注意ネットワークはDMNとは対照的に、認知課題に取り組む際には活性化し、休息時には抑制されることが知られています。

観察・洞察瞑想では、集中瞑想時とは逆に、注意ネットワークに関連する視覚野(右の図の緑色の部分)と腹側線条体(報酬や快感に関与する部位)との間の機能的接続が低下していました (ref4)。
これは一点に集中するのではなく注意を分散する、という観察・洞察瞑想の方法と一致しています。注意を分散させることで、注意力が途切れづらくなり、今この瞬間に生じているすべてのことに気づきやすくなると考えられます。

3) 過去の体験に囚われる頻度が低下 – ストレスや不安を軽減する

観察・洞察瞑想では、自分の過去の記憶(エピソード情報)の想起に関係する脳梁膨大後部皮質帯状皮質帯状回の一部)と腹側線条体の機能的接続が、安静時よりも低下していました。
この機能的接続は、自分の過去の記憶に囚われる程度と関連していると考えられ、低下したことから過去に囚われる頻度が減る効果につながると考えられます。
またこの効果は、瞑想の実践時間が長いほど大きくなることが示されました (ref4)。
このように過去に囚われずに今この瞬間を評価・判断せずに観察することで、ストレスや不安を軽減することができると考えられます。

4) 扁桃体を沈静化し、前頭前野の制御力が向上 – 感情のコントロール力を向上させる

観察・洞察瞑想(ヴィパッサナー瞑想)を長期的に実践した人の脳では、扁桃体(脳内で危険やストレス、恐怖を探知するスイッチ)が沈静化していました。
さらに扁桃体が感知した怒りや不安などの情報が、前頭前野(学習、思考や意思決定などを担う部位)に伝わらなくなり、自分の意思によって前頭前野を制御できるようになるそうです(マインドエクササイズの証明より)。これは、観察・洞察瞑想が感情のコントロール力を向上させる効果があることを示しています。

Source : 瞑想チャンネル for Leaders

 

【まとめ】観察・洞察瞑想では、『今この瞬間の全体』を観察できるようになる

観察・洞察瞑想では、集中瞑想と同様にDMNや扁桃体を抑制することで、自分の思考や感情に囚われすぎてしまい自分と思考が一致していると誤認識してしまう認知的フュージョンの状態から解放されやすくなります(脱フュージョン)。

また、意図的な焦点を定めないことで ① 注意ネットワークの活性の減少と脳梁膨大後部皮質(帯状皮質・帯状回の一部)と腹側線条体の機能的接続が低下し、その結果、注意力が途切れづらくなり、過去の記憶に囚われストレスや不安を感じたりする頻度も減少することが期待されます。
これらの脳内での変化によって、より『今この瞬間の全体』を観察できるようになります。観察・洞察瞑想は、評価・判断せずにありのままに気づくマインドフルネスの意識や感覚を育む上で効果的な方法です。

このような注意ネットワークの活性減少は、熊野先生の著書でのヴィパッサナー瞑想についての記述

 『注意を分割して、いろいろなところに同時に気を配ってそこを感じるようにすると、心のキャパシティがなくなって考える余地がなくなり、体験の全体が感じられるようになり、あるがままの知覚が可能となります』

マインドフルネス実践法 DVDブックより引用

の状態と一致しています。

リチャード・デビッドソン博士も、呼吸や体感覚などの焦点を定めずにただ観察し続けることで、瞑想が終わった後の日々の生活の中においても、思考・感情・過去の経験に捉われることなく『今ここ』の状況を知覚し、評価・判断することなく決断を下せる様になる、と述べています(心と体をゆたかにするマインドエクササイズの証明より)。

 Source : 瞑想チャンネル for Leaders

集中瞑想と観察瞑想の違いとは?脳の変化や可塑性について比較

難しい話になっていましたが、集中瞑想と観察瞑想の脳への影響について、簡単にまとめると以下の表のようになります。

 

脳の領域・ネットワーク集中瞑想観察(洞察)瞑想主な機能
扁桃体⬇︎⬇︎ストレス反応の最初のスイッチ
DMN(内側前頭前野(mPFC), 後帯状皮質(PCC))⬇︎⬇︎脳のアイドリング機能
DMN–背外側前頭前野(dlPFC)DMNの心が彷徨う状態から今ここに戻る
前頭前野(PFC)–頭頂葉感覚情報と反応選択を仲介する注意力関連ネットワーク
島皮質体感覚の認識に関与
前帯状皮質(ACC)–PFC注意力に関連
腹側線条体–視覚野⬇︎意図的な集中に関与
線条体–DMN (後帯状皮質)⬇︎⬇︎大脳皮質から受け取った情報とDMNのネットワーク
腹側線条体脳梁膨大後部皮質⬇︎エピソード情報の想起


この表からわかるように、集中瞑想では意図的な集中に関わる脳の結合領域が強くなり、観察瞑想では弱まるという逆の結果が出るのがとても興味深いです。
集中瞑想では何か一つのものに集中して集中力を養い、逆に観察瞑想では全体を感じる意図で注意を分散させることで、今この瞬間に生じているすべてのことに気づきやすくなる、と考えられます。

これらを覚える必要は全くありませんが、なんとなく頭の片隅に置いて、例えば後頭部のあたり(視覚野)など意識しながら瞑想を実践してみると、いつもとはちょっと違った体験になるかもしれません。


次回は、慈悲の瞑想についての科学的な知見についてお話したいと思います。
瞑想法の中でも慈悲の瞑想は比較的短期間の実践で効果が現れる、という興味深い特徴があるそうです。

 

 

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参考文献

  1. “Attention regulation and monitoring in meditation.(Review)” Antoine Lutz et al., Trends Cogn Sci. (2008) , リチャード・デビッドソン教授のレビュー
  2. “Is meditation always relaxing? Investigating heart rate, heart rate variability, experienced effort and likeability during training of three types of meditation” Anna-Lena Lumma et al., International Journal of Psychophysiology (2015)
  3. “Mental Training Affects Distribution of Limited Brain Resources” Heleen A. Slagter et al., PLoS Biol. (2007)
  4. “Open monitoring meditation reduces the involvement of brain regions related to memory function.” Masahiro Fujino et alScientific Reports, (2018) [文献解説]

 

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ABOUTこの記事をかいた人

ライター。 博士号を取得後、日本学術振興会特別研究員・博士研究員・大学教員として教育研究に計10年以上従事(専門は分子生物学)。9割以上が男性の業界で女性が中間管理職として働く難しさを感じつつ、紆余曲折を経て小島美佳さんからマインドフルネスを学ぶ。 現在は心理学や精神世界のエッセンスを科学の言葉で咀嚼して伝える方法を模索中の、瞑想歴1-2年の初心者です。