心理的安全性と経営戦略:リーダーが理論を元にチーム学習を促進するには

本記事では、会社組織やチームの中で「心理的安全性」を高める上でリーダーに求められることを、論文や専門書の知見を基に解説します。
多様性を受け入れメンバーの発言を積極的に促す「包括的リーダーシップ」や、信頼関係の構築を重視する「関係志向型リーダーシップ」など、心理的安全性を高めるために効果的なリーダーシップスタイルを紹介するとともに、状況に応じた柔軟な対応の重要性についても触れていきます。
心理的安全性は一朝一夕には実現できませんが、経営トップのリーダーの意識と行動を変えることで、チーム学習とイノベーションがもたらされることを理論と現場での体験を元に対話しました。

s子:チームにおける心理的安全性の前提条件の3つめ、リーダーシップについて、前回に引き続き論文を二つご紹介させていただきたいと思います。

【論文3】医療チームのリーダーは心理的安全性と現場の改善努力をどう高めたか?

Nembhard IM and Edmondson AC. Making it safe: the effects of leader inclusiveness and professional status on psychological safety and improvement efforts in health care teams.  J. Organ. Behav. (2006)


この論文では、調査データを使用して、リーダーのインクルーシブな(包括性:個々のメンバー一人ひとりを尊重する)態度と医療チームにおける専門的役割が心理的安全性にどう影響するかを調べました。

前提として、医療チームに限らず医学の分野では明確なヒエラルキーが存在し、専門職の細分化が顕著で、専門分野を超えてチームが連携することは難しく、例えば看護師が医師に意見を述べることはほぼあり得ません。

論文では品質改善プロジェクトに参加している23のICU、224名のスタッフに対し、以下の内容のアンケート調査を行いました。

  • メンバーの専門な役職データ
  • リーダーのインクルーシブ行動 (意思決定への関与促進、他者の貢献に感謝を示す態度など) を評価
  • メンバーの心理的安全性の程度、改善活動への従事度を測定


見えてきた4つのポイント

その結果を分析し、以下の4点が明らかになりました。

  • 役職の高いスタッフほど心理的安全性を感じやすい
  • インクルーシブなリーダーシップの元では、こうした役職の影響が小さくなり、心理的安全性が高まる
  • 心理的安全性が高いほど、メンバーは積極的に改善活動に取り組む
  • 一方、役職が高い (医師) メンバーであっても、リーダーがインクルーシブでない場合には心理的安全性を感じていなかった


リーダーの包括性・inclusivenessとは

リーダーの包括性 (inclusiveness) とは、具体的には以下のようなリーダーの行動や態度を指します。

  • 発言を積極的に求める姿勢
  • オープンなコミュニケーション
  • メンバーを公平に扱う
  • 失敗を学びの機会と捉えるよう伝える
  • 意思決定への参画を促進

このようにこの論文では、医療現場における役職と発言の関係を具体的にとらえ、インクルーシブなリーダーシップが、役職の壁を越えて心理的安全性と率直なコミュニケーションを実現する上で重要であることを示していました。


包括的リーダーシップの重要性

小島美佳:この論文3はマツケンさんのご専門のプロセスワークや心理学とかなり関連していると思いました。パワーの使い方といったお話を以前されていたかと。

松村憲:はい、僕の専門にしているプロセス指向心理学で、他者への影響力やパワーについて分析する際に用いる「ランク」という概念とも非常に関わる話だと思いました。


プロセスワークにおける「ランク」とは

プロセスワークにおける「ランク」の定義は、個人の持つ特権の集合体のことです。社会的もしくは個人の能力やパワーであり、文化、コミュニテなどから形成され、個人が自覚している場合としない場合があります。

(Source : balanced growth 「プロセスワークのランクとは」1995年 アーノルド・ミンデル)


ヒエラルキー構造においてパワーを適切に活用するには

集団や組織におけるステータスや役職は、縦のヒエラルキー構造を生み出します。そのため、プロセスワークの分析においては、ヒエラルキーの上位にいる人ほど発言しやすく、自分自身の心理的な安全性を感じやすい傾向があると言われています。一方で下位にいくほど、影響力やパワーは低下すると言われているので、まさにこの論文3の結論の心理的安全性とステータスとの関係と一致していますね。

そのようなヒエラルキーが存在する中で、リーダーの包括性という要素が重要であることがこの論文3で示され、僕もその点は同意します。
ヒエラルキーの上位にいる人は、自身の影響力やアウェアネスを認識していないと、包括的なリーダーシップを発揮することが難しくなります。ですから、自身のパワーやリーダーシップをどのように他者のために活用していくのか、といった視点を持つことが前提となるかと思います。

例えば、リーダーにその自覚がない場合、「ここはオープンな場だからオープンなコミュニケーションをしよう。みんなを公平に扱うよ」と言葉だけ言っても、実際には沈黙が続くかもしれません。結局、それは言葉や行動だけでなく、その人の普段からの在り方と気づきが必要不可欠なのだと思います。

ただ論文3で示された包括的なリーダーの行動や態度の5つの要素は非常に重要です。つまり、ヒエラルキーの上位者が意思決定権を持つこと、すなわちそれが「パワーがある」ということなので、包括的なリーダーの振る舞いによってチームメンバーたちも「パワーを持って発言や意思決定に関与してもいいんだ」と感じられる雰囲気につながります。そういった雰囲気自体が、心理的安全性の高さを生み出すのではないでしょうか。


他者を尊重する雰囲気作りのスタートは発言を促すところから…

小島美佳:ビジネス現場からすると、この論文3で示されたインクルーシブなリーダーシップは、理想としては理解できるけれども、どう実践したらいいのだろう?とお悩みになるのではないかと思います。これに関しては、論文1や2の示唆から考えるに、まずは皆さんに積極的な発言を求めることから始めるのがよいのかもしれません。

ミーティングの際には発言がなかったメンバーでも、後から個別に聞いてみると「実はチームの改善につながるアイデアがあったが、言えなかった…」など、出てくる場合も多いものです。また、通常の会議の場で「普段どのようなことが気になっているか?課題と感じていることは?」などを問いかけてみて皆が「シーン」となってしてしまったら、それは発言する雰囲気の醸成がより必要とされている証だと思います。

特にヒエラルキーが強い組織において、メンバーからリーダーへ「発言しづらいです」と直接フィードバックされる機会はほとんどないでしょう。しかし、皆さんの発言内容やその際の行動(ソワソワしている、周囲を気にしている…などのシグナル)を見ていくことによって、現在の雰囲気を把握し、具体的に今、何をすると、より話しやすい環境をつくることができるか?といったヒントが得られるはずです。

ですから、まずは論文3の包括的なリーダーシップ行動の要素にあった「積極的な発言を求める」ことから始め、そこからリーダー自身が学習を重ねて積極的な発言ができない理由を探っていくことが大切ですね。結果として、インクルーシブな雰囲気づくりのための有効な手段の気づきにも繋がると思います。簡単ではありませんが、リーダーとしては、そのような意識を持ち続けることが何より重要なのではないでしょうか。

Source : 心理的安全性研究所(YouTube, 瞑想チャンネル for Leaders)



s子:ありがとうございます、引き続き最後の論文を紹介します。


【論文4】CEOの関係志向型リーダーシップは経営チームにおける戦略的意思決定の質を向上させるか?

Carmeli A, Tishler A, Edmondson AC. CEO relational leadership and strategic decision quality in top management teams: the role of team trust and learning from failure. Strateg. Organ. (2012)

最後の論文では、リーダーシップとチーム内の失敗から学ぶ風土について調査するため、イスラエルにおける複数の業界セクターを跨った77のトップマネジメントチームのメンバー237人にアンケートを行った調査結果です。
具体的には

  • CEOの関係志向型リーダーシップについてメンバーが評価
  • チームの信頼度、失敗から学ぶ風土を測定し
  • 戦略的意思決定の質も評価しました。

その結果、以下の4点のことが分かりました。

  1. CEOが関係志向的リーダーシップを発揮するほど、チーム内の信頼が高まり、
  2. チームの信頼が高いほど、メンバーは失敗を隠さず開示する文化が育ち
  3. 失敗を開示し、その原因を探り合える風土があれば、より質の高い戦略決定ができる
  4. つまり、CEOの関係重視のリーダーシップがチームの信頼を育み、失敗から学ぶ文化を促進することで、優れた戦略決定につながる


そもそも関係志向型リーダーシップとは

具体的には、
・CEOがメンバーとの信頼関係を重視し、
・オープンなコミュニケーションを促進するリーダースタイル
のことです。
こうしたリーダーシップがチーム内の心理的安全性を高め、誰もが発言しやすい風土をつくり出し、そこで失敗を隠さず共有できるようになり、その結果、原因分析と改善策の立案がしやすくなる、という好循環が生まれるとのことです。

関係志向型リーダーシップは、チームワークが重要となる長期的なプロジェクトなどで適する一方、メンバー間のつながりが希薄な風土では機能しにくいと言われています。

またこの論文でのチーム内の信頼とは、個々人、メンバー間の信頼関係だけでは不十分で、「誰に対してでも発言できる文化があること」が心理的安全性の核心であり、個人的な信頼関係はあくまでも前提条件の一つにすぎない、とエドモンドソン氏は主張しています。


関係志向型リーダーシップだけで本当に戦略的な意思決定力は高まるのか?

松村憲:はい論文4も、さまざまな観点から、非常に重要な指摘がなされていると感じました。実際リーダーシップ研修などでも用いられている360度のリーダーシップサークルというアセスメントツールは、周囲からどういうリーダーシップを発現していると見られているか、創造的・反応的、タスク寄り・関係性寄り、などの傾向を分析し、研修に活かされています。
自身が関係志向型のリーダーシップを発揮しているのか、そうでないのかを客観的に認識することで、自身を振り返る大切な気づきが得られるはずです。

(※注:論文ではアンケート調査とインタビュー、観察をもとに、構造方程式モデリング(SEM)分析という統計的分析処理を行っていました)

この論文のように、心理的安全性の高さに大きく関与するのは、関係志向型リーダーシップだと私も考えます。しかし、ビジネスにおけるリーダーシップとは能力と関わり方の両面が重要です。そして最終的にはパフォーマンスとして結果に繋がるかどうかも念頭にいれておくことも大切です。

つまり、関係志向型リーダーシップだけでは不十分で、リーダーにはその場に求められている適切な能力とチーム全体でのパフォーマンス両方の発揮のが求められます。この点を踏まえた上で、心理的安全性の観点から、関係志向型リーダーシップの重要性が改めて示された論文だと感じました。


状況に応じたリーダーシップスタイルの使い分け

小島美佳: 論文4で指摘されていた「誰に対してでも発言できる文化があること」については、経営チームなど少人数グループで顕著な課題になるかもしれないなと感じました。そして、具体的なシーンを思い浮かべての質問なのですがCEOが関係志向型であれば、A氏とB氏の人間関係が良くなくても、CEOが両者から率直な発言を引き出すことが可能ということでしょうか?



s子:先ほど松村さんがおっしゃっていたように、心理的安全性を高めるという点では関係志向型リーダーシップが有効だけれどもそれだけでは不十分で、様々なリーダーシップ・スタイルがあり、その場や状況に合わせて使い分けることが重要、ということだと理解しました。

この論文4の関係志向型リーダーシップも論文3のインクルーシブ(包括的)なリーダーシップもそれぞれの特徴があり、メリットデメリットもあるとのことです。以下簡単に特徴とメリットデメリットをまとめました。


心理的安全性を高めるとされる主なリーダーシップスタイルの特徴とメリット・デメリット

1, 包括的リーダーシップ (Inclusive Leadership)

特徴:多様性を受け入れて誰もが意見を言える環境を作ることによって心理的安全性を高める
メリット:様々能力を持った専門家が集まる、またはグローバル組織など、多様な構成メンバーから成るチームでは成果を発揮する
デメリット:逆にリーダーが少数派の意見を過度に重視してしまうリスク、拾わなくてもいい意見も拾ってしまう可能性がある

2, 関係志向型リーダーシップ (Relationship-Oriented Leadership)

特徴:リーダーがメンバーとの信頼関係、発言しやすい風土、失敗を隠さず共有することを重視し、オープンなコミュニケーションを促進するリーダースタイル
メリット:チームとして長期的に取り組むプロジェクトでは適する
デメリット:人間関係を大事にする風土がない、人間関係が拗れていると機能しにく

3, サーバント型リーダーシップ (Servant Leadership)

特徴:従業員の成長を最優先に考え、彼らをエンパワーすることで心理的安全性を高める
メリット:成熟したメンバーや自己管理能力の高いチームでは機能し、高いパフォーマンスを生み出す
デメリット:メンバーが発達しすぎてリーダーの能力が追いつかなくなると意思決定力が不足する可能性がある

4, セキュアベースリーダーシップ (Secure Base Leadership)

特徴:メンバーの自己決定を尊重して適切な支援を提供することで安心感を作る、リーダーが安全地帯となって心理的安全性を作る
メリット:自立性が求められ創造的な職務ではよく機能する
デメリット:メンバーがリーダーに依存しがちになってしまう傾向がある




これらには一長一短があり、状況に応じて適切なスタイルを使い分ける必要があります。リーダー自身の資質に加え、チームの成熟度やタスク内容などを常に見極めながら対応することが求められているそうです。実際、自分で実践してみようと思うと大変だと感じますが、、、

ですから、心理的安全性を高めるために関係志向型リーダーシップに固執しているだけでは不十分で、その都度、最適なスタイルを選ぶスキルが重要とされていると考えます。そのための具体的な方法論は松村さんの方がお詳しいと思いますが、いかがでしょうか?


経営チームとしていかに殺伐とした雰囲気から脱却できるのか?が戦略的意思決定の質を高める

松村憲:はい、有名なリーダシップ論であるSL (シチュエーショナル・リーダーシップ) 理論では、メンバーの状況に合わせてリーダーシップの発揮の仕方を変える重要性が説かれています。具体的には、メンバーの自立性や自発性の程度に応じて、段階的に指示的リーダーシップから支援的リーダーシップ、さらにはサーバント型リーダーシップへと切り替えていく必要があるということです。
しかし、これらすべてのスタイルを適切に使いこなせるリーダーは稀有ですし、逆に実践できれば自然と心理的安全性の高い場も作り出せているのではないでしょうか。

小島美佳:なるほど、学者さんたちが説くアカデミアの知見や理論は正しいのでしょう。しかし、現場のビジネスマンの多くには、理想が高すぎて現実離れした話に聞こえてしまうかもしれません。現実問題として、経営に従事する人々が本当に「関係志向型」をお互いに意識して行動しているかと言えば、稀だと思います。

つまり、この論文のメッセージは、現場のチームリーダーレベルの話というよりは、Cがつくマネジメントの最高ポジションの椅子に座る方々がほんの少でも「関係志向型」を意識しながらチーム経営に関わる重要性を説いているのではないでしょうか。企業経営に携わる方は、そうした視点を持つことが肝要だと受け止めることが適切かと思いました。

研究として理論的には理解できても、実践に移すとなると理想をたくさん並べ立てられると現実的ではないと感じてしまいます。ですからまずは、この落とし所として受け止め、着実に実行に移していくことが賢明ではないかと考えます。

s子:余談ですけど、基礎研究者っていうのは利益には直接つながらないものの、世の中に漠然とある法則などを理論として言語化することに専念しています。しかし、その理論を実現に移す具体的な道筋を提示するところまでは及ばず、それは現場の人々に委ねられているのかもしれません。

例えば西洋医学の分野でも、論文や医者による治験データを元に厚生労働省が血中コレステロールの適正値を設定し、その値を超えたら投薬治療となります。一方で、生活習慣の改善による予防という観点からの研究や一般への普及は、ここ10年ほどの話です。このように、理論と実践の橋渡しには一定の時間がかかるのかな、と感じています。


心理的安全性を高める上でのリーダーの役割

s子:最後に、グループの心理的安全性を醸成する上で、リーダーができることについて、これまでご紹介した論文とエドモンドソン氏の著書『恐れのない組織』の内容を踏まえてまとめました。

1, 土台を作ること

  • フレーミング : 仕事の性質 (複雑さ、相互依存度、不確実性など) を明確にし、適切に失敗を扱えているか考える
  • 目的を際立たせる :リーダーが仕事の意味とゴールを理解し、メンバーと共有し、グループ内で共感にまで至っているか意識する

2, 参加を求めること

  • 謙虚さ : リーダーが全ての答えを持っているわけではないことを開示し、誰もが謙虚で好奇心旺盛にアンテナを張る必要があると伝える
  • メンバーの発言を引き出す問い : 広げる問いと深める問いで、適切な発言を引き出す
  • システムと仕組み : 学習を生み出す会議体システム、率直な対話ができる仕組みを設ける

3,  効果を引き出す対応をすること

  • メンバーのアイデアや疑問についての発言努力に感謝を表す
  • 失敗を恥ずかしいと思わせない工夫をする。失敗への前向きな姿勢を示し、早期の共有を促す
  • 違反の基準を明確にし、違反があれば適切に対応する

以上が、心理的安全性を高めるためのリーダーの重要な役割とされています。

小島美佳:はいありがとうございました。ここはまさにそうですね、と感じました。
次回は、ここまでの内容を振り返りつつ、より実践に活かすためにどうしたらよいか?について対話していきたいと思います。



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ABOUTこの記事をかいた人

大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの