HSPの強みを引き出すヒント:「よわい/わるい性格」研究からの示唆

 ハイリー・センシティブ・パーソン(Highly Sensitive Person: 以下HSP)に関連したパーソナリティについて、前編として、ビッグ・ファイブ外向性神経症傾向開放性調和性誠実性)の近年の研究内容をご紹介しました。
 今回は同じ論文から後編として、さらにネガティブな特性との関連性に焦点を当てた研究や成果をご紹介します。

パーソナリティ研究の動向と今後の展望
(平野 真理, 2021)

ネガティブな特性について

 ビッグ・ファイブにおける神経症傾向の敏感さや、ダークトライアドという病気や問題を引き起こしやすいパーソナリティについて取り上げます。
 
これらの特徴はネガティブなイメージが強いですが、ポジティブな面もあることを示す研究が紹介されています。改めてパーソナリティの多様性や個人の共存について考えることの重要性を訴求しています。


スペクトラムとしてのパーソナリティと臨床的意義

  • パーソナリティは、不適応や病理の原因となる「わるい性格」、適応や成功の要因となる「よい性格」として研究されてきた。
  • しかし、近年では、精神疾患がごく弱いものから強いものまでのグラデーションをもつスペクトラムで捉えられるようになり、「よわい性格」と呼ばれる臨床心理領域の特性や、「わるい性格」の代表であるダークトライアドなどのネガティブ特性もパーソナリティの一部として扱われるようになった。
  • 一方で、それらの特性にもポジティブな側面があることを示す研究も出てきており、例えば感覚の敏感さはストレスに弱いだけでなく、良い環境に対しても敏感に反応するヴァンテージ感受性という概念として理解できるということが提唱されている。
  • このように、パーソナリティは「わるい」ものや「よい」ものという単純な分類ではなく、多様で複雑な個人差変数であることが明らかになってきている。


適応力と幸せを高める「よい性格」の例とその効果

「よい性格」は、適応や幸福感に関わる性格特性です。以下その例と研究結果を紹介します。

  • レジリエンス困難に強く、回復力が高いこと。年齢とともに高まり、自分らしさや個人の強みにも影響する。
  • 首尾一貫感覚(SOC)個人が日常生活におけるストレス要因に対してより耐性を持ち、健康を維持し改善できるようにする気質の方向性を指す。また、メンタルヘルスと正の相関がある。
  • ストレス対処法・マインドセット:ストレスの原因や影響にどう対処し、どう捉えるかということ。健康や人生満足度と関係がある。効果的な対処法を持ち、ストレスをチャンスや成長と捉えると、満足度が高まる。

「よい性格」は非認知能力とも言われますが、能力以外のパーソナリティも含まれてしまい、人によって価値観や目標は違います。実際は「よい性格」は客観的に測れるものではなく、価値づけが難しいものです。


「よわい性格」と不適応

感覚処理感受性とは何か

感覚処理感受性とは、外部からの刺激に対して敏感に反応する特性です。

  • この特性を持つ人は Highly Sensitive Person(HSP)と呼ばれ、メディアや一般社会でも注目されている。
  • HSP は対人関係や新しい環境において生きづらさを感じやすい
  • 努力不足ではなく、変わらない特性であると理解されるべき
  • 感覚処理感受性は価値とは無関係な特性であり、易興奮性、美的感受性、低感覚閾の 3 因子からなる尺度で測定される。
  • 一方で感覚処理感受性は不適応や精神的不健康とも関連しており、易興奮性は不安に、低感覚閾は抑うつに強く影響することが示される。


HSP のメリットとデメリット

HSP は感覚処理感受性の特性があり、ビジネスの場面でもメリットとデメリットの両方を持ちます。

  • メリットとしては、以下のような点が挙げられます。
    • 美的感受性が高いため、クリエイティブな仕事に向いている
    • 細かいことに気づきやすいため、品質管理やチェックなどに優れている
    • 感情移入や共感ができるため、人間関係やコミュニケーションに長けている
  • デメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
    • 易興奮性が高いため、不安やストレスに弱い
    • 低感覚閾が低いため、抑うつや疲労にかかりやすい
    • 過剰に気を使ったり、自己否定したりする傾向がある


「よわい性格」のもつ肯定的側面

メンタルヘルス上「よわい性格」とされる肯定的側面の研究についてご紹介します。


神経症傾向強みに変える方法

ビッグ・ファイブの研究を見ると、神経症傾向はあらゆる不適応と関連していることがわかります。しかし、多くの研究がこのことを示しているとしても、神経症傾向は必ずしもマイナスの要因とは言えません

  • 神経症傾向は健康問題に対して敏感で、予防的な行動をとることで死亡リスクや病気のリスクを低くすることができる。
  • 神経症傾向と誠実性が高い人は、喫煙や薬物使用などの悪習慣を避けたり、免疫系の働きを良くしたりすることで健康に良い影響を与えることができる。
  • 神経症傾向の高い人は、自分やパートナーの感情に敏感で、関係性においてもポジティブな効果を生むことができる。
  • 神経症傾向は、心配や不安を多く感じる性格であり、それが行動や選択に反映されることでポジティブな現実を作り出す可能性がある。

神経症傾向は一般的にはマイナスの要因と見なされがちですが、それを強みに変えることもできます。


ヴァンテージ感受性: 豊かな感受性としての恩恵

  • ヴァンテージ感受性理論とは、HSPのように感覚処理感受性の高い人は、環境からのネガ ティブな影響(例:騒音感受性)を受ける一方で、特にポジティブな影響(例:美的感受性)も強く受けやすいことにフォーカスした考え方である。
  • 感受性の高い子どもたちを対象とした研究では、進学という環境変化に直面した時に、以下3つのモデルの当てはまり度合いを検討したところ、ヴァンテージ感受性モデルが最も当てはまり、質の高い教育や適切なサポートをすることで社会情緒的適応も向上したことが分かった。
    1. 脆弱性モデル(ネガティブ な影響を受けやすい特性)
    2. 感覚処理感受性モデル (ネガティブ な影響もポジティブな影響も受けやすい特性)
    3. ヴァンテージ感受性モデル(ポジティブな影響を受けやすい特性)


「わるい性格」と不適応

ダークトライアド:HSPとの対極

 ダークトライアドとは,ナルシシズム,マキャベリアニズム,サイコパシーという三つの「わるい性格」の総称です。
 HSPの特性がある人は、自己愛的で、他人を利用し、冷酷な性格のダークトライアドの人たちとの人間関係に疲弊し、エネルギーを奪われることがあります。ダークトライアドの人たちの特徴を理解し、気を付けることも必要です。

ダークトライアド

ナルシシズム自己愛症:誇大性、自尊心、エゴージズム、共感の欠如
マキャベリズム(権謀術数主義):対人操作、搾取、道徳観への冷笑的無視、自己中心や欺瞞
サイコパシー(精神病質):反社会的行動、衝動性、利己主義、無反省

Source: Wikipediaより引用
  • ダークトライアドは社会的に不適応な行動や感情を引き起こす。
  • 犯罪、いじめ、ネット上の不適応行動、利己的な性行動動機、感情的共感性の低さなどがダークトライアドと関連する。
  • 日本では他者操作、ポイ捨て行動、友人関係、ゆるし(無反省)との関連が研究されている。


ダークトライアドの道徳性・倫理観の低さ

ダークトライアドの特性を持つ人は、以下のように道徳性や倫理観に欠ける傾向があります。

  • 道徳性や倫理観の低さは、不適応や反社会的な行動と関連している。
  • 噓をつくことの否定的認識が低いほど噓をつきやすい。
  • 罪悪感特性は、善悪判断に影響を与える。
  • 他者の行動に対する判断は、批判的思考態度や体罰への容認度などによって変化する。
  • マインドフルネス実践での評価判断しないことは、倫理観が弱く善悪の判断のない勝手な行動に繋がり、効果がないか逆効果になる可能性がある。


わるい性格」のもつ肯定的側面

 ダークトライアドと呼ばれる「わるい性格」は、社会的に望ましくない行動を引き起こす傾向がありますが、政治家やリーダー、スポーツ選手などの高いパフォーマンスを発揮することもあります。
 ビジネスの世界でも、自己中心的で、他人を操る、無情な性格の人たちが成功することが多いです。ダークトライアドの人たちは、競争力が高く、自信がある、決断力があるという長所を持っています。
 以下肯定的な点が挙げられます。

  • ダークトライアドは、政治家やリーダーの資質や成功、仕事やスポーツのパフォーマンスを予測することが研究で示されている。
  • ダークトライアドは、集団主義的な文化ではリーダーシップに選ばれやすく、ストレスやうつ病のリスクを低減する効果を持つ可能性がある。

  ただし、ダークトライアドの人が得をするのは、短期的なことに限られます。長期的には、信頼や協力が必要な場面で失敗する可能性が高くなります。自分がダークトライアドの性格であってもコントロールすることが必要です。


ビッグ・ファイブだけでは足りない?
「よわい/わるい」性格の研究とその意義

これまでパーソナリティ研究の基礎と応用について、以下のポイントを紹介しました。

  • ビッグ・ファイブという5つの基本的な性格特性の構造を紹介しました。この理論は、パーソナリティ研究の中心的な枠組みとして、多くの研究者によって用いられており、国際的な比較も可能になっています。
  • しかし、ビッグ・ファイブだけでは、人の細かな個人差や社会文化的な影響を十分に説明できないという問題点もあります。そのため、他の視点や尺度も必要です。
  • 「よわい/わるい」性格と呼ばれる特性についても、研究が進んでいることを紹介しました。これらの特性は、社会的に評価される性格特性として、人の適応力や幸せに影響を与えることが分かっています。そのため、肯定的な側面やネガティブな側面を明らかにすることは、パーソナリティ研究では重要な課題です。
  • 最後に、特性を持つ者を変えようとするのではなく、そのままに共存することを前提とした視点を持つことの重要性を強調します。パーソナリティ研究の目的は、人の多様性や複雑性を尊重し、理解し、活用することです。


 ビジネスの現場でも、自分や他者のパーソナリティを正しく理解し、適切に活用することが重要です。
しかし、それは、性格を変えることや、一方的に押し付けることではありません。多様性を認め相互理解を深め協力的な関係を築くことが、ビジネスパーソンとしての成長にもつながります。


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Source : 瞑想チャンネル for Leaders

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ABOUTこの記事をかいた人

農業工学修士を取得後、時代は就職氷河期の中で外資系IT企業で半導体研究職として就職し従事する。その後IT技術営業職として勤めて他社への出向も経験し、ストレスから体調を崩して退職。心身の安定を求める中ヨガやマインドフルネスに遭遇する。瞑想歴は数年の初心者。