心の強さを育む:HSP向けレジリエンス強化の戦略

 外部からの刺激に敏感でストレスを感じやすいという特性を持つ人をハイリー・センシティブ・パーソン(Highly Sensitive Person: 以下HSP)と呼びます。
 環境や物事に対して強く反応するHSPはストレスを感じやすいですが、ノルアドレナリン分泌量が増えたり慢性的なコルチゾールの多さが起因します。これは、乳幼児期から見られる生物学的な特徴ですが、HSPは特に敏感さが原因でストレスのもとになることを辛く感じます
そのため、憂うつになりやすく、自分に自信が持てない傾向があります。HSPはもともと心が傷つきやすいとも言えるでしょう。

 対策としては環境に対して柔軟に対応する能力であるレジリエンスを高めることで、より快適に生活できる可能性があります。
本稿では、レジリエンスを高める方法についての研究を紹介します。

心理的敏感さに対するレジリエンスの緩衝効果の検討
(平野 真理, 2012)

レジリエンスとは:心理的な回復力の定義と重要性

レジリエンスとは心理的な傷つきや落ち込みから立ち直る回復力のことで、個人の心理的な適応を助けるものです。

  • ストレスの感じ方には個人差があり、その差は「心の弱さ」「心の強さ」という言葉で表現されることが多い。しかし「弱さ―強さ」は必ずしも同一軸上の両端にあるようなものではなく、異なる軸と捉えることもできる。その一つがレジリエンスである。
  • レジリエンスは環境的なリスクが高いにもかかわらず適応する人々を対象に研究が発展した概念であり、裏表の概念ではなく一個人の中に同時に存在しうる力として考えられている。
  • レジリエンスは知能や洞察力、身体的健康、感情調整、忍耐力、ソーシャルサポートなど様々な要因によって導かれる力であり、誰もが保持し高めることができる。
  • レジリエンスはストレスに対する生得的な敏感さとは違って、後天的に身につけられる力であり、敏感さと同時に持ちうる力である。
  • レジリエンスが高いと傷つきやすいリスクが高くても、心理的不適応や精神的健康の低下を防ぐことができる。
  • レジリエンスの研究は環境的に高ストレスのリスクに焦点が当てられることが多かったが、近年では個人のもつ脆弱性や心理的特性のリスクにも注目されている。
    • 参考に精神疾患の発症における脳の脆弱性因子は以下のようなものがあり、薬物的介入などによりその脳機能の低下の向上を目指すことが多い。
      • PTSD (Post Traumatic Stress Disorder : 心的外傷後ストレス障害)における海馬体積の減少
      • 統合失調症における前頭葉軸索の成熟不全
      • うつ病の素因としての脳の脆弱性
      • 精神疾患における神経新生の低下


レジリエンスの測定とその効果

  ストレスに弱い人でも、逆境に強い心(レジリエンス)を後天的に身につけることは可能なのでしょうか。
論文では、レジリエンス要因を生まれつきの「資質的」なものと、後天的に得る「獲得的」なものに分けて、二次元レジリエンス要因尺度(Bidimensional Resilience Scale: BRS)という測定ツールを用いて調査しています。
 そして、心理的敏感さとレジリエンス要因の関係や、レジリエンス要因が心理的適応感に及ぼす影響を分析します。これにより、もともとの「弱さ」を後天的に補うことができるかどうかを探ります。

  • レジリエンス要因を以下二つに分けて測定する
    • 持って生まれた気質と関連の強い「資質的レジリエンス要因」の4因子
      • 楽観性:将来に対して不安を持たず、肯定的な期待をもって行動できる力
      • 統御力:衝動性や不安が少なく、感情や体調に振り回されずにコントロールできる力
      • 社交性:見知らぬ他者に対する不安や恐怖が少なく、他者との関わりを好む力
      • 行動力:積極性と忍耐力によって、目標や意欲を持ち実行できる力
    • 後天的に身につけていきやすい「獲得的レジリエンス要因」の3因子
      • 問題解決志向:問題を積極的に解決しようとする意志を持ち、解決方法を学ぼうとする力
      • 自己理解:自分の考えや自分自身について理解し、自分の特性に合った目標設定や行動ができる力
      • 他者心理の理解:他者の心理を認知的に理解、もしくは受容する力


レジリエンスとは?心理的敏感さとのアンケート調査

 アンケート調査の方法と内容として、心理的敏感さ、レジリエンス、心理的適応感に関する手続き、質問紙の構成については以下となります。
 2008年10月に首都圏の大学、予備校、サークル等に所属する18歳以上の男女433名を対象に、心理的敏感さ、レジリエンス、心理的適応感に関する質問紙調査を行いました。

  • 心理的敏感さは、アーロン博士のHighly Sensitive Person Scaleの日本語版23項目を5段階評定で測定し、探索的因子分析により「ネガティブな敏感さ」と「ポジティブな敏感さ」の2因子に分ける「ネガティブな敏感さ」は心理的適応感と負の相関を示し、リスクとしての心理的敏感さの測定尺度とする
    • ネガティブな敏感さ:様々な刺激に対する過敏反応、混乱、動揺、緊張など
    • ポジティブな敏感さ:感受性の豊かさや、周囲に対する細かな気配りなど
  • レジリエンスは、二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の21項目を5段階評定で測定し、「資質的レジリエンス要因」「獲得的レジリエンス要因」に分けて評定する。

二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の21項目

「資質的レジリエンス要因」
楽観性:
 困難な出来事が起きても,どうにか切り抜けることができると思う。
 どんなことでも,たいてい何とかなりそうな気がする。
 たとえ自信がないことでも,結果的に何とかなると思う。
統御力:
 つらいことでも我慢できる方だ。
 嫌なことがあっても,自分の感情をコントロールできる。
 自分は体力がある方だ。
社交性:
 交友関係が広く,社交的である。
 自分から人と親しくなることが得意だ
 昔から,人との関係をとるのが上手だ。
行動力:
 自分は粘り強い人間だと思う。
 決めたことを最後までやりとおすことができる。
 努力することを大事にする方だ。

「獲得的レジリエンス要因」
問題解決志向:
 人と誤解が生じたときには積極的に話をしようとする。
 嫌な出来事があったとき,その問題を解決するために情報を集める。
 嫌な出来事があったとき,今の経験から得られるものを探す。
自己理解:
 自分の性格についてよく理解している。
 嫌な出来事が,どんな風に自分の気持ちに影響するか理解している。
 自分の考えや気持ちがよくわからないことが多い。(逆転項目)
他者心理の理解:
 人の気持ちや,微妙な表情の変化を読み取るのが上手だ。
 他人の考え方を理解するのが比較的得意だ。
 思いやりを持って人と接している。

Source : レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み, 平野 真理, 2010 より引用改変
  • 心理的適応感は、社会に対する適応感尺度(樋口康彦、2007)の以下5項目を5段階評定する。
    • 「毎日が孤独でさびしい(逆転項目)」
    • 「充実した毎日を送っている」
    • 「やる気が出ず,憂鬱な毎日を過ごしている(逆転項目)」
    • 「生きがいを持って毎日を送っている」
    • 「味気ない毎日を送っている(逆転項目)」


HSPの人は心理的敏感さが高いがレジリエンスが低い?
心理的適応感に影響する要因

アンケート調査の結果より、HSPの人に多い心理的敏感さとレジリエンスの関係については以下のようになります。

  • 心理的敏感さとは、刺激に対して敏感に反応する特徴であり、心理的適応とは単純な線形の関係ではない
  • レジリエンスとは、心理的な傷つきや落ち込みから立ち直る回復力であり、資質的要因と獲得的要因に分けられる。
  • 本研究では、心理的敏感さの高い人々は資質的レジリエンス要因が低い傾向にあること、獲得的レジリエンス要因は敏感さとは関係ないことを示した。

また、心理的敏感さとレジリエンス要因との関係については以下となります。

  • 心理的敏感さが高い人はストレスを感じやすく、心理的適応感が得られにくい負の影響がある。
  • 敏感でない人は心理的適応感が高い傾向にあるが、資質的レジリエンス要因が低いと心理的適応感も低い。
  • 心理的敏感さによる心理的適応感への負の影響に対して、資質的要因が高まると緩衝効果が得られる


心理的敏感さをグループ分けして分析!
HSPはどのように心理的適応感を高められるか

心理的敏感さを3つのグループ分けをして(非敏感群、敏感群、中間群)における資質的・獲得的レジリエンス要因の影響について、以下のようになります。

  • 心理的敏感さが高いと資質的レジリエンス要因が低くなるという負の関連が強く、獲得的レジリエンス要因とは関連が弱い。このことより敏感さというリスクと資質的レジリエンス要因はどちらも生得的な気質との関連が強いと言える。
  • 獲得的レジリエンス要因は、心理的敏感さの高い人でなくても心理的適応感の変化にあまり影響を与えない

敏感群(HSPを含む心理的敏感な人)について

  • 心理的敏感さは精神的健康にネガティブな影響を与えるリスクとなるが、極端に高い場合に限られる。
  • 資質的レジリエンス要因は、心理的敏感さの高い人々にとって心理的適応感の低下を緩和する効果があるが、もともと持ち合わせているその要因自体が低い傾向にある。
  • 獲得的レジリエンス要因の効果についても、敏感さを補うほどの心理的適応感に緩衝効果は見られなかった。
  • 資質的レジリエンス要因の中で楽観性が、獲得的レジリエンス要因の中で問題解決志向が、心理的適応感に有意に寄与していた。しかし、そもそも資質的レジリエンス要因の傾向が低いため緩衝効果が得られにくいと考えられる。

非敏感群(心理的敏感でない人)について

  • 資質的レジリエンス要因の中で社交性が、獲得的レジリエンス要因の中で問題解決志向と他者心理の理解が、心理的適応感に有意に寄与していた。
  • 心理的敏感さの低い人々は、資質的レジリエンス要因を持ち合わせていることにより落ち込んでも早く回復し、適応感が高いと考えられる。

中間群(心理的敏感さが高くも低くもない人)について

  • 資質的レジリエンス要因の中で社交性が正の影響を、統御力が負の影響を、獲得的レジリエンス要因の中で自己理解が正の影響を、心理的適応感に有意に与えていた。
  • ただし、そもそもレジリエンス要因があまり心理的適応感に影響を与えない。これは敏感さがリスクではないからと考えらえる。



 HSPのように心理的敏感さが高い人は心理的適応感が低くなりがちですが、やはりレジリエンスを高めることが重要です。
 例えば、持ち合わせている資質的レジリエンス要因を高めるには粘り強さや努力を楽しむことや、また問題解決志向を高めるには小さな成功体験を積み上げて自己肯定感を高めることで、心理的適応感を高めることができます。


資質的レジリエンス要因が重要な理由

 本論文では、心理的敏感さの高い人でも後天的にレジリエンスを高めることで心理的適応感を向上させることができるかについて述べられてきました。
 結果として、獲得的レジリエンスは敏感さとは無関係に高められること、資質的レジリエンスは敏感さの影響を緩和することが示されましたが、敏感さと獲得的レジリエンスの間に緩衝効果は見られませんでした。

 敏感さというリスクを後天的に補える可能性は低く、レジリエンスにおいても生得的・資質的な要因が重要であることが示唆されました。
 ですが、レジリエンスのあり方は多様であり、それは必ずしもリスクを直接的に補う形であるとは限らないこと、生来的な気質に合ったレジリエンスが引き出されること、子どもであれば周囲の大人がその能力を感知し対応することも必要です。

 様々なレジリエンス要因を強化するには、自己肯定感を高めたり、目標設定をしたり、ポジティブシンキングをしたり、柔軟な思考を持ったりすることがあります。
 心理的適応感や資質的レジリエンス要因を高めることは、得意分野を伸ばすことでビジネスを成功することに似ています。 自分の強みを知り、それを活かすことで、仕事のパフォーマンスや満足度を高めることも可能でしょう。

ご参考に、以下にマインドフルネスによりレジリエンスゾーンを拡張できるという記事をご紹介します。

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ABOUTこの記事をかいた人

農業工学修士を取得後、時代は就職氷河期の中で外資系IT企業で半導体研究職として就職し従事する。その後IT技術営業職として勤めて他社への出向も経験し、ストレスから体調を崩して退職。心身の安定を求める中ヨガやマインドフルネスに遭遇する。瞑想歴は数年の初心者。