心理的安全性を阻害する上司との関係改善のコツ【心理的安全性Q&A4】

心理的安全性を職場に導入する際の課題について考えていく、心理的安全性Q&A連載の第4回目です。
今回のご質問は、「上司がオープンではなく、心理的安全性を低下させる行動を取っている場合、どのように対処すべきでしょうか?」というものです。


【心理的安全性の基礎】エドモンドソン教授が語る上司の影響力

s子:エドモンドソン教授の著書恐れのない組織によれば、心理的安全性を低下させる上司・独裁型リーダーシップでの成功は短期的なものに過ぎないそうです。長期的で持続的な成功・成長を目指すなら、心理的安全性を構築する方向に舵を切るべきだと指摘しています。


独裁型リーダーシップの短期的成功の要因

エドモンドソン教授は、独裁型リーダーシップの短期的成功の要因として、以下のような可能性をあげています。

  • 好機を捉えたタイミングの良さ
  • 競争のない未開拓市場(ブルーオーシャン)だった
  • 独創的なアイデアだった

さらに、仮に現在成功していたとしても、もし心理的安全性がより高ければ、さらなる業績向上の可能性があったとも指摘しています。
つまり事実としてあるのは、心理的安全性の低い職場にも関わらず、ある一定期間中、高パフォーマンスを上げていただけ、とのことです。


独裁型vsオープン型:長期的成功に向けたリーダーシップの道筋

実際、絶えず変化する市場環境において、勝利の方程式に陰りが見え始めた際、それを早期に察知し対応するには、組織内の警告の声に耳を傾ける必要があります。しかし、心理的安全性が低い場合、そのための重要な情報が上がって来ず、必要な変革ができず、成功が短期間で終わる可能性が高いと指摘しています。

逆に、エドモンドソン教授は皮肉を込めて、「あなたがスティーブ・ジョブズ並みの天才なら、心理的安全性を作る必要はないかもしれない」と述べています。つまり、完璧な感性と市場ニーズを見抜く才能を持つリーダーであれば、明確な指示を出し、部下にそれを遂行してもらうだけでも良いかもしれないと。



オープン型リーダーシップへの転換:持続可能な組織成長の鍵

小島美佳:なるほど。
エドモンドソン教授の見解は、もし上司がオープンでない、心理的安全性を下げる行動を取っている、要するに心理的安全性を軽視する上司の姿勢は望ましくない、というメッセージとも受け取れますね。

松村憲:そうですね。
目先の短期的な成功に惑わされず、長期的な組織の健全性を考えることが重要だと再認識しました。

スティーブ・ジョブズのような天才がいて成果が出ていれば、会社としても世間的に評価されるので、 一時的にはいいでしょうが、その次が大変になったり、「その先」と長期的な視点で考えると心理的安全性の構築は避けて通れない課題だということですね。


【部下の視点】心理的安全性の低い職場での効果的なアプローチ

s子:では、実際に心理的安全性を阻害する上司に直面した場合、部下側の方からはどのようなアプローチが効果的でしょうか?その点について恐れのない組織の中でエドモンドソン教授は、具体的な提言をしています。

まず大前提として、他人を本質的に変えることは不可能だと述べています。例えパワーを持つ上司であっても、部下の考えや行動を強制することはできても、「変える」ことはできないのです。ただし、誰に対しても影響を与えることは可能だとしています。


部下からチーム全体に好影響を与える3つの具体的戦略

そして、部下側から威圧的と感じる上司に対してできる具体的なアプローチとして、以下の3点を挙げていました。

  1. 好奇心を持つこと:好奇心から来る質問によって問いが生まれ、相手は自分が重要視されていると感じることができます。
  2. 思いやりと自戒:誰もが困難や問題に直面すると理解をすることで、強くしなやかな人間関係を構築できます。
  3. 真摯な熱意・コミットメント:組織の目標達成に力を尽くすことで、周りの上司や同僚も同様に尽くすようになる可能性があります。また、もし上司があなたの熱意を感じ取ってくれたら、 もしかしたら自分に対してあまり口うるさく言われなくなる可能性もあります。

ヒエラルキー組織においては上位の立場の人に目を向けがちですが、心理的安全性を作るためには努めて組織全体を広く見られるようになる必要があるとも指摘しています。
また、職場の上司がどのような態度をとっていたとしても、チーム内の1人1人のちょっとした行動や言動によって、職場の雰囲気を作り出すことは可能、とも述べられてました。

Source : 心理的安全性研究所 (瞑想チャンネル for Leaders)


心理学の知見を活用した職場環境改善のヒント

松村憲:エドモンドソン教授の提言は非常に示唆に富んでいますね。特に、他人を本質的に変えることは不可能だという大前提は心理学的にも重要です。
そして相手を変えることはできないけれど、それでも影響を与えるために私たちにもできることはあるという視点は、実践的で有効だと思います。
 
また具体的な3つのアプローチの部分の、① 好奇心を持つことは、前回のオープンなコミュニケーションでもありましたが非常に重要です。
さらに②の思いやり・自戒については、難しい課題ですが、「人は変えられないので、では私の方から変わるか、対話などアプローチの仕方を変える、踏み込むか否か」という、ちょっとした勇気も必要となる部分です。

心理学でよく言われるのが、「もし、ものすごい相手が悪人だとしても、なにか1%くらいは 良いところあるのではないか」といった視点を持つことが重要です。この視点は自分を変える第一歩にもなります。
もう無理だと諦めるだけではなく、自戒というか、自分の方でできていないこと、これからできそうなこと、もっと理解できることはあるんじゃないか?というスタンスになることによって、生まれてくる思いやりもあると思います。


エンプティチェア:関係性の再構築を促す心理ワーク

松村憲:次に、自分を中心に考えて相手を思いやっている気になってしまっている、これは人は中々自分視点を外すことが難しいため、実は良く起こることです。
そこで、関係性に新たな気づきをもたらし、真の思いやりを発揮する上で有効な ゲシュタルト療法でも使われる1つの心理ワーク・エンプティチェアのやり方をご紹介します。


関係性に気づきをもたらすエンプティチェア ワークの実践方法

例えば変わってくれないオープンではない、理解し合えない上司がいて、私、あるいは私たちがいるとします。

1,  自分と上司の位置を想像し、片方を上司の席、もう一つを自分の席として、実際に2つの座る場所(オープンシート、オープンチェア)を作ります。
2, 自分たちの席から一旦離れてみて上司の席に移動し、あたかも上司になったつもりで座ってみます。そして上司の視点から状況を見てみます。
3, このように実際に体を動かしてやってみることで、自分たちがどう見えるか?どう景色は見えるか?という相手側から見る、という視点の変換が可能になります。


エンプティチェア ワークの効果 – 新たな気づきと視点

この「エンプティチェア」の手法を通じて、「この上司は怖いだけと思っていたけれど、よっぽどこの人の上の上司も怖いな」といった、その上司の方が置かれた状況や孤独感を理解できるかもしれません。さらに、「この上司も組織のことを思っているはずだ」という新たな気づきが生まれるかもしれません。

そういった気づきを得た後の部下側からの真摯な熱意やコミットメントは、上司にとって喜ばしいものになるはずです。また、視点を変えることで真の思いやりにつながっていき、上司へのアプローチ方法が増えたり変わったり、チーム内の一人一人がこのような努力をすることで、職場の雰囲気を大きく変える可能性があるのです。

ただし、上司の個人としての性格特性や行動パターンといった要素も関わってくるので、限界もあるかとは思いますが、それでも変わる可能性はあると言えます。


【実践編】心理的安全性を脅かす上司との関係改善テクニック

小島美佳:エドモンドソン教授の提言に少し追加させていただくと、これはやらない方がいい、ということが1つあります。

それは、心理的安全性を下げている上司を避けたり、コミュニケーションの量を減らしたりすることです。これはネガティブスパイラルを引き起こしてしまいますので、簡単にはできないかもしれませんが、むしろ先ほど挙げた3つの方向に少しずつ近づいていく努力をすることが大切です。

ネガティブな状況をポジティブに捉え直す:フレーミングの力

さらに、前回の記事で言及されたフレーミングも使うとより効果的です。

チームのみんなが上司のことを怖いと思っていたとしても、部下側から上司に寄り添うことができる、例えば、「少なくとも自分自身に対しての態度は変えてくれる可能性がある」「みんなのために今自分ができることがある」といったポジティブなフレーミングを心がけることは有効です。

その上で、この3つのアプローチ、好奇心や自戒、コミットメントを実践することがより良いと思います。

◼︎ 【客観視・視点獲得のための瞑想】 インテグラル理論の”I”と”we”を体感する誘導瞑想
Source : 瞑想チャンネル for Leaders


上司の不安に寄り添う:コミュニケーション改善の具体策

小島美佳:私自身のコーチング経験で実際にあった例ですが、新しいチャレンジングなプロジェクトで、過度にプレッシャーをかけてくる上司への対応に悩むチームがありました。
その際に、先ほど松村さんがおっしゃっていた通り、視点を変えてみることを提案しました。具体的には、

「ではプレッシャーをかけてくる上司にはどういう苦悩があるのだろう?」
「この上司が最も感じている不安は何だろうか」
「自分がどのように関わると、この人は安心するだろうか」
といった視点や発想を持ってみてください、とお伝えしました。

そういった上司の立場に立って考える、真の思いやりの視点から色々考えていくと、「かなりも予算も使っているプロジェクトなので、これでどうなるんだろうか?といった不安が最も大きいのではないか」ということが見えてきたりします。この3つのアプローチの中の ③ 真摯なコミットメント、まずは上司の不安をどうやって和らげてあげたらいいんだろうか?という部分です。



例えば、進捗報告の際にリスクをしっかり説明するなど、上司の不安を和らげるようなコミュニケーションスタイルに変えてくことによって、どちらかというと怖い上司からサポートの仲間へと、少しずつ関係性も変化させていくことができた、という例も 実際にありました。

実践することは簡単ではないかもしれませんが、アプローチの1つの例として非常に参考になるのではないかと思います。

s子:ありがとうございました。心理的安全性を高める取り組みは一朝一夕にはいきませんが、このような小さな変化の積み重ねが、最終的には大きな成果につながるのですね。

職場における心理的安全性構築に関するご質問は沢山いただいておりますので、次回も対話しながら一緒に考えていきたいと思います。

Source : 心理的安全性研究所 (瞑想チャンネル for Leaders)

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ABOUTこの記事をかいた人

大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの