心理的安全性は、組織の革新性と生産性を飛躍的に向上させる鍵として、ビジネス界で注目を集めています。本連載では、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授の研究に基づき、この概念の本質と実践的適用を探求してきました。
今回からは数回にわたり、読者の皆様から寄せられた実践的な疑問に焦点を当てるQ&Aセクションを設けます。これにより、心理的安全性を職場で具現化するための具体的な戦略と洞察を提供します。
小島美佳:前回の『心理的安全性を効果的に職場に導入する際の留意点』では、部下の積極的な発言と建設的な意見交換を促進する際のオープンなリーダーシップの重要性をお伝えしました。
今回は、この概念をさらに掘り下げ、「リーダーのオープンさとは具体的にどのような行動を指すのか」という読者からの問いに答えます。
目次
オープンなリーダーシップとは?
「オープンである」という概念は、その抽象性ゆえに実践の障壁となりがちです。そこで、まず初めに、エドモンドソン教授の著作や研究論文から、オープンなリーダーシップを実現するための具体的な指針と実例を紐解いていきます。
s子:エドモンドソン教授の著書『恐れのない組織』の中で、心理的安全性を醸成するリーダーの具体的な行動例が3つ挙げられていました。これらは非常に分かりやすかったので、ここでご紹介したいと思います。
エドモンドソン教授が提唱するリーダーシップ行動例 3つ
1, 土台を作る
エドモンドソン教授が提唱する1つ目の行動は「土台を作ること」です。
具体的には以下の2点が重要とのことです:
- フレーミング:仕事の複雑さ、相互依存度、不確実性などをグループやチーム内で明確にします。また、失敗を適切に扱えているかを確認する
- 目的を際立たせる:リーダーがチームの目的と仕事の意味、ゴールを理解し、メンバーと共有します。同時に、グループ内で共感を得られているかを意識する
土台とフレーミング(ものごとをある枠組みで捉えること)は似た概念ではありますが、
土台を作る方が包括的で物理的、組織的、心理的要素に焦点を当て、
フレーミングは、より具体的で、認知的、言語的な要素に焦点を当てる、
といった違いがあります。
また日本語で相互依存というと、あまりポジティブな印象を持たれない方もいらっしゃるかもしれませんが、チームワークの重要な側面を指します。ここで言う相互依存とは具体的に、
- チームメンバーの役割の補完性
- 情報共有と継続的なフィードバック
- 成功や失敗・責任もチーム全体で共有する
などが挙げられます。このような相互依存性について話し合い明確化することで、チームメンバーは自分の役割の重要性と他のメンバーとの協力の必要性を認識し、オープンなコミュニケーションや問題解決も促進されます。
2, 参加を求める
2番目の行動は「参加を求めること」です。
そのためにリーダーが示すことができる具体的な行動例は以下の通りです:
- 謙虚さを示す
- メンバーの発言を引き出す問いを投げかける
- チーム学習を促すシステムや仕組みを作る
- 会議の場などでメンバーの発言を促す
- 誰でも好奇心旺盛にアンテナを張って発言してもよい、という雰囲気を作る
これらの明確な態度を示すことが重要です。
3, 生産的に対応する
3つ目の行動は「効果を引き出す生産的な対応をすること」です。
具体的には以下の点に注意を払います:
- メンバーのアイデアや疑問についての発言努力に感謝を表す
- 失敗を恥ずかしいと思わせない工夫をする
- 適切な失敗への前向きな姿勢を示し、早期の共有を促す
- グループ内での違反の基準を予め明確にする
- 違反があった場合には適切に速やかに対応する
以上の3つの態度・行動によって、オープンなリーダーシップを示すことができます。
Source : 心理的安全性研究所
実践者の視点
松村憲:ありがとうございます。
非常に細かく詳細に書かれていて、その通りだなと思ってお聞きしていました。
その中で特に納得した点を挙げますと、2の参加の求め方について、上から強制的に参加させるのではなく、自発的な参加を促す仕掛けが示されていて、これは非常に意義深いポイントだと考えます。
また3番目の生産的で効果を引き出す対応の部分で、しっかりと承認をする、感謝を表すといった部分からのアプローチもあるよね、と再確認しました。
違反の整理やフレーミングの部分では、何をしていいか、いけないのか、や何が承認されるのかといったチーム内のルールをしっかりと見える化し仕組み化することの必要性を改めて認識しました。
さらに補足するとしたら、3番の基本的に部下やチームメンバーの発言を重宝する・感謝するの部分で、「多様な意見の尊重、さまざまな意見があるけれども否定しに行かない」という姿勢も欠かせません。
ビジネス現場で見受けられる例として、「あのリーダーはすでに答えがある」などよく聞きますが、そういった態度は周りには透けて見えてしまいます。リーダーの方から「オープンに言っていい」と言いながら、最終的にはリーダーの考えが結果になるといったことが往々にしてありますよね。
そうではなく、本当に聞き出すとか、聞くことは聞くといった真のオープンさや、意思決定をする際にも理由が透明である、透明性のある意思決定が大切です。
これらの要素を含めた姿勢が、オープンなリーダーシップに必要不可欠だと言えます。
実践に向けてのアドバイス
小島美佳:ありがとうございます。ここまでのエドモンドソン教授の指針と松村さんのお話を踏まえ、実際にビジネス現場でオープンなリーダーシップを実践する際のポイントを以下まとめました。
1. 土台づくりから始める
オープンさを示す行動例にたくさんの要素があって、どこから手をつけたらいいのか?とお悩みの場合は、まず初めに土台を設定することをお勧めします。
実際、ビジネスシーンの全ての場面でリーダーが常にオープンであることは難しいです。なぜなら、オープンネスが求められる場面は多様で、チームの状況に応じて、アイデアを広げる発散が必要な時もあれば、意見の収束が必要な時もあります。
そこで、
- 「ここはオープンなコミュニケーションをする発散の場です」
- 「ここは決めなければならないので、ひとまず意見よりは反対意見がある場合だけ教えてください」
と予め伝えることで土台を設定することができます。
リーダーの皆さんは、オープンネスが求められるビジネスの場面や状況を吟味しながら、目指すべき方向性に沿った環境や土台を設定し、チームで共有することが大切です。
2. 謙虚に意見を求める
また2番目の「参加を求める」の部分で松村さんが指摘されたように、「どう思う?」と謙虚に聞くリーダーは実際には少ないのかもしれません。
ですから、謙虚さを示すために、まずは以下のような小さな一歩から始めてみると良いでしょう:
- 話してみた後に「もし意見があったら教えて」と伝える
- オープンに意見を求める機会を意識的に作る
最後に
オープンなリーダーシップの実践は、一朝一夕には難しいかもしれません。しかし、これらの小さな一歩を積み重ねることで、徐々にチーム内の心理的安全性を高め、より生産的で創造的な環境を作り出すことができるでしょう。
次回は、積極的な行動と信頼の関係とは?というご質問に答えていきます。