職場の”厄介者”とどう向き合うべきか:心理的安全性の真の実践法

心理的安全性を職場で実践する上での悩みに答える本連載。第5回となる今回は、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン教授の見解を軸に、ビジネス現場でエグゼクティブコーチとしてリーダーシップ開発に携わる小島美佳さん、松村憲さんとの対話を通じて、「チームの中に極端に態度の悪いメンバーがいる場合の対処法」について探ります。

心理的安全性や率直な発言を曲解するメンバーへの対応

s子:今回のご質問は、心理的安全性を悪用し深く考えずに発言をする、その内容も「給料を上げろ」「あの人をクビにして」などレベルが低く、困惑しますが、どう対処したらよいか?とのことです。

エドモンドソン教授は著書『恐れのない組織』の中で、この問題を2つのケースに分けて説明しています。


1, 生産的でない同僚への対応

生産的でない、話が無駄に長い、役に立たないと感じる同僚は、実は周囲からのフィードバックを必要としているにも関わらず、本人が気付いていない可能性があります。このように、同僚や部下が心理的安全性を感じて率直に意見を言う一方で、あなたや周りの人たちがその発言に価値を感じられない、イライラする場合は、支援やコーチングを行うことができます。

具体的には「あなたが今行なっている発言は、あなたの意図とは違う影響を周りに与えていますよ」と伝えることが可能です。このようなフィードバックを受けることで、自身の言動が周囲に及ぼす影響を認識し、無自覚のまま続けていた不適切な発言を改善する機会となり、結果として状況が好転する可能性があります。


2, 自身が周りから疎まれている場合の対処法

逆に、自分が率直な発言をした結果、周囲から疎まれてしまった場合は、周りの意見・フィードバックを聞いて学習するチャンスと捉えることをエドモンドソン教授は推奨していました。具体的には、自分の発言や行動のどの部分がチームの基準に満たないかを周囲の人に聞いてみます。

また今いる職場で、個人的な価値観や目標に合致しない仕事をしている場合は、別の職場を探すことも検討しましょう、とのことでした。


深層の理解:表面的な判断を超えて

松村憲:エドモンドソン教授の回答は非常に的確だと思います。
ただ、注意すべき点もあり、発言内容のレベルが低いと判断すること自体が適切でないケースも可能性としてあります。
例えば、「給料を上げろ」という発言の背景には、実は給料以上の仕事をしている、または本人たちがそのように感じているにも関わらず、残業代が支払われていない実態があるかもしれません。また、「あの人をクビにして」という発言の裏には、その人の対応のために現場が迷惑・疲弊している、といった深刻な問題が隠れている可能性もあります。

ですから、言葉の表面だけでなく、全体を広く客観的に見てファクトを捉える必要があります。そこで、さらに相手にフィードバックが必要だと判断したら実際に行う、というエドモンドソン教授の捉え方はとても重要だと感じました。


自己認識と環境のずれ:学習と転身の機会

2つ目のケース、つまり自分が本当に必要なことを率直に発言した結果、周囲から疎まれてしまった状況については、エドモンドソン教授の見解に強く同意します。

まず、周囲の環境と自分の認識にずれがある場合、これは重要な学習の機会となります。自分の認識を修正し、現場の実態に合わせて自己を調整していく過程は、個人の成長にとって非常に価値があります
一方で、もし状況の改善が見込めない場合は、新たな環境を探すことも選択肢の一つです。これは単なる逃避ではなく、自分の価値観や目標により適した場を見つけるための積極的な行動と捉えるべきでしょう。

このような選択を迫られる状況は、実はその職場の心理的安全性が著しく低いことを示唆しています。つまり、個人の問題だけでなく、組織全体の課題が浮き彫りになっているとも言えるのです。

エドモンドソン教授の指摘は、個人と組織双方にとって必要な洞察を率直に提供しています。この問題に直面したときこそ、自己の成長と職場環境の適合性を真剣に再考する絶好の機会なのかもしれません。

Source : 心理的安全性研究所


ネガティブな行動への対応:自己反省と好奇心の重要性

小島美佳:私も現場の状況を想像しながら伺っていました。極端に態度の悪いメンバーがいると、そのメンバーの行動がよりネガティブサイクルを生んでいくことが多く「やっぱりまたか」という雰囲気になりがちですね。

心理的安全性の本質:チーム学習と創造性の促進

心理的安全性の本質的な意義を考えると、その核心はチームの学習能力と創造性を高めることにあります。ですから、もし仮にチームにそういった人物がいる場合、その人のせいにするだけではなく、より生産的な場作りのために私たちはこの人物に対して何をしていたのか、と自問自答することも大切です。

また、発言に対して好奇心を向けることで、「うわっ」と感じるようなその人物の発言に対しての感じ方や受け取り方も少し変化するかもしれません。
改めてマツケンさんのコメントを聞きながら、そう感じました。


効果的なフィードバックと継続的な学習姿勢

ただし、個人の悩みを解消することよりも、チーム学習に繋げるにはどうしたら良いか?といった心理的安全性の本来の意義に立ち返ることが肝要です。ですから、チーム全体の心理的安全性を下げるような行動を取っている人物がいる場合は、適切なフィードバックをすることも不可欠でしょう。
さらに、フィードバックをする際のポイントとしては、その人物を否定するのではなく、具体的な発言や行動について相手が分かるように指摘することが鍵となります。

また、自分自身の行動や発言が周囲にどのような影響を与えているかを意識し、その時々でフィードバックを求めたり自己の学習に繋げていくことも重要です。このように、上司を含めてメンバー全員がより成長しよう、学習しようというスタンスを持ち続けることが大切で、そうでないと、必然的にチーム全体の心理的安全性のレベルは下がってしまいます。

結論として、自分にも他人にも、できる限り学習できるような関わり方を常日頃から考えていくことが、心理的安全性の高い職場づくりの基盤となるのです。

s子:ありがとうございました。
今回は極端に態度の悪いメンバーがいて、チーム全体の心理的安全性が低下している場合の対処法についてご意見をいただきました。心理的安全性の本質に立ち返り、チーム全体の学習と成長を促進することの重要性が浮き彫りになりましたね。

Source : 瞑想チャンネル for Leaders

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ABOUTこの記事をかいた人

大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの