最先端のストレス対策:マインドフルネスによるレジリエンス構築と自律神経の整え方

 ビジネスリーダーのためのマインドフルネス24講座、第15講では最先端のストレス対策についてお話していきます。

 ストレス反応が収まらず慢性化してしまうと

  • キラーストレスとなり心身に不調を来す恐れがある
  • 扁桃体などストレス反応スイッチの沈静化などに効くマインドフルネスが有効

というお話を前々回しました。

 リーダーは自分自身以外にもチームや社内全体にも気を配らなければならないので、ストレス要素は職位が上がるほど必然的に多くなってきます。よって、できるだけ早くストレス対策を取ることが望ましく、その結果として自身の感情をマネージメントするスペースも確保できると考えられます。
 そこで今回は『最先端のストレス対策』ということで神経系を整えること、マインドフルネスとメンタルケア、サイコセラピーなどの領域と連動して進化しつつある新しい理論について、その概念と具体的な方法をご紹介していきます。

自律神経系を整えるための新しい神経生理学 – ポリヴェーガル理論 –

 アメリカの神経生理学者のステファン・W・ポージェス氏が提唱したポリヴェーガル理論 (Porges SW. Psychophysiology. 1995)、は和訳すると多重迷走神経理論となります。(迷走神経:脳の延髄から腹部にまで到達する神経の一つ)
 この理論が学会で旋風を巻き起こしてから早2-30年になると思うんですけれども、神経学、脳神経研究や心理発達などの分野で最近益々注目を集めています。またポリヴェーガル理論の本が翻訳されたこともあり、ここ数年で日本でも認知が広がってきていて、トラウマ体験やPTSDなどの療法にも応用できると期待されています。

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ポリヴェーガル理論(Polyvagal Theory)とは

 この理論の根本としては、個体の意思に関係なく刺激に反応して内臓や代謝、体温といった身体機能を調整する自律神経には交感神経副交感神経の2種類があると長く考えられてきましたが、ポージェス氏は副交感神経にはさらに2種類あり、人間には計3種類の自律神経がある、と提唱しました。

自律神経には以下の2種類が古くから知られています。

交感神経:主な作用  興奮、アクセル
副交感神経:主な作用 リラックス、ブレーキ

神経系の分類

神経系の分類


 ポージェス氏によって提唱された3つ目の自律神経 腹側迷走神経は、人間は他の動物種と比較しても社会的なつながりを育む生き物であることに着目し、人間同士が安心安全のサインを常に送り合っており、その機能を担う人間独自の神経回路とのことです。
 よって以前ご紹介した古い神経回路、生き残るためのサバイバル本能の名残である闘争逃避反応なども、腹側迷走神経の働きで他者とのつながりの中で安全・安心を感じられる状態を作ることができるようになると落ち着いてくる、沈静化するとのことです。


2種類の副交感神経

 ポージェス氏が提唱した、自律神経の中でリラックスを担う副交感神経に2種類あるという発見は進化生理学とも連動して、科学的にも証拠が集まり明らかになってきています。

 2種類の副交感神経とは、以下の二つです。

  • 背側迷走神経:一人でのリラックスに関与します。進化的には爬虫類から存在する神経系で、休んで落ち着いてリラックスしているような状態です。背側というように背中側の部分を通っている副交感神経です。
  • 腹側迷走神経:哺乳類特有の神経系で、他者とのつながり・関わりによって安心安全を感じるリラックスに関与します。この神経は、前・腹側を通る神経系が担い、顔面・顔の表情や発声などが活性化状態に影響します。


 さらにマインドフルネスとの関連で『コンパッション・慈愛を体験するには、自律神経系が安心・安全を感じられる状態になる必要がある』とポージェス氏は言っています。

 きっと近い未来、心理的安全性(集団や組織における安心感)も、神経系の測定によって数値化できるようになるのでは?と個人的に思っています。

自律神経系のバランスの重要性

 以前『ストレス反応を引き起こすメカニズム』でお伝えした通り、ストレッサー刺激を受けてストレス反応を仲介する経路には脳-内分泌系を介するHPA軸と自律神経系を介するSAM軸の主に2種類あります。
 自律神経系は特に自分の意思に関係なく(不随意)刺激に反応し活性化するので、ストレスで自律神経が疲弊していることに自分では気づきにくいことが特徴です。
 そこでここからは、それぞれの自律神経が活性化しているときはどのような状態なのか、バランスをとるにはどうしたら良いか?など具体的な例を元にお話ししていきます。

交感神経

 日中の活動や仕事モードに入っているときに働く自律神経です。緊張や興奮のほか、戦う・逃げるモード、仕事に集中している状態など良いストレスも含まれます。
 仕事中は偏り過ぎず、交感神経(集中)と副交感神経(休憩)を交互に行ったり来たりしているのがベストな状態です。

副交感神経

 背側にある背側迷走神経は休む、食べる、寝る、など1人でリラックスしている状態に関与しています。背側迷走神経はリラックスに関わる副交感神経の一種ではありますが、働き過ぎる・活性化し過ぎると良くないと言われています。具体的には、凍りつきモード、シャットダウン、無関心、何もしたくない状況に陥っている時、無気力、鬱っぽくなっている時は、背側迷走神経が極端に強化している状態と考えられます。

 腹側の神経、腹側迷走神経は繋がりモードです。一人でいるよりも人といると安心するような感覚、誰かとつながっていると感じられて安心している状態です。


自律神経(不随意、意識的に動かせない神経)の状態を知る

 上述の3種類の自律神経系の活性状態が現れやすい部分として、声、姿勢、呼吸、視線、表情などが知られています。

背側迷走神経交感神経腹側迷走神経
小さい、抑揚がない
ゆっくり、息が続かない
スピードが速い
固い声、クレーマー
穏やか、抑揚する、
心地よい
姿勢崩壊、不動準備、警戒重力に従ってリラックス
呼吸浅く遅い浅く速いゆったり、ジューシー
視線定まらない、ぼーっとしている集中、視野が狭い柔らか、視野が広い
表情無表情硬くこわばる豊か、感情が目に出る

 例えば背側迷走神経が過剰に働きすぎると、声量は小さくなり、発声は抑揚がなく、ゆっくりで息が続かない。姿勢は崩れてきて、呼吸は浅く遅くなってきます。

 交感神経が活性化している場合は、声・会話はスピードが速く、行き過ぎるとクレーマーのようになります。姿勢は準備、警戒の状態。呼吸は浅くて速い。視線は集中して視野が狭い。表情は硬くこわばっています。

 腹側迷走神経が活性化しているときは、声は穏やかで抑揚があり心地が良いです。姿勢は重力に従ってリラックス。呼吸はゆったり。視線は柔らかくて視野が広く、表情が豊かで、感情が目に出ます。

レジリエンスゾーンとマインドフルネス

レジリエンスゾーンとは

 レジリエンス(resilience)は元は物理学用語で「外力による歪みを跳ね返す力」として使われ、精神医学ではボナノ(Bonanno,G.)が2004年に述べた「極度の不利な状況に直面しても、正常な平衡状態を維持することができる能力」、心理学では『ストレスに対応し、回復する』といった意味で用いられることが多いです(wikipediaより)。

 覚醒しすぎず、でも意欲は低過ぎず、というレジリエンスゾーンにいられる状態がベストなんですけれども、ストレスが高いと意欲の振れ幅が大きくなり、心身に悪影響が出てしまいます。

 マインドフルネスはこのストレスに対応するレジリエンスゾーンの幅を広げることができると言われています。


レジリエンスゾーンを広げるためには?

背側迷走神経を育む

  • 1人で休憩をする(食べる、寝る、休む等)
  • 腎臓へのタッチ。
    背側迷走神経とメインで関わると言われている腎臓は、解剖学的には背中側の腰のあたりに2つあり、ここに手を置いて腎臓を緩める、温める意識を持つと良いです。日本語でも『手当て』と言う様に、科学的な証拠は未だないものの、手を当てるだけで緩んだり癒される効果はあると考えられます。
    また東洋医学では、数千年前から腎臓は心身の健康に重要と言われています。湯船、カイロや湯たんぽで背側の腰の辺りの腎臓周辺を温めるだけでもリラックス効果が実感できるはずです。

腹側迷走神経を育む

  • 声、表情を使う。
    子供は顔の筋肉がしなやか・柔らかくて、表情が豊かですよね。ある意味、子供は腹側迷走神経を上手に使う先生でもあるので、真似して表情柔らかくしたりしてみてください。付き合うなら表情や声が柔らかい人の方がいいですよね?このような相手との関係性だけでなく、自分のためのストレス対策、寿命を延ばすための行動療法だと思って顔の筋肉と表情を緩めてみてください。表情柔らかくすると腹側迷走神経と連動してリラックスでき、自分の心身の健康にとっても良い効果があるので、積極的に意識してみてください。
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  • 手を握る。
    軽くおにぎりを握る位の感じで両手をグーパーグーパーと握ってみてください。例えば指先の怪我は特に痛く感じることからも、手にはたくさんの神経が通っています。すごく緊張して交換神経優位とか、やる気が出ない無気力という時に手を握る動作を意識的に30秒から1分やってみると、落ち着いたり神経系が整ってきます。
  • いくつかのものを「見る」
    パニックになりそうな時、やばいって感じた時に、周りを見渡してみて視線をぱっぱっと切り替えながら、その場にある色々なものを見てみてください。
    例えば部屋の中なら、エアコンを見る、パソコンを見る、椅子を見る、ちょっと遠くの何かを見る、などなど。見る対象物を5-10個とやってみると神経系が整ってくるんです。レジリエンスゾーンを外れてしまってどちらかに振れてしまった時にやると効果的です。
  • ハートに手を置く
    まさに腹側、胸、お腹ですね。お腹の位置(肋骨の下部)は解剖学的には横隔膜に相当します。緊張やストレスで呼吸が浅くなっているときは横隔膜も緊張してしまっているので、手を置いて意識することで緩めてみてください。
  • 歌を歌う。
    腹側迷走神経は顔の表情や発声と関連すると先ほど書きましたが、歌が好きな人は歌を歌う、そうでない人でも、あーとかうーとか声を出してみる、唇を震わせるとかも効果があります。
  • 遊ぶ、好きなことをする
    童心に帰って遊ぶ、音楽、ダンス、ヨガなど。
    この辺は神経系が緩んでリラックスすることにも効果があります。


<実践>神経系を緩める3分間瞑想

 これらの迷走神経を育む行動やマインドフルネス瞑想を行うことで、神経可塑性によって神経回路全体が良い状態に変化していき定着する、レジリエンスゾーンもどんどん広がってくる、ということがわかっています。

 そこで今回は神経系の緊張を緩める瞑想ガイドとコツを録音しました。お仕事終わりなどにぜひ実践してみてください。

Source : 瞑想チャンネル for Leaders

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ABOUTこの記事をかいた人

大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの