マインドフルネスを実践するとどんな効果が? 松村憲が解説

 前回の対談では、瞑想の種類や伝統について仏教や歴史的なバッググラウンドから解説し、様々ある瞑想法の中でも入り口としてオススメなのが集中瞑想、というところまでお話しました。
 今回は、もう少し心理学や脳科学の視点から、マインドフルネス瞑想をビジネスや日常生活に取り入れることで具体的にどのような効果・変化が期待できるのか?について、引き続き松村さんに伺っていきます。

脳内のストレス反応経路にマインドフルネスが効く

s子:「ビジネスパーソンには集中瞑想がオススメ」とのお話でしたが、集中瞑想ができるようになると、その場の感情に振り回され辛くなるということですか?

松村憲:なりますね。

感情の快・不快スイッチの扁桃体

 僕の説明の仕方だと、感情に振り回されるという現象の最初には、外から自分の感情を刺激するような何らかのストレスや刺激が入ってくるんですよね。あるいは外部刺激がなくても、何かについてグルグル考えたりしていて心の中で反応が起これば感情が揺れますよね。そのスタート地点はどこかって言うと大脳辺縁系の一部の扁桃体(※注1)だと言われます。多くの文献で触れられていますが、扁桃体は情動や精神状態などに関わり、また感情の快・不快のスイッチでもあります。
 扁桃体からHPA軸(視床下部-下垂体-副腎系、※注2 参照)へ刺激が伝わることで、ストレス反応が起こります。具体的には扁桃体からの警告が視床下部に伝わり、さらに交感神経を興奮させ最終的には脳の外に出て副腎を刺激して抗ストレスホルモンが放出され、闘争逃避反応が起こります。

ストレススイッチが常時オンになっている状態

扁桃体の位置(赤色の部分)
Source : wikimedia

 現代人のストレスで考えると、この反応が日常的にずっと続いちゃってます。例えば「明日から食べていけるか不安だ」と感じれば、不安と緊張が継続してしまいます。経済的な不安、衣食住に関する不安以外にも、社会生活を営む上での対人関係のストレスや健康不安をストレスと感じたら、ずっとここの最初の扁桃体のスイッチを押し続けている状態なんです。そうすると警告反応の停止が起こらないし、ここの扁桃体-HPA軸を元に感情や思考パターンも反応しますし、その結果、肉体的な反応もぶれると思います。スイッチが押されると、一連のストレス反応経路が活性化して、快か不快かという感情が揺れて、それにまつわる思考も働いてグルグル回り続けてしまいます。

 では、この最初の扁桃体のスイッチを押さないようにするにはどうしたらいいか?と考えると、「そこにマインドフルネスが利きます」という話になるんです。
 僕自身の体験として現時点で理解しているのは、感情が揺れるのはその人の持っている思考パターンがぐるぐると巡るからです。

マインドフルネスで『今ここ』に集中する→扁桃体が解放される

そこであちこち考えや感情が揺れている状態から一旦離れて、呼吸だったら呼吸に集中、『今ここ』に集中、と1分でも2分でも意識してみる。すると、その間は扁桃体を解放させることができ、ストレス反応の最初のスイッチをオフにできます。
 つまり、意図的に呼吸や『今ここ』に集中することで、無意識のうちに押し続けてしまっていたストレス反応の最初の扁桃体スイッチを押さないという選択を自らできるようになります。それが意識的にできるようになってくると、その結果、今度は自然と様々なことが好転していきます。

 ただそこまで行くには、やはり筋力があってこそなので、そういう意味で『今ここに戻る』という集中瞑想の継続は必要なんです。

 具体的には、感情が安定しやすくなるとか、何かに反応して思考が出てきても「今ここ」に戻ることが習慣化出来てくると、「なんでこう考えてるのかしら?」って思い始めます。こうして自己の客観視が進むし、自己の客観視が進めば進むほど、今度は自分を客観的に扱えるようになる。「この認知っておかしいんじゃないかな?」って自分で気づけるようになる。

s子:ピアノの練習やスポーツのトレーニングを継続するような感じですね。

松村憲:そうですね。
 マインドフルネスが脳に効く話などでは、デフォルトモードネットワークとか前頭前野とか後帯状皮質とか、いろいろな脳の反応経路や部位の話が出てきます。僕の実体験としては、やはりマインドフルネスの効果というか一番の作用点は、この扁桃体スイッチから始まるデフォルトモードの過剰反応が収まること、だと思っています。

注1:扁桃体
情動の学習(ストレスホルモンの放出などの多くの恐怖行動の産生)や記憶固定の調節にも関わっている。

扁桃体への情報の入力:速い反応として①味覚、嗅覚、内臓感覚、聴覚、視覚、体性感覚などあらゆる刺激が嗅球や脳幹から直接的に、また②視床(視覚、聴覚など)を介して間接的に入力される。

遅い反応としては③大脳皮質や海馬で処理された情報も入力され、恐怖反応への条件付けなどがなされる。

扁桃体からの情報の出力:視床下部に対しては後述するHPA軸の活性化を介した交感神経系活性化信号を出す。
そのほか、視床網様体核、三叉神経と顔面神経、腹側被蓋野、青斑核と外背側被蓋核等への情報の出力も知られている。

注2:HPA軸(視床下部-下垂体-副腎軸)
 ストレス負荷の情報を扁桃体から受け取った視床下部はCRH (コルチコトロピン放出ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)を分泌し、脳下垂体を刺激し、脳下垂体前葉からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌され、ACTHは血流にのって腎臓の上にある副腎に達し、副腎皮質からの糖質コルチコイド(コルチゾール) の分泌を促進する(下図右参照)。
 コルチゾールの本来の機能は炭水化物、脂肪、およびタンパク代謝を制御することで血糖値の調節を担う。そのほか中枢神経や肝臓に作用し全身の細胞の増殖・成長に抑制的に働いたり、免疫系への関与も知られている。
 コルチゾールの受容体は海馬、視床下部、下垂体に発現しており、通常条件下では分泌されたコルチゾールは負のフィードバッグ作用によってこれらの部位に抑制的に働きストレス反応は終了する。しかし過剰なストレス刺激によって負のフィードバック作用が破綻すると、常にHPA軸が活性化したままの状態となり、さらに過剰なコルチゾールに晒されることによって海馬が萎縮し外傷後ストレス障害(PTSD)を引き起こすことも知られている。

左:脳内の視床下部と脳下垂体の位置 (Source : 中外製薬『ホルモンについて』)
右:HPA軸によるストレス反応の模式図(Source : 京都産業大学『脳を守り、脳を治す』)

 

心理学的な効果 トラウマの解放

松村憲:後は心理学の視点からお話すると、感情がブレる時というのはトラウマ (心的外傷) も結構関わってきていると思っています。感情には過去の記憶が関わってくることが多々あるんですね。
 例えば、頭がまっ白になる時とかあるじゃないですか?あれって瞬時のことだからその時本人は全く気がつかないですけど、僕の仮説というか理解・実体験から考えると、その瞬間ほとんどの人は過去の記憶がフラッシュバックしていると思います。今起きた出来事と過去の失敗体験・トラウマ体験みたいなものが瞬時に重なって、頭が真っ白になってるんです。
 なので、そういった過去の記憶との無意識での関連付けから離れるという点でも『今ここに戻る』を習慣化することは良いと思います。

(※注 : トラウマの記憶は生物学的にも証明されており、マウス等の実験動物ではトラウマ体験を遺伝させることで、子孫へ外界や外敵の危険性に関する情報を引き継ぐことが知られています。『後天的な「恐怖体験」が、子孫に遺伝する』)

体へのアプローチの重要性

松村憲:さらにお話すると、ビジネスパーソンって、頭で考えている人たちなんですよ。ビジネスマンは思考・判断の連続で、常に仕事中は緊張状態にあるとも言えて、そういった緊張の心理的な影響は体に強く出るんです。頭で考えることと体で感じることってすごく乖離している。

 でも、例えば「感情が揺れるのはなぜか?」って考えると、頭だけでは認識できない、感情の深い部分、潜在意識に要因があったりしますよね。だから頭だけで考えようと思っても、感情の深い部分まで感じられなければ解決できません。
 認識レベルから感情に迫ろうとするアプローチをトップダウン・アプローチと言ったりしますが、近年のトラウマセラピーでは、身体や感覚刺激からのボトムアップ・アプローチも必要だと考えられています。この視点は認識が過度に優先されて、感情や身体が置いていかれがちなビジネスパーソンにも通じるものがあると思います。

 近年、精神医学の分野の治療に瞑想とかヨガなどの体からのアプローチが入ってきたのは、トラウマが深い人たちにいくらカウンセリングをしても頭の領域で終わっちゃうことがあるとわかってきたからです。頭の領域で深いトラウマを理解できても、体と頭は乖離していて反応は変わらないので、なかなか回復した実感が得られないんです。
 そういったケースに逆に体からアプローチをしていくと、カウンセリングだけでは到達できない深い感情にも触れて、その結果一時的に不安定になることもあるけれど、そこで溢れ出てきたものをカウンセリング等でさらにカバーして、頭でも整理していく、という心身両面からのアプローチを取ります。
 マインドフルネスは、揺れる自分や考えを観察できる自分作りにもなるので、それが回復の大きなリソースにもなります。

ボディスキャン瞑想によって、深い感情も意識化できる

 そういった点でビジネスパーソンに効くのは、体の方で感じていることに気づく身体の観察(ボディスキャン瞑想)もすごく大事だと思います。集中瞑想だけではなくて、ボディースキャンも活用・併用することで、リラックス効果も期待できますし、深いレベルの感情を意識化してくれる効果も大いに期待できます。

 以前ご紹介した久賀谷先生の本にも、マインドフルネスの効果としては前頭葉も強くなるけど、同時に感情も感じられて客観視できるようになり、心身のバランスや意思疎通が良くなりますよ、といったことが書いてあるんですよね。
 人生100年時代と言われる時代に入り、健康への関心やウェルビーイングということがビジネスの領域でも注目を集めていますが、このような時代においてマインドフルネスが持つ可能性はまだまだあると考えています。

s子:確かに、科学的に考えて感情が脳だけにあるっていうのは違うと思うんです。脳以外にも体中いろんなところに神経細胞があるし、心臓移植したら移植前のドナーの意識や嗜好がうつったとか聞きますし、腸は脳の次に神経細胞の数が多い臓器で、ストレスや極度の緊張を感じるとすぐにお腹を下したりとかも実体験としてありますし。

 以前エピジェネティクスという細胞内の仕組みによって、外部からの刺激や思考が細胞そのものに影響を与えうる可能性についても書きました(思考のパワーの過去記事参照)。またスピリチュアル・ヒーリングなどでは、体にも記憶や意識、感情が残っているからそういうのを抜きましょうといったことも聞きます。どうしてそういったことが可能なのか?は、今はまだ科学的には明らかになっていないですが、私自身も心や感情を扱う際にボディーからのアプローチも使うことはとても大切だなと感じています。

身体へのアプローチと併用することで客観視も進む

松村憲:そうですよね。心と体は両輪ですから。

 ブッダは「細胞全てに心が宿る」と言っています。体へのアプローチはすごいパワフルだし大事です。身体の働きは意識を超えていますので、潜在意識にも作用・影響していきます。そして、それはビジネスパーソンへの良い効果にも繋がる。感情の安定とか、自分への許容、優しさみたいなものへもアプローチしやすくなる
 集中も含め瞑想が進んで深まって、自分の感情から距離を取れたり、自分の思考に気づけるようになると周囲の見え方も結構変わってきます。すると同じ人間関係や、何らかの刺激が外から入ってきても、刺激に反応している自分に気づき、その反応を自覚的に変える選択もできるようになります。その時は、客観視が相当進むので、起こっていることを判断して反応するのではなく、ただ観察する力もついているはずです。

 

客観視が進みただ観察していくと、、、

s子:客観視に関わる脳の領域とかって、もうわかってるんですか?

島皮質の位置(脳の内部、色付けした部分)
(Source : 脳科学辞典『島』

松村憲:はい、大脳皮質の一部分である島皮質はよく客観視に関わると言われます。様々な機能が知られていますが、自己意識や社会的なつながりとか共感、情動も関わってくる部分です。ここはいろんなところ、気づきとかに関わっているのだと思います。
(※注:瞑想実践者ではこの部分が厚くなっているそうです。Sara W. Lazar et al, “Meditation experience is associated with increased cortical thickness”, Neuroreport, 2005)

 体ってどうしてこんなバランスが取れてるかって言うと、色々な脳の働きというか様々な感覚や神経活動が協調的に働いて奇跡的にバランスを取っているんですよね。よく体性感覚って言うのかな、「この手が今どこにありますか?」って気づきを向けると、主観的にはこの辺にあるというのがわかりますよね。この気づきが島皮質を活性化させるという論文があったと思います。実際に今ここにある『手の意識』は気づきの力を高めるんですけれども、そういうことを続けたり習慣化した結果として、自己の客観視とか他者の客観視も進んでいきます。

s子:自分自身の体を客観視することで、他者の客観視も進むって言うことですか?

松村憲:そうですね。結局、自分の身体や内側を観察することと、外側の他者や現象を観察することはあまり変わらなくなってくるんです。自分の内側の反応に囚われれば、外側の他人もフラットに客観的には見れなくなります。逆に自分を客観視できるほどに、色眼鏡なく他者も見れるようになる感じです。

 

 

 

評価判断しない、という在り方

松村憲:マインドフルネス研究の権威 カバット・ジン博士は、「マインドフルネスは集中と観察である」と言っています。
 『今ここ』に集中することと『判断なく、ありのまま、あるがままに気づく』、『評価・判断しなくなる』という観察は特に重要です。

 判断しなくなるという意味は、反応しなくなることとは違います。反応してもいいし、自分が怒ってもいいわけですよね。「怒ってはいけない」と思うと一気に思考に行っちゃうので、そうではなくて「うわー今怒ってるんだなぁ」と観察することです。自分の喜びを蔑ろにしていた人が、「あー、今、自分喜んでいるんだなぁ」と気づけるようになったり。
 判断なくあるがままに気づけるようになってくると、おそらく扁桃体のストレス反応スイッチが入る回数も減るように思います。落ち着きや物事を見る力も変わるんじゃないでしょうか。

 何か色付けするから、見ている世界に反応して、感情とかを客観的に見られなくなってしまうので、そもそも色付けしないで見ることに慣れてくると、変わってくると思いますよね。

s子:その『色付け』とか『色眼鏡』『仮面』とかって、人間が大人になる過程で周りの大人、親や教師や、環境などから学んで身に付けた経験とか体験で積み上げた理性みたいなものなのかな、と、、、そして色付けしないで見るようになるというのは、そういった価値観や理性とかを手放すような感覚に近いというか。

松村憲:そういう領域に入ってきますよね。

s子:そういうのがちょっと怖いみたいな、本質的な自分に戻ると子供っぽくなっちゃうんじゃないか?とか、理性的でなくなったら自分どうなっちゃうんだろう?とか、、、不安や恐れも感じてしまいます。そういうのも、例えば熟練した方と一緒だと安心して瞑想もできるんでしょうか?

 

恐れや価値観を手放し、本質的な自分に戻っていくための取り組み

松村憲:そうですね、怖いと思います。だから気づかないように抑圧している。
 一人で瞑想をやっているとそういうところで引っかかり、苦しんで辞めちゃう人がいます。せっかく集中してきたからこそ、自分の中からそういった恐れが出てきているのに、「恐れが出てきている、故にやめよう」といったことはよくあります。

経験者・熟練者と一緒に瞑想する良さ

 でも経験者・熟練者と一緒に瞑想する良さは、内容的には基本的にシンプルな事しかやっていなくても、起きることが起きてくるという信頼を持ちやすくなります。例えば自分の場合は20年近く瞑想を集中的にやってきたので、主観的な変容体験みたいな変な体験も通過してますし、言ってしまえば一通り体験し終わったと思っています。その辺りの心理変容、心理学の知識もあります。なので、ある程度の事では動揺しないと思っていますし、体験や経験があればあるほど、何かがあったり出てきた時にサポートできるじゃないですか、起きてくることにも。

 そして不思議と、熟練者と一緒に瞑想してると「怖いけど続けてみよう…うゎぁ」みたいなことが起こりやすいです。サポートを受けつつ一度そこを越えてしまえば、もう全然変わってくると思います。

 瞑想が深まるという視点からも、指導者と一緒にやったほうが良いでしょう。一人でコツコツ毎日瞑想を続けることも大事だけれど、定期的に指導者とも一緒にやったほうがいいっていうのは、大いにありますね。一人でやっていると、やはり自分のパターンにはまってしまいやすい。
 指導者とやるのがいいっていうのと、さらにある程度経験のある人とそこに集まる志のある人と一緒にグループで瞑想をやるっていうのは、一人でやるのとはまた全然違った効果があります。自分のパターンにはまらない、という点では、スマホなどの瞑想アプリも助けにはなると思います。

s子:でも経験が足りないと、アプリを使って一人で瞑想をやるぞ、ってときに、はて、どの瞑想をチョイスしようか?って選べないんですよね、、、苦笑

 後は熟練の方と一緒にグループで瞑想する良さについては、例えば美佳さんのオンライン瞑想会に参加すると、その場にいる集まった人たちに今必要な瞑想が降りてきてガイドに従って瞑想して、みんなで一緒にその場を体験するのはオンラインであっても、一人で座って瞑想をやるのとはまた全然違うなーって感じます。

松村憲:あれはすごいですよね。
 オンラインで瞑想会が開催できるようになって、誰でも気軽に参加できるようになったので、あとはとにかく一度参加してもらって一緒に体験してもらって、「やる価値」や効果みたいなものを感じてもらえたら良いなって思います。

 

ヴィパッサナー瞑想の感覚を掴むまでは、熟練した講師と一緒にやるのがオススメ

s子:実は以前に熊野先生の本を読んでDVDで講義も拝聴して、観察瞑想のやり方もちゃんと分かりやすく本に書いてあって、頭では理解できたんですけれども、いざ実際に一人で実践してみようと思うと、まだ私にはちょっと難しいなと感じてしまって 苦笑。

松村憲:観察瞑想の感覚を独学で身に付けるのは結構難しいと思います。「これでいいのかなぁ?」って思うのはあります。なので、そこは一緒にやっていく中で教えてもらって、気づく方が早く身に付けやすいと思います。
 僕も一人でどんどん瞑想が深まる以前は、瞑想の体験について熟練者や師匠に尋ねて、「それでいい」とか、「怖れに気づきつつ囚われずに呼吸に集中し続けて、その時何が起こるのか見てごらん」とか助言をもらって訓練を積んだと思います。

 瞑想を継続して集中していくじゃないですか。集中していくと「いかに自分が集中できないか?」って気づきますよね。モンキーマインドとかパピー(子犬)マインドとか言われるものなんですが、この気づきはすごい進展なんですね。でも、ここで「私には無理でした」「全然無になれません」と辞めちゃう人多いんです。
 でもむしろそこは「よくあります、全然オッケーです」という段階・通過点で、その雑念が止まらないから、「雑念が流れているのに気づいたら、集中に戻りましょう」と、この繰り返しです。そして、これを続けるだけでもだんだんと観察力がついてくるんですよね。「あ、雑念が湧いてもいいんだー、でも戻ろう」みたいな。この助言だけでもその後も継続するキッカケになるかも。

 さらに観察を進めていくと、例えば「今考えが湧いてきたなぁ」とか「あーなんか今、感情がうわついてるんだ」→戻る、とか、「体がすごい気になってるんだ」→戻ろう、とか「気づいて戻る」というのを繰り返していくと、イメージが湧いてきたら戻ろうとかまでわかってくるようになり、その後はもう観察力がすごいついてきますよね。だから何が起きていても、まぁとりあえず観察してみようとなれる。

s子:じゃあ集中と観察を分けて考えたり、「今日は集中瞑想をやるぞ」と実践するよりも、集中していくうちに自然と観察に繋がっていく、という感じなんですかね?

集中力がついてくると自然と観察力や客観視も進む

松村憲:そうなんですよ、両輪なんです。
観察瞑想だけ、集中瞑想だけっていうのは多分ない。特に、集中ができない人が観察瞑想をしようと思っても、あっという間に雑念に飲み込まれると思います。
 例えば、天台宗では止観瞑想と言われてますけど、『止』が集中、サマタで、『観』が観察、ヴィパッサナーです。そもそもこの二つはそんなに別れてないんです。両者が違う種類の瞑想だ、みたいなのは最近、便宜上広まったのかもしれませんが、明確な分類というより、それぞれみんな含んでるんです。

ジョン・カバット・ジン博士
(Source : Wikipedia

 こういったルーツまで理解してマインドフルネスに触れている人は今はまだあまりいないですね。カバット・ジンは何十年も仏教も勉強して修行した上での体験を含めて述べていますが、その上澄みだけから学んでいる最近の人たちはあまりわかってないかなぁと思います。

s子:そういえばカバット・ジンさんは、調べたらもともと分子生物学者でした。

松村憲:そうでしたね。もともと彼はすごいサイエンティストだと思います。

s子:以前紹介した『思考のパワー』も細胞生物学の人が書いた本でした。マインドフルネスについて調べてみると元々は基礎生物学の人が本を書いていたりして、精神世界にも興味を持つ科学者が意外と多いんだなぁ、面白いなと思いました。

松村憲:ブッダもそんな感じの人ですよね。自分の意識も体も細胞レベルまで分解して調べ尽くしてしまってますから。

s子:久賀谷先生は、「宗教色を完全に排除したのがマインドフルネス」っておっしゃってますよね。

松村憲:そうですね、まぁカバット・ジン博士も表向きはその意図でやってます。宗教社会である米国で普遍的な知恵でもあるマインドフルネスの恩恵を得るには、仏教である必要はないと彼は考えました。ただ、彼の著書では自然と仏教の深みが語られています。
 なぜ仏教で語られるか?というと、「仏教はマインドフルネスの本質を伝えやすいメタファーになるから仏教の話をしている」と書いています。

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今回の対談は以上です。

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ABOUTこの記事をかいた人

大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの