チーム内の厄介な異端との付き合い方:効果的な境界線設定で組織を変える

組織の多様性とイノベーションの関係は、現代のビジネス環境において重要なテーマです。しかし、「異端」と呼ばれる個性的な人材が本当に組織にとって有益なのか、それとも単に秩序を乱す存在なのか、その見極めは容易ではありません。

今回の対談では、チームマネジメントの専門家たちが、チーム内の異端が本当に組織にイノベーションを起こしうる人材なのかどうか?さらに異端とどう向き合っていけば良いのか?その具体的方法について議論します。

チームビルディングの課題:異端的人材の扱い

小島美佳:今回のご相談者はチームマネージャーを担うBさんということで、前回のご質問のような外部から来た異端ではなく、元々チーム内にいる人についてのお悩みです。

「私の部署には、上司の指示を無視したり、故意にミーティングに出席しないなど、チームワークを乱す困難な人物がいます。チーム内の多くのメンバーがその人物に振り回され、職場の雰囲気も悪化しています。しかし多様性尊重の風潮から、周囲が気を使っている状況です。この人物が組織に良い揺らぎをもたらす異端なのかどうかを見分けるにはどうしたらよいですか?」

とのことです。松村さん、このような人物が組織に良い影響を与える可能性はあるのか、アドバイスをいただけますか?

松村憲:はい、今回のケースでは、チーム内の守るべきルールをやぶっている、という点から考えると非建設的な異端の傾向が強いように感じます。しかし、「まれびと」や「」といった視点から考えると、もしかしたら、この人物が何かを伝えようとしている可能性もあります。
ただし、多様性を尊重し過ぎるあまり、周囲が気を使って疲弊したり組織が過度に揺らいでしまうのは問題です。ここで重要となるのは、多様性尊重と同時に適切な境界線を設けることです。


適切な境界線を設定するには?

小島美佳:なるほど、適切な境界線を設定する具体的な方法はありますか?

松村憲:はい、主に2つのポイントがあります。

  1. 許容できる行動と許容できない行動を明確にする。
  2. 境界線を設定する際の公平性と透明性を確保する。

仮にその人物が新たな変革や刷新の可能性をもたらす可能性がある まれびと的異端であったとしても、どこまで受け入れられるか否か?といった境界線をどこに設定するのかを、揺らがされている側がしっかりと意思決定や選択をしていくことが重要です。


なまはげを例に考える境界の重要性

例えば、前にお話した日本の伝統行事である男鹿半島の「なまはげ」の例で考えてみます。なまはげは大晦日など特別な日にのみ我々の日常生活に訪れ、一時的に日常を揺るがしますが、必ず元の世界に戻ります。

こちら側の我々の世界があり、なまはげはあちら側の世界からやってくる、そして必ず日常から帰っていただく、境界線を超えてこちら側の領域には入らせないという態度を明確に示すことで儀式が成り立っています。ハレの日、特別な機会にのみ来訪する、そういう時にだけ少し開放し、なまはげは圧倒的な力の存在として入ってくるけれども、私たちとは住む世界が違う方なので、それをわきまえた上で尊重してお帰りいただく、というのがマレビトとの付き合い方の基本とも言えます。

この明確な境界線を保持することで、なまはげにお帰りいただいた後には安寧な日常の日々が戻ってきますが、来訪を含めた一連の揺らぎを通じて、何かが少し新しく刷新される、新しい価値観や転換点となる鍵になります。

適切な境界線を引くことが多様性尊重につながる

ここでご質問者のBさんのケースに話を戻すと、やはりこの異端的な人物がどんな人物なのかもありますが、適切な境界線をしっかりと引くことが多様性やまれびと的異端の尊重にも繋がるのではないかなと思います。

小島美佳:確かにBさんの場合は、境界線が曖昧なまま「多様性尊重しなきゃ!」みたいな感じで、ちょっと頑張りすぎていたのかもしれないですね。
ありがとうございました。野田さん、追加の質問やコメントがありましたらお願いいたします。

野田浩平:はい、境界線を引く重要性を納得しました。
そうなると例えば、ルールを破ってチームの雰囲気を乱す人物が正社員ではNGだけれど、業務委託とか、外部から新たな価値を提供してくれる人、ある程度距離感を持った付き合いなら大丈夫なのか?とか、または故意にミーティングに出ないことにも何かしら意図があるのかな、といったことを想像しておりました。

小島美佳:確かに、距離感や関係性などによっても、いろいろな段階はありそうな感じがしますね。


組織の秩序維持:リーダーによる境界線設定の実践的アプローチ

Felix:明確な境界線を引くことの重要性は理解できました。
しかし、具体的に実践するためにはどのような行動をとればいいのでしょうか。
現実的に実践すると考えると、行動規範を作ったりルールを明確にしたり、といった表面的な方向に行ってしまうのかな?と感じました。そこで伺いたいのは実際に境界線を引くというのは、具体的にはどのような行動や方法がありうるのでしょうか?

松村憲:おっしゃる通りで、行動規範やルール作りも境界線を引く一つの方法です。また野田さんがおっしゃっていた、異端的人物との関係性によって「適切な境界線」も変わってくると思います。

一方で、まれびと論やなまはげを例にしてシンボリックに考えてみると、境界線を引かないと我々の領域になまはげが入ってきてしまう、放置しておくことで、鬼やなまはげが跋扈している状態になってしまいます。通常はしっかり帰っていただくのに、境界があいまいでみんなが過度に気を使い、「まだいますね」「いつ帰ってくれるのか」といった状況になっていまいます。


リーダーが率先して境界線を明確にする

その際、明確なルールを設けることも重要ですが、それだけではなくリーダーがしっかりとなまはげと対峙する必要があります。 例えば問題行動に対して「ちょっといいですか」「ダメです」といったコミュニケーションをとったり、あるいはなぜそのような行動をとるのか?その理由について相手の話を聞き、必要に応じてルールを調整することも大切です。

ルールはものすごいパワーでもあるので、お互いが納得したルールを作ることで境界線を引くことはできると思います。

小島美佳:そうですね。チームマネージャーにはリーダーとして境界線を明確にする義務があると言えます。多くのビジネス現場では、「うちのリーダーはこういう働き方だから」「こういう考え方だから」といったように、あるリーダーの下で働く人たちはなんとなく共通して持っている暗黙のルールを守っていることも多少はあると思います。

そこでリーダーは、それをやっていない人に対して「それはダメです」と言うことが出発点になるのではないでしょうか。例えば、「オンラインミーティングでは全員必ずカメラをオンにすること」とおっしゃっている方がいるとします。こういった小さなルールであっても1つ1つ明確にしていくことが境界線を引くことにも繋がりますし、決めていくことがリーダーの行動として重要なポイントになります。


価値観の共有:組織の境界線を定めるアプローチ

Felix:なるほど。例えばベンチャー企業の採用などでも、誰を選んだら良いか悩むと聞いたことがありますが、お話を伺っていると、企業のビジョンや価値観を共有できるかどうかが、なまはげのような異端が一線を超えて入ってこないようにする、一種の境界線として機能するのかもしれませんね。
境界線と一言で言っても、ルールを設けて単に組織やリーダーのカラーに染めるだけではなく、様々な価値観をすり合わせるとか、そういった方法もあるんだなと理解しました。

小島美佳:たしかに、企業のコアバリューはイコール「こういう人以外はいらないよ」という企業側のメッセージになります、と聞いたことがあります。

松村憲:そうですね。コアバリューとのずれは、組織の健全性を損なう非建設的な異端を生み出す可能性があります。

野田浩平:価値観や文化的目標の共有と考えると、組織のトップレベルでは価値観が統合されていても、組織全体では文化の違いから行動の多様性が生まれます。例えば、採用時に価値観を共感できたとしても、随分違う文化のところから来られた方で実際の働き方が想定と異なることもあるでしょう。多様性を重視する現代では、この価値観の共有と行動の多様性のバランスをとることが重要な課題となります。



小島美佳:ありがとうございます。
私が知る企業さんの例で、元来時間に対してルーズな文化を持っているチームで、新たに時間厳守のルールが作られ、メンバーは納得はしていないもののルールなので渋々守っていますとおっしゃってる方がいらっしゃいました。こういった境界線的なルールや文化は、組織の成長や時勢に合わせて色々発展させたり、悩みながら維持していくものなのでしょうね。

また野田さんがおっしゃっていた多様性とのバランスについては、難しい課題ではありますが検討しなければならない局面は必ずあるので、引き続き対話を続けていきたいと思います。

Source : ウェルビーイング時代のチェンジマネジメント

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ABOUTこの記事をかいた人

博士(学術・認知科学)。 認知科学から着想を得て途上国の開発問題から気候危機、気候正義、メンタルヘルス、ロビー活動、起業や活動家の育成まで、フリーランスで幅広く行う。 株式会社グロービス リサーチファカルティ、 MIT経営大学院グローバルプログラムIDEAS Asia Pacific ローカルファカルティ