組織変革の新戦略:シャーマン的アプローチで多様性を包摂する【異端を活かす経営術 – 後編】

激動の時代、多くの企業が直面する課題の一つが「異分子」の存在です。彼らは組織に混乱をもたらす厄介者なのか、それとも革新の種を蒔く貴重な存在なのか。
本記事では、前回に引き続き古来のシャーマニズムの知恵を現代のビジネス組織に応用する斬新なアプローチを探ります。

心理学、ビジネスコーチング、認知科学、そしてコンサルティングの第一線で活躍する4名の専門家が、「異端」を活かす経営術について対話しました。

  • なぜ「ナマハゲ的存在」が組織に必要なのか?
  • 現代のビジネス環境における「シャーマン」とは?
  • 多様性時代のチェンジマネジメントの秘訣とは?

組織の未来を左右する可能性を秘めた「異端の力」。その活用法と向き合い方を、各界のエキスパートたちの対談を通じて紐解いていきます。

組織変革の触媒としての『異端者』:ナマハゲ的存在の活用法

Felix:松村さんのレクチャー「異端を活かす経営術 – 共同体とシャーマニズムの枠組みから組織変革の糸口を探る」は、実際に今置かれている様々な状況を思い浮かべながらお聞きし、非常に示唆に富んでいました。


ハレーションを起こす人材・異分子との新たな向き合い方の示唆

現在、多くの組織で「ハレーションを起こす人材」の扱いが課題となっています。
これまではそういった異端・異分子に対して、無視や徹底的に追い出す・排除といった対応や、同様のモードで対話をするのが一般的でしたが、今回の話を聞いて新たな視点を得ました。

例えば、彼らを「ナマハゲ的存在」と捉え、一旦話をじっくり聞いてあげるとか、丁寧にもてなしてから送り出す・帰っていただく、というアプローチもあるのかな、と感じました。
ただ、もてなしすぎて居座られてしまうのではないか、という懸念もあり、そのアプローチを全ての異分子・ナマハゲ的存在に対して使うのはいいものなのかな?とも考えています。

Source : ウェルビーイング時代のチェンジマネジメント研究所


M&Aにおける「シャーマン」の役割

また、少し大きな話としては、M & Aにおける組織の融合・統合の文脈でも興味深い示唆がありました。
統合を担当する人材、例えばコンサルタントの人がポスト・マージャー・インテグレーション (PMI) として入ってくることもあれば、社内の人が担うこともありますが、立ち位置的に難しいと前から思っていました。
しかし、前回共同体と異端、シャーマニズムの枠組みの話を初めにして、統合担当者を「シャーマン」と位置付けることで、その役割がより明確になり、周りの人からも理解が得られやすくなるかもしれません。

つまり、統合担当者は単なる解決策の提示者ではなく、組織の「穢れ」のようなそういったものを引き受ける存在として機能し、結果的に組織融合を促進する可能性がある、と提示することも一つのアプローチとしてある、と思いました。

このような新しい枠組みは、組織変革や統合のプロセスに大きな影響を与える可能性があると感じます。とても参考になりました。ありがとうございました。

小島美佳:そうですね、ビジネス文脈における「異分子」との向き合い方という新しい示唆だと感じました。
松村さん、今のFelixさんのお話を受けて、さらなる洞察などあればお聞かせください。


組織変革におけるシャーマン的アプローチ:異分子との対話と統合のプロセス

松村憲:はい、今のFelixさんのご指摘は、ビジネス文脈において非常にリアリティがあり、「ナマハゲ的存在」すなわち異端との接し方の枠組みは重要な示唆を含んでいると感じました。


異分子を「送り出す」ことの重要性と課題

同時に、彼らを適切に「送り出す」ことも極めて重要です。そうでなければ、共同体・組織の刷新どころか、異分子を含んだまま組織が崩壊するリスクがあります。
ですから話を聞いて深めて、もてなした後には「成仏」していただくことが理想的ですが、それができるかどうかは、まさに「シャーマン的な存在の力量」が問われるところですね。

Felix:ビジネスの観点からすると、「どうすれば帰っていただけるか」という方法論に走りがちですが、そういうものでもないのでしょうね。

松村憲:そうですね。


シャーマン的アプローチの現代ビジネスへの応用

小島美佳:シャーマンがまれびと・異端をもてなし送り出す、という一連の過程の中に大事なプロセスもかなりあるのかなと感じました。
Felixさんが言及された「じっくり話を聞く」ことの重要性や、共同体・組織が異端を受け入れるべきかどうか判断し、組織の発展のために必要な要素としっかり認識することで、異端の「成仏」が促されるのではないでしょうか。

そこで、松村さんに伺いたいのですが、シャーマン的アプローチを現代のビジネス環境で応用する際の、具体的な方法や注意すべき点について、より詳しくお聞かせいただけますか?


異端者を受け入れ、「成仏」させるプロセス

松村憲:重要なのは、組織がその人物の力を受け入れることに価値を見出し、信頼を寄せていることです。「来ていただいてありがとうございます」という感謝の気持ちと共に、神聖な存在として丁重に扱うことが肝要です。そうすることで、「わかった、わかった」という感じで帰っていただけるのです。

逆に、そうでない場合、まれびと(ナマハゲのような存在)が荒れてしまう可能性があります。つまり、その存在としての役割が理解され、承認された時に「成仏」するというわけです。

もてなされるナマハゲ
Source : 松村憲さん撮影


多様性時代の組織変革:現代のシャーマン的役割と相互理解の重要性

小島美佳:野田さんはグローバルに多様性の中心でご活躍されている方だと思います。
そこでお聞きしたいのが、多様な人々との対話をどのように進め、その中で際立って「異分子」的な人々とどう向き合っていらっしゃいますか?そのような活動をされている方の観点から、今回の内容をどのように捉えられたかお聞かせいただけますか?

野田浩平:はい、今回の話は異文化の人たちからコミュニティというよりは、日本をベースとした組織やコミュニティを想定しながら、伺っていました。

日本企業における多様性と世代間ギャップの課題

連載タイトルの「ウェルビーイング時代のチェンジマネジメント」という文脈で考えると、みんなが働きながらも心の平静とか平和を実現しつつイノベーションを起こすためには、多様性も重要だと言いいつつも、若手と中年層、壮年層など世代間の意識の違いなど、様々な課題が浮かび上がってきますよね。
そこで「相互理解をどう測るんですか?」という問いに対しては、今回のテーマのシャーマン的存在、長老なのか、どういった存在、役割の人がいてくれると良いのかなと考えました。

今後、日本社会がさらに多様性を受け入れ、海外からの人材活用も進む中で、もっと個性を発揮したらいいのか?どうすることが求められるのか、今回のテーマの共同体における「異分子」や「シャーマン的存在」から得られる示唆やヒントがあれば、ぜひお聞きしたいと思います。


現代社会におけるシャーマン的役割の重要性

松村憲:私は現代社会にも、シャーマン的役割を果たす人々は存在すると考えています。
表向きの役割はコンサルタントやカウンセラー、人事担当者かもしれませんが、シャーマン的な役割を担える人が必要です。つまり、多様な立場や意見を理解し、橋渡しできる人材です。



古来のシャーマンは、神々の世界と精通している人と言われていましたが、現代におけるシャーマン的存在とは、さまざまな立場があることを理解し、多様性の世界観に馴染んでいる人たちです。
通常、私たちは例えば世代で言えば、自分の生きてきた世代が自分の中心に根付いているので、分かりたくても他の世代のことは分からない、など一面的な見方になりがちです。
ですから、「間」に立つ人、間にいられる存在が非常に重要です。あるいは、間にいられることを認識できる、もしくは何らかの仕組みを作るといったことも実は現在少しずつ進んできていると感じます。


間に立つ人・シャーマン的スキルとしてのリーダーシップ開発

ただし、その立場は精神的に負荷が高いため、内的なレジリエンスや葛藤に耐える力が求められます。現代のビジネス界でも、リーダーシップ開発においてコーチングやマインドフルネスなどが重視されてきていますが、これらはある種のシャーマン的トレーニングと捉えることもできるでしょう。

この点は野田さんはどうお考えですか?それこそ以前お話しいただいた、U理論の「Uの谷に降りる」という考え方は、まさにシャーマニズム的だと感じました。


組織のレジリエンスと異端の受容

野田浩平:確かに、そういった異端をもてなす、共同体と異端の間にいられる、といった視点を持たないリーダーや組織は、相互理解が困難になり、一面的な判断に陥りやすくなりますよね。
結果として、激動の時代にレジリエンスを発揮できず、その組織自体が社会的機能を果たせなくなる可能性があると感じました。


現代におけるシャーマン的役割の課題と展望

小島美佳:ありがとうございます。
お二人のお話を伺って、さまざまな人がシャーマン的役割を果たせるという状態や環境の重要性を感じました。ただ、古来の村とか集落の中におけるシャーマンと、現代におけるシャーマン的役割の違いとして、明確な権威付けがない中でその役割を果たさなければならない難しさがあるように思います。
ある程度権威付けされていれば、然るべき人がシャーマン的役割を担えば組織もちゃんと動く一方で、過度に権威を振りかざすシャーマンも昔はいたのでしょうね。

このテーマは引き続き継続的に議論を深めていければと思いました。
皆様、貴重なご意見をありがとうございました。

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ABOUTこの記事をかいた人

博士(学術・認知科学)。 認知科学から着想を得て途上国の開発問題から気候危機、気候正義、メンタルヘルス、ロビー活動、起業や活動家の育成まで、フリーランスで幅広く行う。 株式会社グロービス リサーチファカルティ、 MIT経営大学院グローバルプログラムIDEAS Asia Pacific ローカルファカルティ