HSPでも幸せになれる! ビッグ・ファイブで学ぶ人生の適応力とコミュニケーション術

 HSPとは、ハイリー・センシティブ・パーソン(Highly Sensitive Person: 以下HSP)の略で、環境や人間関係に対して敏感に反応する人のことです。HSPは個人の性格や特徴を表すパーソナリティの一つと考えられます。
 今回は、日本で行われているパーソナリティ研究の近年の動向について、HSPの特性との関連でご紹介します。
 
 パーソナリティ行動の関連性については、HSP研究よりも以前から様々な研究がされてきました。これらの研究から得られた知見は、HSPの人も含めて、社会や人との関わり合いのなかで生活をする自分や他者を理解するためにも役立ちます。
 

ビッグ・ファイブとは

 パーソナリティ研究では、ビッグ・ファイブという5つの要素でパーソナリティを分析する方法がよく使われています。
 ビッグ・ファイブとは、外向性神経症傾向開放性調和性誠実性という5つの要素です。
1980 年代以降に心理的特性理論で開発された性格特性の分類法、またはグループ化として提案されました。また1990 年代から5 つの要因がラベルごとに特定されました。

 最近ではマーケティング分野での個人の行動や購買の嗜好性や、仕事職種適性を調べるAI診断にも使われおり、何らかの機会にチェックした経験がある人もいるのではないでしょうか。

 ビッグ・ファイブのチェックには、10項目Ten Item Inventory (以下TIPI)がありますが、日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)もあり、パーソナリティの5つの因子(外向性、協調性、誠実性(勤勉性)、神経症傾向、開放性)を10項目で測定します。この尺度は、研究教育などで広く用いられています。

日本語版 Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)の10項目

1. 活発で、外向的だと思う
2. 他人に不満をもち、もめごとを起こしやすいと思う
3. しっかりしていて、自分に厳しいと思う
4. 心配性で、うろたえやすいと思う
5. 新しいことが好きで、変わった考えをもつと思う
6. ひかえめで、おとなしいと思う
7. 人に気をつかう、やさしい人間だと思う
8. だらしなく、うっかりしていると思う
9. 冷静で、気分が安定していると思う
10. 発想力に欠けた、平凡な人間だと思う

Source: 日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)作成の試み : 小塩 真司, 阿部 晋吾, Pino Cutrone, 2012

 本稿では、以下の論文を2回に分け、前編としてビッグ・ファイブによる日本での様々な研究の内容や成果についてご紹介します。

パーソナリティ研究の動向と今後の展望
(平野 真理 ,東京家政大学, 2021)


ビッグ・ファイブ性格特性による傾向分析

性別や地域差による傾向

神経症傾向が高い人(ストレス耐性が低かったりメンタルが弱い)は女性が多く、日照時間が短いと鬱になりやすい

  • 中高年高齢者の大規模調査では、女性は神経症傾向が高く、男性は開放性が低いという結果がある。
  • アメリカ、ドイツ、 中国、日本および韓国との5ヵ国比較では、日本と韓国とアメリカは、女性は神経症傾向が高く、男性は誠実性と開放性が高いという点で似ている。
  • 日本では、日照時間が長い地域では神経症傾向が低いという関係が見つかっている。

太陽の光は、体内でセロトニンというホルモンを作ります。セロトニンは、睡眠の質を高めたり、生活リズムを整えたりするのに役立ちます。朝は散歩に出かけたり、通勤時は日差しのある道を選んでみるのもおすすめです。


運動習慣や食生活との関係

継続的な運動と楽しい食事には誠実性や外向性が関係

  • 運動を続けられない人は、男性は誠実性が低く、女性は神経症傾向が高い。
  • 健康に関する知識判断力が高い高齢者は、神経症傾向が低く、外向性や開放性や誠実性が高い。
  • 太りやすい人は、男性は外向性が高く誠実性が低く、女性は誠実性が低い。
  • サプリメントエナジードリンクを好む人や喫煙する人は、外向性が高く誠実性が低い。
  • 家族や友人と食事を楽しむ人は、外向性調和性によって抑うつ傾向が低くなる影響がみられる。

これらから、健康に関する行動は、特に外向性誠実性と密接に関係していることが分かります。

心身の健康を保つには、自分に合った運動を続けることが大切です。
食事も生きるためだけではなく、楽しむためのものです。 心も健康でいるように、友人や家族と一緒に食事をするのがおすすめです。 楽しい食事の予定を作って、幸せな時間を過ごしましょう。


人生を乗り切る適応力とは? 性格特性がもたらす影響と類型

適応とは、人が困難な状況に対処する能力のことです。適応についての研究からは、次のような知見が明らかになっています。

  • 婚姻の満足度を高めるには、夫婦間の適応として神経症傾向が低く、調和性が高く、誠実性があることが重要である。
  • 災害などのつらい出来事からの適応には、神経症傾向の低さが人生満足度にも影響する。
  • レジリエンスというポジティブな適応力には、思春期では女性は神経症傾向が低いことが、男性は外向性が高いことが重要である。
  • アスリートの適応力には、ビッグ・ファイブのすべての因子が、日常生活のレジリエンスを通して競技にも影響する。
  • パーソナリティ・プロトタイプの4つの類型によると、レジリエント型という適応力の高い類型は、ライフスキルという「日常生活に生じるさまざまな問題や要求に対して、より建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」(WHO:世界保健機関)も高い。
  • 首尾一貫感覚(Sense of Coherence: SOC)という逆境に陥っても困難に立ち向かう力は、神経症傾向が低く、外向性が高い。

パーソナリティ・プロトタイプ(5 因子モデルの各因子のバランスによって判別

レジリエント型:神経症傾向が低く他の特性が高い(精神的に健康で問題がない人々)

統制不全型:誠実性と調和性が低くその他の特性が高い(自分自身への統制の少ない,行動上の問題を抱えがちな人々)

識別不能型:調和性が高く他の特性が低い(精神的に健康で問題がない人々)

統制過剰型:神経症傾向が高く他の特性が低い(過度に自分自身を統制する,内面に問題を抱えがちな人々)

Source : パーソナリティ・プロトタイプに基づいた大学生の類型化と精神的健康の関連 : 嘉瀬 貴祥, 上野 雄己, 大石 和男, 2018

以上から適応においては、基本的に神経症傾向以外の因子が正の影響を、神経症傾向が負の影響をもたらすということがわかります。


不適応や精神疾患のリスク要因の研究

  • 社会では好ましくないとされる行動の爪噛みや貧乏ゆすりは誠実性と調和性の低さが関係する。
  • スマホゲーム依存は外向性、開放性、誠実性がそれぞれ異なるゲーム利用動機を介して影響する。
  • ギャンブル依存は神経症傾向が高く、調和性および誠実性が低い。
  • 犯罪や行動嗜癖など犯罪の質によって性格特性により異なる関連がある。
  • 児童・青年の性格傾向は感情コントロールにおいて情動・行動問題があると神経症傾向が高くなり、調和性と誠実性および外向性が低くなるが、親の評価とも一致していることが大規模な調査で分かった。
  • 大学生の抑うつやストレス、あるいは社会人の職場不適応は神経症傾向が影響することが多い。
  • 二型糖尿病や認知症、てんかんなどの疾患を持つ患者の性格特徴は精神症状の発現に影響することが研究で示唆されている。

 以上のように、不適応精神疾患のリスク要因として、性格特性が関係することを示す研究が多くあります。
 
しかし、性格特性は固定的なものではなく、環境や経験によって変化する可能性があります。また、性格特性だけではなく、他の要因も不適応や精神疾患に影響することがあります。
したがって、不適応や精神疾患の予防や治療には個人の性格特性に合わせた対応が必要です。


コミュニケーションの質と性格特性の関係:メールや SNS の返信に隠された心理

メールや SNS などの対人関係における性格特性の影響に関する研究を紹介ます。

  • 即レス症候群は、ストレス耐性の低さである神経症傾向ではなく、誠実性や誠実性から生じる行動と関係がある。
  • 恋愛や友人関係では返信を待たせると不安や罪悪感が生じるのは調和性が高く、また返信が来ないことに外向性が高い場合に怒り、誠実性が高い場合に悲しみが生じやすい傾向がある。
  • コミュニケーションにおける拒否回避欲求 (否定的な評価の回避を目標としやすい)と賞賛獲得欲求(肯定的な評価の獲得を目標としやすい)との関連については、拒否回避欲求には神経症傾向の高さと調和性の高さがあり、賞賛獲得欲求には外向性、開放性および誠実性の高さ、また調和性の低さが影響する。
  • 中高年世代の運動のモチベーションにおいて、外向性が低い場合には運動を促進するような周囲からのソーシャルサポートの効果がみられない。

コミュニケーションにおける性格特性の影響は、神経症傾向以外の性格特性が複雑に関わっていることが分かります。
 
対人関係のコミュニケーションではちょっとした行き違いでもストレスや不安になりがちです。相手も自分も異なる視点や思考を持っているので、自分だけで悩んでいても解決しません。
信頼できる同僚や上司に相談して、フィードバックを受けることも大切です。


マインドフルネスで神経症傾向を改善する方法 

 神経症傾向は、ストレスや不安に対する感受性や反応性を表していますが、ここまでの上記のビッグ・ファイブにおける研究結果より、神経症傾向が高い人は抑うつやストレス耐性が弱く、人生の満足度が低くなりやすいという研究結果があります。

 しかし、個人の性格特性はそれぞれで複雑であり、神経症傾向が高いからといって必ずしも不幸になるとは限りません。実際には、神経症傾向を軽減する方法がある場合もあります。その一つがマインドフルネスです。
 マインドフルネスとは、自分の感情や思考、身体感覚などに気づき、それらを客観的に観察し、判断せずに受け入れる態度を持つことです。マインドフルネスは、ストレスや不安、うつなどの心理的苦痛を軽減するだけでなく、自己認識自己コントロール社会的関係性などを向上させる効果があります。

 マインドフルネスは、神経症傾向の高い人にとって有効な心理的技法であることが示されています。マインドフルネスを実践することで、神経症傾向の高い人は自分の感情や思考振り回されずに落ち着きを保ち、人生の満足度を高めることができます。


ツールの結果にとらわれない

  ビッグ・ファイブHSPの診断は、自分の性格感受性を知るためのツールです。しかし、それらの結果に囚われるのではなく、自分の選択や判断の参考にするようにしましょう。たとえ自分に合わないと思われることでも、どうやって取り組むかという工夫ができます。

次回は後編として、ネガティブな特性についてご紹介します。

マインドフルネスおすすめ情報

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ヨガ、瞑想に最適

ABOUTこの記事をかいた人

農業工学修士を取得後、時代は就職氷河期の中で外資系IT企業で半導体研究職として就職し従事する。その後IT技術営業職として勤めて他社への出向も経験し、ストレスから体調を崩して退職。心身の安定を求める中ヨガやマインドフルネスに遭遇する。瞑想歴は数年の初心者。