チームの成功は、単に個々のスキルや知識の集合以上のものです。それは、メンバー間の相互作用、共有された理解、そして何よりも、チーム特性の最適化によって形作られます。心理的安全性は、チームがその真のポテンシャルを解き放つための基盤を提供します。しかし、それは一つの手段に過ぎません。
本記事では、心理的安全性を構築する上で重要となるチーム特性についての論文を紹介し、チーム学習を加速し、知識共有を促進するかを探ります。さらに心理的安全性を高めつつもチームワークやパフォーマンスを最適化する上で必要な要素についても、対話によって深めていきます。
Source : 瞑想チャンネル for Leaders
目次
心理的安全性とは?チームを成功に導く重要な要素
s子:こちらは前回もご紹介した、グループレベルでの心理的安全性に関与する要素とその関係性をまとめたエドモンドソン氏のレビュー(ref. 1)の図です。
エドモンドソン教授によれば、心理的安全性とは「グループ内でミスや新しいアイデアを気兼ねなく共有できる状態」と定義されています。そしてその実現には、
- オープンなコミュニケーション:
チームメンバーが自由に意見を交換し、率直なフィードバックを提供できる環境 - リスクの許容:
新しいアイデアやアプローチを試すことに対する恐れがなく、チャレンジを奨励する風土 - 多様性の尊重:
異なるバックグラウンドや視点を持つメンバーの意見が価値あるものとして受け入れられる、発散的思考 - 失敗からの学習:
チームがミスを責めるのではなく、そこから学びを得ることを重視する文化
と主に4つのチーム特性が必要とのことです。
本記事では、これらの4つのチーム特性が心理的安全性の醸成にどのように寄与するのかを、エドモンドソン教授のレビューを参考にしながら解説していきます。
1, オープンなコミュニケーションでチームの絆を深める
Huangらの2008年の論文(ref. 2) では、グループの心理的安全性やチーム学習、パフォーマンスに関わる要素を調べました。具体的には、台湾の研究開発部門に所属する従業員330人を対象に質問紙調査を行い、以下の点を明らかにしました。
- チームメンバー間のオープンなコミュニケーションが活発であるほど、チームの心理的安全性が高まる。
- チームの心理的安全性が高いほど、チームパフォーマンスが向上する。
- リーダーの支援的な行動は、チームの心理的安全性を高める重要な要因となる。
つまり、研究開発チームにおいて、メンバー同士が実験や議論、意思決定の場面で、率直な意見交換ができる雰囲気があれば、安心して意見を言えるようになり心理的安全性が醸成され、それがチーム学習やパフォーマンス向上につながることを実証しました。
2, チャレンジ精神を引き出すリスク許容の風土作り
エドモンドソンの1999年のチームの心理的安全性について初めて言及した論文 (ref. 3) では、リーダーがメンバーのミスを許容する風土が、チームの心理的安全性を高めることが明らかになっています。
さらにチョーらの2007年の6シグマ (Six Sigma) プロジェクトチームに関する研究 (ref. 4) でも、心理的安全性の高いチームほど、探索的な学習やラディカルな知識創造が促進されることが示されています。
※ 6シグマ (Six Sigma) プロジェクトとは
製品やサービスのプロセス改善を目的とした取り組みのこと。6シグマは統計的手法を用いてプロセスの変動を測定・分析し、不良率を大幅に低減することを目指す経営手法です。一般的に以下の5ステップを繰り返し実行することで、継続的にプロセスを改善していきます。
① Define (課題の定義)、② Measure (現状分析と測定)、③ Analyze (原因分析)、④ Improve (改善対策の実施)、⑤ Control (標準化と監視)
具体的には、製造企業の120組のプロジェクトチームを対象に質問紙調査を実施し、リスクを取る行動と心理的安全性との関連を調べました。
その結果、以下の点が明らかとなりました。
- 心理的安全性が高いチームでは、メンバーがリスクを取る行動やアイデアを自由に表明することを恐れずに済むため、探索的な学習やラディカルな知識創造が促進され、チームの学習行動と知識創造が促進される。
- 6シグマ手法の適切な活用は、チームの学習行動と知識創造をサポートする。
- 心理的安全性が高まると、メンバーは自身の発散的な考えを気兼ねなく表出でき、新しい視点やアイデアが生み出されやすくなる。
- 心理的に安全な環境では、メンバーが新しいアプローチに挑戦したり、異なる意見を受け入れたりすることに対する心理的障壁が低くなる。
つまり、リスクテイクを許容する風土は、チームの創造性と革新性、知識創造を引き出す上で極めて重要、とのことでした。
3, 多様性を尊重し革新性を高める
チームに一定の多様性があると、メンバーの発想が刺激し合い、新しいアイデアが生み出されやすくなります。しかし、その前提として心理的安全性が不可欠です。
チョーらの2007年の論文 (ref. 4) では
- 心理的安全性があれば、チームメンバーは自分の意見が他者と異なっていたり議論の的になりそうな知識であっても、自己検閲する傾向を克服できる
- 心理的安全性によってオープンな雰囲気が生まれ、アイデアが自由に行き交うことが奨励される
と言及されており、心理的安全性の高いチームでは、メンバーが自由に意見を述べることができ、多様な視点の取り入れと発散的思考が促進されることがわかりました。
一方、Gibson & Gibbs の2006年の論文 (ref. 5) では、チーム内の多様性 (national diversity) がチームの革新性にどのように影響するかを検討しました。
具体的には、地理的に分散したチームにおける仮想性を調査した 2 つの研究により、さまざまな組織、機能分野、業界、国の 14 チームの 177 人のメンバーに6つの変数を測定(地理的分散度、電子的依存度、流動的構造、国籍の多様性、心理的安全性、革新性)しデータを解析しました。
その結果、以下のことが明らかとなりました。
- 国籍の多様性は、心理的安全性を高めることで、チームの革新性につながる
- しかし、国籍の多様性が高すぎると、心理的安全性が低下する
- 地理的分散や電子的依存度が高いと、心理的安全性が低下する
つまり、ある程度の国籍の多様性はチーム内の心理的安全性を高め、その結果としてチームの革新性が促進される一方、多様性が過剰だと逆に心理的安全性が損なわれる可能性があるとのことです。これらの結果から、中程度の多様性があり、オープンなコミュニケーションを通じてその利点を最大限に活かせる環境こそが、チームの心理的安全性と革新性を高める上で理想的であると言えます。
さらに、Kirkman らの2013年の論文 (ref. 6) では、国籍の異なるメンバーで構成されたグローバル組織におけるコミュニティ・オブ・プラクティス (CoP) を対象に、国籍の多様性が心理的安全性とコミュニティのパフォーマンスにどのように影響するかを検討しました。
その結果、
- 国籍の多様性が高いCoPでは、心理的安全性が高まる
- 心理的安全性が高いCoPではメンバー間の知識共有が活発になり、パフォーマンスが向上する
- メディアリッチネスが高い (対面などのリッチなコミュニケーション手段が豊富) ほど、国籍多様性から心理的安全性が高まる
ことが分かりました。このことから、国籍が多様なCoPでは、適切なコミュニケーション手段を用意・活用することによって、多様性を活かしつつ心理的安全性を高められることがわかりました。つまり、グローバル組織においては、リッチなコミュニケーション環境を整備し、異文化交流の機会を設けることが、多様性の力を最大限に引き出すための重要な鍵となります。
このように、一定の多様性は発散的思考や革新性につながる一方、過剰な多様性は心理的安全性を脅かす可能性があります。このことから、最適な状態を実現するには、オープンなコミュニケーションと、適切なコミュニケーション環境の整備が不可欠だと言えます。
4, 失敗から学ぶ文化の醸成でチームを成長軌道へ
2, のリスクテイクの許容に加えて、失敗からチーム学習へ繋げる重要性についても言及されていました。
Hirakらの2012年の論文 (ref. 7) では大病院の55人のユニットリーダーと224人のユニットメンバーを対象とした3つの調査を行い、ミスの報告数はリーダーの行動や包括性、チームがミスを責めるのではなく、そこからの学びを重視する文化によって変化し、心理的安全性があるとチームが積極的に失敗について話し合い、失敗からの学習を促進し、結果としてミスの減少や意思決定の質の向上などにより、チームのパフォーマンス向上につながることがわかりました。
同様にTuckerらの 2011年の論文 (ref. 8) では、ICUでの調査により、失敗からの学習を含めた広範な学習行動をとったICUで、2 年および 3 年と長期にわたって観察を行い、リスク調整後の患者さんの死亡率が低くなることが判明しました。
以上、今回はグループレベルでの心理的安全性の前提条件3つのうち、チームの特性・特徴の4要素について説明しました。このように、心理的安全性の対象となる集団レベル(個人、グループ、組織)によって関わる要素や関係性も変わってくる、とのことです。
チーミング: 組織を活性化させる新戦略
最後にエドモンドソン氏は、ピーターセンゲの「学習する組織」をもとに、組織や企業をよりフットワークの軽いチームとして機能させる、チーミングという概念を提唱しており、著書の中では、チーミングの実践のための以下の4つの行動を挙げていました。
- メンバー全員で学習する枠組みをつくること、
- 心理的に安全な場を作ること、そしてこれがゴールではなく、
- 失敗から学習すること、
- チームやグループの職業的・文化的な境界をつなぐこと、
とのことです。
チームの心理的安全性を継続的に確認する
小島美佳:前回の組織文化や背景では、会社組織全体の雰囲気を作り出す要素が、部署やチームレベルでの心理的安全性に影響することが分かりました。一方、今回のチームの特徴・特性に関しては、組織全体がネガティブな雰囲気であっても、チームのリーダーが自身のチームの特徴を作り出すことができるという示唆を得ました。
そういった意味では、前半の組織文化や背景そのものは、企業で言えば人事部や本部、事業単位で考えていく内容ですが、今回のチームの特徴は、より身近で現場のマネジメントの方々がチームビルディングを行う上で役立つヒントや示唆が含まれていると感じました。
そのため、現場におけるリーダーの皆さんは、先ほどの4つのチームの特徴について考え、これらの要素についてチームメンバーがどう感じているかを確認し、答え合わせを行うことが重要ですね。
例えば、多様性の尊重については、メンバーAさんは「自分自身の意見は聞いてもらえている」と感じているが、別のDさんはそう思っていない、といったことも起こりえますし、なかなかやっかいですよね。そういった相互の認識のチェックや答え合わせが、チームの中で行われるような関係性を作っておくことが大切なのかもしれません。
心理的安全性を高めるために必要なスキル
松村憲:今回のチームレベルの話は、より身近で、小グループやチームを持つ人が日々の関わりの中で考え、変えられる部分だと思います。この4つは確かに心理的安全性を形作る重要な要素ですが、実際に実現しようとすると難しい部分もあります。
例えば、オープンなコミュニケーションは、思ったことを忌憚なく自由に言うだけでなく、フィードバックの技術やアサーティブに、 “I メッセージ” 「私は〜」と言えるコミュニケーションスキルが必要です。
また、リスクを受け入れ、失敗から学ぶことも非常に重要です。責める、批判する、誰かのせいにする、のではなくて、いかにそこから学びを得るか?という、発想が肝心です。
ただし、心理的安全性に囚われすぎてしまうと、率直な意見を言えるはずなのに慮りすぎて言えなくなるケースも出てきうると思います。そのため、どのようなリーダーシップを取るかがポイントになります。多くの組織はヒエラルキー構造なので、役職者やリーダーがチームの風土を作り、明確にすることが、心理的安全性と組み合わせる上で重要なポイントになるでしょう。
チーム学習を加速させ、知識共有を促進する
小島美佳:ありがとうございます。マツケンさんの意見から、グループレベルの心理的安全性にリーダーシップが強く関わることを再認識しました。また、現場を持つリーダーは、心理的安全性があることによって、最終的にどのようにチーム学習が起こってくるのか?をゴールにしたいですね。
例えば失敗があった時に、「なぜここに至ったのか?」をチーム全員で振り返ったり、「次に同じ事があった場合どうするか?」と学習につながる問いかけによって一つの振り返りから行動へのサイクルが回せるだけでも自然と心理的安全性は高められるように感じました。
リスクと不安の区別する – 進化し続けるチームに必要なこと
s子:そうですね。こういったチームの特徴は次回ご紹介する予定の心理的安全性の前提条件3つ目のリーダーシップにも関係してきます。
また、エドモンドソン氏は心理的安全性を作る上で、不安と失敗を切り離すことの重要性を指摘しています。多くの人は、集団内での恥や職場での孤立、職を失うリスクから、沈黙したり上司の意向を待つ傾向があります。
しかし、著書『恐れのない組織』の中でエドモンドソン氏は以下のように述べています。
- 従業員や顧客が懸念や疑問を率直に言えない風土ではミスが隠蔽され、逆に安全性がリスクにさらされる
- 波風を立てない雰囲気や沈黙の文化は危険
- クリエイティブな業界ではリーダーが進んでリスクを取り、積極的に賢く失敗をすることが重要
- 革新的プロジェクトが打ち切られても解雇されない = 失敗より情熱が優先される
- リーダーが失敗の痛みと利益の両方を理解し示す
- ミスをしても恐怖を感じない風土作り=明瞭かつ率直なコミュニケーションを図り、失敗から積極的に学ぶ
- 失敗に対するリーダーの意味付けが重要
小島美佳:なるほど、以前のマツケンさんのご指摘通り、心理的安全性は作るものではなく、『できてくる』ものであって、リーダーとしてはチームが進化することにゴールを置くことが大切だと再認識しました。
同時にリーダー自らが積極的にチームからフィードバックを得る、失敗から学ぶ姿勢を持つことは大きそうですね。
VUCA時代に求められる心理的安全性の新たな可能性
s子:他にも、VUCA時代においては、従来の発想や手法だけでは対応が難しく、環境変化に柔軟に対応し、イノベーションを生み出す力が企業に求められています。そのため、チーム・グループで心理的安全性を模索しながら多様な意見を取り入れ、取捨選択をし、より集団で学習し成長していく必要があると、エドモンドソン氏は指摘しています。
つまり優秀な人材を採用することがゴールではなくて、優秀な人材を活かし、いかにチームとしてダイナミクスを起こすかが重要で、そのためにはみんなで心理的に安全な場を作り、率直な意見や賢い失敗から学び、さまざまなチームや外部とも協力しながらアップデートし続けることが不可欠なのです。
小島美佳:ありがとうございます。
だんだん私も理解が進んできたんですけど、以前のお話で責任感が強すぎるのもダメ、といったお話しがありましたよね。
s子:はい、看護師さんの心理的安全性について調査をした論文 (ref. 9) で、問題・トラブルは必ず起こるので、失敗を回避するのではなく、積極的にミスを報告し、その問題を学習や解決につなげましょう、という結論でした。
グループレベルの心理的安全性の図でいうと、リーダーシップの下にある問題解決の有効性 (problem-solving efficacy) に当たります。問題解決の効率をチームメンバーが理解し、ミスを報告・共有して、次同じミスを起こさないためにはどうしたら良いか?といったチーム学習につなげる必要があり、一方で、チームに過剰な責任感を持たせすぎると、イノベーションや学習に繋がりづらい、といったことが書かれていました。
小島美佳:そこには、チーム学習を通じてチーム全体でより良いものを生み出す、という大前提の考え方、の有無によって、大きく異なってくるのではないでしょうか。
ここも次のリーダーシップの話と関連してくるかもしれませんが、「責任感が強すぎる」ということにも気をつける必要があると改めて考えさせられました。
今回は以上で、次回はグループの心理的安全性の重要な要素の3つ目、リーダーシップについて対話していきます。
References
- Edmondson A, Lei Z, Psychological Safety: The History, Renaissance, and Future of an Interpersonal Construct, Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior (2014)
- Huang CC, Chu CY, Jiang PC. 2008. An empirical study of psychological safety and performance in technology R&D teams. Proc. IEEE Int. Conf. Manag. Innov. Technol., 4th, Bangkok, Thail., Sept. 21–24, pp. 1423–27
- Edmondson AC. 1999. Psychological safety and learning behavior in work teams. Adm. Sci. Q. 44(2):350–83
- Choo A, Linderman K, Schroeder RG. 2007. Social and method effects on learning behaviors and knowledge creation in six sigma projects. Manag. Sci. 53(3):437–50
- Gibson CB, Gibbs JL. 2006. Unpacking the concept of virtuality: the effects of geographic dispersion, electronic dependence, dynamic structure, and national diversity on team innovation. Adm. Sci. Q. 51(3):451–95
- Kirkman BL, Cordery JL, Mathieu JE, Rosen B, Kukenberger M. 2013. Global organizational communities of practice: the effects of nationality diversity, psychological safety, and media richness on community performance. Hum. Relat. 66(3):333–62
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- Tucker AL. An empirical study of system improvement by frontline employees in hospital units. Manuf. Serv. Oper. Manag. (2007)