部下の立場から組織を変える – 3つの実践的アプローチ【心理的安全性QA 第3回】

心理的安全性が組織の成功の鍵だと知っていても、「部下の立場では何もできない」と諦めていませんか?実は、部下のあなたにも組織を変える力があるのです。

本連載『心理的安全性研究所では、ハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授の研究を基盤としつつ、実践的な観点から心理的安全性の実現方法を探っています。ここに寄せられた、ビジネス現場で奮闘する皆様からの疑問・質問に応える心理的安全性Q&A 第3回目の今回は、部下の立場から心理的安全性を高める具体的な方法、明日から実践できる3つのアプローチをお届けします。

「良い質問をする」から「自らリスクを取る」まで、これらの方法を知れば、あなたも組織変革の主役になれるはずです。部下だからこそできる、心理的安全性向上のための秘訣とは?ぜひ最後までお読みください。


部下側から心理的安全性を高めるには?

s子:これまで、職場での心理的安全性構築には、

が重要であるとお伝えしてきました。
では、組織全体の文化やチームリーダーだけではなく、部下の立場からも心理的安全性に寄与することは可能なのでしょうか?というご質問をいただきました。

エドモンドソン教授の著書『恐れのない組織』によると、職場での行動や期待されることを方向づけるという点では、リーダーや上司が極めて大きな役割を果たす一方、「心理的安全性を構築する後押しは誰にでもできる」とされています。


1, 良い質問をする

部下側から心理的安全性を高めるためにできることの一つ目は、「良い質問をする」が挙げられています。
良い質問とは、純粋な好奇心や意見を伝えたいという熱意から発せられるものです。このような質問をすることで、「私はあなたの意見に関心があります」というメッセージを相手に伝えることができます。結果として、相手に発言の機会を提供し、さらに他の人たちも意見を述べやすくなる安全地帯を作り出すことができます。


「良い質問」の具体例

さらにこの「良い質問」の具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

「ここがよく理解できませんでした。もう少し詳しく説明していただけますか?」
「この提案の意図は何でしょうか?」
「どのようなスキームを想定されていますか?」
「プロジェクト実施の際に、予想される問題や課題は何ですか?」
「チームメンバーに、またはメンバーによるどのようなサポートが必要だとお考えですか?」

これらの質問によって、批判ではなく、純粋に理解を深めたいという意思を伝えることが重要です。

小島美佳:ありがとうございます。
今挙げられていた良い質問の例は、誰かの発言を受けてそれをさらに発展させるための質問だと感じました。コーチングでも好奇心を持つことの重要性が強調されるように、より深く知ろうとする態度が奨励されているのだと思います。

Source : 心理的安全性研究所, 瞑想チャンネル for Leaders


発言の場の雰囲気を緩和する効果も

また、誰かが発言した後、気まずい雰囲気にならないように質問することも重要です。しかし、誰かが発言する前に口火を切って質問することが難しいと感じられている方も結構いらっしゃるかと思います。
これは部下側の方が、自分は上司からどの程度信頼を得られていると認識しているかにもよりますが、場を発言しやすい雰囲気にするために最初に質問をすることはかなり有効だと実感しています。

例えば、上司の発言に対してさらに好奇心を向けて質問をしたり、「他の皆さんは何かご意見はありませんか?」といったファシリテーション的な役割を果たすことも、勇気の要る事かもしれませんが、試してみる価値はあるでしょう。このような質問を通じて、場の発言しやすい空気を作ることができ、部下の立場からも心理的安全性の向上に貢献できると考えます。

コーチングは、良い質問のためのトレーニング

松村憲:ありがとうございます。大変興味深く拝聴していました。
良い質問をすることは非常に効果的ですが、良い質問を学び実践するのは実は簡単なようで想像以上に難しいものです。その点、コーチングは良い質問するためのトレーニングの一つだと言えます。

この文脈で、好奇心を持つことは非常に重要な要素です。しかし部下として、職場の心理的安全性が低いと感じている場合、良い質問をすることは容易ではありません。しかし、そこは認識を少し変え、純粋な好奇心から実は聞いてみたい、質問をしてみようと思えるかどうかが鍵となります。
「これは聞きたいけれど、こんなこと聞いたら、、、」と躊躇するのではなく、本当に理解したいという純粋な気持ちからうまく聞くことができると、とても良いと思います。

質問された側の気づきの機会に

質問には大きな力があります。質問は短く済むうえ、聞かれた相手に答える機会を与えます。
しかも良い質問の場合、答えている過程で話し手自身も「自分はこのように考えているのだな」と内省が深まることもあります。さらに、他の人たちもその対話を聞く機会も作れるという点で、単に意見を述べたり何かを取り上げて話したりするよりも効果的です。

また、質問する際の姿勢としては、純粋な好奇心からもう少し聞かせてください、ですとか、「より理解したいので」というアプローチがあるとより良いです。これにより、相手は心地よく答えやすくなり、上司側にも心理的安全性につながるような気づきが生じる可能性もあります。さらにチーム全体に与える影響も大きいと考えられます。

エドモンドソン教授も、これらの観点から質問の重要性を強調しているのだろうと推察します。質問を通じて、部下側からも心理的安全性を高める環境づくりに貢献できるのです。

2, 熱心に話を聞き、率直に意見を述べる

s子:先ほどの質問の続きで、部下側から心理的安全性を高める方法として、良い質問以外にも3つの方法が挙げられていました。

  1. チームメンバーの話に熱心に耳を傾け、感想を返す: 仮に相手の意見に賛成ではなくても、真剣に聞く態度を示すことで敬意を伝えることができます。
  2. 目前の困難や問題点をフレーミングする: チャレンジングな状況をフレーミングすることで、全ての答えを持つ人がいないことを明確にし、周囲の率直な発言を促します。
  3. 自身の間違いを率直に認め、周囲への関心を示す: もし心理的安全性がないと感じていても、あたかもあると感じているように演技をするのではなく、あえてリスクを取ることでチーム内の対人リスクを減らし、真の心理的安全性を創出します。これは周囲の率直さを引き出す効果もあります。

つまりエドモンドソン教授は、上司でなくても誰もがリーダーになることができると述べています。リーダーの仕事とは、全ての人が最高の仕事をするために必要な文化を作り、育てることだとしていました。


率直な意見を述べる効果

小島美佳:確かに、本心とは異なるのに心理的安全性を感じているかのように演技をするのではなく、あえて対人リスクを取ることは非常に大事だと考えます。これも部下の立場から行うには勇気が必要かもしれませんが、、、

例えば、上司の方が少しだけ皆さんに圧をかけているような場面で、自分は大丈夫なふりをするのではなく、自分自身が今少し緊張していることを率直に表現したり、あるいは「この会議の雰囲気が少し凍っているように感じませんか?」といった形で、現在の状況や自分が感じていることを「場に出す」ことができれば、劇的に場の空気が変わることがあります。
ですからこのようなアプローチもぜひチャレンジしてみることをお勧めします。



松村憲:ありがとうございます。それぞれの方法が非常に効果的だと感じました。
まず、熱心に耳を傾け、注意を向けてくれる人がいるだけで場の空気が大きく変わります。これは誰でも、どの立場からでも実践できる方法だと思います。

また、ある種の弱みを見せることは確かに勇気が必要ですが、重要です。こういったこともネガティブに捉えるのではなく、許容され、より良い状況を作り出すことができれば、非常に生産的な場が生まれる可能性があります。


3, フレーミングで共通認識を明確化する

松村憲:また、フレーミングにも通じることですが、「今こういう状況にある」という認識を共有することも重要です。明確な答えがない中で、現状認識がぼんやりとしたまま議論を続けると、発言への恐れが生じがちです。
しかし、誰かが率直に状況について話すことで、その場にいる人たちの意識が覚醒し、気づきが高まります。これによって安全な環境の構築にもつながります。

例えば、「今日の雰囲気は少し硬いですね」といった発言ができるようになってくると、アイスブレイクの効果、つまり緊張した状況が和らぎ、ブレイクやより自由な対話が可能になります。このような小さな一歩の積み重ねによって、心理的安全性の向上に繋げることができると思います。

小島美佳:確かに、現状を率直に言語化することで、場の雰囲気が大きく変わる可能性がありますよね。フレーミングの実践例や概念については、実際のビジネスシーンも想像しながら考えたいと思います。

s子:フレーミングの重要性については、エドモンドソン教授も著書『チームが機能するとはどういうことか』の第三章で述べていたので、ご紹介します。

フレーミングとは?

フレーミングとは、元々「物事をある枠組みで捉えること」を意味します。組織学習のシステムを構築しようとするリーダーは、変化を起こし、積極的な学習と協働の意欲を持ってもらえるようにプロジェクトを作っていく必要があります。
しかし、研究論文によると、職場で自然に生まれるフレームの多くは、本質的に自己防衛的なものが多いとのことです (Detert JR. and Edomondson AC., 2011, On Organizational Learning)。これは以前お話しした暗黙の発言理論(IVT)に基づくものです。

エドモンドソン教授は、そのような背景も踏まえ、思慮深い学習思考のフレーム作りや再構成は基本的にリーダーが行い、目的の再定義や状況を確認、チャレンジングであることの明確化などを行うべきだと述べています。


リフレーミング – 個人でできるフレーミングの実例

ただ、今回のご質問は「部下の立場から心理的安全性を高めるためにはどうしたらいいですか?」とのことですので、エドモンドソン教授が提案する、個人でできるフレーミング、リフレーミングの具体例を4つご紹介します。

  1. このプロジェクトはこれまでに関わったどのプロジェクトとも異なり、新たなアプローチを試し、そこから学習する胸の踊るような機会に満ちていると自分に聞かせること。
  2. 自分はプロジェクトの成功に不可欠だけれども、他のメンバーが意欲的に参加しなければ成功を収めることはできないと考えること
  3. 他のメンバーはプロジェクトの成功に欠かせない存在で、自分には予想もつかない重要な知識や提案をするかもしれないと認識すること
  4. 上記の3点が真実だとしたら、自分は他人にどのように話すだろうかと考え、実際にその通りに他の人に対話をする、 これらの方法によって、個人レベルでもリフレーミングが可能になる、

とのことでした。

リフレーミングの有用性

小島美佳:ありがとうございました。
このリフレーミングは、チャレンジングな環境に身を置いた経験のある多くの方は、実は普段から自然と行なっているのではないでしょうか。専門用語でリフレーミングと紹介されましたが、ビジネスシーンでは「自分に都合の良い解釈をする」という感覚に近いのかもしれません。


自分の置かれた環境は、個人の見え方や捉え方次第でどのようにも考えることができるので、チャレンジングなことに取り組む際にはポジティブな解釈や思考の中に自分の身を置いてみて、どう反応や行動をするか想像力を働かせましょう、ということなのかなと思いました。

例えば、非常に難しい相手と協働しなければならない状況でも、「この困難を克服することが自分の今後のキャリアに良い影響を与えるかもしれない」とか「この人とうまくやれれば、どこでもやっていける」といった捉え方もできるでしょう。このアプローチは非常に参考になると思います。

松村憲:このリフレーミングは、認知心理学認知行動療法とも関連すると思いました。
今小島さんがおっしゃられたビジネスの文脈で考えると、どうしても避けられない困難な状況というのは多少なりともあるので、その状況を自分がどうフレーミングするか、つまりどう認識するかによって、ストレスの感じ方や向き合い方が大きく変わってきます。

自分の認識をリフレームすることができれば、状況の捉え方が変わり、そう考えると気が楽だと気付けたり、希望が湧いてくると感じられて、ストレスや状況との向き合い方も変わってきます。ストレスフルな環境が続くことは誰も好まないものですが、このリフレーミングのアプローチはそういった状況に対処する上で非常に有効な手段の1つだと考えます。

小島美佳:確かに、個人でできるフレーミングによって状況の捉え方を変えることで、ストレスフルな環境でも前向きに取り組めるようになり、結果的にチーム全体の生産性にも良い影響を与え、心理的安全性も向上する可能性が大いにあると言えますね。

ありがとうございます。心理的安全性QA、次回に続きます。

マインドフルネスおすすめ情報

集中力を高めるための muse 2 脳波計
ヨガ、瞑想に最適

ABOUTこの記事をかいた人

瞑想歴20年以上。 15歳までヨーロッパで育つ。慶応義塾大学を卒業後、アクセンチュアで組織戦略・人材開発のコンサルティングに従事し異例のスピードで昇進。アクセンチュア・ジャパン 史上 最も若い女性マネジャーとして抜擢される。その後、独立系コンサルティング企業でビジネス開発に携わる傍ら、キャリアコンサルタント及びコーチとして活動。不確実な時代の波を乗りこなす事業の在り方やビジネスパーソンとしての生き方について考えはじめる。 2003年、瞑想に出会い習慣化するようになる。2010年よりビジネスの世界で活動をつづけながら、年間500名以上のクライアントへ瞑想的なテクニックを活用したカウンセリングを行っている。株式会社バランスオブゲーム代表。 監訳書:『コーチング術で部下と良い関係を築く』 共著:『「ハイパフォーマーの問題解決力」を極める』