HSP研究から見る感受性の高い人の適応力と心理的幸福感

HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン/Highly Sensitive Person)というワードをSNSや記事で近年ではよく見かけるようになってきました。ここではHSPの気質があるご自身だけでなく、周囲の人にもHSPについて理解を深めていただけるように研究論文をご紹介します。

エレイン・N・アーロン博士が提唱するHSPとは?感覚処理感受性の謎に迫る

 HSP(Highly Sensitive Person)は、感覚処理感受性が高く、周囲の刺激過敏に反応する個人を指す概念で、エレイン・N・アーロン博士によって提唱されました。
 
 HSPは感覚処理感受性(sensory-processing sensitivity:以下、SPS)が高いため、周囲の刺激に過敏に反応する個人を指します。

 SPSは感覚情報を処理する過程における個人差があり、SPSが高い人々は以下の特徴(頭文字を取ってDOES)を持つとされています:

ⅰ)情報を深く処理するDepth of processing)
ⅱ)刺激を受けやすいOverstimulated)
ⅲ)強い情動反応と高い共感Emotional reactivity and high Empathy)
ⅳ)微細な変化に敏感Sensitivity to subtleties)

アーロン博士によれば、HSPの割合は全人口の15~20%程度と推定されています。
 

SPSは人間を含む生物にとって生存戦略ではありますが、ときに過敏な反応抑うつ不安などの問題を引き起こすこともあります。そのためHSPは主観的幸福感の低下につながる可能性もあり、近年では一般書籍や研究の注目対象となっています。
 
 HSPの割合や注目度についてはさまざまな議論がありますが、その背後にある心理的メカニズム社会的な影響を理解する必要があります。


アーロン博士の HSPチェックリスト

HSPの測定には、アーロン博士は一般向けの書籍に23項目のチェックリストを提示し、12項目以上で「はい」と回答した場合にHSPの可能性が高いとしています。現在では研究者によりHSPは1因子構造ではなく、2〜3因子構造であるともされており、因子構造については研究がされています。

23項目のHSPチェックリスト

1. 自分をとりまく環境の微妙な変化によく気づくほうだ
2. 他人の気分に左右される
3. 痛みにとても敏感である
4. 忙しい日々が続くと、ベッドや暗い部屋などプライバシーが得られ、刺激から逃れられる場所にひきこもりたくなる
5. カフェインに敏感に反応する


6. 明るい光や、強い匂い、ざらざらした布地、サイレンの音などにに圧倒されやすい
7. 豊かな想像力を持ち、空想に耽りやすい
8. 騒音に悩まされやすい
9. 美術や音楽に深く心動かされる
10. とても良心的である
11. すぐにびっくりする(仰天する)
12. 短期間にたくさんのことをしなければならない時、混乱してしまう
13. 人が何かで不快な思いをしている時、どうすれば快適になるかすぐに気づく(たとえば電灯の明るさを調節したり、席を替えるなど)
14. 一度にたくさんのことを頼まれるのがイヤだ
15. ミスをしたり物を忘れたりしないよういつも気をつけている。
16. 暴力的な映画やテレビ番組は見ないようにしている
17. あまりにもたくさんのことが自分の周りで起こっていると、不快になり神経が高ぶる
18. 空腹になると、集中できないとか気分が悪くなるといった強い反応が起こる
19. 生活に変化があると混乱する
20. デリケートな香りや味、音、音楽などを好む
21. 動揺するような状況を避けることを、普段の生活で最優先している
22. 仕事をする時、競争させられたり、観察されていると、緊張し、いつもの実力を発揮できなくなる
23. 子供のころ、親や教師は自分のことを「敏感だ」とか「内気だ」と思っていた

Source : Elaine N. Aron「The Highly Sensitive Person」 
    日本語:「ささいなことにもすぐに動揺してしまうあなたへ。」富田香里訳


HSPと適応感(環境へのフィット感)に関する研究

適応感との関連に基づく HSP(Highly Sensitive Person)特性の検討
(西谷 健次, 小野 秀樹, 作新学院大学, 2021)

 HSP(Highly Sensitive Person)尺度と適応感個人が環境と適合 (フィット) していると意識すること)尺度を使用して、私立4年制大学の学生300人を対象にアンケート調査が行われました。
調査対象者の内訳は男性168名、女性129名で、社会科学系学部と人文科学系学部から成り立っています。

調査で使用された尺度は以下の2つです:
HSP尺度:23項目から成り立ちます。
適応感尺度:5項目で、以下の項目が含まれています。

  • 「毎日が孤独でさびしい(逆転項目)」
  • 「充実した毎日を送っている」
  • 「やる気が出ず、憂鬱な毎日を過ごしている(逆転項目)」
  • 「生きがいをもって毎日を送っている」
  • 「味気ない毎日を送っている(逆転項目)」


2因子分析として、HSP尺度は以下の2つの要素に分けられました:
易興奮性:刺激に対する反応性
低感覚閾:感覚閾値の低さ、ささいな外的刺激に対する感受性の高さを表す概念です。低感覚閾は、環境感受性の気質・性格的側面であり、遺伝子や神経生理的反応性とも関連しています。


アンケート調査の結果:

 性別による違いは主に易興奮性因子に影響し、女性の方が高い傾向が見られました。周囲の環境変化に敏感に気づくかどうかには性別による違いはなかったものの、そうした環境変化に対して女性の方がより脅威を感じやすい傾向が示唆されました。

 適応感との関係については、HSP尺度全体、易興奮性因子、低感覚閾尺度が適応感尺度と負の相関があり、特に易興奮性因子と適応感尺度の関連性が強調されました。これは環境変化に対する感受性(低感覚閾)高い場合、その変化に対する脅威感(易興奮性)が強く影響し、社会適応上の困難感が生じる可能性が示唆されました。

 この研究結果から、周囲の情報敏感に捉える人や感受性が高い人ほど、恐れ不安といったネガティブな感情を受け入れてしまいやすいことが考えられます。


感受性の高い性格(HSP含む)との向き合い方

アーロン博士のHSPチェックリストで自分を客観視してみる

 私はHSPのチェックリストを感覚の敏感さ内向的な性格であることをわかりやすく、自分を客観的にみる手助けとして参考にしています。
 例えば21番目の項目では、動揺する状況を避けるために事前に準備をする癖がありました。しかし、考えすぎて先回りしすぎることで、逆に不安感が高まり、緊張してしまうこともあります。


環境変化がある際には不安を解消できる工夫を…

 論文での調査の結果より、環境の変化を感じやすい人ほど、それに対する脅威を感じて社会適応に難しさを感じることがあることがわかりました。これについては新学期のクラス替えや職場の異動など、大きなストレスとなって疲れるなど私も経験がありますが、非常に興味深いと感じました。


体調管理とマインドフルネス瞑想

 以前は「鈍感力」という言葉がよく聞かれ、鈍感であることが評価されることがありました。しかし、HSPのように敏感な人にとって、鈍感になるのは難しいスキルのように思えます。
 私自身の対処方法として、全てをコントロールしようとすることは不可能であることを理解し、体調を整えて不安を軽減することが大切だと考えています。また、マインドフルネスな瞑想有効な手段の一つとして期待できます。

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ABOUTこの記事をかいた人

農業工学修士を取得後、時代は就職氷河期の中で外資系IT企業で半導体研究職として就職し従事する。その後IT技術営業職として勤めて他社への出向も経験し、ストレスから体調を崩して退職。心身の安定を求める中ヨガやマインドフルネスに遭遇する。瞑想歴は数年の初心者。