ダニエルキムの成功循環モデルが示す真実 – 関係の質を超えた組織変革の本質

成功循環モデルの実践的解釈

Felix:ですから、例えばこの図の中で言う「アクションが良くないんだよ」「そもそもプランニングが良くないんだよ」といった「行動の質が低い」という話が出た場合でも、言うだけでなく掘り下げなければいけない。それを掘り下げていった結果、「やっぱり人、メンバーだよね」という結論になれば、そこの課題をどうするか?その背景にある構造的な要因まで掘り下げる必要があります。

小島美佳:そうですね。私もすごく同感で、問題があるとすぐに解決策に飛びつきたくなる傾向はあるのかなと感じますます。
しかし吟味していくことの大切さというか、立ち止まってじっくり今の状況を観察するということをやらないと、なかなか発想の転換もできないのかな、ということがありますよね。


関係の質を再定義する:マッキンゼーの7Sとの接点

Felix:私もダニエル・キム氏の論文を読みましたが、結論としては、現場のマネジャーたちが今の自分たちなりの勝ちパターンを知り、結果の質を上げるメカニズムを理解し作ろう、というような書き方だったように私は理解しています。

そこで改めて興味深いのは、ダニエルキムの論文で示される「関係の質」が、マッキンゼー・アンド・カンパニー社7Sモデル(組織変革に必要となってくる7つのS)における “ソフトのS” と呼ばれる4つの領域 – 価値観 (Shared Value), スキル (Skill), 人材 (Staff), スタイル (Style) が、と重なる部分が多いことです。

ただし、これらは必ずしも「仲の良さ」を意味するわけではなく、個人的には別に仲がいい必要はないと思います。

もし仮に、職場内でチームメンバー達がいがみ合ってぶん殴り合うような感じだとまずいでしょうけど、別に会話もしない、飲みにも行かない、けれどもお互いの役割を果たす、といった関係であったとしても成功を循環させるための人間関係の質としては問題ないと考えます。
逆に、「関係の質」と「仲の良さ」を安易に結びつけてしまう方が、より問題を複雑にして深みにはまってしまう可能性があるのかなと。

小島美佳:そうですね、求めている関係性の質が具体的にどういうものなのか?それは結果に左右するのか?というところの議論や検証が行われていないところに、一番問題があるのかな?と思いました。


変革時代における成功循環モデルの限界と可能性

Felix:この成功循環サイクル自体は悪くないと思いますが、変革を目指す時には逆に足かせになる恐れがあると感じました。このモデルは既存ビジネスの改善には有効ですが、イノベーションを目指す際には新たな視点や少し異質なものが入ってくる必要があるかもしれません。実際、既存の循環を意図的に破壊し、新しいダイナミクスを創造する必要があるケースもあります。あくまで個人的な意見ですが。

小島美佳:まさにシステム思考の本質ですね。変革には、現在の循環を理解した上で、新たな循環を設計する視点が求められます。全く別の発想とか異質なものの組み合わせによって、どんな新しいダイナミクスを作っていきたいのか?という議論ができるといいですね。さらに、もう一点付け加えたいことがあります。


ゴール設定から始める組織開発の新アプローチ

組織開発では、最初にゴールを設定することがコミュニケーションよりも大事だ、という説があります。
一方で、どういうゴールを達成したいか、どういうプロセスが必要か、どういう役割を担うか、そしてどういうコミュニケーションスタイルや人間関係が望ましいか、という順番で考える方が結果が出やすいという考え方もあります。
私自身が様々な会社や現場を見てきた経験から、個人的にはこのゴールを先に設定するアプローチの方が結果的にも理にかなっているのと感じます。関係の質やコミュニケーションの改善は、このゴールに紐づいて初めて意味を持ちます。



コミュニケーションから入ると、それが万能のソリューションのように見えてしまいます。一見それっぽく見えるのも分かりますし大事でもありますが、そこだけを一生懸命改善しても、ダイナミクスを変えるためのレバレッジ・ポイント(システムや組織内で大きな影響や変革を及ぼす可能性がある特定の場所や要素)にはなりにくいと思います。絶対的に何かが足りていないとか、例えば上下間のコミュニケーションが希薄などコミュニケーション自体に問題な場合は、それを改善するだけで劇的に変わるケースなどはありますが。



Felix:それはすごく同意で、僕もいろいろおクライアントさんと対話している際も、やっぱり結果の質というか、常に「いつまでに何を目指すのか?」という点から始めています。
確かに人間関係の話はあるし、コミュニケーションの話とかもたまに出てきますけど、おっしゃる通り、レバレッジ・ポイントはゴールとアクションで、コミュニケーションの改善は、あくまでもそのゴールを達成するための手段の一つに過ぎません。


職場における理想的な関係性の再考

小島美佳:先ほどご紹介していただいた研究論文1の知見で、特に印象的だったのは、友情関係からビジネス関係への移行の方が、その逆よりも問題が生じやすいという点でした。 『友情関係=仲が良い』という前提で考えると、特にベンチャー企業を経験した方には示唆が多いのではないでしょうか。

関係性に焦点を当てると、どういう関係性がビジネス上健全なのか、システム思考的に考える必要があるかもしれません。この職場の友情関係のデメリット、がそのヒントになるかもしれませんね。

境界線の重要性:プロフェッショナルな関係構築

Felix:私の経験からも、最も重要なのは役割を明確にすることです。逆に仲が良すぎると、言わなくていいことまで踏み込んでしまうこともありますよね。良好な関係性は重要ですが、それ以上に各自の責任を取る領域は明確にしつつ、それ以上は踏み込まないとか、そこは相手に任せます、という境界を尊重することが不可欠です。



小島美佳:s子さんはこの「私的感情を持ち込まず」に関心があるようですが、論文を読んで何か感想などはありますか?

s子:私もダニエル・キム氏の論文を読みましたが、それを引用して考察している人たちの多くは「関係の質が最も大事であり、その結果、成果が出れば自然とモチベーションも関係の質も上がる」と言っていました。しかし、ある方は小島さんやFelixさんがおっしゃっていたように、大前提として共通・共有したビジョンがなければ、どんなに仲が良くてもその先へは進めないと書いていました。

職場での境界線があいまいになると何が起こるか?

また以前、アカデミアの領域で働いていて、企業と比べて大規模な研究室でも数十人から100人程度、という環境では「仲の良さ」が重視され、仕事とプライベートの境界があいまいでした。その結果、「仲が良いから」という理由で、本来の役割を超えた要求を断れない状況が生まれていました。
今回のお二人のお話を伺っていて、本当にそれはすごくデメリットだと感じました。

小島美佳:私的感情が持ち込まれているわけですね。

s子:そうですね、例えば誰かがお子さんのお熱で急に休んだ時などに、「君は女性だから今後こういったケースもあるだろうし、それを見越して今回の穴埋めをしてよ」みたいなことを何度も言われ、役割も境界線もまるでないなと感じつつも断れず「ハイ、やります」みたいな(苦笑)。

小島美佳:なるほど。改めて、組織内で信頼関係を築き、互いをプロフェッショナルとしてリスペクトできる状態を作る、また境界線の引き方などが本当に大事なポイントなんだなと思いました。

組織内で親密さを築くメリットとは?

小島美佳:職場の友情関係のメリットの面にもついても掘り下げてみたいです。ご紹介いただいた2番目の論文の中で言及されていた「職場での友情関係の質」というものは具体的にどのように測定されたのでしょうか?

s子:この論文では関係性の質を調べる上で、様々な過去の心理学の文献を元に
職場の友情(職場における個人間の対人関係の質)
関係相互依存の自己解釈
関係エネルギー
対人市民権
の4つの因子について問う設問を複数設定し、それについて5段階評価で答えるアンケートテストを行い、それぞれの因子の関連性を統計学的処理によって解説していました。ここは詳しく説明すると長くなりそうなので、後日また機会があればマインドフルネス研究所で取り上げたいと思います。



小島美佳:なるほど。この対人市民性や、互いに協力し合うといったことは、より大きなゴールを達成するためには大事だと思いますが、システム思考的にはこの友情関係の質についてより深く吟味することができたら、組織開発でどう活かすか?といった視点も得られて議論も深まるのではないかなと感じました。


理論と実践の融合:新しい組織開発の方向性

Felix:今回の議論を通じて、昔のフレームワークや原点を追求することは大事なんだなと気づきました。
研修を受けて聞く内容はあくまでダイジェストだし、数学に例えるなら公式だけ暗記して「何故そうなっているか?」といった理屈や理論がわかっていないような、そういう状態なのかなと感じました。ですから実務家として、表面的な理解だけではなく、原点回帰、その背景にある理論的な深みを理解することの重要性を感じています。

s子:ダニエル・キム氏の論文の結論、ディスカッションに書かれていて共感したのは以下の部分です。
「理論とかはアカデミックの人がやるものだから、ビジネスマンはやらなくてもいい、餅は餅屋で理論はアカデミアの方に任せて、私たちビジネスマンはどんどんパフォーマンスを上げて成果を出すんだ!」みたいなことを多くのビジネスマンが言ってるけれども、やはり組織を構築したり発展させる上ではモデルとか理論も重要なので、組織内にそういう理論もビジネスも両方が分かる専門職も必要なんじゃないか、といった内容が書いてあって、なるほどな、と思いました。

私自身の経験からも、アカデミアと企業や医療現場のギャップを感じたことが多く、理論と現場を繋ぐコーディネーターの役割の人が必要だと個人的に感じています。 

小島美佳:ありがとうございます。そういう意味では今回の対談の結論は「ビジネスマンももうちょっと勉強しましょう」ってことですかね(苦笑)。 頑張ります。ありがとうございました。

<インテグラル理論における客観視と他者視点獲得のための瞑想>

Source : 瞑想チャンネル for Leaders

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ABOUTこの記事をかいた人

瞑想歴20年以上。 15歳までヨーロッパで育つ。慶応義塾大学を卒業後、アクセンチュアで組織戦略・人材開発のコンサルティングに従事し異例のスピードで昇進。アクセンチュア・ジャパン 史上 最も若い女性マネジャーとして抜擢される。その後、独立系コンサルティング企業でビジネス開発に携わる傍ら、キャリアコンサルタント及びコーチとして活動。不確実な時代の波を乗りこなす事業の在り方やビジネスパーソンとしての生き方について考えはじめる。 2003年、瞑想に出会い習慣化するようになる。2010年よりビジネスの世界で活動をつづけながら、年間500名以上のクライアントへ瞑想的なテクニックを活用したカウンセリングを行っている。株式会社バランスオブゲーム代表。 監訳書:『コーチング術で部下と良い関係を築く』 共著:『「ハイパフォーマーの問題解決力」を極める』