『インテグラル理論を体感する』解説 (3) 意識の発達と覚醒の関連

ケン・ウィルバーの著書、インテグラル・メディテーション(邦訳本『インテグラル理論を体感する』)紹介、
 第1回は “Growing Up” 意識の発達段階、
 第2回が “Waking up”  意識状態の覚醒でした。
最終回の今回はその両方を考えていくという題材でお話ししていきたいと思います。

ウィルバーの「Growing Up」と「Waking Up」

小島美佳:ウィルバーは、人間の成長において 「Growing Up(意識の発達段階)」と「Waking up(意識状態の覚醒)」のどちらか片方だけではなく両方が重要だと言っていました。こ松村さんご自身は、この概念についてどんな印象を持たれたか?などをお聞かせいただければと思います。いかがですか?

意識の発達と覚醒の違いと関係性について

松村憲:僕が最初にインテグラル理論を読んだのは、20代前半の頃でした。その中でスイスの発達心理学者のピアジェの話が出てきて、「Growing up・意識の発達段階ってこうなんだな」と感じながら読み進めました。また、「実は発達段階がさらにこんなところまであるよ」という、いわゆる自我が確立した後の発達の段階もクリアに考えられていて、発達段階ってすごいんだな、深いんだなと驚きました。
 同時にウィルバーは前回お話しした「覚醒(Waking up)」について情熱的に語っていましたが、当時の僕は今こうして話しているみたいに発達段階と覚醒の2つが明確に関連していることは理解できていなかったと思います。

『悟る=成長』ではない

松村憲:意識は進化すると感じていて、覚醒も悟り に向かうものと思っていましたが、それって発達と同じなのかどうか、最初は関係性や違いがよく分かっていませんでした。しかし、このインテグラル・メディテーションの本の中では、「意識の発達段階」と「意識状態の覚醒」が明確に分けられ、かつ、この2つが関係しあっていることも書かれてました。

 「意識の発達」だけを追うだけでは足りない部分はあるし、「覚醒」するだけでも足りないところもあり、これらの2つがどの発達段階でどのような覚醒にあるかを理解し、それらが関わるとこんな感じになるんだなぁ、と理解できまるようになりました。
 例えばスピリチュアルな大事なことを話していそうなんだけど「何か怪しいことを言っていて、この人いやだな」と感じる人がいたら、発達と覚醒のかけ算からその位置づけができるようになったと感じています。すごいですよね。

小島美佳:そうですね、たしかにこれらの2つが分かれているっていう概念そのものが新しかったけれども、同時に何か「まぁそりゃそうだよね」と思える助けになったような気がします。

「瞑想だけでは人間的な成長とはならない」という認識の重要性

小島美佳:瞑想などを通じてWaking upを追求する人は多いですが、同時に人は成長していくって思い込んでしまう傾向があったと思います。でも、どんなに瞑想だけをやったところでそれだけでは人間的な成長にはつながらないことがあります。しかし、このインテグラル・メディテーションの本では、意識の発達段階と覚醒の2つが別の概念であり、両方を織り交ぜて考えることが必要だということが説明されています。これによって、瞑想などによって開かれた意識状態を現実に活かすことができるようになると共に、成長にも繋がることがわかりました。いろんな意味で腑に落ちた、楽な気持ちになれたなと言う気がしています。

返本還源 (Source: wikipedia)

 松村さんにもご経験があると思いますけど、実際に瞑想などを通じて開かれた感じがあるとか、全然これまでとは違う新たな意識状態を体験した後、現実に帰ってきてからその状態を融合させ活かすことに苦労することがあると思うんですけれども…


十牛図の返本還源とウィルバーのインテグラル理論の共通点

 このような時に、十牛図(じゅうぎゅうず:悟りに至る10の段階を10枚の図と詩で表したもので、最終的には現実世界に戻って、普段の生活を大切にすることが大切だという意味です。作者は、中国北宋時代の臨済宗楊岐派の禅僧・廓庵)の返本還源だったかな?『戻ってきてちゃんと生きる』のような、あの概念が重要だと感じます。常に思い出させられているような気がしていて、意識の発達段階と覚醒の2つが混じり合うことの大切さと、よりよい人間的成長につながるということが理解できるようになった気がしますね。

松村憲:返本還源(へんぽんかんげん/へんぽんげんげん:何もない清浄無垢の世界から、ありのままの世界が目に入る)、十牛図の9番目ですね。

小島美佳:そうそう、あれは ちゃんと意識しなきゃと普段から思っていて、十牛図の返本還源とウィルバーのインテグラル理論の概念がすごくぴったり私の中で繋がったなぁと思いました。

覚醒して、さらに現実を生き続けること

自分の発達段階の位置を知りつつ、覚醒を重ねる

松村憲:それは本当に凄い大事な考え方だなぁと思ってます。
 僕自身も全く同じような体験をしています。例えば、Waking Upなどの瞑想を深く経験したり、スピリチュアルな方面に傾倒しても、現実社会はこの世のロジックで回っているたので、「Waking Up (覚醒) 」を重ねて現実を生きていかなければなりません。ウィルバーのモデルはそこを健全に現実社会に落とし込める気がします。

 特にこの”Growing Up・発達段階” とは、子供の頃から成人の発達段階も含めた心理的発達段階を指します。ウィルバーは世界中の文献を統合しながらインテグラル理論を作り上げたこともあって、西洋近代のここ100年ちょっとの歴史を基盤としたものだと言うことを何度も本に書いています。歴史の積み重ねの中で人間の意識や心の研究を客観的に整理したものだと説明しています。
 これは歴史が浅くて『軽い』と言うよりも『新しく深い』というか、この本の中で出てくる『心の地図』は、過去に瞑想をしていた人には必要ではなかったかもしれません。以前は、山に入って瞑想して覚醒してその教えを説いて、民を助けているだけで良かったのです。

 しかし、今の時代では「悟りました」や返本還源じゃないけれども、一度社会に戻ってくると「ただの怪しい人」と見られることもあります(笑)。
 本人がそれで良ければいいと思うんですけれども、実際にどこに位置付けるべきかという問題があります。悟りの体験だけでコミュニティーが形成されてしまうと宗教コミュニティーのようになってしまう。
 じゃあ、「今、回っているこの世界でどう生きるか?」と考えると、自分の発達段階がどこにあるのかを知る必要があるし、自分の内面の発達段階が低いままだと、やっぱりちょっと厄介な人になってしまいまうため、注意が必要です。


意識の覚醒と発達段階がアンバランスだと、、、

松村憲:例えば、自己主張が強く、力によって支配しようとする発達段階のレッド (Power self) の段階にいる人は、すごくアウトローな世界で生きる感じや危険な存在にもなり得ます。また、それよりもさらに低いマゼンダ (Magic/Animistic self) の段階にいる人は、「スピリチュアルこそが世界です」「この世は幻想に過ぎない」と信じ込むことで、閉鎖的で危い宗教団体のようになる可能性もあると思います。しかし、この世を否定し始めてしまうならば、それが意味するところは発達段階が低いという話ですよね。
 そうではなくて、この世界に存在している自分自身を肯定し、今自分がここにいることを理解することができると、多分お互いの葛藤も少なくなると思うんですよね。また、お互いがいる発達段階が違う場合、きっと意識の覚醒・Waking upのような話をしても、違う話として理解してしまうとか。その場合、この地図を使って各段階の違いを理解し合うことが可能になるのは、素晴らしいなと思いますね。

発達段階を理解することで、自己認識や他者理解も進む

小島美佳:そうですね。どちらの軸もすごい地図で。この地図をもらったという価値は、大きなものですよね。
自分が今どの段階にいるのかを知ることで、「私、もしかしたらちょっと狂ってきた?」とか自分自身の心理状態が不安定なったり、「やばいかも…」とリフレクション(内省)したときに、正気に戻れる場所があることが分かっていると安心です。
 また、例えば先ほど松村さんが話していたレッドのゾーンでめちゃめちゃ覚醒している人に実際に出会った場合、「この人は凄いはずなのに。よくわからないこの違和感は何?」など感じたときに、良い悪いではなくてこの地図を使うことで説明がつく、その人がどの段階にいるのかを理解できるというのが、すごく助かると思いました。

 松村さんもいろんな人に会っていると思いますけど…特に覚醒がすごく進んでいる人に出会った場合、なんか「すごい!」みたいな憧れの雰囲気やその人物の魅力に引き込まれ、その人物が言う事は100%正しいと信じてしまうことは多々ありますよね。
 しかしこの地図を使うことで、過度に信じ込んで受け取り過ぎてしまうことを「おかしい」と感じて、避けることが出来るようになり、より客観的に物事や人物を見ることができるようになると思います。

 

ウィルバーの発達段階の地図を使って現在の社会・世界を見る

Source: Amazon

松村憲:後はGrowing upとWaking upの組み合わせについて面白いことは、現在の世界や社会が、ウィルバーの言う発達段階の中のどの位置にあるか?みたいな話もしていました。
 ちょっと具体的な数字は忘れてしまいましたが、アメリカを例に考えると、発達段階はある程度「合理的な自分」という状態ができているオレンジ (Rational self) の人口が多くて、あとグリーン (Sensitive self, 成果よりも人間関係を重視する段階) の人口も何%かいるようです。ただ、この辺のグリーンくらいまでがFirst tier (第1層) と呼ばれているところです。

ティール組織』とウィルバー理論の第2層

松村憲:最近注目を集めた書籍「ティール組織〜マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現〜」は、ウィルバーの発達理論の影響を強く受けている本です。この本ではsecond tier (第2層) について語られています。second tierの入り口は「ティール (Integral self, 進化型, 自己と組織を一つの生命体としてみる段階) 」で、この本が日本でもすごく売れたわけじゃないですか。あの手の本では珍しく何万部も売れているわけですよね。

小島美佳:そうですよね、なんとなく尻込みしそうな感じの本ですけど(苦笑)

松村憲:そうですよね、やたらぶ厚くて(苦笑)。
 しかし、ある種一定の人々には熱が出てきているというか。グリーン (Sensitive self) やオレンジ (Rational self) の人々は、感覚が論理的・合理的で、でもオレンジの健全なロジックのところもちゃんと生き切ることもすごいわけじゃないですか。

合理的な判断だけでは突破できない時代

 現代は、「合理的な判断をしていこう」というところに感性的なものが入ってきている時代だと考えたときに、「でもなんかこのままでは突き抜けられない」「この世の中の課題を解決できない」「何か自分を超えられない」とか、そういう欲求や熱が湧いてきたときに、どう越えていくか?と考えた時に、このウィルバーのインテグラル・メディテーションの本の中では、

『自分がどの段階にいるのかを客観的に考えるよりも、Waking up的な視点から本当にありのままにものごとを見ていくことが大切です。そして、地図も知りつつも瞑想的なWaking Upの視座が重要であり、First tierとSecond tierを抜けていくその境目になるんだ』

語られていたと思います。

ビジネス界でも進化型の意識が起こりつつある

 だから現代のビジネス界でも、この辺りのティール (Integral self, 進化型) と呼ばれる進化型の意識が起こりつつあり、あるいは既に一部では実現し始めているのかもしれません。その理由は、オレンジのロジックやグリーンの多様性の尊重だけでは越えられない葛藤を感じている人がいるからだと思います。

 このような状況においては、直感的で右脳的な要素やメディテイティブ的な要素が意思決定において大きな影響を与えることがあると思われます。それらの要素が加味されることで、新しい解決策が生まれることがあり、これが今後のビジネスにとって面白い展開となるのではないでしょうか。

<インテグラル理論の”I”と”we”を体感する瞑想動画です>

Source : マインドフル瞑想チャンネル

 

日本社会も第2層 (Second tier) へ

小島美佳:そうですね。この概念が今の日本で結構注目されている理由は、日本の社会における集合意識が 「これは大事なもの」として認識されてつつある流れがあるように感じます。
 私自身も大企業の中に身を置いていますが、対話の中でSecond tierへの歩みを進み始めている予兆は見えるなぁ…って思います。

松村憲:大きな組織に入ってる美佳さんの目から見て、実感があり現実味があるということですね?

小島美佳:そうですね。
 ティールの概念について語っている人たちがいて、学ぶことは素晴らしいことだと思い思うんですけれども。しかし、私たちが生きる現実の世界でも、もっと生々しい日々の営みの中にティール的な動き方の欠片が見え隠れしてきているほうがワクワクしますよね。いよいよグリーン (Sensitive self) やティール (Integral self) といった視点が幻想ではなく、現実世界に根付いていくんだなと感じます。これこそが、さっき言っていた『返本還源』ぽいなっていうか。

内側と外側の世界の融合

松村憲:そうですよね。インテグラル・メディテーションは再翻訳で、最初に出たのは今から20年近く前なんですよ。だからその時よりも今では現実的なものとして語られるようになったということですね。

 こういう熱って周期的に出てきていると思うんですけど、過去には「まぁ夢物語だよねー」とか「夢は描いたんだけれども、やっぱり現実はそこにはいかないよね」というがっかり感みたいなのを繰り返してる気がします。
 現在は、より現実味を感じながら語ることができる時代になったのかもしれません。また、これまで内側(左象限:問題解決)の世界で発達してきた有り様が、いよいよ外側の現実世界(右象限:意味形成)に実現され始めている可能性もあるでしょうね。

小島美佳:そうですね。

 

『インテグラル・メディテーション』についての対話は今回で終了です。

 ちょうどこの本紹介対談の最終回の記事をアップした10日後の1月24日に、待望の邦訳本『インテグラル理論を体感する〜統合的成長のためのマインドフルネス論〜』が発売されるとのことです。
これまで英語はちょっと、、、と思われていた方も、この記事と合わせて読んでいただくことでより理解も深まると思いますので、この機会に是非お手に取っていただけたらと思います。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

瞑想歴20年以上。 15歳までヨーロッパで育つ。慶応義塾大学を卒業後、アクセンチュアで組織戦略・人材開発のコンサルティングに従事し異例のスピードで昇進。アクセンチュア・ジャパン 史上 最も若い女性マネジャーとして抜擢される。その後、独立系コンサルティング企業でビジネス開発に携わる傍ら、キャリアコンサルタント及びコーチとして活動。不確実な時代の波を乗りこなす事業の在り方やビジネスパーソンとしての生き方について考えはじめる。 2003年、瞑想に出会い習慣化するようになる。2010年よりビジネスの世界で活動をつづけながら、年間500名以上のクライアントへ瞑想的なテクニックを活用したカウンセリングを行っている。株式会社バランスオブゲーム代表。 監訳書:『コーチング術で部下と良い関係を築く』 共著:『「ハイパフォーマーの問題解決力」を極める』