鬼滅の刃がなぜ子供たちに刺さるのか? ユング心理学から分析する|鬼滅の刃とマインドフルネス

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 原作コミックの発行部数は累計1億冊を越え、映画『無限列車編』の興行収入は1月12日発表分で357億円と実写版も含めた歴代トップになった『鬼滅の刃』。
なぜこれほどまでに大ヒットしたのか?といった解説は各所でなされていますが、ユング心理学・深層心理学・マインドフルネスの視点で読み解くと何が見えてくるか?連載の第3回になります。

深層心理学で捉えた『鬼滅の刃』の凄さ

松村憲:まず僕自身『鬼滅の刃』がすごい好きで、原作も既刊は全て読んでいて、とても魂と心に響く感じがします。そして、今、これだけ多くの人に響いているのはどういうことなのか?と考えてみると、メッセージが意識の深い部分に到達しているんだろうな、と思っています。

ユング心理学での意識と無意識

 ユングの深層心理学のモデルでいうと、意識には構造があると考えます。自覚のある意識の他に、意識できていない領域を無意識と呼びます。無意識の中にも深さがあって、比較的浅い領域は個人の経験などが蓄積している個人的無意識があります。無意識のより深い層は集合的無意識があります。この領域は人類共通の要素もあるために普遍的無意識と呼ばれることもあります。

ユング心理学での意識・無意識の模式図
ユング心理学での意識・無意識の模式図
詳細は臨床心理学辞典をご参照ください

 

鬼滅の刃は奥深くの『集合的無意識』を刺激する

 鬼滅の刃は僕らが普段、意識できていない深い集合的な意識の部分を震わせるような物語なんだろうなぁと思います。だから人気があるし、多くの人の心に響くし、ある種そこから物語が続いて癒されている人もいるんだろうなと思います。日本人の集合意識のみに特有に訴えるのであれば日本で流行るし、もし世界的なヒットになっていくとすると、より深い普遍要素があるのかもしれません。(※注:海外でも「デーモン・スレイヤー」として人気があり、英BBCでも取り上げられたとのこと)
 個人的には兄と妹というセットとか、日本人の心が好みそうな設定なのだろうなと思います。

マインドフルネスでは意識を広げる

 比較としてマインドフルネスの文脈で考えると、マインドフルネスには『意識を広げていく』という部分があります。
 ブッタとか仏教の中でも心理学的な部分があって、普段眠ってしまうので気づかない無意識領域みたいなところまでどんどんトレーニングをして意識を広げていき、無意識領域にも自覚が生じてきます。心の深い部分に触れることで自ずとそこにある心の残滓が浄化していくプロセスがここにはあると思います。

 そういう意味で、マインドフルネスで深まっていく意識の部分と、『鬼滅の刃』のストーリーが働きかけてくる深い意識の部分がリンクしていると考えるのは、とても興味深いなぁって思っています。

小島美佳:なるほどー。

鬼滅の刃もマインドフルネスも無意識領域を癒す

小島美佳:鬼滅の刃の話からちょっと離れてしまうかもしれませんが、現状として、マインドフルネスの奥深いところにある思想とか、なぜマインドフルネスをやるのか?とか、それをやってどうなるのか?っていうところまで理解せずに、始めている方はすごく多いのかなあと思っています。「健康に良いです」とか、「ストレスを緩和します」とかは良く聞きますが、その奥にある深い部分って言うところはちゃんと勉強したり瞑想をしないと分からないんですって言う部分がある。
 そこを『鬼滅の刃』は、なんとエンターテインメントの世界観から教えてくれているような、非常に不思議な組み合わせですよね。

 個人的には、見た目的にはすごく残酷なシーンとか多いのに、多くの子供たちがハマっているっていうのは、面白いと思うんです。さっき松村さんのお話であった、普遍な世界を見せてくれているから良くわからないけれども伝わる深い何か、っていうのがあるんだろうなっていう気がします。

松村憲:そうですよね。
 「瞑想は何のためにするのか?」っていうところで考えると、もしかしたらですけど鬼滅の刃的には「鬼を倒すためです」とか「妹を救うためです」とかそういう理由なのかもしれないですね。

小島美佳:それってなんだろうな、意味がありますよね。
 「鬼とは何か?」とか、「妹を救うっていうのはどういうことなのか?」っていうのを突き詰めていくと、すごい繋がってくるのかなって思います。

松村憲:そうですよね、だから多くの人に響くのだろうと思いますよね。

(参考記事:鬼滅の刃を読むと なぜ癒されるのか?ユング心理学の元型論から

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鬼滅の刃が示す善悪を超えた世界

松村憲:残酷なシーンとかもちょっと過激な言い方をすると、みんなが目を開いて見ていないだけで現代社会の負の側面のイメージ化みたいなものが、表象として起きているんじゃないかな?と感じています。

 それって逆に子供たちは良く知っていると思います。繊細だから。繊細である故に、そういう状況を普段からよく受け取っていると思います。
 でもなんかその世界とか鬼をなかったことにしたり、気がつかないうちにいつの間にか自分自身が鬼になっていたら、鬼滅の世界観で見ると最悪じゃないですか。まさに人としての意識を忘れてしまって、鬼になった状態です。希望がないですよね。

炭治郎たちが生きる『あきらめない世界』

 でもこういった物語が流行るのは、やはりそこに切り込んでいって、そこをちゃんと見に行ったりするからなのかなと。主人公達がいる世界は『あきらめない世界』ですよね。鬼滅の主人公の炭治郎は危機的な状況でも「諦めるな、考えろ!」とよく自問して、決して諦めようとしません。それは人に感動与えるし、子供に響くのはそういう部分かなと。そして子供だけじゃないですよね、自分もですけど多くの大人に響いています。

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s子:さっき松村さんが話していた、何かを突き詰めていった先の到達点みたいな話は原作でも出ていますよね。
 主人公の炭治郎たちが倒そうとしている鬼の大ボスには人間の宿敵・最強の剣士がいて、その最強の剣士が言った言葉で「道を極めたものが辿り着くところはいつも同じだ」というのがあって。
 「そこはどこなんだ?」っていうのが、原作の中では回収されていないんです。鬼もその極めた場所(作中では鬼が『至高の領域』『無我の境地』と述べています)を目指したけど、結局人間であることを捨てて鬼になっても、そこにはたどり着けなかったって話はあるんですが。
 作者である吾峠さんは「それは何か?」というのは明確には示さずに、「そういう悟った先の世界があるんだよ」っていう暗示だけで連載は終わっているんです。

松村憲:ほんとにその辺の世界観は、ユング心理学仏教だったりスピリチュアルの伝統の世界観に近いところですね。善悪の分かれてないところまで辿り着いている人なんじゃないでしょうか、その鬼の宿敵は。

 

マインドフルネスの視点でみた『鬼』とはなにか?

小島美佳:私は原作を全部読んでいないので、私の理解のためにちょっと聞きたいんですけれども、鬼たちも鍛錬を積んで上に登っていこうと努力している感じなんですか?

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s子:鬼は元々身体能力が高くて、食べた人間の数で強くなったり、手柄をあげると鬼のボスの無惨様の血をいただいて、さらに強くなれたりするという設定です。ただ強さを極めたくて鬼になった人たちも何人かいます。
 一方で鬼殺隊は人間なので、岩を押したり岩を刀で切ったり、滝に打たれたりとか、いわゆる修行をしないと強くなれない。異常な再生能力や身体能力を持つ鬼と対等に戦うために、人間である鬼殺隊は全集中の呼吸』などを習得して、己を高めるべく血を吐くような努力する、という設定です。

鬼殺隊と鬼では 目指すゴールや価値観が根本的に違う

小島美佳:フムフム。
 それをなんていうかマインドフルネス的な観点で見るととても興味深くて、鬼たちが望んでいる彼らの中にあるゴールと、鬼殺隊が据えているゴールの違いを示唆してもらっているような感じがありますよね。「どこに行くのか?」みたいな。

松村憲:マインドフルネスの観点からシンプルな話をすると、鬼が住む世界は仏教で言われる餓鬼の領域ですし、彼らは欲望ドリブン、エゴドリブン(欲望やエゴを起点にした)で生きていますよね。鬼殺隊の方は対比すれば、愛ドリブンで、エコドリブン、みたいな感じでしょうか。

鬼と私たちも紙一重

 ただ、究極的には紙一重な気がします。最強を目指した時にエゴの執着を捨てないと最強になれない、とか。鬼殺隊側からすると鬼を倒そうと思ったら、自分の中の鬼性と対峙しないと実現しないとか。

 マインドフルネスを継続していくと気づいてしまう、自分の中の未熟さや、怒りやら、鬼性に反応せずに観察する。時に慈悲の思いを鬼に対して持つ、などしながら自然と鬼滅っぽい作業を深層で行っていると思います。

小島美佳:本当にそうですね…。

 

残酷なシーンもあるのに 小さな子供たちにも響く

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小島美佳:あと興味深いのは小さな子供たちが、これに共感するというか、深いところで鬼滅の刃を好きになるっていうところで、松村さんが言ってくれていた「本当はある世界を、残酷なシーンも含めてちゃんときっちり見せてくれている」からっていうのはあるんだろうな、と思いました。

 私が鬼滅の刃の映画を見に行った時間帯が平日の昼間だったというのもあって、お母さんと一緒に来ている小学校入学前くらいの子供たちが結構いっぱいいたんです。
 で途中、観ている子供たちが怖がっているような時もあったんですけど、クライマックスで鬼との激しいバトルシーンがあって、最後どっちが勝つかわからないみたいな場面で、2人ぐらいの子供たちがものすごい拍手をしたの。私自身は「鬼滅の刃って、こういう時って拍手しなきゃいけないものなの?歌舞伎みたいだな」って思っちゃったんですけれども(笑)。

鬼滅の刃全巻セット
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 子供たちがあそこで拍手をしたのってすごい象徴的だなぁと思ったんですよね。光と影じゃないけれども、それらが統合されるとか一体化されるとか、闘いを通して融合が行われる瞬間だったりもすると思うので、マインドフルネスとかのバックグラウンドがないし論理的にも知らない子供たちが、そういったものを拾ったように感じられて、結構私的には感慨深かったんです。

松村憲:ほんとですね!
 こういった世界観がこれだけ大人子供問わず人気があるわけだから、本物は響くというか、リアリティーがあるところは、子供は反応するんでしょうね。

 

 

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』公開中PV 
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大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの