イニシエーションとは?心理学の概念を企業変革へ応用する

小島美佳:今回は『イニシエーション(人生の節目に行われる儀礼、通過儀礼)、ビジネスマインドフルネス、心理学』というキーワードを元に、松村憲さんFelixさんの三人で対談してみたいと思います。
まず、はじめに このテーマに関心があるとお伝えいただいていた Felixさんから、『イニシエーション』について思うところを語っていただいてよろしいですか?

ビジネスにおけるイニシエーションの意味

Felix: はい、よろしくお願いします。
僕がイニシエーションと聞いて、ビジネスなどと絡めて思うところをお話してみたいと思います。

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もともと映画のスター・ウォーズなどを観ていて、そこから派生してジョゼフ・キャンベルの神話の世界(参考:『神話の力』-ハヤカワ・ノンフィクション文庫)を知って、『実はイニシエーションにはパターンとかフレームワークのようなものがあって、スター・ウォーズはそれに合致しているんだよ』という話を知って興味を持ったことが出発点でした。

『よくわからないもの、自分が理解している世界ではないところに入り込んでいく』
というのが、イニシエーションの本質なのかなと僕は思っていて、よくよく考えてみると他の映画でもそういうストーリーって結構あるんですよ。

小島美佳:フムフム。

Felix:例えば、アンタッチャブルという映画があるんですけど。

小島美佳:松村さん、知ってる?

松村憲:知ってるとおもいます。

Felix:禁酒法時代のシカゴが舞台で、悪の親玉のアル・カポネらをとっちめるぞって言って、財務省特別捜査官のエリオット・ネスがシカゴにやってきて、最終的には裁判で勝つ、というストーリーなんですけれども。

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その中で象徴的なシーンがあって、要は密造酒を作っている場所が政府の施設で、もうみんな汚職しているんですね。
でも、主人公がそこに入り込むぞって言って、斧でドアを叩き破るシーンがあって、それが「もうこれをやったら、そっちの世界に行ってしまう」という感じで、僕はすごく印象に残っているシーンなんです。

小島美佳:象徴的ですね。

新しい施策を始める際に及び腰になりがち

Felix:そうなんです。
そこから仕事・ビジネスの世界に戻って考えてみると、『事を成す』とか、『何かしらの新しい施策を導入する』という時には、やってみないと分からない部分がいっぱいあるんですけれども、なんかそういう時に「エビデンスが欲しい」とか「これをやったら必ずうまくいく?」とか言う人が結構いるんですよね。

20年位前に実際にあった出来事で衝撃的だったのは、コンサルで入っていた会社の中でも相当偉い人にプレゼンをしていたときに「じゃあこの施策をすれば、必ず売り上げが上がるんだよね?」と言われて。僕はすごい衝撃だったんだけれども…
「んなわけねーじゃん!」と言うわけにもいかないし(苦笑)、これはいわゆる日本特有なことなのか?というのも興味深い話ですけれども。

現代の日本ではイニシエーションの機会が不足している

とかく日本は『過去からの継続』というのは強いんだよね、多分。でも今の時代のようなスピードを求められる部分などは、結構オタオタしてるじゃないですか。
そういう経験をしてきていないっていうことが結構大きいのかなぁ?とか、日本という社会全体がそういったスピード感をそもそもを持っていないんじゃないか?とも思い始めています。

本来、イニシエーションって集団とか社会とかに承認される、っていうことじゃないですか。
それを現代の日常生活において具体的に例を挙げるとなんだろう?って考えた時に、受験とか入社式みたいなものがそれに当たるのかもしれないけれども、ちゃんとそういう機会を持っていないよね、今の日本は。

だからなんとなく「みんな日本人だよね」と言いながらも、実は日本という社会の中に構成員として認められる明確な機会がないから、「なんだかなぁ…」っていう雰囲気がはびこっているじゃないのかなぁと。
承認欲求ありまくりな人がこれだけ世の中にいるって事は、そういったイニシエーションの機会が足りていないことに原因があるのかもな、と思ったりしています。

小島美佳:なるほどー、確かにそうですね。松村さんはいかがでしょうか?

心理学からみたイニシエーションの意味とは?

松村憲:そうですね、Felixさんの話に入っていきたいところは沢山あるんですけれども、先に心理学の視点でのイニシエーションについてお話したいと思います。

心理学でいう『イニシエーション』とは、

  • 社会に入っていくための通過儀礼、だったり、
  • 人の心理的・内的な成長にも大いに関わる集団や社会の仕組み

だと思うんです。
本来の意味はそういうものだと思っていて、例えば一番最初のこの世に生まれてくる瞬間もイニシエーションだし、世界的に文化人類学で研究されている内容でもある『通過儀礼』で言うと、「どこで大人になるか?」というのは心理学的にも非常に重要です。

昔の日本で考えると『元服』という儀式的なものも行われていた。そもそも成人式もそれに当たるものだと思います。数十年前から成人式を超えたらなんとなく「大人の仲間入りだ」という意識はあったけれども、自分が学生時代に心理学を学んでいる頃から「イニシエーションのような、はっきりしたものがなくなってきた」と言われていて。一時期は「明確なイニシエーションが社会から消失した故に、大人になれない人が増えた。その期間はモラトリアムだ」と言われたこともありました。

これだけテクノロジーも発展している現代なので、集団の仕組みとしてのイニシエーションを『集合的イニシエーション』と考えて意図的に作っていくのもいいのかもしれない。
一方で、社会的に意味のある明確なイニシエーションがない中で、個別な事象、例えば先ほどのFelixさんの話であったような『ドアを壊す』みたいな出来事を個々人でやっていく必要があるとも言える。

するとしたらどのタイミングでするか?その時にちゃんとした見守りがあるか?とか、そういったことが大事になってくるだろうと思いました。

後は、現代のようなしっかりとイニシエートされない状態は、なんとなく曖昧なまま過ごすとか、個人の意識の発達が進まないとか、決断できない、みたいなところにも繋がってくると感じています。

小島美佳:改めて『イニシエーション』という語句でWikiを見てみたら、キーワードとして腑に落ちるところに、『新しい役割に生まれ変わる変換を意味することもできます』って書いてありました。
これって、さきほどFelixさんがおっしゃっていた『未知の領域に入っていく』と似た感じなのかなぁと思いました。

イニシエーションと意識の発達段階

小島美佳:松村さんが以前このマインドフルネスの記事でもウィルバーの『意識の発達段階』について話してくれたんですけれども、その発達段階とイニシエーションの関係についてお話ししてもらってもいいですか?

松村憲:はい。
人間の成長の段階には意識の発達段階というものがあって、その発達段階が切り替わるシーンというのはある種イニシエーションの連続だと思います。

そして、そのイニシエーションがうまくいくには?と考えると、まず成人になるまでの心の発達があり、基本的には良い環境の下にあればある程度健康に心は発達していきます。
その先で、これまでの自分の考え方とか世界観・発達段階では危機にみえる状況を、いかに逃げ過ぎず、ここにはマインドフルネスもすごく関わってきますが、自分がいる段階をしっかりと意識して保持し続けられるかが大事になります。
このイニシエーション的な状況を通り抜けられると、次のきっかけが生まれる自然な後押しが起こりやすいと考えています。

だから、勇気を持って何かを一生懸命するのもいいけれど、「あぁ、いま辛いんだな」という気持ちと居続けたり、「あぁ、これはイニシエーションだなぁ」って分かったりした時に、もう1歩踏み出すエネルギーが湧いてくる、みたいな。
そういう感じは起こりやすいと思いますね。

小島美佳:フムフム

英雄神話とイニシエーション

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松村憲:ちょっと話は変わりますが、英雄の神話があるじゃないですか。
ジョゼフ・キャンベルの英雄神話(参考:千の顔をもつ英雄 新訳版 (上)-ハヤカワ・ノンフィクション文庫)とかって1つの型があって、人間の成長発達など全てに関わる思うんです。

最初は混沌とした世界、母親の羊水の中にいるような楽園のような世界から始まり、生まれてくると今度はお母さんと子供の一体感っていうのがあって。でも子供はその一体感にいると親の支配から逃れられないので、その時にはやっぱり『切り裂く力』みたいなものが要ると思います。そこで怪物に飲まれたところから怪物のお腹を切り裂くみたいな物語というのはよくあって。
スター・ウォーズでも多分そういうシーンって結構あると思います。

Felix:うんうん。

松村憲:それで飲まれた怪物のお腹を切り裂いて出た時には、剣を手にしているから強くなってるんですね。
でも、今度は自分の影のような敵に出会う。敵と戦ってどんどん強くなっていったり、敵を倒したりする。日本人は弱い部分かもしれないと言われているところですが、しっかり敵を倒していくと、今度は女王とか姫を救出するというようなシーンが出てくる。
母ではない異性、個と個の出会いみたいなものが生じる。夫婦関係とかもそうですけれども、個と個が出会うと異なるものが一緒に過ごすわけなので実は色々大変なことが多くなる。
さらに、このイニシエーションを超えていくと『統合』みたいなところに行く…みたいな、一般的なストーリー(英雄神話の型)がありますよね。

イニシエーションは繰り返される

これらをある程度やり切ることが大人になる過程かもしれないし、大人になってみると今度は社会に入り、また社会の集合的な意識の中に飲まれてしまったりだとか、じゃあそこから一歩出るために、決めたり、力を使っていけるか?とか。
そこである程度自分を出していけたりすると、今度はまた周囲とぶつかって敵が沢山出て来ちゃったりとか。
イニシエーションというのは繰り返される部分もありそうですよね。

小島美佳:今の話と先ほどのFelixさんのお話を重ね合わせていくと、『人ってこういう風に発達して、より大きくなっていく、という地図みたいなもの』を知らない人の人口が非常に多いんだろうなぁと感じました。

松村憲:ほんと、ここは知ってたら全然違うと思うんですが、ほとんど知らない人が多いですよね、きっと。

小島美佳:ですよね。

明確なイニシエーションのないカオスな現代を
どう乗り越えていくか?

小島美佳:みんな本質的な意味はわかっていないんだけれども、知らない間に社会そのものが上述したような地図の下に構成されていて、イニシエーションが行われていた時代があって。
現代に至るまでに様々な変化があったことでイニシエーションが形骸化し、本来の意味を覚えている人もいなくなってしまった…そういうカオス的状況が今の時代なのかなぁ…となんとなく思いました。
どう思われますか?

Felix:そうですね。
やっぱり生きていく上で大変な時期っていうのは、何回か訪れるじゃないですか。
その時に、「あーでも、これはそういうもんだ」というふうに思えるかどうかは、結構な違いを生むのかなという気がしますね。

小島美佳:そうですよね。

Felix:だから今振り返ると「あの時もう少し、これを知っていればもっと気が楽だっただろうなぁ」と思うこともあります。

小島美佳:フムフム。そうですね。

松村憲:そうですねー。
本来の意味でのイニシエーションは形骸化したように見えても、昔の仕組みの中では自然と機能していたと思うんです。

例えばビジネスの中で、会社の大変な時期をどうやってチームで乗り切るか?という局面があったりしますよね。そこですごいパワハラな上司がいてめちゃめちゃ追い込んできたりする。それを超えたり耐えることで、次のステージへとイニシエートされた強い個人や次世代の担い手が生まれたりする。
そういったことは、これまでも色々あったんじゃないかなと思います。

ただ現代はむしろ、何か強制力をかけるっていうやり方もできない時代にどんどんなってきている。
ある種イニシエーションの機会をどうやって作るか?それはどこにあるのか? それを見つけたり意図するのはすごく大事なんだろうなと思います。

小島美佳:そうですね。

松村憲:マインドフルになるとか、地図を知っているというような、ある種のきっかけや仕掛けがないと次のステージに行けない、みたいな気がしますよね。

小島美佳:そうですね…。

引き続き次回は『これからの時代におけるイニシエーションのあり方』というテーマで対談を進めていきたいと思います。

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ABOUTこの記事をかいた人

大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの