小島美佳:瞑想のステップアップ論の第二回となる今回はMasaさんと共に『呼吸をマスターする』というテーマを掘り下げていきます。
この連載では、ブッダダーサ比丘さんの著書「呼吸によるマインドフルネス」を元に、瞑想のステップアップに必要な段階について分かりやすく解説していきます。前回は、瞑想のレベルアップには段階があり、その中の第一ステップとしての『身体・呼吸』について
- 呼吸はコントロール可能であること、
- 呼吸をコントロールすることで、身体に影響を与えることができる、
ということをお話しました。
今回はその続きとして、
- 呼吸をどのように観察するのか?
- そしてその観察を通じて、瞑想のレベルアップのイメージを理解できるように…
といったところを説明していきます。
Source : 瞑想チャンネル for Leaders
目次
呼吸をマスターするには -自分の呼吸を観察してみる
瞑想のステップアップの最初の段階ステップ1のカーヤ(Kāya)・身体・呼吸では、呼吸をマスターし、呼吸を通して身体の状態を制御できるようになるということを目指します。その過程で必要となる環境を整える、呼吸に意識を向ける方法、長い呼吸・深呼吸について前回は重点的にお話させていただきました。
今回は、呼吸を観察する方法とその段階、さらにステップアップするとどのような感覚が得られるか?について解説していきます。
身体・呼吸をマスターする、身体・呼吸を制御できるようになるためには、ご自分の呼吸を観察することが大切です。よく「呼吸に意識を向けましょう」と言われますが、日常の中でも気づいた時に「今、私はどんな呼吸をしているか?」と問いかけ、感じ取ってみると良いそうです。
ちなみに皆さんこれをお読みになっている今この瞬間の呼吸がどんな感じでしょう? 他にも職場の会議中、就寝前など、様々なシチュエーションで呼吸の状態を観察していただき、その違いに気づくことが大切かなと思います。
呼吸の6つパターン
呼吸を観察するためには、まず呼吸の状態について知ることが不可欠です。
「呼吸によるマインドフルネス」の中では、呼吸の状態について
長い、短い、荒い、細かい、楽、窮屈、
という6つが書かれていました。
長い呼吸の時は、細かい呼吸で楽になっていき、リラックスを促し、一方で短い呼吸では荒く窮屈になっていく、と書かれていました。もしかしたら緊張やストレスを感じている時には、呼吸が一時的に止まってしまっているかもしれません。
呼吸観察の実践 – ステップ別ガイド
ここからは、呼吸を観察する方法について段階を追って具体的に説明していきます。
1, 呼吸の長さを観察する
呼吸を観察する上で最初にお勧めの方法が『呼吸の長さを観察する』です。
この方法によって、自分自身の呼吸がどれだけ長く、または短く行われているかを意識することができます。
具体的には、吸う息と吐く息の長さをそれぞれカウントしてみます。たとえば、最初は普通に呼吸をしている時の吸う時と吐いている時の長さを「1、2、3」と数えていただき、次に複式呼吸を少しやった後、どのくらい呼吸の長さに変化があるか?を数えてを観察していただくのも面白いかもしれません。
このようにまず初めは、呼吸の長さや呼吸だけを見ていきます。
2, 長い呼吸をしながら身体の変化を感じる
次の呼吸を観察する方法として、長い呼吸をしながらご自身の身体の変化を感じていく、注意を向ける方法があります。ここからは、呼吸以外にも身体にも意識を向けていきます。
このアプローチでは、長い呼吸をしながら息が身体の中に入っていく時にどんな感じ・感覚がするか、息がどの辺りまで達しているか、入っていくのが感じられるか、などを見ていきます。私自身は以前に大学における研究に 瞑想経験のある被験者として参加したことがありますが、その際に指定された瞑想で「鼻の穴のどちらから空気が入ってきているか?そこを細かく見てください」と言われたりしました。
このように、より微細な感覚を、丁寧に深く細かく見ていく感じになっていくかと思います。長い呼吸をマスターし身体の変化が感じ取れるようになってくると、微細な感覚に意識が開かれていく、すると次の扉が開かれていく感じになっていく、と「呼吸によるマインドフルネス」にも書かれていました。
Source : 瞑想チャンネル for Leaders
3, 異なる呼吸法、短い呼吸を行う
その次は、あえて長い呼吸と反対の短い呼吸をやってみて、その際に起こる様子を見ていきます。実際に意図的に短い呼吸をすると交換神経が活性化すると言われたりしますが、落ち着いてリラックスしている、というより、だんだんとテンションが上がっていくように個人的には感じられました。
また、怒りがある時には呼吸は短く荒くなるため、怒りが湧いてきた時に意識的に長い呼吸をやっていただくことにより、怒りが手放される、と書かれていました。
さらに瞑想をやっている間にも、過去のことややるべきことを思い出したり、未来のことが不安になったり、感情が湧いてきたり、と色々あるとは思います。そういった時にも「やってきたな」と思いつつ、あえて長い呼吸を意識的にやっていただくと、すっとそれが手放される、そんなことも体験した方もいらっしゃるのかなと思います。
4, 身体全体を感じながらの呼吸・瞑想
その次は、長い呼吸、短い呼吸など様々な呼吸法を行い、それによる身体の変化を観察していきます。呼吸によって調整される前の身体と、意識的な呼吸を行なった後の身体を観察し、始める前とやってみた後でご自分の身体がどう変化しているかを感じ取ってみます。
多くの場合はよりリラックスしている、グラウンディングしている(地に足がついている感覚がある)、ふわふわした感じがなくなっていたり、物事がクリアに見えたり、といった変化があるかと思います。
このように身体全体の変化を観察することによって、次第に呼吸を良い意味で自分で制御できるようになってきます。
5, 身体を落ち着かせる呼吸・瞑想
最後は、身体を落ち着かせる呼吸・瞑想です。ある場所や身体の特定の部分を決めて、そこでの呼吸を観察し続けます。例えば鼻腔に集中して呼吸を行う場合では、鼻腔の感覚に意識を集中させる、鼻腔にググっと入っていく感じになります。そこで微細な感覚を観察し、そこに心を落ち着かせイメージを置いて観察を続けていきます。
「呼吸によるマインドフルネス」の中では、『心のイメージや白い光』と書かれていましたが、意識を集中する場所に光のイメージなどを置き、そこの中に入っていく感じです。
するとだんだんとリラックスして落ち着いてくる、感情が出てきたり雑念がでてきたり色々ある中でもさらに続けて集中していくと、次のステップ2の『感受(ヴェーダナー Vedanā)』にもつながる感覚ですが、なんとなく「ああこの感覚はすごく落ち着いていて幸福感があるな」とか、「今の状態がとてもいいから、もうちょっとここにいたいな」という感じがやってくる、と言われています。
これを著書の中では
“1つの場所に集中してずっとそこにいると、心が淀むことなく幸福感に満ちてくる”
と書かれていていました。
幸福感や満ちた感覚、喜びといっても、「わぁすごい!」という感じよりは、ふわーっと充足感的な喜びが満ちてくる感覚かと思います。
もし呼吸に集中する瞑想をやりながら、「なんかこの感じは、あの時の言っていた幸福感みたいなものかな?」と感じられたりすると、瞑想について手応えを感じていただけるかと思います。
はい、こちらからは以上です。Masaくん、もし追加とか他に紹介したいことなどあればお聞かせください。
Masa:この最後の幸福感のところは美佳さんがおっしゃっていたように、「わーっ」というタイプの幸福ではなく、瞑想によって得られる幸福はそれよりも上位の意味での幸福、「至福」と言い換えてもいいのかもしれないです。心の動き・ヨガ的な言葉を使うと、チッタが感じる喜びではなく、魂レベルで感じるべきもの、という風に理解していただければいいかと思いました。
ヨガの呼吸技術
小島美佳:これまでの呼吸を観察する方法や呼吸法は、私が本の中から引用させてもらったものなので、ヨガで行う呼吸や呼吸法の種類など、ご存知のことがあれば教えてください。
Masa:はい、ヨガで扱う呼吸にも様々な種類がありますが、どれもカーヤ・身体をより良くするために呼吸を使う、というところに割と主眼が置かれている、と僕は理解しています(ただし、エネルギー(プラーナ, prana)を扱うものでもあるので、カーヤ・身体に限定したものではない点は注意が必要です)。
短く強い呼吸法の効果
短い呼吸や荒い呼吸、窮屈な呼吸は必ずしも悪いものというわけではなく、カパラバティ (Kapalabhati) ですとかバストリカ (Bhastrika) というちょっと難しい名前の呼吸法があるんですけれども、例えばカパラバティでは強い力を入れて細かく息を吐いていきます。強く息を吐くと、自動的にその次の呼吸が入ってきますので、この呼吸法を行うことで確かに心は落ち着くことはないですが、気持ちを呼吸へ集中させることができ、身体の中にエネルギーを生み出すという効果を得ることができます。
小島美佳:面白いですね。交感神経をあえてオンにしてみて、少しエネルギーを蓄えるみたいな感じなんですね。
Masa:そうですね。
特にアーユルヴェーダ (Āyurveda) の観点ですと、これらの短く強い呼吸法によって、生きもの全てが持つ3つの要素のうちの1つ 炎の要素であるピッタ (Pitta) を生み出すことができる、と言われています。
例えば、今年のように3月になったにも関わらず非常に寒い日もあり、エネルギーが弱まっている時ですとか、ヨガの練習の中で最初にちょっと身体が元気ないなと感じた時に、カパラバティなど先ほどお伝えしたような細かくて力強い呼吸を行うことによって、体内にエネルギーを燃やして植えつける、生み出すというような効果を得られます。
ですから特に、冬場やヨガのトレーニングの最初の辺りで行って、身体の中にエネルギーを蓄えてから徐々に身体を動かしていくというやり方を僕はお勧めしています。
短く強い呼吸法の注意点
逆に夏場の実践は僕はあまりお勧めしていません。夏場は自然とピッタが強まる時期ですので、さらに短い呼吸で身体の中で炎を燃やしてしまうと、ピッタのバランスが崩れてしまう可能性があるからです。
またホットヨガスタジオでのカパラバティもお勧めしません。大手のホットヨガスタジオでは既にプログラムの中に組み込まれているものもあり、必ずやるそうなんですけれど、、、38℃くらいの高温のスタジオの中で、30分から40分間身体を動かし、すでにピッタが十分充満した後に、さらにカパラバティをやると、もう頭もクラクラになってしまいますし、ピッタのバランスも崩しますし、危険性もあるので、その辺りは気をつけていただけたらいいかなと思います。
小島美佳:ありがとうございます、そういった呼吸法は、日常生活のこんな時にやると少し整うよ、といったアドバイスはありますか?
Masa:朝ですね。
起きてすぐの身体が動きづらいなという時に、まず少し伸びをしたりして筋肉を伸ばしてから、カパラバティですとかバストリカという強い呼吸をやると、一気に体内に火がつくような感じになり、その日1日のモチベーションなども上がりやすくなるかなと考えています。
小島美佳:興味深いですね。
今回は瞑想のステップアップを主に扱っておりますが、呼吸をコントロールしマスターしていくことによって、ご自身の身体の状態を変化させていく、ということはどんどん可能なっていきそうです。
瞑想のステップアップのSTEP1, 身体・呼吸は以上で、次回からはSTEP2の感受(ヴェーダナー Vedanā)についてお話ししていきたいと思います。