マインドフルネス瞑想がアンコンシャス・バイアスを減少させる【論文紹介】

 最近、瞑想の実践とアンコンシャス バイアス(無意識の偏見)の減少との間に相関関係がみられた、との研究報告が増えています。

 具体的には瞑想によって、自己認識力が高まることにより

  • 自分自身が持つ有害な偏見に気づき、
  • 慣れ親しんだ判断パターンを抑え、
  • より思いやりを持って行動する方法を学び実践する

 ことに役立つ可能性があることがわかってきています。
 今回は3つの研究論文の概要をご紹介しつつ、なぜ瞑想によってアンコンシャス バイアスを減らすことができるのか?について考えていきます。
 insiderの2020年の記事 のご紹介です。

アンコンシャス バイアス・潜在的偏見(implicit bias)とは

アンコンシャス (Unconscious, 無意識の) バイアス (bias, 偏見、先入観、思い込み)と
Implicit (潜在的な、暗黙の)バイアス
は、ほぼ同じ意味で使われ、他人に対する私たちの認識に影響を与える無意識の仮定または固定観念のことです。
暗黙の偏見、などとも和訳されます。

♦︎ アンコンシャスバイアス(unconscious bias)とは

私たちは、何かを見たり、聞いたり、感じたりしたときに、実際にどうかは別として、「無意識に“こうだ”と思い込むこと」があります。
これを、アンコンシャスバイアスといいます。
日本語では、「無意識の思い込み」などとも表現されています。

アンコンシャスバイアス研究所より引用)


『公平性を重視している』と感じている人でさえも、本人に自覚がなくとも無意識のうちに持っている、または身につけた憶測、信念によって偏った判断や固定観念が助長され、特定の人やグループを好きになったり嫌いになったりする可能性があります。

一般的に知られている偏見・先入観の例として以下のものが挙げられます。

  • 人種
  • 年齢
  • 性別
  • セクシュアリティ

アンコンシャス バイアス私たちが誰であるか、そして私たちが世界をどのように見ているかに大きな影響を与え、さまざまな警察活動、受けられる医療の質、職場での不公平などに影響することが知られています。これらの偏見を減らすためには、私たちが偏見について知り、回避する方法を学ぶ必要があります。そしてこれらの偏見を認め、理解し、否定的な自動思考を軽減する、というステップにおいて瞑想が役立つことがわかってきています。


※注:固定観念(ステレオタイプ)、偏見(バイアス)、差別はそれぞれ異なる定義を持つと『「偏見や差別」はなぜ生まれる、社会心理学の観点から読み解く(Diamond online)』では述べられています。

固定観念とは「ある集団に属する人々に対して、特定の性格や資質をみんなが持っているように見えたり、信じたりする認知的な傾向」

偏見は「その固定観念に好感、憧憬、嫌悪、軽蔑といった感情を伴ったもの」

差別は「固定観念や偏見を根拠に接近・回避などの行動として現れたもの」

「偏見や差別」はなぜ生まれる、社会心理学の観点から読み解く』 『偏見や差別はなぜ起こる?』より引用


思い込みや偏見は人間の正常な脳機能の一つ

神経科学者らによるとバイアス・偏見は、人間が獲得した正常な脳神経回路の配線方法の一つであり、行き過ぎて差別にまで行動として出てしまうことが問題とのこと。

最近の研究では、バイアス(偏見)には脳内の扁桃体が関与することが分かってきています。
扁桃体は生存本能の一つである闘争逃避反応で一番最初に反応するスイッチとして機能し、潜在的な脅威を察知するといち早く反応するように体を促し、闘争もしくは逃避行動を引き起こす脳領域です。

つまり無意識の偏見は、人間が集団で生活し社会生活を営む上でより速やかに意思決定をするために、脳の情報処理を簡略化した(神経回路の配線を簡素化した)敢えて獲得した脳機能でもあるのです。
固定観念や偏見は無意識的なものですが、気づかない間にいき過ぎてしまい、それらを元に、特定の集団や対象に回避や攻撃的・差別的な行動になどまで結びついてしまうと差別となります。

研究者や専門家たちが言う

「瞑想は個人的、社会的な偏見・差別を減らしうる、
 自分自身が持つ偏見に気づき、認識を改めるための出発点になる」

という発言からも、より多様性を許容する社会を実現していく上で、瞑想は必要不可欠なスキルの一つとなる可能性が高いと考えられます。


アンコンシャスバイアス・潜在的偏見へのマインドフルネス瞑想の効果

【研究1】ほんの10分間の瞑想で潜在的偏見を減らすことができる

Psychology of Consciousness: Theory, Research, and Practice, 2016年)

Source : Amazon

 実験心理学者である Adam Lueke 博士は、マインドフルネス瞑想が人種や年齢に対する潜在的偏見を軽減する効果について分析しました。

 この研究では、白人の参加者が 10 分間のマインドフルネス瞑想の音声録音を聞いた後に、シミュレーションでさまざまな人種や年齢のパートナーとお金のやり取りをするゲームを行いました。その結果はコントロール(何もしない)グループでは平均して黒人より白人を信頼する傾向がありましたが、マインドフルネスを行ったグループでは異なる人種グループにたいしてもほぼ同様に信頼し反応しました。

 これはマインドフルネス瞑想の実践によって、潜在的偏見(この場合は人種)に基づく否定的な連想が自動的に活性化する頻度が優位に減少した、と言えます。


【研究2】感謝と慈愛の瞑想は、潜在的偏見を減らすのに役立つ

Journal of experimental psychology, 2014年)

 黒人とホームレスの人々という 2 つの社会的な汚名を着せられたメンバーに対する、無意識的な態度の改善について検討した論文です。
 健康な非黒人かつ非ホームレスの成人 101人を無作為で3つのグループに分けました。
 グループ1では6週間の慈愛の瞑想のトレーニング
 グループ2は6週間、瞑想は行わず慈愛に関する議論を行い
 さらにグループ3は何もしない待機コントロール、としました。

 偏見の減少についてはIAT (Implicit Association Test、潜在的偏見関連テスト)で評価し、その結果、慈愛の瞑想を実践したグループでのみ、黒人やホームレスの人々に対する潜在的偏見の減少が観察されました。

 この結果は慈愛の瞑想が、特定の社会集団に対する自動的に活性化された潜在的偏見や差別的態度を改善できることを示唆しています。

慈悲・慈愛の瞑想

Source : 瞑想チャンネル for Leaders


【研究3】マインドフルネスと思いやり: その相互関係とスケーラビリティの検討

PLoS One. , 2015年)

 研究参加者はモバイルアプリを使用して、1日平均12分間瞑想する3週間のマインドフルネス瞑想トレーニングプログラムを行いました。
 その後、これらの参加者(もしくはプログラムを行わなかったコントロール群)は混雑した待合室で座って待機するよう指示されました。そこへ松葉杖と大きな長靴を持った人(障害のある見知らぬ人)が、不快感をあらわにしながら入室してきた時、どのような行動をとるかを検証しました。
 その結果、瞑想をしなかった対照群と比較して、瞑想を実践した参加者は部屋の中で席を譲る傾向が高まりました。

偏見を減らす上で、瞑想が脳に与える影響

 毎日の瞑想の実践では、自分の考えに気づき、より自己認識力が高まるようトレーニングします。

 また脳科学の研究によると、瞑想の実践は扁桃体の反応性を低下させることが明らかになっています。これは瞑想によって「闘争逃避反応のスイッチ」である扁桃体が起こす即時的な反応や恐怖刺激の影響を低下させ、その結果、

偏見につながる強力で否定的な自動思考回路から自分自身を切り離すことを可能

にすると考えられます。

【自己認識力を高める瞑想】

Source : 瞑想チャンネル for Leaders

 

 研究1の著者であり実験心理学者でもあるAdam Lueke博士は
マインドフルネスは、刺激と反応の間のスペースを広げて、選択の自由を広げるのに役立ちます
「マインドフルネスは、私たちの生活と周りの人々の生活を大幅に改善することができる、反応的なものではなく、より意図的な生き方を可能にします。」
 と述べています。

 また、英国のコベントリー大学 平和・信頼・社会関係センターの実験心理学教授であるミゲル・ファリアス博士は「瞑想とは、自分自身や他の人に思いやりを持って、判断せずに扱うことである」と言います。

瞑想の限界

 ニュージーランドのマッセイ大学の神経科学の Ute Kreplin 教授は、
「瞑想は短期的には、より思いやりを持ち、偏見を和らげるのに役立つかもしれない。
しかしこれらの研究の多くは、偏見の軽減に対する瞑想の長期的効果の測定、追跡調査をしていない。
また研究に参加した人々には固有の偏りがある可能性もあり、追試実験がないままに一般的な社会集団に当てはめると結果が変わる可能性もある」

 「あなたが対処したいと考える潜在的偏見や差別などの慣習をもつ人々の多くは、変化したくない人々、または根本的により大きな社会問題に対する態度を修正する必要がある人々である」と述べています。

瞑想は個人の潜在的偏見を克服し、多様性を受容する社会を目指す最初のステップ

 瞑想だけでは、歴史的に長年培われてきた社会的な不平等を簡単に解決することはできません。

 ただし、瞑想は個々人の内面にある偏見を認め、優しさや思いやりを促進するための最初のステップとなりうる可能性があります。その結果、人々が偏見に基づいて行動する頻度が低下し、人種差別、性差別、または同性愛嫌悪の全体像を理解・探求する上で人々を次のステップへと導く上で役立つと期待されます。

 人種法とアイデンティティに基づく紛争を専門とする弁護士であり、サンフランシスコ大学の教授であるロンダ マギー氏は、瞑想を内省と変化の出発点として活用することの有用性を提唱しています。これは、個人が繰り返し内省し変化を遂げることで、社会的不平等や偏見といった問題に対する理解を深め、より包括的で多様な社会を目指すことができることを示唆しています。

 最後に、マインドフルネス瞑想は、世界平和や地球上に存在する生命体の豊かで多様な環境を保ちより良い未来を作っていく上で、個々人が内省と変化を繰り返し新しい道を切り開くための重要なスキルの一つとなりうると考えます。

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ABOUTこの記事をかいた人

ライター。 博士号を取得後、日本学術振興会特別研究員・博士研究員・大学教員として教育研究に計10年以上従事(専門は分子生物学)。9割以上が男性の業界で女性が中間管理職として働く難しさを感じつつ、紆余曲折を経て小島美佳さんからマインドフルネスを学ぶ。 現在は心理学や精神世界のエッセンスを科学の言葉で咀嚼して伝える方法を模索中の、瞑想歴1-2年の初心者です。