ポジティブ感情を味わい ビジネスと人生をアップデートする

 ビジネスリーダーのためのマインドフルネス24講座、リーダーシップ感情編で前回までは基本的に感情の危機対応的なお話をしてきました。感情は「わーっ」て瞬間的に作動することが多いんですけれども、良い感情にも蓋をしてしまう、というのは日々我々の心や脳の中で起こっていることです。
 今回は、良い感情へのブロックを解除して味わえる方が個人としてもチームとしてもスムーズになりますよということと、感情を味わう方法についてお話をしていきたいと思います。

ポジティブ感情もネガティブ感情も柔軟に味わう

 リーダーシップのコンピテンシーには、リーダーがどのような感情を持つか、感情・エモーションをどのようにマネジメントするかが大きく関わります。

 例えばリーダーがネガティブな感情反応をすればチームに良い影響が出ないでしょうし、逆にリーダーがポジティブな感情を持てば、関係性においてもコンピテンシーを発揮して、チームの色や心理的安全性が高まるでしょう。

認知感情療法

 しかしポジティブな感情も気づかないようにするとか、大袈裟に喜ばない、みたいな人は多いかもしれません。
 実際仕事をしている上で、成功したりやり遂げたりした時に喜んでポジティブな感情を味わうよりも、「次、次のアクションをどうする」といったことをやっている人は多いのではないでしょうか?

 この『成功や達成を喜ぶ』といったポジティブ感情も、前回お話した感情と適切な距離をうまくとって感じ、味わっていくということを実践していただけたらと思います。
 なぜならポジティブ・ネガティブ問わず柔軟な感情は生命力のようなものなので、適切な距離で感情を味わうことはその人の認知・認識もアップデートする機会になるはずです。

 ということで今回は普段遠ざけがちな、ポジティブな感情にも意識を向け、感情を味わったり解放するコツをお伝えします。

自分の感情を知る

 感情というものは、知っているようで意外に複雑に混在していて、認識することはめんどくさくて難しいものです。

 ダニエル・ゴールマンという心理学者は、エモーショナル・インテリジェンスという概念の生みの親でも在り有名ですけど、
「自分の感情を知ること、感情との付き合いが明るくなることはリーダーシップに欠かせない資質です」
と言っています。

 EQ(心の知能指数; emotional intelligence quotient)の高いリーダーがいる組織は土台や組織内のネットワークも整っているので、実効性の高い戦略や組織環境が生まれる、とも言っています。エンゲージメントや心理的安全性、という面でも感情は昨今のテーマとなっています。

 さらに脳神経科学も発展してきて、その根拠も裏付けられています。そのうちApple Watchあたりで感情反応などを可視化できるアプリなんかが搭載されるんじゃないかなとも思うんですけれども、、、

 神経科学的にはミラーニューロンという神経細胞の働きによって、ある人の神経活動状態が他の人へも伝播するということが明らかになってきています。

ミラーニューロン(Mirror neuron)とは、霊長類などの高等動物の脳内で、自ら行動する時と、他の個体が行動するのを見ている状態の、両方で活動電位を発生させる神経細胞である。
他の個体の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとっているかのように”鏡”のような反応をすることから名付けられた。他人がしていることを見て、我がことのように感じる共感(エンパシー)能力を司っていると考えられている。

Source : wikipedia

 なのでリーダーの感情状態が落ち着いていたり良い感情を感じていると、周囲にも良い影響を及ぼすということがこれから科学的にもより明らかになってきて、その事実をうまくチームの運営などに活用できる時代が来るんじゃないかと思っています。

マインドフルに感情を捉える

 感情は捉えがたくて、常に同時期にいろんな種類がなんか総体として混在しています。これらの感情を一つ一つ見ていって、「今あるのはワクワクだな、じゃあこのワクワクの感じはなんだろう?」とさらに深く見ていくと、喜びとか幸福とかが根底にあるんだと思うんですね。そうやって自分の感情を深く見つけていく、というのもマインドフルなアプローチだと言えます。

 瞑想などで集中して感情や脳が落ち着きリラックスモードになると、感情が出て来やすくなります。

人は大きい感情を避ける傾向がある

 基本的に悪い感情、例えば深い悲しみとか、強い怒り、落ち込んだ感じとかは伏せたくなりますね。でも実はポジティブな感情にも蓋をすることがあります。例えば何かいいことがあった、すごく感動することがあった、その結果大きく感情が動くと、それを感じすぎるのも不安だったりすることはありませんか?

 基本的に人の心は、良い感情も悪い感情も大きい感情をブロックしやすいものなんだと思います。
 これは前回の感情との距離感とも関連します。
 自分の感情と近過ぎるのも嫌だと感じて、ビジネスの現場とかだとなるべくフラットであろうと自分の感情を遠くに置き過ぎたりもします。なかったことにしてしまう。
 例えば、部下の成果を本心ではとても喜ばしく思っているんだけれども、大人らしく冷静を装って表現しないとか。そうすると他の人たちは「これだけやってない評価されないのか」と思ってしまうかもしれません。
 また感情から遠過ぎると抑圧になります。大きい感情を抑圧し内に閉じ込めたままにするとストレスにもなり、健康に良くないので抑圧し続けることも良くないと思います。

適切な距離で大きい感情を味わう

 ここで仮に適切な距離に喜ばしい状態があるとどういうことが起こるかと言うと、感情を味わうと最初に話しましたけど、「あーよかったなぁ」みたいな状態が続くわけです、じわじわと。「あー本当によかった」と自分で味わって何か健康になって終わる、みたいなそんなことになります。

 感情を味わうことは自分の性格パターンも作ります。
 なので、喜ばしい感情も味わい、いい意味で解消していくと、新しい言動パターンのアップアウトプットが出てくるようになったり、その人の表情や考え方、さらにはリーダーの在り方も変わってきます。

ポジティブ感情もネガティブ感情も溜めすぎず、適度に出していく

 しかし実際は感情自体が、大人とか社会とか特にビジネスの場だと終焉化されやすいので溜まってしまいがちです。そこを皆さんどこでどう解消するのか、というのがすごく重要になってきます。お酒を飲んで解消するというのもそれなりに人に迷惑のかからない範囲では良いと思いです。また歳を取るにつれて涙脆くなった、などもよく聞きますけど、大きい喜びだったり感動の涙など良い感情を溜め過ぎているのに耐えきれなくなって、涙もろくなっているわけですからそれはいいことです。

 涙脆くなるなど感情を自分の中に溜め過ぎず外に出したほうが、感情がその人を柔らかくし健康度合いも高めます。笑うこと、泣くことなど感情を出していくことは、幸福感などにも関わる神経伝達物質のオキシトシンとかセロトニンなどの分泌も高め、脳科学的にも健康にもいいことも分かってきています。

感情をマーブル状に捉える

プルチックモデル
Source : シックスセカンズジャパン

 こちらは前回もお見せした感情の立体図、プルチックモデルの図です。この図の中心の方には、恐怖とか激怒、警戒、悲嘆とか、見たくない感情もありますけれども、上側に描かれている歓喜とか敬愛などの喜ばしいポジティブな感情も意外に内側に眠っていると思います。

 なので、時折落ち着いてリラックスできる時、仕事以外の時などに「あーよかったなぁ」と感じられる出来事を意識的に思い出してみたり、その時の感情を感じて味わってみてください。「人生って何で暗いこと、辛いことばかりなんだろう」ともし感じていたら、この感情の立体図の下ばかりに意識が行ってしまっているかもしれません。要はライト・光の当て方です。

 たくさん種類のある感情の中で、この上の方の歓喜や敬愛などの感情も自分の内側にあることを知り、ライト・光を当てられる(気づく)ようになり、その感情を味わうことができるようになってくると人生の質も変わってきます。

感情を味わうには

 これまで感情との距離をとり過ぎてきてしまった人が感情を取り戻し、味わうためには身体の感覚を取り戻すことが大切です。

感情反応は身体に現れる

 感情や思考以前に既に知覚・感覚という反応の方が起きていて、その結果、喜びなどの感情となったり、思考を作る、という心理学的な考え方があるんですけれども、その路線で考えると、感情知性を高めるためには、感覚を磨くことが重要になってきます。

 感覚を磨きましょう、今あなたが何を感じているのか気づきましょう、と言っても中々気づきにくい人もいるんですけれども、そんな時は「身体のどの部分にどんな感覚があるか?」から始めることをオススメしています。

 例えば胸が熱くなったりしますよね。これはどういう時にそうなるか?って言うと、やっぱり感動してる時。目頭が熱くなるとかも感動している時ですよね。また腹が立つ、はらわたが煮えくりかえる、なんて日本語もありますがそんな時は怒っているとか、不安が強いときには地に足がつかないって感じがしてくる、などなどです。

 このように身体のどの部分にどんな感覚があるかを意識してみると感覚も磨かれ、結果として感情知性も高まります。『今ここ』に意識を向けるマインドフルネスも役立ちますし、中でも特にボディースキャンは身体の感性・感覚を高めます。結果として感情を取り戻す、キャッチするレッスンも、マインドフルネスで行う集中、ボディスキャンでできるようになっていきます。

【実践】良い感情を思い出す瞑想・ボディスキャン

 この瞑想では最初に身体を緩め身体感覚を高めるためのボディスキャン瞑想を行い、後半からよい感情や記憶を思い出し、感情を観察したあと、意識的に接近して味わったり解放するコツをガイドしています

マインドフルネスおすすめ情報

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ABOUTこの記事をかいた人

大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの