禅マインドと脳科学をビジネスに応用し、効果的な1日にする方法

 マインドフルネスのアプローチにより、私たちは集中力や自己の在り方を向上させ、日々をより豊かなものにすることができます。私たちの日常の過ごし方や在り方は、私たちが「何も、どのように考えるか?」という思考の影響を受けます。
 そこで、この記事ではその「思考」を逆手に取り、マインドフルネスに応用する具体的なコツをご紹介します。

 ビジネスリーダーのためのマインドフルネス24講 リーダーシップ (3) 未来編の 第21回です。

マインドフルネスのアプローチ:ポジティブ思考とは異なる視点

 マインドフルネスのアプローチは、一般的なポジティブ思考とは異なります。

 日常生活で、私たちは集中力や注意力を鍛えることによって、単純な「良いか悪いか」の判断ではなく、客観的に「良い」とされる要素に意識を集中させることができます。その結果、未来の良い状態を先取りするかのように、実感を持ってその状態を味わうことができます。
 このマインドフルネスの効果を日々の生活に活かすことで、素晴らしい日々を過ごす習慣を身につけることも可能です。

 さらにマインドフルな在り方では、『評価判断しない』が基本となります。ネガティブな感覚や思考を無視するのではなく、むしろ禅のマインドや脳科学の知識を取り入れることで、より幸福な状態に意図的に導くことができます。
 マインドフルに意図と振り返りを加える習慣を作り上げるためのコツや実践を試してみましょう。

集中力を鍛えるマインドフルネス

 マインドフルネスとは、をここでもう一度おさらいしておきます。

 語源は仏教用語である『気づき、サティ(sati)』の英訳が逆輸入されたもので、日本語では『念』という言葉を使います。『念』はわかりやすい例ですと『正念場』ですね。もう土壇場というか追い込まれて本当に集中しまくらなきゃいけない時ですね。『念』の漢字は『今』+『心』なので、ここにを置いて集中しましょうということです。

  • 今この瞬間に心を集中させつつ、
  • 判断をしないでありのままを観察する

これが今回思考を応用していく上でのマインドフルネスのポイントになります。

♦︎ マインドフルネス瞑想の基本技術

 基本のマインドフルネス瞑想では、集中力を高めるためのトレーニングとして呼吸に集中していきます。
 「判断をしないでありのまま」ということは、集中しようとして眠くなったり、思考が散漫になったりすることがあるかもしれません。そのように雑念が湧いたとしても評価判断せず、それはそれとして置いといて、何度も呼吸や体に意識を戻し、再び集中することを繰り返します。

 そしてできるだけ毎日数分でもこの時間を作り、習慣化することで、ジムで筋トレを行うのと同じように、『雑念に気づいて集中に戻る』という脳神経系回路が鍛えられ、結果として集中力がアップします。


効果的な集中と意識的な観察法の応用

 より幸福の方向へ意図的に導き、マインドフルに意図と振り返りを加える習慣を作り上げるためには、マインドフルネスの基本である「集中」と「観察」が重要なポイントとなります。

効果的な集中のポイント

 集中力を鍛える上で、呼吸以外にも以下の3つの要素を集中の対象とすることができます。

1, 思考

 マインドフルネスを実践して呼吸に集中していると、気づけば「次にやらなければならないことは何だろう?」といった思考や、無意識のうちに我々が普段から考えている雑念が湧き上がってくることがよくあります。通常のマインドフルネスでは、そうした思考や雑念に気づいたら呼吸に戻るという方法を取りますが、今回は意識的に作り出した思考に注意を向けるということをやっていきます。

2, 視覚

 浮かんでくるイメージやビジョンに意識を集中することも可能です。

3, 感覚

 体に現れる感覚や体表面、身体の内部の感覚にも意識的に気づいていきましょう。

 これらの要素に集中していくことで、想像していたことが現実のように感じられるようになります。言い換えると、臨場感が高まっていくのです。
 マインドフルネスを通じて、これらの集中と観察の応用を習慣化することで、日々の生活により深い意味や豊かさをもたらすことができます。

ポジティブ思考の罠からの脱却

 ポジティブ思考には陥りがちな罠が存在します。例えば、「良いことを考えることで、必ず良くなる」といった考え方に執着し、一貫してポジティブな状態を維持しようとすると、実際には自分の内側でネガティブな反応が起こっている場合でも、それを無視してしまい、逆に悪影響を及ぼす可能性があります(トキシック・ポジティブ)。

 しかし、もし仮にネガティブな反応が起こった場合は、良いか悪いかの判断をせずに、その瞬間の自分のありのままの反応を観察することが重要です。そして、集中の対象とした思考に戻り、集中する、といったことを繰り返し行うことが重要です。

 お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、この集中の方法は呼吸瞑想の集中の向け方と同じです。集中の対象を「今日は1日を素晴らしい日にする」という思考に意識的に決め、繰り返し集中することが大切です。

意識的な思考に集中する

 「今日1日を素晴らしい日にする」と意図することは、思考に注意を向け集中することを意味します。願望実現などとも関連していますが、意識的に思考する際には実際に書き出すことで効果がより高まることが確認されています。実際、50年前のハーバード大学の研究(Creative Writing)でも書き出すことの効果が実証されています。

 最初のうちは何も感じられないかもしれませんが、しっかりと意識をして集中することを続けていくと、効果を感じられるようになるでしょう。その瞬間を迎えた時には非常に素晴らしい体験となるはずです。

感情と感覚を認識し、臨場感を高める方法

 例えば「今日は本当に素晴らしい日になる」と考えてみたとき、どのような感覚が生まれるでしょうか?心の底から全力で思ってみてください。なんとなくリラックスする感覚や「なんかこれいいかも」「良いことが起こりそうだ」というワクワク感など、感情や感覚が変化したりしないでしょうか?これがもし起きてきたら最高で、これが「臨場感」です。

 思考に意識をぐっと集中し、それによって気づきが生まれた感覚や心地よさを増幅してみてください。すると臨場感がより高まるでしょう。

臨場感を活用して、ポジティブサイクルを回す
Source : BLUE JIGEN

 このようにすると、ポジティブなサイクルが徐々に形成されます。感じた感覚や心地よさによって、「今日は良い1日になりそうだな」と感じたり、「こうなったらいいな」とワクワクする感覚を増幅させ、サイクルをより強めて回してみてください。

 上の図のサイクルの途中の感情・感覚のあたりで「そんなことあり得ない」といった反応や違和感が生じることもあるかもしれません。その場合は、マインドフルネスの「観察」の要素を活用しましょう。注意が外れていることに気づいたら、それも良い悪いの判断をせずに受け入れます。

 そして再び自分の意識をポジティブなサイクルのほうに意識を向け直すことを繰り返し行ってください。

意識的な思考に集中する効果

 ここでは、『素晴らしい1日になる』という思考に集中する効果を高めるために、禅のマインドと脳科学を応用する効果と方法についてご紹介していきます。

1, 禅の応用 – 「日々是好日」の考え方

 禅には、「日々是好日(にちにちこれこうじつ)」という言葉があります。これは、「すべての日は良い日であり、素晴らしい日以外は存在しない」という意味です。

 この考え方は、天候の話にも当てはまります。雨の日や風の日でも良い日であり、すべてが素晴らしい日なのです。

 このようなマインドセットを持つことで、結果として良いことがより起こりやすくなります。禅の基本的な考え方である「執着から離れる」という状態になると、手放した先に自然の働きが活発になると考えられています。


 ポジティブなサイクルを形成する際には、「今日は素晴らしい1日になる」という思考を持ったときに湧いてくるワクワク感に意識を集中することが重要です。そして、もし「そうではない」と感じたとしても、それすらも放っておくことが大切です。執着せずに受け入れるのです。

 このような意識的な思考に集中することによって、内在するポジティブなエネルギーが強まり、素晴らしい1日を創り出す可能性が広がっていきます。


2, 脳科学の応用 – RAS(覚醒選択システム)

 RASとは reticular activating system, 網様体賦活系 の略です。
 網様体は脳の最も下部の脳幹にある神経組織で、ここが刺激されると意識を向けたことへの注意力や集中力が増し、細かな情報を見逃さなくなると言われています(感覚のゲーティングと自律神経系の調節など)。
 この脳の機能を活用するのが、今回の話のポイントです。

網様体 とは

 脳幹(間脳(視床と視床下部)、中脳、橋、延髄から成る)には神経線維が放射状に張り巡らされ、その間に神経細胞が豊富に分布している領域のことで、脳幹網様体 (reticular formation)とも呼ばれます。

脳幹網様体の主な役割は、
①運動調節(筋の緊張・姿勢や運動に関するニューロンの連絡統合を行う)
②意識の保持(網様体は、身体全体から感覚情報や運動皮質からの運動情報など、さまざまな情報を受け取る。これらの情報に基づいて意識下の活動が制御される)
である。

脳幹網様体は、さまざまな感覚刺激を受け取り、視床を経て大脳皮質にインパルス(活動電位、情報)を送り、それを賦活し覚醒状態を維持している。これを上行性網様賦活系(ascending reticular activating system; ARAS)という。

Source : 看護roo『脳幹の機能|神経系の機能
脳幹(間脳 – 視床と視床下部、中脳、橋、延髄)から放射状に分布する脳幹網様体
Source : 看護roo

具体的なRASの活用例

 例えばニュースで特定のトピックに興味を持った後、街を歩いているとそのトピックに関連した情報がやたら目に飛び込んでくる、耳に入ってくるといった経験は無いでしょうか?つまりアンテナを立てる・意識を向けると脳が無意識のうちにその情報をキャッチするということが起こるのです。
 したがって、最初に注意を向ける対象を設定して持ち続けていると、脳は自動的にその情報を集めて方向付けしようとする傾向があります。

 この原理を上手に活用するのが、今回の意識的な思考に集中するマインドフルネスです。

マインドフルネスを利用して先に幸福な状態を作り出すコツ

 意識的な思考「今日一日を良い日にする」をマインドフルネスの対象にすることの意義やその効果について、お分かりいただけたでしょうか?
 ここからは、さらに幸福な状態に向けて方向づけするためのコツをお伝えします。

・よきことを思い浮かべる

 良い出来事を思い出すことは非常に意味があります。人は無意識のうちに浮かぶ思考の半分以上はネガティブなものだと言われていますので、意識的に良かったことや良いことを思い出すことが重要です。また、RASを強化するためには、これらの思考を書き出すことが最も効果的です。また以下のように予め決めたタイミングで意識的に行うことをおすすめします。

・朝に「今日は素晴らしい一日になる」という瞑想

 文末の実践用の瞑想でもガイドしていますが、「今日は素晴らしい一日になる」という瞑想を朝に行うと最も効果を発揮すると考えています。私自身も毎朝数分間瞑想を行った後に、コンパッションの瞑想やこの瞑想を組み合わせて行っています。

・夜に「今日は素晴らしい1日だった」と思う

 日々是好日の応用ですが、その日に何があったとしても「ああ、今日は良い1日だったな」と思うことが大切になってきます。
 朝と晩にこの思考を実践することで、ポジティブなサイクルが形成されます。

・心に湧いてくる反応はただの反応として観察する

 心に湧いてくる感情や感覚は、単なる反応であると受け止め、客観的に観察してください。何か起こったときに感じる感情や思考をただ観察することで、より客観的な立場から自分自身を見つめることができます。

・良きことは増幅し、そうでないものは置いておく(観察)

 良い出来事やポジティブな思考は意識的に増幅しましょう。一方で、ネガティブな思考や感情はそのまま置いておいて観察することが大切です。そうすることで、良い思考に集中し、良い感情を育むことができます。

・何度も良き思いに集中する

 「1日が良い1日になっている」と感じてイメージや感覚・感情を増幅し、臨場感を持ちましょう。そして、思考のキーワードである「今日1日は良い日になっている」と何度でも思い出し、集中し、その繰り返しを通じて、ポジティブなサイクルを回してみてください。

・そして湧いてくる感情・感覚を何度も味わってみる

 以上のような実践を通じて、良い思いやポジティブな感情を何度も味わってみてください。その感情や感覚を深く体験することで、幸福感や満足感をより強く感じることができます。


 これらの実践を通じて、マインドフルネスを利用して先に幸福な状態を創り出していくことができます。積極的な思考に集中し、意識的な思考を育むことで、より豊かな日々を過ごすことができるでしょう。


【実践】1日を素晴らしい日にする瞑想(5分間)

 最後に、「今日は1日良い日になっていく」という思考に集中し、ポジティブなサイクルを形成するための瞑想をご紹介します。
 先ほどもお伝えした通り、朝に行うのが一番オススメです。


←第20講『大切にしているもの・価値観を知る

第22講『職場でチームの幸福感を高めてエンゲージメントにつなげる方法』→

follow us !

マインドフルネス おすすめ情報

ABOUTこの記事をかいた人

大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの