囚われ思考や思い込みから自由になる – 思考観察のコツと手放す方法

 思考に囚われたり、思い悩んだりすることはありませんか?そんなとき、思考そのものから自由になることができたらどうでしょうか?
 この記事では、思考観察というマインドフルネスの技術を使って、囚われ思考や思い込みから解放され、自由になる方法をお伝えします。また、心理学でいう脱同一化というプロセスについても解説します。これらの方法を実践することで、自己認識力を高めて、自分の思考や感情に気づきやすくなります。自己認識力は、リーダーシップやコミュニケーションにも大きく影響するスキルです。この記事で、自分の思考に振り回さてエネルギーロスすることなく、今ここの自分を楽しむ人生を歩む一歩を踏み出してみましょう。

 まずは、囚われ思考とは何か、そしてそれがどうして起こるのかについて見ていきます。

 

囚われ思考 とは

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: pexels-ketut-subiyanto-4473872.jpg

 囚われ思考とは、過去や未来に意識や考えが振られている状態です。例えば、「あの時ああしておけばよかった」と後悔したり、「明日はどうなるだろう」と不安になったりすることです。このような状態では、今ここで起こっていることに集中できません。また、自分の本当の気持ちや欲求にも気づきにくくなります。
 集中していない状態に気づいたら、その都度『今ここ』に戻ることを繰り返すによって、トレーニングとなり注意力が鍛えられます。

 私たちは普段通りに日常生活を送っていると、人の頭の中の考え・思考は止まない、雑念は黙っている時も寝ている時も動いています。それは脳科学的にも自然なことです。
 というのも、脳が短期記憶を定着させて長期記憶としたり、睡眠で休息をとる(寝ている時のレム睡眠中に夢を見る、脳内の記憶・情報が整理される、など)過程でも必要なことだからです。

 しかし例えば、「私はダメだ」というネガティブな思考や、「あの人は私のことが嫌いだ」という現実とは異なる思い込みは、自分の意志や行動に悪影響を及ぼす可能性があります。このような場合は、雑念や思考は無理に止めようとするよりも、むしろ「あるなぁ」と気づくことで、その思考に振り回されず気づき続ける注意力を鍛えることができます。つまり、思考や雑念自体も「ありのままを観察する」というマインドフルネスの対象になり得るのです。

 マインドフルネスを続けていくと、だんだん自分の中で起こっていること(身体や思考共に)に気づきやすくなってきます。このように自分の人格や個性、身体やライフスタイル、周囲の環境に気づき(意識)それを認識することセルフ アウェアネス・自己認識といいます。

リーダーに必須の自己認識力とは

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 81Q-6DMHCwL.jpeg
Source : Amazon

 自己認識はリーダーシップの領域でとても注目されていて大事にされている部分です。
 自分自身の思考や想い、感情に気づく・認識するといった注意力を高めることによって、自己の内面での出来事や変化により早く気づけるようになる=自己認識力が高まります。

 リーダーシップ研究で著名なターシャ・ユーリック氏は、下記のように述べています。


自分について明確に認識している人(自己認識力の高い人)は、

・より自信があり、より創造的。
・より適切な判断を下し、より強い人間関係を築き、コミュニケーション能力も高い。
・嘘をついたり、騙したり、盗んだりする可能性が低い。
・仕事のパフォーマンスが優れ、昇進しやすい。
・そして有能なリーダーであり、その部下の満足度が高く、会社の収益向上にも貢献している。

引用;What Self-Awareness Really Is (and How to Cultivate It)

 最近の脳科学研究によって、マインドフルネスでは神経可塑性という過程を経て、脳の神経回路、神経細胞同士の接続が強化されることが証明されています。マインドフルネスで注意力や自分に気づき続けるトレーニングを行うことで、結果的に自己認識を高める脳内の神経回路も鍛えられると言われています。

思考を観察する・自分の囚われ思考に気づく

 前提条件として、そもそも自分の思考や思い込みには気づきにくい、ということがあります。なので、まずはそれらに気づいて対象化する必要があります。特に今回のテーマの『囚われ思考』に気づくために、以下のような問いを聞いて、頭にどんなことが思い浮かぶか、考えてみてください。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: andy-holmes-P80FpSKdcY-unsplash.jpg


【問い|過去への囚われ】

  • 自分はどのように足りていないと思いますか?
  • 自分はどのようにダメだと思いますか?
  • 自分はどのように人より足りていないと思いますか?

1番目と3番目は似ていますが、3番目は「他者と比較して」という事ですね。

 これらの問いに答えることで、自分が過去の経験や評価に囚われている状態に気づくことができます。例えば、過去の失敗から苦手意識を持っていたとして、それは過去の体験に基づくものであり、客観的な事実ではなく主観的な解釈です。それらの思考によって現在の自分の能力や可能性を制限してしまう可能性があります。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: pexels-pixabay-315499.jpg

【問い|未来への囚われ】

  • 将来に関してどのような不安がありますか?
  • 経済状況は?未来の社会は?仕事は?家族は?自分の人生は?その終わりは?

など、特に自分が考えやすい、思い浮かべやすい将来のことに注意を向けてみましょう。

 そもそも未来のことを考えない人は全く考えないかもしれませんが、この先の将来のことを考えて不安になる人もいるかもしれません。この未来への囚われが多く占めてしまうと、不安が先行してしまいます。精神的にしんどくなってきたり、不安が強くなってメンタルヘルスのバランスが崩れる時は、大体こういう過去や未来のどちらか、またはそれらの両方の囚われが重くなっている状態だと思います。

 過去や未来への囚われに気づく問いは他にもありますが、これらの問いのような何か引き金やトリガーがあると、瞬間瞬間に自分の心の中で何らかの思考が巡っている、という状態に気づきやすくなると思います。「あぁこうしておけばよかった」といった後悔とか、瞬時になくなる思考はいいんですけれども、思考が頭の中でグルグルと回っていつまでも引きずってしまうと、無意識のうちに囚われ思考を強化してしまいます。


囚われ思考を手放し、自由になる – 脱同一化

 最近の研究では、これらの囚われに気づいて脱する、という試みがあらゆるところで効果を発揮するということがわかってきています。つまり自分の囚われ思考に気づきいたら手放し、自由になるということです。
 まずは、考えている自分に気づいてみて下さい。気づいたら『今ここ』に戻ってくる、というマインドフルネスのトレーニングを繰り返します。無意識のうちに思考に囚われるほどエネルギーロスになってしまうので、思考に気づいたらその都度『今ここ』に戻りましょう。

 これは心理学では「脱同一化、脱フュージョン」と呼ばれるプロセスです。

脱同一化、脱フュージョンとは

 脱同一化・脱フュージョンとは、自分の思考や感情を客観的に観察することで、それらと自分のアイデンティティや価値観を切り離すことです。
 例えば、「私は英語が苦手だ」という思考があった場合、それは事実ではなく「私は英語が苦手だと思っている」という思考であることに気づくことです。

 思考や感情に囚われている状態にある、ということを自分自身で気づき認識できていてないと、その囚われから抜けることもできません。逆に、自分の思考や感情を客観的に観察し、気づき認識することで、それらが自分を支配するのではなく、自分がそれらをコントロールする立場になります。
 その結果、囚われ思考や思い込みから解放されて、より柔軟で適応的な対応が可能になります。これは、認知行動療法でも重要になっている考え方です。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: atanas-teodosiev-GvhSUEN-Lm8-unsplash.jpg


自己認識を修正する

 思考に囚われた自分や不安などは、気づき認識することができれば、修正することもできます。
 例えば第6講でお話ししたジャーナリング・書く瞑想を応用して、自分の思考を書き出して眺めてみてください。書く瞑想で自分の思考をとにかく書き出すのは、誰でもすぐに始めやすく効果も大きいと思います。
 過去、未来への不安とか懸念みたいな、仕事上業務上のことでも何でもいいのでテーマを決めて書き出すことで、気づき、囚われからちょっと自由になって距離をおく、対象化することができます。

♦︎ 書く瞑想・ジャーナリング

Source : 瞑想チャンネル for Leaders



 思考→反応のパターンから自由になり手放す、というプロセスはマインドフルネス瞑想によって鍛えることができます。それができるようになると、繰り返される思考や認識パターンにも、より早く、気づき易くなってきます。そこでしっかりと自分のパターンを客観視できるようになってくると、不必要だったり理不尽な思考や自己認識に気づき、修正することができます。

 一方で、思考の中には考える必要がある思考もあるかもしれません。例えば将来の不安などは考えないようにしていることで逆に不安が大きくなってしまう可能性もあるので、そこは気づいて整理することで『今ここ』からしっかり向かっていく姿勢になれます。このように自分の思考に気づいて整理することが習慣化してくると、自己認識の修正もしやすくなります。

 不安な状態のまま考えて対処するというのは、反応的な思考パターンからの対処になりやすいので、まずは思考に気づいて、一度切り離すということが意識的にできようになると良いと思います。



【実践】囚われ思考から自由になるマインドフルネス瞑想(約6分間)

 囚われている思考に気づき手放すトレーニング、 雑念に気づく基本の練習となるマインドフルネス瞑想をYouTubeにて無料公開しています。6分弱と短めですので、思考がグルグル回っているな、と気づいた時や日々の瞑想に取り入れてみてください。

Source : 瞑想チャンネル for Leaders

次回は『ロジックとハートの統合|思考と感情の連鎖』についてお伝えします。

マインドフルネスおすすめ情報

集中力を高めるための muse 2 脳波計
ヨガ、瞑想に最適

ABOUTこの記事をかいた人

大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの