チームで最高のパフォーマンスを引き出す – チームフローの効果と方法

ビジネス現場から見たチームフロー実現への課題

小島美佳:レビューのご紹介、ありがとうございました。
チームフローの学術的なバックグラウンドを知ることができて興味深かったです。

以前の対談『コンパッション – ビジネスパフォーマンスを高めるチームマネジメントの秘訣』でお話をさせていただいた時に、コンパッションの先にあるものとして、長期瞑想実践者(コンパッション瞑想も行なっている)で検出される脳波でいうγ波的な境地がありますが、チームフローに入るにあたってコンパッションは必要条件なのか?という疑問がありました。これは以前の対談の最後に私が提起したクエスチョンですね。

その答えも含まれていそうだなと感じながら伺っていて、表2のチームフローの構成要素の9番、一体感や結束力にコンパッションが関わってくるんじゃないかな?と思いました。
共通の目的を持ち、相互に信頼し尊重する環境で自意識が喪失する、チーム全体として行動する、エゴの混合みたいな話もされていましたよね。こういったチーム全体で同時に没頭しているっていう境地では、コンパッション的なものが発生しているのかもしれないなと思いました。

次に気になったのは、実際にビジネスの現場でチームフローを実現するためにはどうすればいいか?という点です。アスリートの世界だと試合などの競技場がもうまさにチームフローを体験する場所として分かりやすく想像がつきやすいです。一方、ビジネスの現場で実現しようとすると結構いくつかハードルがあるかなと感じました。
例えば

『高度なスキルの統合』や『個人の目標の調整』は難しいのでは?

1つ目はチームフローに必要な前提条件の1番の高度なスキルの統合が難しいケースが多いんじゃないかなと思いました。例えばチームの中に一人だけ足を引っ張る人がいた場合はチームフローは起こり得ないのか?という疑問です。ビジネスの現場では精鋭した人だけを集められない事情もあったりとかするので、タスクの分担や調整を行う際の4番目の調整された個人の目標、なども不公平感が出たりしないのかな?と。

その辺も踏まえた上で、「うちのチームでチームフローを作ってみよう」と考えた時に、分かりやすい、イメージしやすいチームフローのシチュエーションなどがあるとチーム内でも共有しやすいかなと思いました。
そういった例や、あるいは解決の糸口や切り口になるような研究がもしあれば教えていただければと思います。

仕事スイッチをオンにしたいときに瞑想をしてしまったら逆効果になるのでは?

2つ目はフローに入りやすくするために仕事に入る前に5分間瞑想するというのは、例えばアスリートの世界ですと試合に出る前にチーム全員で5分間瞑想するといったことは、わりと既に実践されていて成果も出しているチームも知られていますけど、ビジネスの場合ではどうなんでしょう?
私も実際にチームではやったことがないので分からないですけど、創造性を高めたい、クリエイティブなブレストをしたい、アドレナリンやノルアドレナリンを高めて仕事スイッチをオンにしたい時に瞑想をしてしまうと、リラックスしてしまって逆効果になっちゃったりするんじゃないのかな?とかちょっと疑問でした。その辺についてもしよかったらコメントいただければと思いました。

s子:私の方から答えられる範囲で答えていきますね。

1つめのビジネス現場では「少数精鋭を集めることが難しい」という点については、前述のチームの定義のように少人数のチームを想定していて、いわゆるビジネス現場での「プロジェクトチーム」といったものよりもさらに小さなものです。ここで言う「チームフロー」は、より小さな人数の少数で起こる状態を想定していただければと思います。

小島美佳:あーなるほど、ありがとうございます。
ビジネスマン的にはグループフローにもすごく興味がそそられます。
つまり、”theチームフロー” を作りたいときは、やっぱりある程度の技術を持った人が集まったチームじゃないと成立しえないっていう理解でいいですかね。

s子:そう思います。
あとは人数が増えて来た時に「全員を同時にフロー状態に」と考えると、小島さんがおっしゃっていたように高度なスキルの統合や、個人の目標を調整するためのタスク配分など、マネジメントする人がすごく大変そうだな、と想像します。
チームフローでは、メンバーの能力やチーム全体の進捗も常に把握しつつ調整する、とのことなので、あんまり10人とか20人のような大所帯を想定した議論ではないのかな、と思いました。

小島美佳:なるほど。
確かにビジネスの現場でも、息があった状態の時にちょっとテンポが違う人が混じると急にフローがピッて切れちゃう、といった経験された方って多分いると思うんですよね。 なんかそういったこともあるんだろうなと思ってたので、答え合わせ的なところができました。ありがとうございます。

s子:また2つ目のご質問の、フローに入りやすくするために仕事に入る前に瞑想をする、という例は、あるデータアナリストがこれから大量のデータ解析に取り組まなきゃいけない、集中したいという時の仕事を始める前ルーティン的に、5分間休憩を取って、頭を空っぽにして呼吸に集中する、それによってとても集中力が高まってフロー状態に入れた、という例が書かれていました。
それって、まさに瞑想だなと思いましたが、これはチームフローではなくて個人フローの例になりますね。

小島美佳:じゃあ、最後のフロー状態を促進するための環境とは?というところは、チームフローと個人のフローを引き起こす条件が混ざっているってことですね。

s子:はい、個人フローとチームフロー、アスリートやビジネス現場など混ざっています。記事にする時にもう少しわかりやすくしておきます。
あと、2から4時間でタイムブロックを切る、という例は、フローに入り時間経過も忘れて気がついたら夜になっていたといったこともありがちで、会議や予定をすっ飛ばしたりしないようにアラームをかける、またフローでは疲れや痛みを忘れる、という効果も知られていますが、あまりにも集中し過ぎると燃え尽きてしまう、ということで、これもどちらかといえば個人フロー体験の話です。

小島美佳:分かりました。マツケンさんはどうですか?

松村憲:はいありがとうございます。
いろいろ思うところありましたけど、まず「チームフロー」という考え方そのものが面白いなと思いました。チームのメンバー全員でフロー状態になるっていうことですよね。

チームフローで重要になってくる「共通の目標」

それを考えた時に、表2のチームフローを構成する要素の中で個人的には3番の明確なチームレベルの共通の目標が一番重要になってくるんだろうなと感じました。この共通の目標を、どれだけ明確にできるか?解像度を上げられるか?チーム全体で共有できるか?が大事なポイントだと思います。この共通の目標の解像度を極力高めつつ、かつチームメンバー誰もが情熱を感じるような目標・ゴールを共有することができれば、必然的に動機付けも高まり、よりゴールへ向かいやすくなるはずです。

あと小島さんも言われていたように、ビジネスの現場で能力・高度なスキルの統合を実現するのはなかなか難しいなと僕も思います。
一方で例えばアスリートの世界でしたら、NBAのシカゴ・ブルズもめちゃくちゃ瞑想してたんですよね。マイケル・ジョーダンを率いて10年コーチを勤めたフィル・ジャクソンは、若い頃から禅師に支持して禅を学び、本人もチームでも瞑想していました。
そうすることによって、普段から瞑想で『今ここ』という意識を鍛えつつ、練習や試合の中でも「今にステイしろ」といった声を掛け合うことで、全体でグッと集中する、ということが可能になったりします。

またアスリートでは「絶対優勝!」のような、チームとしての一つの明確で共通の目標があり、そこへの集中力も上がることで、チームフローの状態に導かれたんじゃないかなと思います。
さらにアスリート チームであれば、そもそも能力がない人はレギュラーから落ちていく、というシビアな世界なので精鋭を集めることはビジネス現場よりも可能ですし、練習の成果も試合結果としてわかりやすく共有できるので、よりチームフローの研究も進んでいて実現するための条件を比較的揃いやすいんだろうな、と思います。


共通の目標と心理的安全性を両立するには

ただどの世界でも、多様な能力を持つメンバーから構成されたチームが、共通の一つの目標に向かう時の難しさってのは、ありますよね。

アスリートチームでも色んなレベルや関係性のチームがあるので、仮にチーム内で「あいつできないよね」みたいな雰囲気が出てくると、今度は心理的安全性がなくなってきますよね。
(※注:実際、少数精鋭ではない全員がフロー状態に入るのではないグループフローの例として、アマチュアスポーツの例などが挙げられていました, Refs. 42, 43, 44 and 45)
そうなってくると、場としてチームとしてポジティブというよりも、脅威や恐れからの脳(扁桃体)の反応や行動になってきて、そういったことがチーム内で起きてくるとストレスになってしまい、結果的にフロー状態は生み出せないのかな、難しいなと思って聞いていました。

s子:この「共通の目標」に関連しては、個人フローでの研究で、
前提として、人が目標に全力を尽くし、目標を達成するために必要なリソースと能力を備え、矛盾する目標がないという条件が揃った時には、目標の難易度とタスクのパフォーマンスの間には正の相関関係があるという報告が2つあります (Refs. 46 and 19)。

一方で、目標の難易度が適切である重要性も知られていて、難しい難易度のタスクを行う際は、覚醒レベル(動機づけの強さ、緊張感)とパフォーマンスの関係をグラフにすると逆U字型になる(つまり難しすぎるタスクや課題に取り組む際、最適な緊張感を超えてしまうと逆にパフォーマンスが下がってしまう)ことも知られています(ヤーキーズ・ドットソンの法則, Ref. 47)。

ヤーキーズ・ドットソンの法則の模式図。横軸が覚醒度(Arousal)、縦軸がパフォーマンス。
Source : wikipedia


チームフローのための共通の目標設定のポイント

そこでチームフロー状態になるための明確な共通の目標の設定のポイントとしては

  • 挑戦的な共通の目標、
  • 個人の目的とチームの目的に互換性がある
  • メンバー全員にとってそれを達成する意義がある、という認識を共有できている

といった条件が挙げられます。これらが揃うと、チーム全体の成長も促されるとのことです(Ref. 8)。

松村憲:そうですね、こういった共通の目標をみんなで打ち立てて、全員が理解し共有する、という状況を作るのもそう容易ではなさそうだなと想像しますが、それでもそこはすごい重要だなと思います。
なぜなら、そこがブレてしまって一人でも共通の目標に向かっているという感覚を持てなくなったら、チームフロー体験も成り立たないんだろうなと思います。


チーム内で相互に尊重し合うには、コンパッションも重要

あと、チーム共通の目的思考を強く持ちつつも、6番目の心理的安全性の部分で相互尊重のお話もありましたよね。この辺にコンパッションが重要になってくると思いました。
無理してまずコンパッションありきとして持ち込む必要はないかもしれませんが、能力が違ってもある分野では突出して秀でている人とか、例えばアウトプットは低いんだけど関係性の調整とか別の違ったところで実はすごく貢献してました、といったケースもよくありますよね。
チームで「一人一人がいる意味があるんだ」という共通認識を持つことができれば(相互尊重)、いろんな多様な人がチーム内にいても目標に向かってフロー状態を作っていくことも可能なんじゃないかなっていうのは、聞いて思いました。



s子:そうですね、高度なスキルの統合というところでも、チームメンバーが互いの強みや興味、スキルを理解しているとか、チームメンバーに割り当てられた課題と能力の一致を常に確認しつつ、誰か一人に負担が偏っていないか、タスク配分を常に調整することが大切だと書かれていました (Refs. 17 and 15)。
多分これはリーダーがやることなんじゃないかなと思うんですけれども。

わかりやすい例ですと、外科的手術のチームで、麻酔科医とかいろんな器具出しを的確にする手術看護師さんとか、助手とかいろんな得意分野やスキルを持った人たちが、一糸乱れずに協力し協調した状態で作られるチームの一体感でスムーズで無駄のない大きな作業を成し遂げる、より難しい手術が成功したときに達成感を共有する、といった状況を想像すると、やはりチームメンバー全員が目的や各々のスキルを理解できているような、小さなチームを想定した話なのかな、と思っています。

あとは余談ですが、日本ではあまり聞かないですが海外の病院では手術にリラックスしつつ集中する状態を長時間保つために、手術室で音楽を流したりもするそうです。



小島美佳:そうですね、スキルについて言えば、互いに「ここはこの人に任せて安心で信頼できる」という関係性がイコール高度なスキルの統合、と考えると非常に腑に落ちますし、それがあるからこそ心理的安全性が成立するのかなって解釈はできると思いましたね。
以前のビジネスにおけるコンパッションの話の続きで、自分の組織メンバーにコンパッションを取り入ることで、みんなでチームフローに行ける可能性も高まるのではないか?といった仮説も立てられる気もしています。


マネージャーとしてビジネス現場でチームフローを実現するには?

例えば私がビジネス現場のマネージャーだとして、自分のチームでチームフローを作りたいなみたいなことを考えてみた時に、チームフローの構成要素を優先順位付けみたいなことが可能なんでしょうか?それぞれの要素が相互に関連するとは思いますが、、、
でも私自身の実体験や感覚として、表2のチームフローの要素の1番から4番までがないと、その他の要素は成立しえないんじゃないかなって感じました。
最後にその辺も何かコメントいただけますか?

s子:まさにそうで、表2の1から5までがチームフローを実現するための前提条件です。これらが揃った上で、一番下の3つの要素はそのチームフローの状態になった時にこんな感覚になりますっていう、チームフローの特徴で、こういう感覚があったらチームフロー状態に入っている可能性が高い、という要素です。
そして真ん中の6と7あと内発的動機付けというのは、上と下の二つを橋渡しするような要素という風に書いてあって。

またチームフローを実現する上でマネージャーにとって重要なのは、
「使命と補完的なスキルを備えた人材のチームを構築する方法を知り、チームフローの前提条件を開発できるように努めること」
とこのレビューのディスカッションでも書いてありました。

恐らく私の理解では、チーム フローの前提条件を整えることを目指しつつも、「チームフローを実現したい、でもうまくいかない」と感じた時に、構成要素のどの点が足りていないのか?と表2と現況を比較観察し確認して調整するためのもので、最初からこれを全部整えなければならない、という感じのものではないのかなって思いました。

松村憲:僕も似たように感じました。
そもそもチームフロー状態を作るための前提要素であるコンパッションとか心理的安全性なども、それ自体を目的にしてしまうと、全然違う方向にチームが行ってしまいそうだなと思います。
特にビジネス現場で考えると、そもそもの目指すべき共通の目標や、チームとしての動きっていうところができていて、結果としてチームフロー状態がついてくる、みたいなのが一番いいんだろうなっていう気がしました。

チームフローは目指して入り込むものではない

s子:そうですね、チームフローは目指して入り込むものではなくて自然発生的なものであり、条件や環境を整えることで必ず引き起こされると保証されるものではありません。
みんなで「チームフローに行くぞ!」といった感じから始まったり達成できるものではないと述べているレビューもあり (Ref. 48)、私もそう感じています。
一方で、表2のようなチームフローの構成要素を知り、チーム全体の目標の共有や、個々の仕事量の調節とかオープンなコミュニケーションなどさまざまな要素が揃った結果、チームフローが起こる可能性が高まる、ということは多くの研究によっても支持されています。

松村憲:そう思います。

s子:あとは一週間毎日、チームのみんなで一日中、フロー状態になっていたら多分すごい疲れそうだなと思います(苦笑)。
アメリカの研究組織 Flow Genome Project の共同創設者兼研究責任者スティーブン・コトラー博士によると、
「1日の勤務時間中の15%でもフロー状態に入ることができれば、全体としての仕事の生産性は通常の2倍に上がる」、
またマッキンゼーの調査では経営者がフロー状態を体験すると、会社全体で5倍の生産性を発揮できる、といった話もあります (STUDY HUCKERより引用)。

小島美佳:ありがとうございます。
今お話いただいた内容って、以前Felixさんとお話したダニエル・キム氏の成功循環モデルのループ図に惑わされてはいけません的な話と、すごい繋がってくると思って腑に落ちました。

あと個人的に、グループフローというのがめちゃめちゃ興味そそられるので、良きタイミングでマインドフルネス研究所のテーマとして扱えると非常にいいかなと思いました。

ありがとうございました。

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ABOUTこの記事をかいた人

ライター。 博士号を取得後、日本学術振興会特別研究員・博士研究員・大学教員として教育研究に計10年以上従事(専門は分子生物学)。9割以上が男性の業界で女性が中間管理職として働く難しさを感じつつ、紆余曲折を経て小島美佳さんからマインドフルネスを学ぶ。 現在は心理学や精神世界のエッセンスを科学の言葉で咀嚼して伝える方法を模索中の、瞑想歴1-2年の初心者です。