夢分析で自分を知る – フロイトとユングの心理学に学ぶリーダーシップの秘訣

象徴思考とシンボリックシンキング

夢に出てくるものは、潜在意識から表象化して出てくるということをお話ししました。それらに隠された目的や意味を理解するためには、象徴思考シンボリックシンキング、つまり夢に出てきたものについて、個人的な連想を聞いていく・シンボリックに考える癖をつける必要があります。

シンボリックシンキングとは

抽象的な概念や感情を具体的な形や記号で表現する思考のこと。シンボリックシンキングはサインやシンボルを作り出す思考ともいえます。
例)鳩は平和の象徴であると言われますが、鳩自体が平和を意味するわけではなく、人間が社会的に合意した記号としての意味を持っています。

象徴的思考とは

形や記号に対して付与された意味を理解し、それを通じて現実を捉える思考、サインやシンボルを読み取る思考のこと。
例)鳩という記号に対して「平和」という意味を感じることができるのは、象徴的思考によるものです。

象徴思考とは

心理学だけでなく社会学、文学など様々な学問分野や立場から研究されてきました。
心理学では、ジャン・ピアジェがこどもの認知機能(思考)の発達段階の一つとして象徴的思考を定義しました。ピアジェが提案する認知発達では感覚運動期、前操作期、具体的操作期、形式的操作期の順に発達し、2番目の前操作期(2〜6-8歳ごろ)に、目の前にない物事を他のものに置き換えて表現する働き・象徴機能・表層機能が出てくると考えました。


象徴思考 – 個人的な連想

夢の要素に対する本人の連想は、夢分析においてとても重要です。その人にしかない特別な連想があるからです。例えば、「赤い軽自動車に乗っていました」という夢を見たとします。その場合、赤という色や軽自動車という乗り物に対して、その人はどんなイメージや印象を持っていますか?普段軽自動車に乗ることがあるのですか?などと質問していくと、その人の赤とか軽自動車といったものに対する連想が膨らんでくる可能性があります。

連想を聞いていくことは、夢の意味や定義を得るだけでなく、夢を話すことがその人の心理状態に影響することがあります。夢について話すこと自体が、夢を増幅させたり拡充させる効果があると言われています。

無意識世界に意識や自我から認識されていなかった要素があり、夢の話として語られることによって光が当たり、心がスッキリしたり元気になってくる感じですね。抑圧されていたり対立していた心のエネルギーが意識の世界に登ってくるような感じです。これは心身の健康にも役立つことだと思っています。

夢の中に繰り返し出てくる要素

夢を記録したり話したりし始めると、繰り返しよく出てくる要素があったりします。例えば家族とかよく出てきたりしますが、母親との関係がテーマになる時は母親がよく出てきますし、父親との関係がテーマになる時は父親が出てきます。そこで「お父さんはどんな人だったんですか?」とか「お母さんはどんな人だったんですか?」と聞くだけで、自分の家族観や自己像など様々なことが紐解かれたりします。つまり夢に注目することで、自分のテーマや課題も見えてきます。

私もやっていますが、自分で夢について書いたりして記録した時に夢に出てきた要素の個人的連想をさらにメモしていくと、結構面白いことに気づいたり理解が深まったりすると思います。


象徴思考 – 集合的な連想

個人的な連想だけでなく集合的な連想というものもあり、これはユングが提唱した集合的無意識という考えに基づいています。人類共通の心の深層にある神話や昔話、元型と呼ばれるイメージや概念について理解すると、夢に出てくるものがどんな物語や元型と関係しているのかを見つけやすくなり、夢の意味を探ることができます。これはちょっとマニアックでユングっぽい考え方ですね。

また最近では夢辞典の内容をインターネット検索などのツールで知ることもできます。夢で気になったキーワード、例えば「夢、象徴、車」と入力し検索すると、たくさんの情報が出てきます。夢に出てきたキーワードや象徴などで気になったものについては、検索してみるとそれだけでもそれらが象徴する何かを知ることができ、面白いです。

ただし、夢占い的になりすぎると、お決まりのパターンに当てはめられてしまうこともあります。
それを信じるというよりも、それがフィットして自分なりにその解釈で納得できるかどうかを見ることが大事です。夢辞典やインターネット検索は、シンボリックに考える連想の手助けとして使えるといいかなと思います。

また、シンボリックに考えることは専門的で難しいことではなく、常識の範囲内で考えられることも結構あるので、自分で考える癖をつけることもすごくいいと思います。
例えば、夢で「車」が出てきた場合、それから連想することについて考えてみます。
車は移動手段だったり、あとはプライバシーがあるとか、車を持っていて運転したりする人とそうでない人では、車に対する意味付けも違うかもしれません。あとはどこに向かっているかとかですね、多分そういういろんな内容が出てくると思うので、象徴思考を続けて様々な連想はできると思います。


関係性の連想

難しいところでは、関係の連想というのがあります。難しいというか、連想自体は難しくないですが、生きていると人間関係に悩むことってすごくあると思います。本当に悩んでいたら、ほぼ夢にも出てくる可能性が高いです。
どんな関係性で夢に現れているか?なんで夢に出てきたのか?といったことを考えてみてください。

夢では加工されて出てくることもあるので、例えばちょっとうまくいかなくて上司に嫌な気持ちを持っているけれど、「そんな風には考えてはいけない」と思って日々抑圧して顕在意識で考えないようにしている状態だったら、夢の中でその上司の方と接点のある、例えば同じ苗字のかつての友達が出てきて自分に嫌がらせをしてくるみたいな夢を見る可能性もあるんです。
そういう夢を見ると、「自分はもしかして上司に対して嫌な感情を持っているんだ」と夢を通じて気づくことができます。無意識に抑圧するのではなくて、「ああ、そう思っているんだな」と認めることができます。それから先もさらに一段階進んで、人と話したり対話を深めたりするとよりいいと思います。

また夢に「外国人」が出てくることも結構ありますが、夢で知らない人が出てくるのは、これから現れてくるような人や関わりを持つようなものを暗示しているかもしれません。また、未知のものや人との関わりを持っているとかこれから持つ、という夢だったりもします。

夢は多様性に富んでいて、夢自我だけじゃなくて、いろんな人が出てくるので、いろんな人の視点にも立つことができ、関係の連想をしていくことで、自分と他者の関係性を理解に役立てることもできます。


その他の夢に頻出する象徴

一般的な連想として、よく出てくるキーワードについて考えてみましょう。
例えば「学校」と聞いたら、何の象徴だと思いますか?学校は集合して何かを学ぶ場所だったりしますよね。試験の前や業績評価の前後、夢の中に学校が出てくることもあります。その他、思春期の記憶や情動がたくさん眠っている場所だったりするので、閉じ込めておいた感じを思い出すように、という示唆で学校が夢に出てくることがあります。

では「電車」は何を表しているでしょうか?電車は基本的にいろんな人が乗って移動するものですよね。まさにレールの上を走るものなので、決まった方向や目的地に向かっている感じかもしれません。そこに自分が乗っているのか、途中駅で降りたのか、何で降りたんだろう?とか、あるいは列車がレールを外れてしまったとか、夢の中の電車の状況によって意味が変わることもあります。

あと「橋」とか「川」とかも象徴的ですよね。三途の川じゃないですけど、川はこっちとあっちという世界が違う、といったことを表していて、川を渡る夢を見たとしたら、移行や変化、成功などを象徴しているかもしれません。

前述した「車」ですが、車は結構夢に出てくると思います。何色か?どんな車に乗っていたか?どこに行こうとしていたか?誰が運転していたか?なども結構重要ですね。基本的に安定していて良い状態であれば、自分が主体的に運転しているとか、逆に違う誰かが運転している夢をみたら、自分の意志や目標が曖昧だったり、フォロワーシップを発揮しすぎといったことを表すかもしれません。


2種類の連想法 – フロイト派の自由連想、ユング派の拡充法

基本的に連想には、フロイト派の自由連想と、ユング派の拡充法があります。

自由連想では、夢に出てきたものについて、「これについての連想は何ですか、それについての連想は何ですか」と聞いていって、自分の思いや感じたことを自由に言っていくことで、最終的に無意識の抑圧された欲求や葛藤といったある一点にたどり着くという方法です。
一方で、ユング派の拡充法は、赤い車を夢で見たとしたら、とことん「赤い車ってあなたにとって何を意味するんですか?」というように、集中的に一つの象徴についての連想を聞いていくという方法です。ユング派では、夢に出てくるものそのものが象徴的な意味を持っていると考えます。


ユング派での自我と無意識のモデル

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この図は先ほどの意識のモデルなんですけど、意識の中心を自我と考えると、個人的無意識という個人の無意識が眠っている領域がその下にあると考えます。個人的無意識は、生育史や個人史に関わる部分ですね。

ユングの考えでは、さらにその下に集合的無意識という領域があり、この辺は文化や民族性、歴史などが関わる様々なものが含まれている領域です。

ユング心理学では、夢はこの意識構造の深いセルフに近いところから生み出されていると捉え、夢のメッセージというのは、この深いところから最終的には上がってくるものだと考えます。

私たちは常に一面的な視点で物事を見ていますが、どんなに一面的になってしまっても必ず意識は全体的なものなので、必ず補償作用が働きます。一面的になってしまって一箇所だけに光が当たった場合、必ず逆側に影ができます。
光が集中しすぎて影が大きくなりすぎると、ちゃんと見ていない部分・無意識領域にある影も意識しなさい、ということで見ていない部分を補うよう無意識が意識に伝えようとしているメッセージの一つが夢である、というのがユングの夢分析の考え方です。

ユングは夢の目的は意識と無意識のバランスをとることと考えました。
心理学的な意味での影・シャドウとは、自分が認めたくない部分や否定した部分のことで、シャドウについては次回説明します。



初心者でもできる – ユング派夢分析の基本的なやり方

最後に、実際に夢分析・夢を解釈をするときの流れをご説明しますので、ご自身でやってみたい方は参考にしてみてください。こちらの方法ではユング心理学の視点から、初心者でも夢分析を自分のために役立てられるよう、エッセンスと具体的なやり方を分かりやすくお伝えしています。

最近見た夢で覚えているものがもしある方は、その夢を参考に考えてみてください。ちょっと前に見たとか、数年前に見た印象的な夢というのでも大丈夫だと思います。


1, 普段の自分の状況や調子、問題に思っていることなどを思い浮かべたり書いてみる

最初は、まず自分の状況を確認してみるのがいいと思います。要は、ここが自我の話です。自分の状態があって、それを補償する形で夢がやってきたりしますので、普段の自分の状況をちょっと考えてみます。

2, 最近見た夢について考える

この前提があった上で、最近見た夢について考えてみてください。夢はもし記録できる人は記録してみるといいと思います。あるいは、本当はペアワークなどで話して聞いてもらえたりすると、すごく進むと思います。

夢はスルメイカみたいな感じで、何度も何度もかみしめて理解を深められるので、印象的な夢があったら「こういう意味だ」と決めつけずに何度も味わってみてもいいと思います。

3, 気になる部分の連想を深める(メモする)

これも母親が出てきたら「母、なんとかかんとか」といった湧き出てくる連想をいっぱい書いていくといいですね。連想をたくさん深めると、その夢がもたらすメッセージの見え方も変わってくると思うので、夢の内容や要素をさらに深掘りしてみてください。

4, 夢の内容・要素を深掘りする。この夢はどのように一面的な自我を補償しているのか?

一番この記事で覚えていただきたいのは、
「この夢はどのように一面的な自我・自分を補償しているでしょうか?」という考え方です。
夢を見るということは、その夢が「こうしすぎてませんか」というメッセージを我々に送ってくれている可能性があります。例えば、思考でガチガチに凝り固まっているかもしれないなとなんとなく思ってる時に、突拍子もなく自由な発想の人が職場にやってきてなんかめちゃくちゃにして帰っていくみたいな夢を見たりすると、「あれ?ちょっとこういう自由な要素が足りてないんじゃないか」という受け取りもできると思います。

5, 夢のメッセージを仮説でもいいので一度受け止める

なので、夢のメッセージの受け取りは、仮説でもいいので一度受け止めてみるとすごくいいと思います。「こういうメッセージなんではないか」と一旦受け止めると、この意識・心の世界には意識と無意識と両方あるという前提で考えると、我々、自我がどんな風に受け止めるかというのは、僕の先生に言わせると無意識はちゃんと了解するという言い方をしたりしてました。

6, 夢にお返事をする形でアクションを取る

なので、夢にお返事を書くとすると、その夢を得て次なるアクションを取ってみようとするとすごくいいです。 そうすると、また夢が展開するかもしれないですし、あるいは意識という世界でいくと、意識と意識されてない心の全体性のコミュニケーションが良くなってくる、というふうに捉えられたりもしていきます。

以上が、夢分析の基本的な流れについてです。

いかがでしたでしょうか?
夢は自分の心の深層を映し出す鏡です。夢を通して自分を知ることは、自己成長や自己表現にも役立つでしょう。夢に興味がある方は、ぜひ夢の記録と象徴思考から始めてみてください。

次回は「リーダーシップの発達と影(シャドー)、心の深層構造(元型)」についてお伝えしていきます。

(記:s子)

【松村憲のリーダーのための夢分析講座】

第一回:夢分析で自分を知る – フロイトとユングの心理学に学ぶリーダーシップの秘訣
第二回:リーダー成熟のためのユング心理学 – 元型とシャドーの意味と活用法
第三回<前編>:日本的リーダーシップの秘密を紐解く <前編> 日本神話と中空構造
第三回<後編>:神話から読み解く日本人のリーダーシップの秘密 <後編> スサノオの物語性と漂泊自我



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ABOUTこの記事をかいた人

大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの