ビジネスリーダーのためのマインドフルネス24講座、第16講の今回は感情の観察についてお話していきます。
リーダーシップでは、自身の感情のマネージメントが非常に重要だと言われています。感情は眺めていくと長くは続かない、という話を踏まえて感情マネージメントの方法についてお話ししていきたいと思います。
目次
感情反応とは?
想像してみてください。あなたが人から何かを言われたり、何か良いことや嫌な事を目撃したとき、ご自身の中ではどんな反応が最初に起きますか?
例えば誰かに暴言を吐かれたとしたら、どうでしょうか?
ちょっと体がキュッと固くなる身体反応が出るかもしれないし、「嫌だなぁ」と感じるかもしれないし、距離を置いて離れようと逃避モードになる人もいれば、「どういう意味ですか?」と自ら戦いにいっちゃう人もいるかもしれません。このように、ご自身の慣れ親しんだパターンでアウトプットすることが多いです。
文句を言うのであれ、回避をするのであれ、インプット -プロセス-アウトプットと分解して考えると、この反応(プロセス)の部分では様々なことが同時に起こっています。
例えば、暴言を聞いて体がキュッと萎縮して逃避モードになると、それに伴った認識パターンが出てきます。「暴言を吐くこの人に近づいたら大変なことになる、怖い、逃げたほうがいい」といった感じです。
ここで感情と認識とどちらが先かというのは、その時々によって異なります。
感情反応を引き起こす神経伝達物質が働くのは【たったの90秒】
ジル・ボルト・テイラー博士の著書、『奇跡の脳』に感情について興味深い記述があります。この本にはご自身が神経科学者でありながら、脳梗塞を起こして新しい発見をしその体験が書かれています。
彼女によると、
人間の感情を引き起こす化学物質は90秒で全て洗い流される
とのことです。
感情が出てくる時は、何か刺激があった時ですよね。「わーっ」と感情反応が起きるんですが細かく見ていくと、まず脳内の扁桃体というストレス反応のスイッチが押されて、体内でストレスホルモンを放出し、その結果、脳内に感情を引き起こす神経伝達物質が出る、ということが起こっています。
この最後の神経伝達物質の分泌が約90秒間とのことです。つまり逆に90秒を過ぎても怒り続ける人は、自ら「怒る」選択をしているということです。
怒る反応を例に説明すると、スイッチが入ってその瞬間は怒りの感情反応が起こるかもしれないけれど、実はその時体内では感情反応を引き起こす化学物質が放出されていて、しかもその作用は90秒程度しか続かないと言うことです。
このことを知っているだけでもかなり感情のマネジメントに役立ちます。
理性(前頭葉)による制御は6秒後
さらにもっと短い『6秒待て説』もあります。
例えば、あなたが誰かから暴言を浴びせかけられたとしましょう。この時、あなたの脳内では、大脳辺縁系がアドレナリンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質を吐き出し、心と体を戦闘状態に変えます。これは自然の防衛サバイバル反応です。
怒りの感情で身体が熱くなり、全身の筋肉が硬くなるのは、これらの神経伝達物質の働きによるものです。そのまま何も対策をしなければ、あなたは瞬時に相手へ向かって暴言を吐いたり殴りかかったりといった反応を起こすでしょう。しかしここで少しだけ待つと、人間の理性を司る前頭葉が大脳辺縁系を抑えにかかり、少しずつ神経伝達物質の影響を無効化していきます。前頭葉が起動するまでにかかる時間は平均で4〜6秒です。そこからさらに10〜15分も経てばアドレナリンやノルアドレナリンの影響力はほとんど消えて、怒りの身体反応は静まります。
鈴木 佑 著 『無 (最高の状態)』より引用改変
そうすると自分が怒っているなぁと気付けたり「これはどういう状況か?」と冷静さも戻ってきます。
理性が感情をうまくコントロールできている状態がベストなバランスです。
これは感情を抑圧するのではなく、暴言を受けてから6秒だけやりすごすことができれば ” 一の矢 ” の痛みは過ぎ去る、ということです。
ジル・ボルト・テイラー博士の『90秒で神経伝達物質は全て洗い流される』説を元に考えると、神経伝達物質によって引き起こされる身体反応はその後も少し続きますが大抵15分もすれば収まります。つまり、ここで『怒り続ける』という選択をしなければ、大抵の怒りの感情と身体反応は15分以内に収まります。
普通の人は、それ以上怒り続けると心身も疲弊しますし、いつまでも怒り続けているのはクレーマーの様な状態と言えます。
同様の戦略は目の前の誘惑に耐えたい時にも使うことができます。
よって感情に支配されそうな時には、
- 6秒待つと前頭葉も回復して理性も戻ってくる
- 感情反応を引き起こす神経伝達物質も90秒でなくなる
ということを予め知っていると、アウトプットする反応や言動も変わってくると思います。
心理学における感情の種類
最初に怒りを例としてお話しましたが、感情は他にもいろいろありますということで感情の種類についてお話ししていきます。
私の講座の最初に、マインドフルネス チェックインとして毎回その時の気分体調などをお聞きしています。「今自分はどんな気分か?」と意識を向けてみるとわかりますが、その時持っている感情というのは1通りではなく、いろんな層が混ざってマーブル状になっていると言われています。
EQの説明でよく使われるプルチックモデル(Plutchik model, 感情の立体図)を見てもわかる様に、感情にはさまざまなレイヤーがあります。
しかし感情の種類は思っているほど複雑で多くなく、大まかに分けると
喜び、信頼、恐れ、驚き、悲しみ、嫌悪、怒り、期待
など8種類程度です。
これらの基本の8種類の感情がいろんな形で波及していて、またその濃い薄いの違いで感情の呼ばれ方も変わってきます(激怒→怒り→イライラ、など)。
さらに一つの瞬間に一種類の感情ということは稀で、同時に何層か混ざり合っていて、常にサーモスタットのように制御されているのだろうと言うことです。
感情を観察対象にする
感情はなくならないし変わらない、という思い込みがある人も多いと思いますし、「感情が出てきてしまったら嫌だ」と感じて抑圧したり、回避したりすることも多々あります。しかしその方が逆にトラブルを生みがちです。
90秒で感情は変化するんだなぁと頭の片隅に置きながら、マインドフルネスではまずその感情を眺めてみましょうということを提案しています。
マインドフルネスは何度もお伝えしている通り
- 「今ここの集中」と判断を留保して
- 「ありのままを観察する」
の2つが大きな柱です。
例えばタイムラプスで氷が溶ける動画なんか見ていただけるとわかると思うんですけれども、氷を冷凍庫から出して観察していると溶けて形もどんどん変化していきます。
Source : YouTube『bluenote _625』
感情も同様で、観察していくと必ず変化していきます。
怒りの感情が沸いた時でも「あー怒りの感情があるなぁ」と眺めていくと、「なんで怒っていたんだろう?」と冷静になることもできるようになるかもしれません。
残念ながら、喜びや楽しさといった感情も怒りと同様に一生続くわけではありません。
しかし、どのような感情も変化しますから、四季折々・春夏秋冬みたいに移ろっていくもの、と捉えられるといいかなぁと考えます。
リーダーシップと意思決定における感情マネジメント
リーダーシップと意思決定においては、自身の感情のマネジメントが重要です。
以下、リーダーシップ研究で著名なシェリル・ストラウス・アインホーン氏のハーバードビジネスレビューの記事を引用します。
大きな決断を迫られた時、私たちは不安や恐怖を感じがちだ。責任が高くなればなるほど、反応も大きくなるからだ。しかし、不快な感情から少しでも早く離れたいからと拙速に物事を進めようとすれば、誤った決断を招きかねない。
優れた意思決定を行うには、そのような感情を敵だとみなして逃れるのではなく、一旦距離を置き、離れた場所から見つめ直すことが欠かせない。
そうすることで、前頭葉の働きも回復して、真に解決するべき問題は何かを見極め、意思決定を正しい方向に導くことができるからだ。
シェリル・ストラウス・アインホーン『感情をコントロールし、正しい決断を下すための4つのステップ』HBR
<実践>感情を眺める瞑想
瞑想ガイド中に感情についての問いも二つほど投げていますので、感情って氷のようにただあるものだよなぁ、と観察して、氷が溶けるように感情も変化するというのを感じてみてください。
Source : 瞑想チャンネル for Leaders