脳科学が教える幸福の秘訣!感謝と思いやりで職場のエンゲージメントを向上させる

 今回のテーマは感謝と幸福感です。感謝と幸福感を高めることはここ数年の間、アメリカでリーダーシップの重要なトレンドの一つになっています。これは、他者を導くリーダーシップ スキルの一つとして注目されているからでもあり、今回はその点もご紹介したいと思います。

 ビジネスリーダーのためのマインドフルネス24講 ④リーダーシップ未来編 第22講です。

脳科学的にみた幸福状態とは?

 脳の幸福状態についての科学的研究が進んできており、どうもそこにエゴが関わるらしい、ということもわかりつつあります。月並み感じではありますが感謝って最強なんだな、と改めて思います。

 みなさんが幸福を感じるときはどんなときでしょうか?
 人は幸せを感じる瞬間は、過去や未来に悩むこともなく「今ここ」しかないマインドフルな状態になっているはずです。またそのような状態のときは、エゴは働きにくいと言われており、よってエゴのない状態をいかに作れるか?が幸福への近道でもあります。

 では、エゴを減らすにはどうしたら良いか?と言うと、一番の近道は「感謝」になります。「感謝」を想起できる習慣が身につくほどに自身の幸福感が高まり、また周囲への影響も変わってくるはずです。

感謝のマインドフルネス

 繰り返しになりますが、マインドフルネスの基本は気づきと今ここ、
・今この瞬間に心を集中させる、と、
・判断しない、ありのままを観察できる
ということです。

 感謝をしている瞬間「あぁ、ありがとう」ってほんとに心の底から思える瞬間というのは、ある意味感謝に集中していて無駄がないのでマインドフルな状態だと思います。

 脳科学者で医学博士の岩崎先生が書かれた、こちらの本『科学的に幸せになれる 脳磨き』にも出てくることですが、脳科学的にも幸福な状態というのはどういう状態なのかって?ということがわかってきました。脳の研究も『幸福度』のような分野に入ってきていて、ある意味、仏教っぽくなってきていてとても興味深いです。
 その結果、幸福な脳を最も阻害する要因はなにか?というと、自分への執着やエゴなどで、これらが脳の働きを弱めるいうこともわかってきてます。

幸福な脳を導く2つの行為

 では、科学的に明らかになってきている幸福な脳を作るために効果やエビデンスがあるっていうことが以下の2つだと言われています。

1, 感謝

 もともとマインドフルネスの実践には慈悲の瞑想・コンパッションの瞑想も含まれます。科学的にも効果があるんだな、というのと、後付けではありますが改めて論理的にも考えられているのだなと感じます。
 感謝はある意味最強ということですね。

2, AWE体験

 AWEっていうのは畏怖の念みたいなことですね。英語で言うとAwful (荘厳な) のAWEなんですけれども、「あーなんかすごいなぁ」って言う。例えば圧倒的な大自然を目の前にしてを圧倒されるような体験、自分て小さいなぁと実感するような体験の事ですね。


 そういうを体験がたくさんあると幸福により近い状態が続きます。自分の大好きなもの、趣味とかにも関わっていますよね。
 わかりやすい例としては、アニメオタクの人にアニメの凄さについて語ってもらうと「こんな神なんです」みたいな話が出てきたりするのも、ある意味AWE体験の1つかなと思います。「こんな素晴らしいもの、信じられない」みたいな。そんなことが語れている方が、見るからに幸せそうですよね。まぁAWE体験そのものが幸福の1つですね。

エゴが強いと脳全体のバランスが崩れる

医学者でチベット仏教僧侶の脳の解析から

Source : wikipedia
マシュー・リカール(マチウ・リカール)氏

 彼はフランス人医学者で、出家されてチベット仏教の僧侶となり、ダライ・ラマ14世のフランス語の通訳などもされている幸福学の研究者で著名な方です。
(参考:TED日本語 – マチウ・リカール: 愛他性に導かれる生き方

 こちらのサイトでも度々ご紹介している『 心と体をゆたかにするマインドエクササイズの証明』の著者でもあるウィスコンシン大学のリチャード・デビッドソン教授の研究で、1,000人以上の人の脳波を測定し、脳の活性化状態を調べられました。その結果、脳のアクセルに相当する部位(左側前頭前野)の最も活性が高かった人がマシュー・リカール氏でした。
 脳のアクセル活性が高いと幸せを感じることもわかっており、この結果からリカール氏が脳科学的に世界一幸せな脳の持ち主、と言われさらなる研究対象になりました。

利他の心で人々の幸せを祈る=セルフレス

 その結果、利他の心で世界の平和や人々の幸せを祈る瞑想をしていた時、彼の脳のアクセルに相当する部位が最も活性化していました。その時、脳の状態は「セルフレス」でした。同様の結果は他のチベット仏教僧侶でも検出されました。

 セルフレスはエゴの反対に当たり、脳全体がバランスよく使えている1番良い状態です。
 では逆に、脳全体のバランスを崩してしまう状態と言うのはどういう状態でしょうか?
 それはエゴが強い時です。「自分さえよければ」という思考パターンは脳の回路を分断し、脳全体のバランスを崩し働きを鈍らせてしまうのです。


 また近年の研究によると、脳の活性化状態のバランスを取る働きをする脳領域として、島皮質が注目されています。

島皮質の発達が脳の幸福度に影響?

島皮質の位置(断面図)
Source : Wikipedia

 島皮質は、大脳皮質の一部で、外側面の奥まったところ、側頭葉と頭頂葉下部を分ける外側溝の中に左右二つあります。外側から見えないためここ10年くらいで注目を集め研究が進んでおり、最近では瞑想とも関係するということがわかってきています。

島皮質が関与する主な機能としては、
・社会的感情・道徳的直感・共感性
・音楽への感情的な反応
・依存・痛み・ユーモア
・他者の表情への反応
・購買の判断・食の好み
・非認知能力
などです。
 この島皮質が発達している人や厚い人は、脳をバランスよく使うことができ、幸福度も高くなると言われています。

幸福度を高める感謝には2種類ある

 「感謝」という行為は、幸福な脳を作る上で重要な要素の1つです。その感謝には以下の2種類があります。

恩恵的感謝

 自分にポジティブな成果があった場合に、それに対して感謝することを指します。自分に良いことがあったと感じた時に感謝するため、Doingによる感謝と表現されます。

普遍的感謝

 常に感謝の気持ちを持つこと、すなわち「Being」の状態にあることを指します。生きていること、家族や仲間がいること、そして周りにあるあらゆるものに感謝することができます。普遍的感謝には、恩恵的感謝も含まれます。

 これら二つの感謝はどちらが良いか悪いかということではなく、行ったり来たりをしながら両方をバランスよく行うことが大切です。また普遍的感謝は利他的な面があり、レッスンとしては感謝することを意識することで、自分自身を染み渡るように感謝の気持ちで満たし、幸福な脳を作り出すことができます。
 素晴らしいパフォーマンスを発揮している著名な人たちの中には、普遍的感謝の習慣が強い傾向があると言われています。

ビジネスマンに必要なのは、自他共に幸せになるマインドセット

コンパッションの実践 – Loving Kindness –

 今回は、伝統的なマインドフルネスのレッスンに含まれるコンパッション瞑想についてお話しします。実際に行ってみましょう。やり方は単純です。

  1. まずは、自分の幸福を願うと言うところから始めます。
  2. その後、他人の幸せを願うことに切り替えます。
  3. 最後には、全ての生命が幸せになることを願います。これはどこまで広げてもいいんですけれども、アドバンス版では嫌いな人の幸せを願うとより効果が高いですよ、とかも言われたりしますが、その願う対象をどこまでも広げてみてください。

 この後、私のガイド音声もありますが、まずは自分自身が幸せであることを認識して願ってみてください。
これだけでも、心が暖かくなったり、優しい気持ちになったりすることがあります。

 1つめのポイントとして、私たちはエゴに執着することがありますが、これをうまく利用して「自分が幸せになりたい」という願いを、心の底から感じて思い出してください。自分が大事、幸せになりたいという願いは、マインドフルネスの流れの中では、誰もが思っていて、自然に生まれるものです。それを思い出すみたいな感じでやってみてください。

 2つめのポイントは他者についてです。なかなか他者の気持ちになることは簡単ではありませんが、その上で他者の誰もが自分と全く同じように、幸せになりたいと言う願いがあることを思い出しましょう。それによって、他人に対する幸福を願いやすくなってくると思います。それをより広げて幸せの願いを世界中に広げていきましょう。

思いやりのマネジメントの重要性

世界で最も愛されているCEO Linked In ジェフ・ウェイナー氏のリーダーシップ

Source : wikipedia


 最後にリーダーシップに思いやりを取り入れて成功した例として、Linked In CEOのジェフ・ウェイナー氏についてお話ししましょう。彼は思いやりを大切にしている人物です。2017年の社長時代には「世界で最も愛されているCEO」と言われていました。
 しかしかつての彼は、自分のコピーを作ればパフォーマンスが向上し業績も上がるに違いないと考えて、リーダーになったときに積極的に取り組んだ結果、スタッフ全員が辞めてしまう事態に陥ってしまったという過去があります。その後、彼は改めて考え、思いやりやコンパッションの重要性に気付き、マインドフルネスを実践し始めました。

思いやり・コンパッションで困難を乗り越える方法を共に考える

 ジェフ・ウェイナー氏が世界で最も愛されるCEOの一人となったのは、彼の持つコンパッションや共感、思いやりの力が大きく関係しています。彼の思いやりは行動を伴って実践され、相手の困難な気持ちを理解した後に共感し、そこから少し距離をとって、その後一緒に困難を乗り越える行動を起こすことが大切であると語っています。コンパッションは相手の気持ちに入り込みすぎず、次にどう乗り越えるかを一緒に考えることで、思いやりの力を高めることができます。

 このように、マネジメントやリーダーシップにおいては、思いやりのあるマネジメントを取り入れることが非常に重要であるということを話しています。ビジネスマンにとって必要なのは、自己と他者の両方が幸せになれるマインドセットです。

【実践】幸福感を高める 感謝の瞑想(6分半)

 こちらのガイドで自分の幸福や近しい人の幸福を願い、「感謝」を想起できるようガイドしました。
「感謝」を想起できる習慣がつくほどに自身の幸福感が高まり、またチームや組織、家族など周囲への影響も変わってくるはずです。

Source : 瞑想チャンネル for Leaders


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ABOUTこの記事をかいた人

大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの