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マインドフルネスの効果を客観的に知るには?
マインドフルネスの実践によって具体的にどのような変化があったか?という影響や効果を科学的に測定する方法として、代表的な以下の4つの方法があります。
1, 自己申告による主観的な報告の統計を取る:ストレスが減った、感情にとらわれなくなった、よく寝られるようになった、など自己申告による主観的な報告をたくさん集めて集計・統計を取るといったものが以前は主流でした。
そこにリチャード・デビッドソン教授などを始めとした科学者のメスが入るようになり、
2, 心拍数や呼吸数の変化による自律神経のバランスの測定:マインドフルネス瞑想を行うことで自律神経のうちリラックスに関与する副交感神経が優位になります。
副交感神経はリラックスや回復の状態で活発になり、心拍数や呼吸数が下がるのでこれらを計測することで知ることができます。最近ではAppleWatchなどのスマートウォッチでも心拍数や酸素飽和度なども調べられます。
また、
3, ストレスホルモン(コルチゾール)の濃度の測定:副腎皮質ホルモンの一種であるコルチゾールは、脳内の扁桃体がストレスをキャッチするとHPA軸という経路を介して分泌されます。過剰なストレスにより多量にコルチゾールが分泌された場合、血圧や血糖レベルを高め、免疫機能の低下や不妊、胃潰瘍、脳の海馬の萎縮などの悪影響が知られています。
コルチゾール濃度は血液や唾液から測定することができます。
さらに
4, 神経可塑性による脳の変化の測定:神経可塑性によって瞑想で脳の神経回路や特定の領域が再構築されることがわかってきています。例えばチベットのお坊さんなど長期瞑想実践者では瞑想で鍛えられた脳領域が厚くなっていたり、活性化(血流の増加)していたり、ということを脳波計やfMRIを使って調べられ、本当に瞑想で脳が変化する、ということが脳科学的な実験データによって証明されつつあります。
脳の状態をリアルタイムで把握する方法
脳の科学分析では脳波計とfMRIが測定機器として主に使われます。今回のテーマの脳波計の前に、まずはfMRIついてお話しします。
fMRI (functional magnetic resonance imaging, 磁気共鳴機能画像法) の長所と限界
fMRIでは強力な磁場の中に入り、脳内の血流を調べます。基本的に活性化している脳領域には血液が集まり、酸素が消費されるということから、赤血球中のヘモグロビン(具体的には酸素を結合したヘモグロビンと、毛細血管で酸素を放出した後のデオキシヘモグロビンの磁性が異なる現象:BOLD現象)の動態を追うことで、脳のどこが活性化しているか、また構造的な変化を検出することができます。
しかしこの右の写真のような高価な装置が必要で、かつ強力な磁場の中に入るので、例えば体の中にボルトなどを金属製のものが入っていると測定することができません。また時間的な解像度(反応速度)が低く、リアルタイムに脳の活動を追うことが難しい、という難点もあります。
Amazonでも購入できる家庭用脳波計のメリット
一方、脳波計は脳の電気信号を測るため、時間的な解像度が高く、リアルタイムに脳の活動を追うことができます。欠点としては、脳波計はfMRIと比較して空間的な解像度(位置情報)が低く、脳のどこが活動しているかを正確に特定することは難しいです。
ここ数年でヘッドバンド型の家庭用脳波計というものが出てきていて、現在、日本で購入できる脳波計は下の表の左のFocusCalm™(フォーカスカーム)と右のMuse2(ミューズ2)の2つが主流です。どちらもヘッドバンド型でスマホの専用アプリと連携させて使用し、だいたい3万円台で購入できるとのことです。
これらの脳波計の違いを以下にまとめました。
FocusCalm™ | Muse2 |
• 電極が前頭部分に集まっており、計測が安定 • ニューロフィードバックとブレイントレーニングの原理を用いて、精神の緊張や作業量をリアルタイム測定 • 公式アプリでは3つの指標で評価 Depth:深いリラックスが出来たか? Consistency:リラックス状態を維持できたか? Speed:スムーズにリラックス状態に入れたか? • GoodBrainアプリで脳波・バンドパワー・集中度・リラックス度が計測可能(リアルタイム計測・多人数同時計測等も可能) | • 7つの繊細なセンサーで脳の状態を細かくチェック • 4つの測定機能(①脳波 ②呼吸 ③心拍 ④身体バランス)で脳波測定だけではなく、身体の状態を客観的に観測 • 公式アプリでは、マインドフルネス時の状態を アクティブ・ニュートラル・カーム(calm)の3段階で評価 • リカバリー:アクティブ状態になった際に、そこからニュートラル状態へ回復するポイント • 鳥のさえずり:5秒以上Calmの状態が継続すれば鳥がさえずります |
右側のMuseは以前美佳さんが購入・着用して様々な瞑想法をしながら測定してみた、という記事があります。ご興味のある方は読んでみてください。
Muse2では脳波と呼吸、心拍、体の傾きを調べることで、アクティブ、ニュートラル、カームの3つのどの状態に今自分がいるのかというのをアプリでグラフ化・スコア化して教えてくれるものです。
一方、今回マツケンさんが使われたFocusCalmはリラックスの深さ、維持、リラックス状態に入るスピードの3つの指標で評価されます。
また理化学研究所ベンチャー制度で創業した株式会社ハコスコのGoodBrainというアプリ(無料で使用できます)を使うと脳波データも測定でき、CSVファイルで出力もできるそうなので、検証実験などマニアックにやってみたい人にはこのアプリがおすすめとのことです。さらにGoodBrainアプリではリラックス度と集中度も計測できるということです。
マインドフルネスで目指す【集中力とリラックスが高まった状態】と脳波の関係
実際に私たちが、マインドフルネスで目指したい状態というのをマツケンさんの24講座で使われていた図をお借りして説明したいと思います。
上の図は、縦軸が集中度で横軸がリラックス度です。通常私たちが仕事や勉強をしたりと集中して何かに取り組む時は大体この左上の「戦う姿勢」の状態で、脳波でいうとβ波(日常生活で活動している時に優位になる脳波:14〜30Hz)が優位な状態です。これは一過的に集中するのには向いていますが、持続するのが難しく、だいたい90分程度で疲れてしまうと言われています。
一方でマインドフルネスで目指したいのはこの右上の状態で、リラックス度も高く集中力も高まっている状態です。いわゆる時間を忘れて何かに没頭しているような状態、心理学用語ではフローと言います。おそらく脳波的にはα波(リラックス、安静時に高まる脳波:8〜14Hz)が高く、さらに長期瞑想実践者で高くなっているとされるγ波(β波よりも高周波数帯)も出ていると考えられます。
γ波は覚醒状態や認識統合機能などの、高次認知機能に関連していると言われており、これが高いほど洞察力や創造性が発揮されると考えられています。
GoodBrainのHPでの説明ではγ波についての言及がなかったので、そこまで測定できるかはわかりませんが、集中しつつもリラックスしている状態が家庭用脳波計でも見られるようになると、すごい面白いんじゃないかなというふうに個人的に思いました。(※注:FocusCalmのプロモーションビデオによると、そのような状態になれるとのことです)
ということで実際にFocusCalmで測定したデータ、これはGoodBrainアプリの公式サイトからお借りしてきた図ですが下のようなデータが測定結果として見られます。
家庭用脳波計についての説明は以上です。
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