リーダーが阿吽の呼吸的なチームワークを作る方法とは?【対談】

マインドフルネス研究所第8回目「阿吽の呼吸を脳科学的に解説しビジネス現場で活かすための方法を考える」の後編になります。

s子:前編では対人間脳神経同期・シンクロが科学論文で複数報告された例をご紹介しました。
後編では、実際に脳シンクロを活かして ビジネス現場で阿吽の呼吸的なチームワークを作り出すためには?といった実践的な部分について松村憲さんと小島美佳さんにお話を伺っていきます。

視覚情報がコミュニケーションに与える効果とは?

脳神経同期を理解し、コミュニケーションを成功させる4つのポイント

s子:前回の記事の結論として、コミュニケーションを成功させる4つのポイントを以下に示しました。

1, 会話の量よりも質
2, 非言語コミュニケーションより言語コミュニケーションの方がグループの意思決定に関与する
3, 相手への理解を示したりフォロワーの共鳴を引き出す
4, 相手に対する理解を示す


松村憲:はい、ありがとうございました。とても興味深かったです。思いつくまま、いくつか感想や興味深い点をあげていきますね。

まずは対人間の言語コミュニケーションで視覚情報の有無で脳のシンクロ、同期が変わってくるという結果は非常に興味深いです。我々もこう動画やビデオ通話の方がより良いってことなのですかね?

あと同じ論文の中での「神経結合度が高い人ほど理解度も高い」という結果も面白かったです。
これは具体的な例としては、よく話を聞いてはいるけれども内容を理解してないんだろうな、って人がいることや、逆にこの人にはよく分かってもらえた、と感じたりするのは、神経同期の強さが重要で、話の内容が聞き手に染み入る、みたいなところとも関係してそうだなと思いました。

Source : マインドフルネス研究所



身体の動きと意識状態の変化もリンクする【心身相関】

心理学の中でも僕が専門としている分野では、手や身体の動きと意識状態の変化をとても重要視しています (心身相関: 心的なプロセスと身体的なプロセスが相互に影響し合う現象)。
実際、手の動きと心はシンクロして意識状態も変わるので、前回ご紹介してもらった手の動きを見るだけでも脳や動きのシンクロが起きるという結果は、シンクロに関わる視覚情報は顔の表情や口の動きだけではなく、手の動きも神経系にも伝わる、という点で理解できました (シンクロする人々, 認知科学, 2021)。

s子:そうですね、顔の表情や口の動きといった視覚情報が内容の理解度に重要、ということだったので、このマインドフルネス研究所のYouTube配信もスライドだけではなく、最近は顔を映して配信をすることにしました。

松村憲:あとピンポイントで面白かったのが、無意識のうちに相手を同期させる人が自然とリーダーに選ばれる、という傾向が1,000回試して見られた、というのは、沢山試行したエビデンスに基づいた結果ということで、とても興味深いです。

ミラーニューロンとメンタライジングのお話は、ミラーニューロンによる模倣だけでも神経同期はするんだけど、メンタライジング・心の理論や他者との共感といった心の部分や状態との関連も重要、というのは確かにその通りだなと思いました。
共感はカウンセラーのレッスンの基本でもあるので、脳神経学的に答え合わせをたくさんしてもらい、かつ未消化な問いが残ったという感じでおります。

リーダーが同期を作り出すために必要な感性とは?

僕の専門のプロセスワークでは、リーダーとは『ポジションやパワーを持っている人』と考え、そもそも他者への影響力を持っているので神経同期はさせやすいのかな?と思いました。
そこでお聞きしたいのは、フォロワーの神経同期を起こすリーダーの在り方、という話がある一方で、1番悪くパワーを使う、要は洗脳や安心感と真逆の状態においても、神経同期は起こるのか?という点が気になりました。
例えば、カリスマ悪リーダーみたいな、歴史上の人物で言ったらヒトラーとか麻原彰晃みたいな人かもしれないけれど、信じている人たちはめちゃめちゃ同期してると思うんです。

s子:ありがとうございます。
ご質問のシンクロを悪用可能か?について、まず前提として3番目の論文に書かれていたのは、リーダーが相手の脳の同期を誘発するのは、本人は無意識のうちにやってるらしいです。
そこでリーダー傾向を持っている人(社会起業家)の性格特性を統計学的に分析した結果によると、彼らは本能的に社会や集団に埋め込まれた様々な可能性とか社会の痛み、ニーズ、不満などを理解する能力に長けている、ということでした。


リーダーの性格特性 – 集団のニーズや痛みを理解できる

社会起業家精神:理論と実践
Source : Amazon

つまり、集団のニーズや集合的無意識のような、多くの人が持っている痛みや不満などを感じ取って、具体的にそこを刺激するようなことをやることで神経同期を誘発する、ということだと思われ、そういった傾向や才能のある人が悪用しようと思えば可能だと思います。

あとは自然にリーダーに選ばれる人による神経同期が、5分間の対話の中の最初の30秒ぐらいで起こり、脳波のシンクロ状態から判断すると30秒程度でリーダーがわかってしまう、という結果も3番目の論文に書いてありました、先ほどは割愛してしまったのですが、、、

松村憲:うん面白いです、ありがとうございます。

小島美佳:今の後半のお話は、カリスマリーダーがいかにして人々の心を掴んでいるのか?ということなんだと感じました。
そして元々のこの対談テーマの阿吽の呼吸については、フォロワーがリーダーの行動に自分を合わせていきたいという能動的な気持ちによって神経同期を引き起こされることと関連してるかなと感じました。
それでお聞きしたいのですが、3番目の論文の最後のグラフはリーダーのものですか?

s子:いえ、これは対話中のリーダーとフォロワー間の対人神経同期の一例です。

ランダムに選ばれたリーダーとフォロワーのペアのINS (対人間神経同期)の時系列変化
Source : Jiang J. et al., PNAS (2015)



緑の丸が非言語コミュニケーション、赤の菱形がリーダーからフォロワーに話した言語コミュニケーション、青の三角がフォロワーがリーダーと話したポイント、を時系列でプロットしています。

対話を開始してからの時系列でリーダーとフォロワー間の対人神経同期プロットしていくと、グラフ上の1のポイント (非言語コミュニケーションを行った時)よりも、2のポイント(リーダーがフォロワーに対して言語コミュニケーションを行った時)により同期が高まる、というデータです。
この変動が、開始から数秒単位で起こるというデータは表だったので割愛しましたが、対話を開始後、約30秒ぐらいで変化が見られ、ほぼリーダーは決まっているそうです。


言語・非言語コミュニケーション共にシンクロに影響する

小島美佳:このグラフを見ると、開始から5秒程度で、すでに神経同期に変化が起こり始めているということですね。

s子:そうですね、このグラフは1,000回調べたうちの一例ですが、統計を取ると誰が話し始めるかよりも、非言語コミュニケーションの方が影響するとのことで、上のグラフでいうと、30秒後、200秒後辺りの非言語コミュニケーション(緑)でも変化しています。
個人的な予想ですが、言葉を発さずに何か場に雰囲気や空気感などを出しているんですかね (見つめ合う2人の脳はシンクロしていることが最新の脳神経科学により明らかに – GIGAZINE)。

小島美佳:なるほど、これは非常に興味深いなと思います。
さきほど2人が話されていた「場に何が求められているのか」ということを瞬時に察知できる感覚・能力であったり、例えば今自分がリーダーの立場だった場合、フォロワーの皆さんのニーズは「多分ここにあるだろうな」というのを感じる感覚が影響するのだろうなと思いました。
それを非言語の情報からもキャッチできる能力のある人が、自然とリーダーに選ばれるという結論がこの結果から分かる気がします。


シンクロを悪用可能か?

そこから、先ほどのマツケンさんの問いの「シンクロを悪用できるか?」について考えると、おそらくできる人には容易にできると思います。自分の立ち居振る舞いがチームや組織にどう作用、影響するのか?リーダーの立場となっている人物は そもそも想像できる必要がありますし、場数をこなしていけば人によっては自由にやれてしまう状況・環境である、と言える気がします。

マツケンさんはヒトラーと麻原彰晃を例に挙げていましたが、ご存命の方で例を挙げるとトランプ元大統領もそれができる人物だと個人的に思っています。今どこに1番ニーズがあるか?ということを瞬時に察知できる能力がある方だな、と前からとても気になって観察していました。支持しているわけではありませんが…。
そこで、「彼を悪なのかどうか?どう感じるか?」は見た人それぞれによって異なる、そもそも何をもってして「悪」なのか?という哲学的な話にだんだんなってきますよね。


重要なのは 場に求められているニーズを察知する能力

やはりどんな環境、時代においても、人の心を掴む人というのは、そういった場のニーズを察知する能力に長けた人たちなんだろうな、と改めて私自身も理解しました。

松村憲:今のお話を聞いて、なるほどと思いました。
トランプもヒトラーもその時は民衆の心を掴んでいるんですよね。だから周りも同期していくと。
ですからおそらく、逆にパワハラとか虐待になると同期しないんでしょうね、と思いました。

小島美佳:そうですね。
でももし仮に、側から見てパワハラのように見えていたとしても、フォロワーがリーダーに合わせたいと能動的に同期してる状態だと、本人はパワハラされていることに気づいていない可能性があるのではないかと思います。

松村憲:なるほど、だからフォロワー側の認識ではパワハラにならないんですね。

小島美佳:なので変な意味で、やろうと思えば、できてしまうってことですよね。

ということと、ビジネス現場からの視点では、どうすれば、自分が周囲の人々を同期させられるリーダーになれるのか?という点に一番興味を持つのでしょうね。

松村憲:そうですね、そこが1番重要なことなのかもしれないですよね。

小島美佳:そこをビジネスライクに考えると、対象は今所属している組織・チームなり、目の前にいるたった1人の相手かもしれないですけれど、
向き合ったり同じ時間を共に共有する時、「今ここにいる人たちが求めていることは何だろう?」とか「今ここで起こっていることは何だろう?」ということを知ることができる能力が大事ですよ、
ということだと思いました。

松村憲:うん、間違いない。

小島美佳:ですから、それらについて考えていない人はリーダーとしては、まず終わっています(笑)ということと、それが先ほどの論文のお話だと瞬時にできないといけない、ということだと理解したので、できる限り自分自身を訓練しましょうってことなのかな、と。


最初に出てくる言葉が結論と関連する – フラクタル理論

もう1点、マツケンさんがよく、コーチングやファシリテーションをする際、「最初にみんなが何を言うか?が、その場そのものを象徴してます」っておっしゃっていますが、それもヒントになるのかなと感じました。
よかったら、その辺の話もマツケンさんに詳しくお聞きしたいです。会議のはじめに一言話していただく「チェックイン」はよく使うテクニックですが、そのの時にみなさんが話すことの大切さ、について。

松村憲:はい、これはフラクタル理論の応用をした考え方です。
先ほどの論文の結果と同様に、1時間のミーティングや1時間のコーチングでも最初の1-2分が大事、とよく言われるんです。終わった後に細かく行動だったり起きてくることを振り返っていくと、最初に起きた意図しない出来事は最後に行きついた結論と関係があったね、という不思議なことが結構起こるんです。

なので、我々ミーティングの始まりの時にはチェックインというのをしています。具体的には最初に「どんな状態ですか?」「今日何話せるといいですか?」とちょっとしたことでもいいので、聞いてみるんです。その時に出てくるものは、先ほどの話の集合領域からのニーズみたいなものが言葉として最初に現れるので、そこを初めにちゃんと聞いておく、という感度は今後のリーダーにとってすごく大事になってくるんだな、と改めて僕も思いました。

ですから、神経同期を作っていくためには、場のニーズなどを無視して「俺が言いたいことはこうなんだ」「なんで、分からないんだ」という調子で一方的に話していてはシンクロしていかないんですよね。
時代的にも感性も変わってきているし、そこが求められる時代になってるな、と改めてすごい思いました。
見える化しちゃうってことですよね、脳波計などで近いうちに。

小島美佳:ありがとうございます。
つまり、結局威圧的にやるよりも、チェックイン等で「相手が今どんな気持ちなのか?」を汲み取る・知る姿勢が、感情や目標の共有にとって重要です、ということですよね。ただしリーダーは必ずしも優しくある必要はなくて、パワフルでも阿吽で同期させられるリーダーも実際いますし、それはそれで強いと思います。


優れたリーダーは自然とディープアクティングも行える

あと以前ディープアクティング(深層演技)の回もありましたが、多分ディープアクトを実践している人はこういう感じなんでしょうね。

Source : Amazon

s子:アメリカの大統領とかも、聴衆の心に訴えるようなスピーチやジェスチャーの練習・準備をすごくしているって聞きますよね。

小島美佳:はい、ただ練習していたとしても、取ってつけたような演技をやると同期しない気がします。
なので私の理解だと、1番求められているその場のニーズを満たす言葉を発するとか、手の動きなどをやっていくことが求められるんだと思います。おそらく、自然と集団が望むニーズにリーダー自身も動かされて、ミラーニューロンも活性化してるとか。

前回の二人漕ぎボートを漕いでいる時の脳波測定の論文で、リーダーの方がフォロワーにものすごい集中してた、といった話がありましたよね。そういうことの繰り返しでシンクロが起こってくる、その結果、チームフローも起こってくるんでしょうね。
今回の話で、これまでの対談の全体を繋いでいただいたようなそんな感じもします。ありがとうございます。

松村憲:今の時代で言うと、例えば「バズる」という現象は同期してるんですね、きっと。

小島美佳:あ、そうでしょうね。

松村憲:あと若い人たちはそういった感性が高い気がしますね。
昔僕の世代だと、エヴァンゲリオンが流行っていた時に「シンクロ率」みたいなこと言ってたんですけど、「シンクロしてるか?」とか「この人とシンクロさせたいんで」といった台詞が結構出てくるんですよ。
それってまさに「脳同期させたい」という、物理的なレベルで解釈するとそういうことなんだな、と思いました。

今、脳同期してますか?みたいなのが、これから流行るかもしれないですね。

小島美佳:そしてチームを同期をさせられていないリーダーは、次第に淘汰されていく、みたいな。

松村憲:どうすんの?みたいになってくるのかもしれないですね。

小島美佳:non同期リーダーはやばいぞ、とか(笑)

松村憲:リーダー降格になる1つの目安になっちゃうかもしれませんね。

s子:まぁ、そういう人はまた別の場所で活躍するんでしょうね。

松村憲:うん別のチームへの貢献の仕方もありますよね。

今回の対談は以上です。

(記:s子

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ABOUTこの記事をかいた人

瞑想歴20年以上。 15歳までヨーロッパで育つ。慶応義塾大学を卒業後、アクセンチュアで組織戦略・人材開発のコンサルティングに従事し異例のスピードで昇進。アクセンチュア・ジャパン 史上 最も若い女性マネジャーとして抜擢される。その後、独立系コンサルティング企業でビジネス開発に携わる傍ら、キャリアコンサルタント及びコーチとして活動。不確実な時代の波を乗りこなす事業の在り方やビジネスパーソンとしての生き方について考えはじめる。 2003年、瞑想に出会い習慣化するようになる。2010年よりビジネスの世界で活動をつづけながら、年間500名以上のクライアントへ瞑想的なテクニックを活用したカウンセリングを行っている。株式会社バランスオブゲーム代表。 監訳書:『コーチング術で部下と良い関係を築く』 共著:『「ハイパフォーマーの問題解決力」を極める』