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小島美佳:ケン・ウィルバーの著書『インテグラル・メディテーション(Integral Meditation: Mindfulness as a Way to Grow Up, Wake Up, and Show Up in Your Life、邦訳本『インテグラル理論を体感する』)』という本について、今回から全3回に渡って対談してみたいと思います。
第一回の今回は『Growing Up (意識の発達段階) 』
第二回は『Waking Up (意識状態の覚醒)』
第三回は『Growing UpとWaking Upの両方を考える』
の予定です。
目次
インテグラル理論(思想)とは
インテグラル理論とは人間・組織・社会・世界を理解するための包括的な地図であると言い換えることができます。
ケン・ウィルバーは心理学のみならず、哲学・自然科学や社会科学、芸術や人文学、宗教学まで幅広く学び、世界中のあらゆる知識領域の洞察をすり合わせ、様々な課題や主題にとりくむ際に限定的な専門的・理論的な立場にとらわれることなく、包括的な視野から対応することが可能となる地図(インテグラル理論)を作りました。(Integral Japan より引用改変)
Growing Up (意識の発達段階)とは
小島美佳:今回は、ケン・ウィルバーが提唱するインテグラル理論の中の “Growing Up (意識の発達段階)” というコンセプトについて話してみたいと思います。
まずは松村さんから ”Growing Up” のコンセプトを知ったときの印象をお聞かせ頂けますか?
松村憲:まず、本書に限って言うと、”Growing Up, 意識の発達段階”という概念そのものは、以前からウィルバーが好きだったので知っていたのですが、個人的にこの本には特に衝撃を受けました。
というのはウィルバーはこの本の中で ”Growing Up” の話の前にメディテーションの話をしていて、マインドフルネスについてもとても大事にしながら述べているんです。
「自分がいる意識の発達段階というのは、自分では気付かないんだ」と言っていて、「それに気付くためには自分自身が居る場所を客観的に見る視点が必要。そのためには瞑想がいいよ」と言う話をしています。
「意識の発達段階についての地図を持っていて、かつその地図の中で自分どこにいるのかを客観視しないと見えません」と述べつつ、そこに重ねて瞑想の重要性や、実際にそれぞれの発達段階を超えるために必要な瞑想なども書かれていたのが、とても印象的でした。
小島美佳:フムフム。
松村憲:それから個人的な反応とか防衛で「自分はこの辺にいるよね」とか「自分はこんなんじゃない」って言うよりも、『マインドフルネスの要素を使って自分を見ると良い』と考えてみたときに、発達段階は1つではないというか。
高い発達段階に同一化している場合もあるけれども、「あーこういうところあるよね、浅いところ・レッド (Power Self、下図 AQAL (An Integral Map) のDevelopmental Altitudeの下から三番目, インテグラル理論では意識の発達段階を表すために色を用いて表現しています) の状態って、他人ごとではなく知っている」ということに気付きます。
AQAL(All Quadrants(全象限・四象限)とAll Levels(全レベル)) An Integral map
意識の発達段階が高いほど偉い、のではなく「含んで超える」
インテグラル理論で強調されていた、一般的に良く誤解されている『発達段階が高いことが良い』という考え、これは分離を生みます。本来は『含んで超える』という発想なので、当然、高い段階には低次の段階も含まれます。
「様々な発達段階が自分にもあり得る」とか、「ここはエゴイスティックだな」と残念に思ったりだとか、マインドフルネスを自分に向けるようになってから以前よりも振り返りは1人でもできるようになったと感じます。
小島美佳:私の場合、入口はウィルバーではなくて、別の発達段階論的なものに触れる機会から始まったんですけれども…、世の中に色々な考え方が出てきていて、実際は意外とみんな同じなのかなぁと感じています。
松村憲:そうなんですよ。
同じですし、ウィルバーのインテグラル理論は、スパイラルダイナミクスも参考にして出来上がったんです。
自己成長のための地図を知り、自分の現在地を確認することの重要性
小島美佳:あ、思い出しました。
そういえば、ウィルバーの内容とその他の発達段階の考え方を統合して見せてくれている図もあったりして、頭が整理できた気がします。地図として自分自身の成長を確認できるっていうのが、私個人としてはとても助かったな。自己成長のために様々なことを考えたり努力したりとかしている中で、自分がどこに向かっているのか分からない手探り感みたいな…。
おそらく、それぞれの発達段階におけるグリーン(多元型:成果よりも人間関係を重視する段階)だとかティール(進化型:自分も組織も一つの生命体としてみる段階)だとか、段々進んで行くにつれて、開かれるものも出てくると思うんですけれども、同時に自分が力のない存在になっていくような感覚というのも結構あったりして。
松村憲:なるほど。
小島美佳:「なんかこれって大丈夫なの?」と思ったりすることも結構あったんですよね。
でも、“Growing Up” の概念に触れて、「あーなんか変な方向に行っているんではないんだ」といった安心感が生まれたのは、すごく大きかったなぁと思います。
下の段階の意識が出てきた時も、「それも自分」と受け入れる
それから、そういった発達段階の階段を登るような、『上に登って上にいる方が偉い』みたいな感じが人々の議論の中でついて回って、それはそれで当然起こりうる出来事だと思うんですけれども…。
ただ、それが先ほど松村さんがおっしゃったみたいに、1度上に上がったらその下の段階を忘れるという話ではなくて、自分の中にある要素が発達段階の初期のインパルスにように浮上してくる、というのも、なんというかすごく理にかなった考え方で、腑に落ちやすかった。自分の中にあった様々なちょっとした、でもいまいち何かしっくりこないものを綺麗に説明してくれるなぁという印象がありました。
松村憲:そうですね。
先ほどもお話しした通り、ウィルバーもいろんな著書で何度も言っていますが、「上の発達段階が偉い」のではなくて「含んで超える」と言っています。「全部自分なんだ」というところを経過して、より高い発達段階に達しているはず、というのがきっと本物なんですよね。
だから「あいつら…」って思うときは、まだ自分の中の消化できていない燻りが反応しているだけで、抑圧したり否認するのではなくてワークすればいいだけ。自分もマインドフルネスの要素も含めて、この地図をうまく使いながら処理ができやすくなってきた気がしています。
Growing Up (意識の発達段階)と瞑想
小島美佳:今、マインドフルネス的要素というキーワードが出てきましたが、『自分自身の発達段階を見ていくことと瞑想との繋がり』について、もう少し詳しくお話し頂けますか?
松村憲:そうですね、発達の段階と瞑想。
例えば、人間関係って自分の心にリアクションを生みやすいじゃないですか。
「なんかこの人嫌だな」とか、「なんでこの人こんな考え方するんだろう?」って一度自分が思っちゃうと、自分の中のリアクションに自動的に反応してしまうようになる。
ここでウィルバーが推奨しているのは、「そういう自分をもっともっと客観視しなさい」ということです。
松村憲さんによる客観視と他者視点獲得のための瞑想(約10分間)
Source : 瞑想チャンネル for leaders
自分自身も他人も客観視する
例えば極端に言うと、仮にここで客観的な相手がいると想像する。何歳でジェンダーは何でとか、さらに人種とか教育とか経済状況とかいろんな情報も加味しつつ客観的にその人を見て、同時に自分自身も同じ位他人として見ちゃう。男性で何歳でとか。さらにそのやりとりを客観的に見る。
何かするのでなくて、ただその関係性にマインドフルな注意を向ける。しばらくして、自分の呼吸や体に気付く瞑想に戻り、再度関係性を客観的に見るということを繰り返す。
これがうまく行くようになると、自ずと気づきが生じてきて、「発達段階的にこういう反応をしているな」っていうことが分かってくる。
発達段階は、とらわれのない心の目で観察し続けることができれば、自ずと次のステージが開かれてくるというのがウィルバーの主張だと思います。
例えば自分の中にすごくリアクティブに反応している部分に気づいてしまう。「これはむしろロジカルな ”オレンジ (Rational Self) ” のロジック以前の問題だよね、ちょっと自己中心的あるいは私達中心的すぎる反応だなぁ」というのが分かったりする。そこで、ここが瞑想っぽくてとても重要だと思うんですけれども、それを直ちに「自分っていけないんだ」とか否定・否認するのではなくて、その『発達段階の低い自分』とか『ダメな自分』を、ただただ肯定していくみたいな。客観的に利用することができると自然に執着が手放されるし、次の発達段階に展開しやすいと思います。
実際、自分の体験として、そういうことがあります。「残念だなぁ自分」と感じて、でもその地図のことを知っていると「まぁ、あるよね」「まぁ仕方ないよね」「まぁこれはここで消化すべきポイントなんだなぁ」といった様に客観的に気づけて楽になるというか。
「自分の発達段階は高いんだな」と思うと、それはそれでどうなんだろうなぁと思いますけれども、そうではない反応が出るところがよく見えるようになる、といった感じなのかな…
瞑想で客観視が進むとどうなるのか?
小島美佳:そうですね。
私たちが日々生きている中でその発達段階のうち、例えば「私は ”ターコイズ (Holistic Self) ” です」とか言って歩いている人はいないのかなと思っていて。もし仮にそういう人がいるとしたら「大丈夫なのかな?」って思ったりすると思うんですけれども(苦笑)。
でも瞑想状態に入って究極の客観視みたいなのを仮にできている自分がいるとして、『小島美佳の1日』というものをただひたすらマインドフルな視点から観察したとすると、この局面では “赤 (Power Self)” だし、ある瞬間誰かに言われた一言で “緑 (Sensitive Self)” にマインドが切り替わったり…って。そういった行ったり来たりみたいなことがありますよね。それが分かるようになる感じかな。
松村憲:そうですね。
小島美佳:マインドフルな状態が持てていれば持てているほど、自分の生活の中で起こってくる自分のマインドの反応の色鮮やかさみたいなものを、観察できるという別の楽しみが手に入る。
「すごい頑張って瞑想して、1段階上がったぞー!」と言うことでは無いのかな、とは思いますね。
まとめると、マインドフルネスをやっていけばやっていくほど開かれて、今まで経験していない段階の扉を開く事は間違いないと思うんだけれども、何となく『全体を見る』みたいなところを楽しめるようになると良いのかなと思いました。
松村憲:そうですね。
この地図って天才的な発想だと思うし、”Growing Up” という概念は発達論や心理学をベースにしているのでたかだか百数十年の歴史のもので、でも世界中の様々な分野の研究者による成果によってできた地図ですってウィルバーは言っています。
そしてこの地図によって全体が見えるのは素晴らしいことだと思うし、後この本の天才的な話は、”Waking Up (意識状態の覚醒)” と”Growing Up” は別で、今回僕らが対談の後半で話した “瞑想的” とか “気付く” という部分は ”Waking Up” として説明しているところです。
その両輪で作っているのが凄いところだなと思います。我々みたいな人には助かる。
小島美佳:そうですね。素晴らしいタイミングで松村さんが次のテーマをお話してくださいました!(笑)次回は
”Waking up (意識状態の覚醒) ”
についてお話したいと思います。
本と著者 ケン・ウィルバーの内容紹介
米国の現代思想家であるケン・ウィルバー (Ken WilberのHP) がマインドフルネスについて語った本(2016年3月15日刊行、2020年1月24日に邦訳本『インテグラル理論を体感する』が出版予定です。)。
松村憲 公式ブログ
ウィルバーはあらゆる哲学・心理学・科学から霊的な伝統までを含む壮大な体系を構築している世界的な思想家です。また彼は数十年来の仏教瞑想の実践家でもあります。
この本は、ウィルバーのこれまでの瞑想に関する視点、その本質や意識論を元に、最近多く語られるようになったマインドフルネスや瞑想について、アップデートしようとする試みです。マインドフルネス瞑想のルーツは2500年前の仏教の知恵にまで遡ることができ、そこには多くの知恵が内包されています。
一方でウィルバーは西洋の知性の発展の末、ここ百数十年の間に発展した心理学や発達論の功績も讃えています。
それは、私たちの時代に必要だからこそ現れた考え方であり、瞑想実践を補完するものであり、その統合こそ私たちに必要なものであると考えています。