人間の脳の特徴 – 未完成な脳で生まれ、環境に適応する –
動物の脳は、生まれる前に本能のような行動プログラムが遺伝的に予め決まっている、「ハードワイヤード(生まれつきほぼ全ての神経ネットワークが配線が完成している)」なものが多いです。一方、人間の脳は生まれたときには完成しておらず、周りの環境に応じて神経回路を作っていく「ライブワイヤード」なものです。
本能とは具体的に、
- 草食動物の赤ちゃんが産まれてすぐに歩いたり、
- 昆虫が天敵を見分けたり(擬態したり)、
- ツバメや白鳥が季節に合わせて何千kmも長距離移動をしたり、
- 鮭が産卵のために生まれた川を遡ったり(遡上)、
など多数知られています。
それに比べ人間の子どもは一年くらいかけてやっと歩けるようになります。人間の脳が完成するまでに約25年程度かかるとも言われており、人間はこのような未完成な脳で生まれることで、どんな環境にも適応し、社会や文化を作ってきました。人間の脳の発達段階については、後述します。
人間の脳の特徴は、大脳の表面にある感覚や思考、推理などの高度な機能を司る大脳皮質が他の動物よりも発達していることです。よって動物の脳の実験結果が人間にも当てはまるかどうかは、いつも問題になります。(サルなどの実験は倫理や動物愛護の問題もあります)
一方で大脳の奥にある記憶や学習に関係する海馬は、マウスなどの哺乳類にも共通していることから、遺伝子改変マウスなどの実験で海馬に関する理解は深まっています。
さらに測定技術も進んで、2000年ごろからfMRI (機能的核磁気共鳴画像法)やPET(陽電子放射断層撮影)という方法で、解剖や外科的手術などを行うことなく脳の状態を把握できるようになり、ここ20年くらいで科学的な知見がかなり増えています。
人間の脳の構造
人間の脳は構造や様々な機能を持つ部分によって、大まかに大脳、間脳、小脳、脳幹の4つに分類されます。
- 大脳:私たちが意識して考えたり感じたりする部分です。物事を理解したり創造したりする力や、言葉や記憶などの知的機能を担います。
- 間脳:自律神経やホルモンの調節や、無意識の反射や感情の発生に関係します。中脳と大脳半球との間にある脳領域で、視床、視床下部、脳下垂体、松果体、乳頭体から構成されます。
- 小脳:身体の動きやバランスをコントロールしたり、感覚情報や大脳からの指令を調整する働きがあります。脳の後ろ下にある部分です。
- 脳幹:脳と脊髄をつなぐ部分です。呼吸や心拍などの生命維持に必要な不随意機能を管理します。
さらに大脳の表層部に位置する大脳皮質は、環境から受け取った光や音、痛みなどの刺激がどの部分に伝わり情報が処理されるか?という機能局在によって、大まかに以下の4つに分類されています。
- 前頭葉:運動や思考や判断などの高次機能を担う
- 頭頂葉:体の感覚や空間認識などの機能を担う
- 側頭葉:聴覚や記憶や言語などの機能を担う
- 後頭葉:視覚や色彩や形などの機能を担う
これらそれぞれの領域が互いに連携し協調的に働くことで、ロボットでは未だ再現が難しい、二足歩行で走ることなど高度な身体・精神活動が可能となります。
脳内のどの領域がどのような機能を担うのか?というこれまで得られた知見と、MRIを用いて神経活動にともなう血管中の酸素代謝量の変化を測定(酸素代謝量の多い部分=脳内で活性化している領域と判断)した結果を照らし合わせることで、機能的MRI (fMRI) として活用できます。fMRIによって人間の脳の構造や機能について知ることが可能となります。