マインドフルネスが脳に与える驚くべき効果
マインドフルネスとは、自分の呼吸や感覚に注意を向けることで、今の瞬間に集中することです。このような練習をすることで、脳の働きにどのような変化が起こるのでしょうか?最新の脳科学の研究により、マインドフルネスが脳に与える驚くべき効果が明らかになってきました。
まず、マインドフルネスは、脳のデフォルトモードネットワーク(DMN)と呼ばれる部分の活動を抑制します。DMNとは、何もしないときやぼんやりと考え事をするときに活発になる脳の回路(具体的には後帯状皮質と前頭葉内側部)です。
(DMNについては、以前ご紹介した久賀谷 亮先生の著書『脳疲労が消える 最高の休息法』、および久賀谷先生が書かれた記事『「脳のアイドリング」が人間を最も疲れさせる』をご参照ください)
脳はより省エネな習慣化を好む、と言いながら何もしない状態でも活動するDMNって非効率的では?と思いますが、DMNは自動車のアイドリングのように、脳をこれから起こるかもしれない出来事に備えて待機させている状態、脳内のさまざまな神経活動を同調させ統括する働きがあると言われています。DMNでの何もしない状態で消費されるエネルギーは、意識的な反応や行動で脳が消費するエネルギーの20倍近くになるとも言われてます。
ここでマインドフルネスの呼吸に意識を向ける集中瞑想などが有効になってきます。前述のようにぼーっとしたDMNのアイドリング状態よりも、意識的に一つのもの(この場合は呼吸)に集中している方が脳のエネルギー消費が少ないので、脳を休息させることができます。さらに『今ここ』の感覚に意識を集中し、過去や未来、今の状況以外のことについての思考(雑念)が湧いてきたら、その都度気づき意識を呼吸や今ここに戻すことで、より集中力が高まり、その結果余計な脳での情報処理量も減り、脳の休息に繋がります。
その他にもマインドフルネスの効果は前回のエトナ社での実例紹介の記事にも書いたように、
- 睡眠の質の向上
- ストレスレベルの指標であるコルチゾールの量が低下
- 痛みの軽減
- 生産力の向上
などが知られ、結果的に心身の健康に繋がることが分かっています。
瞑想は脳のアイドリングを抑えて創造性を高める
瞑想は、脳の無駄なエネルギー消費を抑えるだけでなく、創造性や閃きを促す効果もあると言われています。瞑想の熟練者(生涯瞑想時間が50,000時間の修行僧)の脳は、一般人と比べてDMNの主要領域の活動が低下し、さらに平常時もDMNの主要部位(後帯状皮質)と、背外側前頭前皮質(CEN, 認知や論理的思考に関与)、背側前帯状皮質(SN, DMNとCENを繋げるハブの役割をするネットワーク)ら神経ネットワークとの連結が強くなっていることがfMRI像から分かりました (Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity, PNAS, 2011)。
このようにDMNの活動が抑制されることで、自分の思考から離れて客観的に物事を見ることができるようになります(メタ認知)。さらに、DMNとその他の神経ネットワークとの連結が強くなることで、脳内の情報がより効率的に統合され、新しい発想や解決策が生まれやすくなります。
Source : マインドフルネス研究所
実際に、iPS細胞の発見者である山中伸弥先生は、NHKスペシャル人体『脳』の中で、iPS細胞のアイデアを思いついたのは研究室ではなく、自宅で子どもとお風呂に入っていた時だったと語っています。このように、閃きや創造性は、脳をリラックスさせることで無意識下で情報が整理されて生まれることが多いと考えられます。マインドフルネス瞑想は、このような脳のリラックス状態を意図的に作り出すことができる有効な方法です。
次回は瞑想を行うことで具体的に脳にどのような影響があるのか、実際調べた研究結果をまとめたエッセンスについてお話する予定です。