【脳科学の最新研究】観察瞑想・洞察瞑想と集中瞑想の違いとは?メリットや効果を徹底解説

現代のビジネス環境は、かつてないほどの高ストレスと言えるでしょう。そんな中、心身のリフレッシュ法として瞑想に注目が集まっています。しかし、瞑想にも様々な種類があり、どれを選べば良いのか、何から始めれば良いのか迷われている方も多いのではないでしょうか。

本稿では、前回ご紹介した集中瞑想の効果に続き、脳科学の最新研究に基づいて、観察瞑想・洞察瞑想(ヴィパッサナー瞑想、オープンモニタリング瞑想、思考観察瞑想とも呼ばれます)の効果と、集中瞑想との違いについて解説します。ビジネスパーソンの皆様に、瞑想がもたらす具体的なメリットをご理解いただけるよう、わかりやすく解説してまいります。

1, 観察瞑想・洞察瞑想の定義とその効果

観察瞑想・洞察瞑想とは

集中瞑想が呼吸や特定の音など、一点に意識を集中させるのに対し、観察瞑想・洞察瞑想では、現在の瞬間に生じているあらゆるすべてのことがら(体験・感情・感覚など)に注意を向けます。これらを評価や判断することなく、ありのままを観察し、気づくことを目指します。

初めての方にとっては、一人で観察瞑想を始めるのは難しく感じるかもしれません。そこで、以下の8分間の音声ガイドをご用意しました。これを繰り返し行うことで、思考・感情・感覚に継続的に気づく能力が自然と身につくでしょう。

Source : 瞑想チャンネル for Leaders


1-1, 観察瞑想・洞察瞑想で得られる心身へのメリット

焦点を一つに定めず意識を分散させることによって、以下のような効果が期待できます。

  • 認知的・感情的な捉え方が減少する
  • 評価判断することなく観察する能力が養われる
  • ひいては日常生活でも、過去の経験や感情に捉われず、状況を俯瞰的に把握し、迷うことなく選択できる能力が養われる

(リチャード・デビッドソン教授のレビュー, ref1 より引用)。

つまり、自分の思い込みや先入観にとらわれることなく、物事を客観的に見ることができるようになるということです。これは、ビジネスや人間関係でのトラブルや誤解を減らすのに役立つでしょう。

 

1-2, ビジネスパーソンが得られるメリット

観察瞑想・洞察瞑想を実践することで、以下のようなビジネスに直結するスキルが向上します:

  1. 客観的な状況把握力: 認知的・感情的な捉え方が減少し、状況を俯瞰的に見る能力が養われます。
  2. 冷静な判断力: 評価判断することなく観察する能力が向上し、感情に左右されない意思決定が可能になります。
  3. 柔軟な思考力: 過去の経験や感情に捉われず、新しい視点で問題に取り組めるようになります。

これらのスキルは、ビジネスにおける意思決定の質を高め、人間関係でのトラブルや誤解を減らすのに役立ちます。


2, 観察・洞察瞑想が脳神経系に与える影響

最新の脳科学研究により、観察・洞察瞑想がビジネスパーソンの脳にもたらす具体的な変化が明らかになってきました。これらの変化は、ビジネスシーンにおける認知能力や感情制御能力の向上に直結します。

2-1, 脳波の変化:バランスの取れた意識状態へ

観察・洞察瞑想を行いながら脳波計museで脳波を測定した結果 “neutral(注意が分散している状態)” と “calm(意識が一点に集中してリラックスしている状態)” となり “active(思考が活発になっている状態)” はほとんどみられませんでした。

ビジネスシーンで期待される効果:

これは、観察・洞察瞑想では、思考に没頭することなく、自分の内面や外界の変化に気づきやすい状態になっていることを示しています。この意識状態は、緊急の意思決定や問題解決が求められる場面で理想的な脳の状態といえます。思考に没頭せず、内外の変化に敏感に気づける状態は、複雑な状況下での迅速かつ適切な判断を可能にします。

2-2, 自律神経系への影響:適度な覚醒状態の維持

心拍変動(HRV) と心拍数の変化で調べた論文では、興味深い結果が得られました (ref2)。

心拍変動と心拍数は自律神経系の活性化状態を反映しており、この論文の結果は、観察瞑想や慈愛の瞑想では、トレーニング的な要素や努力が伴うことを示唆しています (ref2)。この結果は、2-1の脳波計museでの結果とも一致しています。

ビジネスシーンで期待される効果:

この結果は、観察瞑想・洞察瞑想は積極的な精神トレーニングであることを示唆しています。適度な覚醒状態は、長時間の会議や複雑なプロジェクト管理など、持続的な集中力が求められる場面で特に有効です。


2-3, 注意力の持続性向上:「注意のまばたき」の減少

一般的に、特定の対象に注意を向け続けると、集中力が途切れる「注意のまばたき(attentional-blink)」が起こります。
しかし、ヴィパッサナー瞑想のトレーニングを受けた人は、

  • 「注意のまばたき」(集中力が途切れる現象)の頻度が約20%低下
  • この効果は瞑想経験の長さと正の相関を示す

ことがわかりました(ref3)。これは、観察・洞察瞑想に注意力を高める効果があることを示しています。

ビジネスシーンで期待される効果:

長時間集中力を維持することによって、複雑なタスクを行う際も注意力を維持したり、プレゼンテーション中の聴衆の反応に気づくなどのメリットが期待されます。

 

3, 観察・洞察瞑想の効果を脳科学論文を基に解説

観察・洞察瞑想を行うと、脳の構造や機能にどのような変化が起こるのでしょうか?京都大学の藤野先生の論文 (ref4) を参考に、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)で測定された観察・洞察瞑想による脳内の変化について紹介します。

3-1, 観察・洞察瞑想はDMNを抑制する

線条体の位置。Source : wikipedia

DMN(デフォルトモードネットワーク, Default Mode Network)とは、何も考えていない、ぼんやりしているときに活性化する脳内ネットワークです。DMNが活性化しているときは脳の消費エネルギーも増加しており、脳のアイドリング状態と例えられています。

観察・洞察瞑想では集中瞑想と同様に、DMNに関連する脳領域の活動を抑制することが分かっています (ref4)。
具体的には、後帯状皮質(後頭葉と頭頂葉の境界付近にある皮質)と線条体大脳基底核の一部で運動機能や意思決定に関わる部位。※注1 参照)の間の機能的接続を低下させました (ref4)。
この結果は、観察・洞察瞑想が自分の思考や感情に囚われることを防ぐ効果があることを示しています。


※注1:線条体は、大脳皮質の各領域から受けた入力情報を再度大脳皮質に出力します。機能的に異なる複数のループ回路を形成しているため、線条体と他の脳領域間の関係に注目することで、それぞれの瞑想が脳活動に与える影響について検討することも可能となります。
 背側線条体尾状核被殻、ストリオソーム、マトリックス)と腹側線条体側坐核、嗅結節) から構成されています。


3-2, 注意ネットワーク活性が低下 – 注意・観察できる範囲が広がる

視覚野の位置 Source : What’s design

観察・洞察瞑想では、特定の対象に注意を向ける注意ネットワークに関連する視覚野(右の図の緑色の部分)と腹側線条体(報酬や快感に関与する部位)との間の機能的接続が低下していました (ref4)。

この結果は一点に集中するのではなく注意を分散する、という観察・洞察瞑想の方法と一致しています。注意を分散させることで、注意力が途切れづらくなり、今この瞬間に生じているすべてのことに気づきやすくなると考えられます。

注意ネットワークとは、外界からの刺激に対する注意の向きや、内的な目標に対する集中力を制御する役割を果たし、脳内の視覚、聴覚、運動、前頭前野など、複数の領域が関与しています。注意ネットワークはDMNとは対照的に、認知課題に取り組む際には活性化し、休息時には抑制されることが知られています。

3-3, 過去の体験に囚われる頻度が低下 – ストレスや不安を軽減する

観察・洞察瞑想では、自分の過去の記憶(エピソード情報)の想起に関係する脳梁膨大後部皮質帯状皮質帯状回の一部)と腹側線条体の機能的接続が、安静時よりも低下していました。この機能的接続は、自分の過去の記憶に囚われる程度と関連していると考えられており、観察瞑想によってその接続が低下したことから過去に囚われる頻度が減る効果に関連すると考えられます。さらにこの効果は、瞑想の実践時間が長いほど大きくなることが示されました (ref4)。
このように過去に囚われずに今この瞬間を評価・判断せずに観察することで、ストレスや不安を軽減することができると考えられます。

3-4, 感情制御能力の向上:扁桃体の沈静化と前頭前野の制御力が向上

観察・洞察瞑想(ヴィパッサナー瞑想)の長期実践者の脳では、

  • 扁桃体(脳内で危険やストレス、恐怖を探知するスイッチ)が沈静化
  • 理性的思考を担う前頭前野(学習、思考や意思決定などを担う部位)の制御力が向上
  • 扁桃体が感知した怒りや不安などの情報が、前頭前野に伝わりづらくなり、自分の意思によって前頭前野を制御できるようになる(マインドエクササイズの証明より)。

ことがわかっています。これは、観察・洞察瞑想が感情のコントロール力を向上させ、EQ(感情知性)も向上する効果があることを示しています。
その結果、

  • ストレスの多い状況下でも冷静さを保つ
  • 感情的な意思決定を避け、合理的な判断を下す
  • 困難な交渉や対人関係を効果的に管理する

などのメリットがもたらされると期待できます。

以上の脳科学的知見は、観察・洞察瞑想がビジネスパーソンの認知能力と感情制御能力を大きく向上させる可能性を示しています。定期的な瞑想実践は、単なるストレス解消法にとどまらず、ビジネスパフォーマンスを全体的に底上げする効果的なツールとなり得ます。

Source : 瞑想チャンネル for Leaders

 

4, 観察・洞察瞑想の真価:『今この瞬間の全体』を捉える力

4-1, 認知的柔軟性の獲得

観察・洞察瞑想は、集中瞑想と同様にDMNや扁桃体を抑制します。これにより、自己の思考や感情に過度に囚われすぎてしまい自分と思考が一致していると誤認識してしまう認知的フュージョンの状態から解放されやすくなります(脱フュージョン)。ビジネスの文脈では、この状態を「客観的視点の獲得」と言い換えることができるでしょう。

4-2, 広範な状況認識能力の向上

観察・洞察瞑想の特徴的な効果として、注意ネットワークの活性減少が挙げられます。これは一見すると集中力の低下のように思えるかもしれませんが、実際には以下のような利点をもたらします。

  1. 注意の分散による全体把握: 特定の対象に固執せず、状況全体を把握する能力が向上します。
  2. 過去の経験に囚われない思考: ストレスや不安を引き起こす過去の記憶への執着が減少します。
  3. 「今ここ」への意識: 現在の瞬間に生じているすべての事象に対する気づきが高まります。

これらの効果は、複雑な経営環境において全体像を把握し、適切な意思決定を行う上で極めて重要です。

4-3, 実務への応用

熊野宏昭教授は著書の中でヴィパッサナー瞑想の効果について以下のように述べています。

 『注意を分割して、いろいろなところに同時に気を配ってそこを感じるようにすると、心のキャパシティがなくなって考える余地がなくなり、体験の全体が感じられるようになり、あるがままの知覚が可能となります』

マインドフルネス実践法 DVDブックより引用

の状態と一致しています。

また、リチャード・デビッドソン教授も著書において、呼吸や体感覚などの焦点を定めずにただ観察し続ける瞑想の実践は、瞑想が終わった後の日常生活においても、思考・感情・過去の経験に捉われることなく、『今ここ』の状況を適切に認識し、評価・判断することなく迅速な意思決定を可能にする、と述べています(心と体をゆたかにするマインドエクササイズの証明より)。

これらの状態は、例えば以下のようなビジネスシーンで活かすことができます:

  • 複雑なプロジェクトの全体像を把握する
  • 会議中の参加者の反応を敏感に察知する
  • 市場動向の微妙な変化に気づく


 Source : 瞑想チャンネル for Leaders

5, 集中瞑想と観察瞑想の違いとは?

集中瞑想と観察瞑想の脳への影響について、同じものと異なるものなど複雑なので、以下の表に簡潔にその違いをまとめました。

 

脳の領域・ネットワーク集中瞑想観察(洞察)瞑想主な機能
扁桃体⬇︎⬇︎ストレス反応の最初のスイッチ
DMN(内側前頭前野(mPFC), 後帯状皮質(PCC))⬇︎⬇︎脳のアイドリング機能
DMN–背外側前頭前野(dlPFC)DMNの心が彷徨う状態から今ここに戻る
前頭前野(PFC)–頭頂葉感覚情報と反応選択を仲介する注意力関連ネットワーク
島皮質体感覚の認識に関与
前帯状皮質(ACC)–PFC注意力に関連
腹側線条体–視覚野⬇︎意図的な集中に関与
線条体–DMN (後帯状皮質)⬇︎⬇︎大脳皮質から受け取った情報とDMNのネットワーク
腹側線条体脳梁膨大後部皮質⬇︎エピソード情報の想起


この表からわかるように、集中瞑想では意図的な集中に関わる脳の結合領域が強くなり、観察瞑想では弱まるという逆の結果が出るのがとても興味深いです。
集中瞑想では何か一つのものに集中して集中力を養い、逆に観察瞑想では全体を感じる意図で注意を分散させることで、今この瞬間に生じているすべてのことに気づきやすくなる、と考えられます。

2つの瞑想法の使い分けの指針

  1. 集中瞑想: 特定のタスクに深く集中する必要がある場合(例:重要な分析作業、プレゼンテーションの準備)
  2. 観察瞑想: 広範な状況把握や創造的思考が必要な場合(例:戦略立案、問題解決のブレインストーミング)


次回は、慈悲の瞑想についての科学的な知見についてお話したいと思います。慈悲の瞑想は、比較的短期間の実践で効果が現れるという興味深い特徴があります。これは、急速に変化するビジネス環境において、迅速にソフトスキルを向上させたい経営者や管理職の方々にとって、特に注目に値する瞑想法といえるでしょう。

 

 

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参考文献

  1. “Attention regulation and monitoring in meditation.(Review)” Antoine Lutz et al., Trends Cogn Sci. (2008) , リチャード・デビッドソン教授のレビュー
  2. “Is meditation always relaxing? Investigating heart rate, heart rate variability, experienced effort and likeability during training of three types of meditation” Anna-Lena Lumma et al., International Journal of Psychophysiology (2015)
  3. “Mental Training Affects Distribution of Limited Brain Resources” Heleen A. Slagter et al., PLoS Biol. (2007)
  4. “Open monitoring meditation reduces the involvement of brain regions related to memory function.” Masahiro Fujino et alScientific Reports, (2018) [文献解説]

 

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ABOUTこの記事をかいた人

ライター。 博士号を取得後、日本学術振興会特別研究員・博士研究員・大学教員として教育研究に計10年以上従事(専門は分子生物学)。9割以上が男性の業界で女性が中間管理職として働く難しさを感じつつ、紆余曲折を経て小島美佳さんからマインドフルネスを学ぶ。 現在は心理学や精神世界のエッセンスを科学の言葉で咀嚼して伝える方法を模索中の、瞑想歴1-2年の初心者です。