今回は仕事やビジネスにおいてなぜマインドフルネスが役立つのか?について、『Mindfulness at Work』というレビューで日本でよく聞かれるものと少し違った切り口で解説されていて興味深かったので、数回に分けてご紹介していきます。(少し長めですが、マインドフルネスの基礎や歴史のところからかなり詳しく書いてあるので、興味のある方は是非原著も読んでみてください)
筆者らは、確かにマインドフルネスに職務遂行能力の向上やストレス緩和などの効果があることも認めつつも、マインドフルネスを単なる組織開発のためだけのツールではなく、個々の従業員の幸福度を上げることで結果的に組織全体のパフォーマンスが向上する、という視点の重要性について解説しています。
このレビューではマインドフルネスが個々の従業員の幸福度を上げる3つのポイントとして
- 社会的関係・人間関係の質の改善
- 回復力・レジリエンスの向上
- タスク処理と意思決定への影響
をあげています。
そこで今回は、1番目の『マインドフルネスで職場での社会的関係・人間関係の質を強化・改善する』についてまとめました。
目次
マインドフルネスで職場の人間関係を改善・強化する
具体的には、マインドフルネスがどのように前向きな人間関係を育むのでしょうか?マインドフルネスにおける多くのプロセスが働くと考えられますが、それらの中でも特に重要と考えられるのが『共感』と『応答の柔軟性』です。
共感によって余裕が生まれチームを大切にできる
『共感』と『思いやり』を持って人と接することで人間関係が良好になることは容易に想像できます。「相手の立場になって考える」という視点は、ケン・ウィルバーの意識の発達理論によると、大体6、7歳頃に現れ始め変化・拡大していくとのこと。
ただし、組織でミスをしてしまった、トラブルに陥った、という状況では余裕をなくし、往々にして自己中心的・保身的になりがちです。そこで「チーム全体として問題解決をしていこう」という方向で話し合いをする上で、共感や思いやりの心はとても重要になってきます。そしてこの共感や思いやりは慈悲・慈愛の瞑想で養うことができます。
問題を客観視できるので柔軟な対応が可能に
状況を悪化しうる習慣的な反応・対応、例えば
- 感情的になる、
- 相手を威圧してしまう、
- 逆にコミュニケーションを諦めてしまう、
などを取ってしまう前に、マインドフルネスで鍛えられるメタ認知力や客観視の視点で一呼吸間をおくことができるようになります。一呼吸おくことで、習慣的な反応を減らし、気づきを増やすことで、これまでとは異なった対応ができるようになります。
松村憲さんによるケン・ウィルバーのインテグラル理論の解説でも、マインドフルネスによって自分自身だけでなく相手との関係性まで客観的に観察ができるようになると、エゴや自分へのしがみつきを緩め、関係性を変化させるための視座を得ることができるようになる、と述べられています。
実際元々怒りっぽい人が穏やかになることは研究で示されていて、慈悲の瞑想は敵意や怒りなどの傾向が強い人により効果的であることもわかっています (ref1)。
【客観視・視点獲得のための瞑想】インテグラル理論の”I”と”we”を体感する誘導瞑想
Source : マインドフル瞑想チャンネル
マインドフルネスで穏やかになる?
ではマインドフルネスによって、全員が心穏やかになり対立もない関係性が築けるようになるのでしょうか?
個人的には『NO』だと思っています。
お坊さんのように毎日何時間も座って瞑想や修行をしていたら、もしかしたらなれるかもしれませんが、マインドフルネス瞑想は本来自分が持っている個性や強み、嗜好などを思い出す、自分の短所と思える性質さえ受け入れる、ありのままの自分を受け入れるきっかけになると思っています。
よって現代社会の中で日常生活を過ごしながらマインドフルネス瞑想を実践し『穏やかさ』だけを目指していくと、辛くなってしまうかもしれません。マインドフルネスを実践していた著名人の中にも、どちらかと言えばワガママな人、という印象の方もいらっしゃいますよね、、、
例えば怒りを抑圧してしまう、自分が我慢すればこの場が収まる、と自己犠牲や自己否定の強い人(以前の私自身がそうでした)がマインドフルネス瞑想を行うと、そういった役割を止め、全体を俯瞰して見た時に「ここは言ったほうが良い」と感じたら発言する、というふうに変化するかもしれません。
このように、組織のメンバー一人ひとりが思いやりと共にオープンなコミュニケーションを取る環境ができることで、批判的な言動やエスカレートするパターンや、ことなかれ主義でやり過ごすことなく、対立を解決することができるようになります。
マインドフルネスが社会や多様な人々とのコラボレーションを加速する
これまで孤独や対人関係の苦手感、社会に対する否定的な感情などは、本人が生まれ持っている性格や育ってきた環境によるもの、と考えられてきました。しかし最近の研究ではマインドフルネス、特に慈愛の瞑想を行うことで他者を配慮したり親切にする利他的・向社会的行動を取ったり、社会的な繋がりを感じたり、対人関係でポジティブな行動をとるようになることなどが分かりつつあります(ref2, ref3)。
利他主義(altruism)とは自己の利益よりも、他者の利益を優先する考え方。
向社会的行動(prosocial behavier)とは、他の人や社会全体に利益をもたらす行動、支援、共有、寄付、協力、ボランティア、など。
社会的つながり感(social connectedness)とは、他者との関係における自己の内的な所属感のことで,対人社会との親密な関係にあることの主観的な気づきと定義づけられる。
これらの調査は、
- 社会心理学や経済学の調査で使われるDictator game
- 様々な人々の顔の写真を見せて見知らぬ人の特徴を覚えているか、印象はどうか?
- 大学生に授業の教室に向かう途中の廊下で、苦しんでいる人がいたときに声をかけるか?
などのテストを用いて評価され、瞑想した群とそうでない群で明らかな差が見られたとのこと。
社会的な繋がりを感じ、多様な人間関係(人のタイプや繋がりの強弱など)を構築することで、孤独や不安を感じにくくなり幸福度も高まることも知られています(慶應大学 大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授のTEDより)。また社会的な繋がりを感じている人は、より望ましい対人行動を示す傾向があります。組織やチームにおける良好な対人関係は、組織全体の機能を左右しうる重要な要因です。
さらにマインドフルネスでエゴへの執着や評価判断を手放すことにより、心にスペースができ、コミュニケーション能力そのものも向上する、というデータもあります(ref4)。
おわりに
これからは1人のカリスマ性溢れるリーダーが引っ張っていく組織よりも、多様な人たちがそれぞれの強みを持ち寄って集まり、チーム全体を活性化していくような仕組みがより求められると考えます。そのためにも良好な対人関係、オープンなコミュニケーションは現在よりもさらに重要になってくると思われます。
マインドフルネス瞑想を行うことで、
→幸福度が上がる
→よりポジティブな対人行動を示す
→良好な対人関係が構築できる
→さらに社会的な繋がりを感じるようになる
といった良い循環も期待できます。
組織や集団の中であまり自己主張をし過ぎてしまうと浮いてしまうんじゃないか?といった恐れ(日本的ではありますが)も、マインドフルネスでよりその場に適した伝え方、なども気づく能力が高まり、より良い社会的な関係性・対人関係を築くことで緩和されると期待できます。
近年の日本で多く聞かれる自己責任論、自助・共助の重要性、などに疲弊を感じている方も、気軽にマインドフルネスを始めてみませんか?
現在もし閉塞感や行き詰まりなどを感じていたら、マインドフルネスで状況を変化させるための糸口が見えてくるかもしれません。