今回は、『縁起』と『空(くう)』の概念についてお話しします。
縁起や空といった仏教の教えは、リベラルアーツにも通じるものがあると考えます。ちょっと身耳馴染みがなく難しく思われるかもしれませんが、実はそこまで難しい話でもなく、マインドフルネスとも密接に関連しており、リーダーシップにも応用することで現代社会で不足している新しい視点も得られると考えています。
ということで今回はビジネスマンにもわかりやすく、身近な例をあげつつお話ししていきます。
目次
縁、縁起について
縁と縁起は、仏教の概念であり、西洋の哲学者もこの領域を探求していることがあります。
縁は、仏教では因縁(原因、動機づけ、機会)とも言われます。この概念は、ブッタが悟りを得た際に、その内容として解かれたものとされています。
初期仏教でいう縁起とは、
全ての現象は、原因や条件が相互に関係しあって成立しているものであり、独立自存のものではなく、条件や原因がなくなれば結果も自ずからなくなる
ということを指します。これは因果応報とほぼ同じ意味を持ちます。
ブッダの考える苦しみの因となるもの
因果応報は現代では「悪い行いの報い」のような意味で使われがちですが、本来はブッダの言葉の一つであり、良い行いに対しても使われます。元は「必ず因があるから結果がある」という考え方です。
ブッダは、人の苦しみが何であるかを追求し続けた人物であり、苦しみの因が分かれば苦しみはなくなる、という考えに至りました。そして、苦しみがあるのは、苦しみの原因となる行為があるからであり、行為が起きる原因は煩悩があるためだとしています。
煩悩(感)→ 行為(業)→ 苦悩(苦)
(無明から始まる12因縁説など)
さらにマニアックな話をすると、「そもそも気づきがないから」とか「無知無明というものが全ての苦しみの原因である」という考え方もあります。この辺りは、ブッダのようなインド系のロジカルな頭脳が生んだものであり、結構理解するのが難しかったりもします。
以上のように、縁と縁起には専門に研究している方もおられ複雑な考え方もありますが、これらの概念が発展し、日本では縁起説として存在しているということをここではご理解いただければ大丈夫です。
「空」理論
般若経の「色即是空、空即是色」
「色即是空、空即是色」という言葉は、般若経に登場する有名なフレーズです。
色即是空
『般若心経』等にある言葉で、仏教の根本教理といわれる。
Source : wikipedia
この世のすべてのものは恒常な実体はなく縁起によって存在する、という仏教の基本的な教義。
空即是色
固定的な実体がなく空であることで、はじめて現象界の万物が成立するということ。万物の真の姿は実体がなく空だが、その空は一方的にすべてを否定する虚無ではなく、それがそのままこの世に存在する物の姿でもある意。
Source : goo辞書
これらは、仏教の思想界において重要な概念であり、「空(固定的な実体のないこと)」と「色(いろ、かたちあるもの。この世のすべての物質的存在のこと)」が互いに依存しあっていることを表しています。
この考え方を唱えたのが、2世紀ごろのインドの仏僧 龍樹という人物であり、彼は仏教思想において転換点を作った人物の一人とされています。
彼は著書『中論』において「縁起」という概念について、
『縁起とは他との関係が縁となって生起することである。自己や仏を含む一切の存在は縁起によって成立しており、したがってそれ自身の本性、本質または実体といったものは存在せず、空である』
と説いています。
この龍樹大師が説いたとされる縁起の「相依性縁起(時間や空間を論理的に関係づける)」と呼ばれる考え方は、例を挙げて説明すると、仮にマツケンという一人の人物が一生懸命プライド持って己について考えたとしても、たどっていくと結局はあらゆるものと相互に依存し合っているため、自分自身だけでは成立しない、存在論みたいな感じですけど、在るのは自分という存在だけってことです。
この考え方によって、全ては相互の縁がある中で生起してるもので、そのものの実体といったものは存在しない、という観念が生まれ、それが空の考え方です。
「縁起」と「空」の思想が説く相互作用の重要性
ここでいう「色」とは、例えばビジネス界での世界、組織や自分の役割、仕事など、現実世界で認識している物事を指します。しかし、これらのものもそれだけで成立しているわけではなく、他のものとの相互作用によって成り立っているため、空であるとも言えるのです。
一方、「空即是色」という言葉は、そもそもこの私たちが認識している世界自体が空であるということを表しています。つまり、空が即空であると考えても、それは現実世界の色であり(即是色)、互いに依存し合っているということを意味しています。
この考え方によって、煩悩などの悩みから解放されることができるとされています。ただし、私たちが目指すのは修行ではないので深刻になる必要はなく、考える瞑想のように自然な形で考えていけば、自分自身だけで成立していないという考え方を自ずと理解することができ、気が楽になれるのではないかな、と思っています。
縁起とインタービーイング
以上は仏教に由来する考え方で、現代において発展した考え方が「インタービーイング(相互依存・相即)」です。
これは最近亡くなったベトナムの有名なお坊さんで、ノーベル平和賞に推されたことでも知られているティック・ナット・ハンの言葉で、縁起について現代でも分かりやすく言っている言葉です。
「宇宙にあるすべてのものは相互に依存し合っている」という仏教の洞察を、西洋諸国にもわかりやすく伝えるために造られた言葉です。今日のインタービーイングの考え方は、SDGsの考え方とも密接に関連しています。
「私たちはつながっている、だから自分たちにできることから始めましょう」ということです。ただ、つながっているからといって何もしなくていいわけではありません。空即是色なので、この現実世界の中で、できることをしましょうという考え方です。
幸福への近道
前回は、脳の働きを磨く、ということで感謝やAWE体験がエゴを減らし幸福にもつながる、という話をしました。縁起という意味では、感謝の気持ちが高まると自分自身が存在しないようなセルフレスな感覚が増していきます。それは、非常に良いことです。
現在の脳科学の研究でも、「自分が自分が」と言ってる脳の状態よりも、つながりを感じられる方が脳機能のバランスも良くなり幸福度も高まることが分かっています。また、セルフレスな状態になることで、コンパッションも高まります。コンパッションをさらに自分自身に向けられると、リーダーシップにとってもすごくいいと言われています。
セルフコンパッションをリーダーシップに取り入れる意義
自分に対するコンパッション(セルフコンパッション)は、他人に対するものよりも比較的難しいものです。しかし、自分自身にも価値があると認め、自分もこの縁の中で成り立っていて、自分の中で感謝の気持ちが湧いてきた時には自分自身も感謝の対象の一部だと考えてみてください。
そして、このセルフコンパッションをリーダーシップに取り入れることよって、
といった効果や変化が期待されます。
このように、縁起思考とリーダーシップを関連づけて考えることで、より良いリーダーシップを発揮することができるでしょう。そのためには自身の認知構造を変えていくと、セルフコンパッションを常に意識することができるようになります。
【実践】縁起と感謝の瞑想(4分間)
皆さんは今の会社に「ご縁」を感じているでしょうか? 同僚や上司、お客様などの出会いにも「ご縁」を感じているはずです。 この縁こそが仏教の縁起思想の根幹で、より幸福を高める脳磨きにもつながる「空」という考え方にもつながります。
今回は縁起と空、そして感謝の心を思い出し、より幸福感を高める瞑想をガイドしました。
Source : 瞑想チャンネル for Leaders
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