Source of cover photo: 出雲大社 神楽殿の注連縄 wikipedia Naoki.jpさん
日本人の心の構造とリーダーシップについて、深層心理学やユング心理学の視点から考えてみませんか?
この記事では、これまでの夢分析講座でお伝えした意識・無意識などの内容を踏まえて、日本神話に登場する神々の物語とユング心理学の概念と照らし合わせ、日本人特有の自我や無意識、元型について解説します。
また、日本神話から見える日本人の価値観や思考パターンについて考察し、日本的リーダーシップの強みや課題についても言及します。
海外とのビジネスを行う際には、自分の文化やアイデンティティを意識することが重要です。日本人としての心の構造や日本的リーダーシップを知ることで、自分の強みや改善点を見つけることができます。この記事が、日本人の深層心理を探るための一助となれば幸いです。
目次
日本的リーダーシップは世界に類を見ない
日本人の心の基礎基盤について深層心理学やユング心理学で考える場合、歴史やリベラルアーツ的な学問を通じて語られることは多々あります。今回はそのあたりを夢分析の考え方を元に解説していきたいと思います。
今回は夢分析講座の最後の回ということで、ここで皆さんに少し考えてみていただければと思います。「日本的リーダーシップというものがあるとしたらどんなものだと思うでしょうか?」
私は専門のプロセスワークの勉強をしている時にアメリカに4年間ぐらい通ってたんですけど、その時に「こんなにも違うのか」という経験を何度もしました。
例えば同学年の日本人の学生仲間と何か共同してオーガナイズした際に欧米の方から「なんであなたたちはそんな風にリーダーシップを発揮できるんですか?」と言われたことがありました。最初は何のことだろう?と思いつつ、どうも欧米の人たちとは違う、自分たち日本人特有の動き方というのがあるんだということを、他者を通じて理解した体験がありました。
この点については後編で詳しくお話ししたいと思います。
ふりかえり
第一回では夢分析の基礎として、意識と無意識、シンボリック思考についてお話ししました。
夢に出てくるモチーフは、私たちの無意識のメッセージを表しています。それらをシンボリックに理解することで、自分の人生の物語をより深く読み解くことができます。さらに深層心理学やユング心理学の目的論では、自分の生きる人生の展開には意味があると考えます。
ホロコーストを生き抜いた実存分析の創始者、ヴィクトール・フランクルは、「意味のないことのように見えても必ず意味はあるので、意味を見出した方が人生は豊かになる、充実する」と言いました。私もその考えに賛成です。
第二回には、集合的無意識や元型、シャドウ・ペルソナなどの概念を紹介しました。またリーダーシップにおけるシャドウの影響や、夢分析でシャドウと向き合う方法についてもお伝えしました。
日本人の心の構造を紐解く 日本的元型とは
今回のテーマ『日本人の心の構造とリーダーシップ論』では、ユング心理学の視点から日本神話を読み解いていきます。そこでまずはユング心理学の意識と無意識の構造を少しおさらいします。
意識・無意識の構造の表には普段私たちが認識している自我・エゴがあり、その下に内界があります。そして内界にあるイメージは外側の世界・外界に投影されていきます。
今回は内界のより深い部分に眠る、個人を超えて日本人の無意識に根ざした日本的な元型が普段の私たちの自我や価値観、思考パターンなどに影響を与えている可能性がある、という深層心理学の見方をお話ししていきます。
元型は上のユングの意識構造の図に示した歴史、慣習、学問で言うと民族学や文化人類学といった形で外側に表現されるものとも関連づけられ、日本神話には日本的元型、つまり日本人の普遍的なイメージやパターンが表れていると考えます。
また、日本人のリーダーシップの特徴や課題も、日本神話を読み解くことで見えてきます。
リーダーシップ論を考えると、近代社会でリードしてるビジネスの考え方は欧米思考が強く、欧米発のリーダーシップ論が主流となっています。これは日本のリーダーにしてみると「ビジネスリーダーとはこうあるべきである」といった外からのプレッシャーと感じる可能性があります。これは、日本人の心の構造は、欧米人のそれとは大きく異なるためです。
そこでここから、日本と欧米の心や意識の構造の違いについて解説していきます。
日本人の心の構造は「中空」である
ここからは耳慣れない話が多いかもしれませんが、最後にリーダーシップ論につながっていきますので教養として聞いてみてください。
河合隼雄先生の著書『中空構造日本の深層』の中の、日本の心、国には中空構造というものがある、という考え方を紹介します。
日本という国は、歴史と神話が繋がっていてかつ、それが1000年を超える歴史を持っているという世界でも例を見ない国です。
その国の興りの物語として著名な日本書紀は、より国が形になってから作られたものですが、その前の段階の物語として古事記があります。よって日本人の心や深層心理について研究する時には、古事記を参考にします。
河合先生によれば、世界の多くの国々、特に欧米では、その起源に関する神話や物語で中心的な役割を果たす人物は英雄として描かれることが多いです。
それに対して日本では、最初に現れる三柱の神々、タカミムスビ、アメノミナカヌシ、カミムスビや、後に出てくるアマテラス、ツクヨミ、スサノオというトライアード、3人の神様が出てきますが、不思議なことに神話の中で中心にいるはずの神々は何もしない神・無為の神としてしか描かれず、ほとんど登場しません。そして周辺にいる二柱、他の神々の方が活動的で活躍するというパターンが繰り返される、という特徴があります。
このような日本神話に登場する神々の物語に現れている構造パターンが日本人の深層心理にも影響を与えている、と考えると、日本人の心の構造は中心が空洞であるという特徴を河合先生は提唱しています。
つまり欧米型リーダーシップは「中心を取りに行く」という姿勢ですが、日本的なリーダーシップは、中心が空洞である構造(中空構造)を持ちやすい、という大きな違いがあります。
中空構造を基本とした日本的リーダーシップのメリットとデメリット
この日本的な中空構造にはメリット・デメリットがあり、無であり有でもある状態にある時にはとてもよく機能します。なんともいえない、あるようなないような、といった状態がうまくバランスされている時には、中空構造が機能します。
これは、とてもいい形での日本的リーダーシップの発揮の仕方と言えます。
具体的には、
・どんどん前に出ていくリーダーではなくて、中心にはいないけれどもみんなが中心に寄っていく
・その人がいないと機能しないけれどもその人が引っ張ってるわけでもない
といった感じです。
デメリットとしては、文字通り「無」のみとなれば全体のシステムは脆弱となります。例えば、リーダーがいない、何もしない、何も決めない、誰が指導してるのかわからない、といった状況はグループや組織レベルでも時々見られる状態です。
一方、日本の中空均衡モデルのメリットは、相対立するものや矛盾するものをあえて排除せず、共存しうる可能性を持つことです。中空構造がうまく機能するためには、論理的整合性ではなく美的な調和感覚が重要で、これは今、日本が世界に輸出すべき価値観の一つかもしれないと思います。
美的な調和感覚の例として河合隼雄さんがよく仰っていたのは、世界中の建築家たちと話をすると日本の地下鉄の成り立ちにとても驚かれるのだそうです。
中心から考えられてる設計が全くないのに、絶妙なバランスで地下鉄の複雑な構造が成り立っている、ととても驚かれるという話で、まさにこの中空構造的なものの外側への現れなんじゃないか、と話されていました。
日本神話・古事記から理解する日本人の成り立ち
僕の直接の心理学の先生、老松先生のユング派心理学と日本人論という話も興味深いので少しご紹介します。
ご存知の方も多いかもしれませんが、日本の神話の中で3つの国に分れていく成り立ちがあり、父なる神、母なる神としてイザナギ・イザナミが出てきます。今回のお話と直接関係はしてないので触りだけお伝えしますと、国を作った時にイザナギとイザナミが日本の父と母として物語に出てきますが、子供を産んだ後にイザナミが亡くなってしまい、黄泉の国という死後の世界に行ってしまいます。
夫のイザナギの方は、どうしても妻に会いたくて「来ないで欲しい」と言われたにも関わらず、追いかけて黄泉の国に入っていってしまいます。そこで、イザナミは「追いかけてきてもいいけれど、決して私の姿を見ないでください」と言います。
しかしイザナギは結局好奇心から、イザナミの姿、肉体が腐敗して醜い姿のイザナミを見て恐ろしくて逃げ出してしまい、恥ずかしい姿を見られたイザナミの方は怒り狂って追いかけてくる、これが元型的な恥とも言われたりしています。
その後、黄泉の国から戻りイザナギは逃げ切るんですけど、その後に川で黄泉の国の穢(けがれ)を禊ぐ、つまり水で汚れを落とします。これも水に流す、という日本文化の特徴的な部分でもあります。この穢れを落とす時に生まれたのが、アマテラスとツクヨミとスサノオの三神になります。
そして父親のイザナギの采配により、アマテラスという女性神は高天原系(顕界)という神々の高い世界を司る神となります。現在の伊勢神宮ですね。そして真ん中に中つ国があり、より低いというか地上的なところに出雲系(幽界)に弟のスサノオは送り込まれます、こちらは現在の出雲大社系です。
天照大神 – 世界でも珍しい女性の太陽神
天照大神、皆さんご存知でしょうか。
日本神話の主神であり、天皇の祖先であるとされ、伊勢神宮において最高の神として崇められています。世界的にも珍しい女性の太陽神です。
太陽は明るい世界や太陽系の中心として象徴されます。世界中の神話では、基本的に太陽神は男性として描かれることが多いですが、日本は女性の太陽神が存在するということで、注目されています。
またアマテラスは高天原(たかまがはら)という神々の世界の最高権力者でありながら、その政治は合議制で、神話の中では自ら積極的にリーダーシップを発揮する機会はほとんどありませんでした。
これは、日本型リーダーシップの特徴として挙げられるものであり、老松先生はこれを【アマテラス性】と呼んでいます。つまり合議制で自分が決めるでもない、自ら率いていくようなリーダーシップを使う機会もない、ということです。
日本人の自我形成に関わるアマテラスの元型 – 誇大性
ここでは、心理療法的な観点から天照大神の元型について考えてみます。アマテラスは、生まれながらにして最高位の地位にあったため、最初から高すぎる位だったんじゃないか、ということでアマテラスの元型には誇大性があると言われています。誇大性は、自分自身ではなく外的な要因によって高いポジションにある場合に生じるものです。
「それってどうなのか?」という疑問を持つことで、誇大性は崩れていきます。この誇大性を崩し、原点に戻す役割を担ったのが、弟のスサノオでした。
後編でより詳しくお話しますが、スサノオは荒ぶるパワーをコントロールできないような一見幼稚にも見える神様になります。
天照大神に対して敵対的な態度を取り、実力がないと暴かれることで誇大さを打ち砕かれ、誇大性から抑うつへと移行しました。これは自己愛性人格障害という心理的な障害に似ており、日本人の心理にも根深く影響していると考えられます。
自己愛性人格障害の特徴として「本当の自分を愛せない、大切にできない、本当の自分に自信が持てない」というものです。その結果、「自信のなさを隠すために誇大に振る舞う」という行動パターンが見られます。これらも日本人の自我形成に深く関わっている要素と考えられます。
日本人の集団主義的な傾向の背景も三神の成り立ちから
同じく、日本人は集団主義的であり、権威や価値観は自分の内側ではなく外側にあると感じ、外部に合わせて行動する傾向があります。
このような日本人の自我形成の背景には、イザナギ、イザナミから生まれた三神(天照大神、スサノオ、月読命)の神話、幼児期早期のトラウマが影響していると言われています。
例えば、三神が生まれた時の神話では、幼児期早期の持続的な見捨てられや無視が描かれています。具体的には三神が生まれた時から母親がいなかったり、父親であるイザナギが母親から受け継いだ体液を穢れとして川で洗い流したことで三神が生まれました。これらの背景は、自分を愛せない、大切にできない、自信が持てない傾向のルーツとなっていると考えられます。
アマテラスの神話 – 天岩戸
アマテラスとスサノオが出てくる神話としては天岩戸(あまのいわと)神話という、アマテラスが天岩戸にこもってしまう有名な話があります。
この神話では、スサノオが高天原で暴れる様子を見て、アマテラスは怒りと恐怖に震え、天岩戸(岩の洞窟)の中に隠れてしまいます。するとアマテラスは太陽神なので、世界から光が失われ暗闇に包まれてしまい、大変困ってしまいます。そこで八百万の神々が集まって相談し、アマテラスを誘い出す方法を考えますが、中々出てきてくれません。最終的には、外で楽しいお祭り事みたいなことがあった時に、あまりに楽しそうな笑い声が聞こえてきたのでアマテラスはようやく少し顔出すんですね。そうするとものすごい光が溢れて入ってきます。
その光は差し出された鏡の中に映ったアマテラス自身の太陽性、輝きでしたが、アマテラスは「新しい太陽の神なのか」と思い、その光に驚くという話があります。そこから紆余曲折を経て、世界に再び光が戻るという神話が残されています。
この神話からわかるように、アマテラスは太陽神でありながらも引きこもりや自分自身を軽視する傾向があります。しかし、自分の本質を思い出す、自身が太陽神であることに気づくことで自信を取り戻すことができました。日本人の深層にはこれらのアマテラス性が影響していると考えられ、自分の価値や能力を過小評価しがちです。しかし、自分の内なる太陽性に目覚めることで、より中空構造的なリーダーシップや創造性を発揮できるようになれる、とも考えられます。
これまで日本人の自我形成に影響を与えた日本神話の一つ、アマテラスについてお話ししました。
後編では、もう一つの重要なキャラクターであるスサノオと、東洋と西洋の意識構造やリーダーシップの違いについてお話ししていきます。
(記:s子)
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