小島美佳:マインドフルネスの難しい点やデメリットについて松村さんと2回に分けて対談していきます。
前編の今回は、
- 効果が実感できるまで時間がかかる
- 習慣化することが難しい
の2点についてお話していきます。
まずは①の『効果が実感できるまでに時間がかかる』点について松村さんの思うところを聞かせてもらえますか?
目次
マインドフルネス瞑想の効果が出るまで どのくらい?
松村憲:はい。マインドフルネスってまず、様々なところで「やるといいよ」と効果について言われるようになったけど、一発で「これはいい!」っていう成果が出る話ではないですよね。
小島美佳:確かに。
継続することで効果を実感できる
松村憲:「習慣化しないと脳は変わらない」とよく言われるけど、その通りで。僕は「1分だけでもいいですよ」とか実践する人に言ったりもするんだけれど、本当に1分でもいいから、『今ここ』に意識を向けることを三ヶ月続けられたら、変わってくると思うんですよね。つまり、効果や変化を実感する上で大事なのは継続するってことです。
だけど、「15分座ったら、すごい雑念だらけな自分に気づいて、嫌になっちゃって、やめちゃいました」とか、「自分には効果がないんだ」「雑念が逆に増えちゃって良くないです」と言って効果が出る前に諦めてしまう人も多いですよね。
その辺をどう乗り越えるのか?っていうのが、続けていく上での最初のテーマかと思います。
中途半端に途中で止めてしまうと、気持ち悪いままになってしまう
小島美佳:そうですね。
どの瞑想の流派だったか忘れましたが、瞑想を実践する際の例え話で、水の中に飛び込んだ感じのイメージを聞いたことがあって。最初は、たくさんの泡のようなものがワーッと出てきて、その泡が全部なくなるまで待つと静けさがやってくる。けれども、泡が出てきている状態の途中で止めてしまうと、自分の中にある雑念系に意識が向いた状態で終わってしまうので、余計に気持ちが悪い、と。この例え話は、結構、的を射ているなと感じますね。
松村憲:まさしくそうですね。
最初誰もがそこは通らざるを得ないようなところがあるから、どう乗り越えてもらうかってのはあるかな。
<マインドフルネス瞑想で疲れたり気持ち悪くなった時に行う5分間瞑想>
Source : マインドフル瞑想チャンネル
小島美佳:そういうのは、誰かに教えて貰いながらやらないといけないのかな…。例えば自己流でひたすらマインドフルネス アプリで瞑想を続けていても、途中でやめちゃっていたらずっとそのまま、ってこともあるかもしれないですね。
松村憲:そうですね。
アプリは習慣化という点では素晴らしいメリットもあると思います。ただ、先ほどの例えの「泡がいっぱい出てきた」状態に対して、「それでいいですよ。瞑想がうまく言っている証拠です。続けてみましょう!」みたいに言ってくれる人はいた方がいいですよね。そういう自己承認を最初はたくさん貰わないとやっぱり「これで良いのだろうか?」と迷うでしょうし、迷い自体が雑念として増幅して続けるのが辛くなっちゃうと思います。
即効性を期待しない
小島美佳:そうですね。
楽器を習ったりスポーツをやるのと同じような感覚なんだ、ということが分かっていないと、即効性を期待してがっかりしてしまうことがあるかもしれない。
松村憲:それはすごくあると思います。
小島美佳:なんとなく「素晴らしいものなんだよ、良いんだよ」といった宣伝が今は先行してしまっている時期だと感じます。
松村憲:そうそう、すぐ明日から効果が出る訳ではないから、トレーニングをしましょう、という話になるわけで。
ただ続ければ確実に変化を実感できるので、そうなってくると楽しいですよね。
マインドフルネス瞑想をどこまで習慣化させる?
小島美佳:次に②の「習慣化が難しい」というところで私の感覚をお話してみたいと思います。
例えば、夜寝る前に瞑想してスイッチがうまく切れた状態で睡眠に入るみたいな、そういう習慣化はやりやすい。これ、最初のステップとしては良いと思う。でも、動きながら…日常生活の中で仕事をしている時とか、スポーツをしているときなど動的な動きがある中でうまくマインドフルな状態を作ると言うのは、次のステップとして相当難しいことだと思います。
マインドフルネスの効果でよく言われる「客観的に見えるようになります」、みたいなのを実際に普段の生活において応用できている状態をつくるのは大変だよね、ぶっちゃけ…っていう。
日々の生活にマインドフルな気づきを
松村憲:そうですね。
本当は、日常のちょっとしたところにもいくらでもマインドフルネスって応用できると思うんですけど、それを伝えるのは なかなか難しい。
例えば、外を歩いている時にフッと風の匂いと雨の感じと湿度を感じるとかでも、本当はパッと『今ここ』に戻れている。それがマインドフルな気づきだと認識することが大事ですね。
習慣化の例としては、お皿を洗っている時でも「あ、今お皿洗ってる」と気付いたり、「今日もこうだった、ああだった」と自動的に雑念が湧いていることに意識が向いていることにハッと気づいて「今ここ」に戻る、みたいなことは日々の生活の中でできると思います。
小島美佳:うんうん。
松村憲:そういう意味ではある種のパッという集中力だったり、意識がいつのまにぼんやり手綱がどこかに行っちゃっているのを戻す。ビジネスマンだったら、会議の最中になんか面白くないなぁと思って、そのうち違うことを考え出して…。方々に行っちゃっている思考や自分にハッと気付くみたいな。
小島美佳:そうですね。
松村憲:そういうことかなぁと思うんですけれども、それは難しいことなのかな?
継続・習慣化によって 集中や客観的な気づきはできるように
小島美佳:私の中では、瞑想を始めてから常にそういう意識が持てるようになるまで、割と訓練と時間が必要なんじゃないかなって気がしています。元々できやすい人もいるのかもしれないですけど。
松村憲:確かに、そこまで行くのに訓練は要る気がします。ある種の集中力も要りますね。
小島美佳:例えば一回入ってしまったスイッチを切るのが難しい。
ビジネスの場面でいうと、相談を受けた時に相手のシチュエーションとか聞いてると、「そんなのこうこうこうすればすぐ出来るじゃん!」とバーッとアドバイスを始めちゃうスイッチがあったとして…。本当は内心、もうちょっとコーチング的なアプローチを取りたい、と思っているんだけれど、今までの経験から自分の脳の中で「反射的にアドバイスを始めてしまう回路」があまりにも強くなっているので、気付けない、みたいな。
その時には交感神経優位でアドレナリンがバンバン出てて、スイッチを切れなくて…。一通り言ってしまった後から「あ、またやってしまった…」って気づく(笑)。入りやすいスイッチに入ってしまった時の、自分に対する客観的な気付き度、みたいなものは、かなり訓練は必要なんだろうな、という気はしますね。特に 戦いの場?のような場所に長くいる人の場合…
松村憲:なるほどね。やっぱり、なにかしらのそういう訓練が必要なんだろうなぁ。ぼくはヨガをやっていたりもするから、気づきやすいってのはあるのかもしれない。
習慣化で得られるマインドフルネスの効果
松村憲:やっぱり基本は習慣化の話になってしまうけれども、意識を『今ここ』に向けるという感覚を知るとか、止まらない雑念があってもオッケーみたいに思えるようになるといいですね。
先ほどのスイッチを切れないという話も、それ自体が悪いのではなくて「こういう傾向 俺あるな、またやっちゃってるな」という客観的な認識が入り始めるとマインドフルネスですよね。瞑想をある程度続けていると自然と起きてくると思うんだけどね。
小島美佳:そうですね。
松村憲:続ける人はマインドフルネスを習慣化できると、ある程度は穏やかになるんですよね。
先ほどの話で言うと暴走しちゃって終わってから気付く、みたいな前に、脳の中で起きている変化、扁桃体がスイッチを入れて交感神経優位になってバーッと喋っちゃうみたいなのが抑制されてくるというか落ち着いてくる。
同じような状態に陥ってもなぜか落ち着いて聞いていられるようになったり、自分の反応パターンを変えてもいいかなって気になってくるというか。
小島美佳:そうそう。
松村憲:「前の俺ってこうだったかもな、認めたくないけどなんであんなことしてたんだろう」ってそういう気付きになってきますよね。
小島美佳:そうですね、あと感覚としては、アドレナリン スイッチみたいなのが入りそうになる時に「あ、なんか入りそうになっている」ということに前もって気付けるようになるっていうのは、すごくありますね。
松村憲:そうですね。
小島美佳:自分自身でいうと、ビジネスの場面では結構大丈夫になってきたなーって感じはあるんだけれども、スポーツをやっていて体を動かしている時って「自分自身の体が今どういう状態になっているのか?」とか、「一体今自分が何をやっているのか?」というところにまで、まだまだマインドフルになれてない感じがしています。
マインドフルネスの難しさ – スポーツと同時進行で
小島美佳:例えばバスケやテニスをやっていて、今自分がすごくテンションが高くなって熱くなってしまっていることには気付けると思うんだけど。それに気付けるってだけでだいぶ違うとは思うんだけども、自分の肉体がどういう風に動いているのか?ってことにマインドフルになるのは、私自身の次の課題であり、難しい。
個人的な話になるんですけど、趣味でやってる乗馬をしている時、自分の体が傾いていることに気付かないとか、馬の状態に気付いていないとか、今 馬がこれを嫌がっているということに気付けない。マインド以外の身体感覚のところにも気付けなきゃいけない要素っていうのが運動している時は増えるような気がしていて。そこはより難しいと感じます。
松村憲:それはそうなんじゃないかな。
でも、いわゆるマインドフルネスかどうかわからないけれど、上手く行っていないことに気付くっていうところは、ちょっとメタな視点じゃないですか。それがあった上でのトレーニングっていうのは、全然違ってくると思うんですよね。
小島美佳:わかるわかる。
同時進行的に自分の体のビデオを観ているような感じなのかな。
マインドフルネスの目的をどう据えるか?
松村憲:そういう意味ではスポーツや乗馬とかって、めちゃめちゃ進化系マインドフルネスだと思うんですよね。
伝統的なマインドフルネスはパッシブ(受動的)過ぎる面がある。ベースは仏教になるので、ゴールが解脱になってしまう。ゴールが解脱だったら、そもそも乗馬はやらなくていいしアスリートにならなくていいし、ビジネスもしなくていいですよね。
現代のマインドフルネスにはバランスが重要
でも今の現代人が自己を高めたり、アスリートが自分を高めるためにマインドフルネスを活用することを考えると、気づきによって余計な心配をせずに、必要なことに意識を集中することに貢献できる。ただパッシブなだけではだめで、その意識を使って能動的にトレーニングしたり、行動していかないとダメですよね。能動的な注意力と全体を見てる注意力、その両方を高めていく必要がある。この話はなんだか面白くなってきました。
小島美佳:そうですね。
松村憲:アスリートがマインドフルな意識を使うとか、サッカーでも以前からマインドフルネスを取り入れているチームがあるんだけど、仏教方面に行っちゃだめだよね、って思います。最終的には矛盾しないんだろうけれど、それこそアスリートには交感神経優位な状況が必要じゃないですか。
そのあたり、ビジネスの場でマインドフルネスをすることで本当に業務効率が上がるのか落ちるのか?みたいな議論になったときに、一時的に混乱して落ちることはあっても、全体としてパフォーマンスが上がる可能性は大いにあると思っています。
ただ、注意の使い方を内側に向け過ぎると効率が落ちることはあるだろうなという気はします、デメリットとして。
小島美佳:そうですねー、多分仏教的な観点から自分を高めるためにマインドフルネスに入り過ぎると、「そもそもビジネスをしなくてよくない?」みたいな境地に行ってしまうことはあると思うので、プラクティスをしている本人自身が、マインドフルネスをどんな風に応用していくのかっていうことを模索していかなければならないのではないかなと思います。
引き続き、マインドフルネスのデメリットを考える(後半)では『魔境』について対談します。