不安や恐怖心を マインドフルネスで克服する -スポーツやビジネスへの応用 –

 『不安障害の治療としてのマインドフルネス認知療法の効果|高所恐怖症を例に』の続きで不安や恐れとどのように向き合って行ったら良いか?という具体的な方法についてお話していきます。

マツケン:前回の記事は恐れをどう扱うか?というテーマで心理療法士であるイーストコット氏が自身の高所恐怖症の例に何ができるか?というアプローチした体験・体感や効果について詳細に解説していました。

暴露療法 x マインドフルネス

マツケン:暴露療法は恐怖の元となった恐怖体験に少しずつ晒すことで許容範囲を広げていく、慣らしていく療法です。本来専門家の指導の下で行うもので、素人が安易にやるのは危険な方法でもあります。
 実際、暴露療法は認知行動療法よりも歴史が古く、以前はやり過ぎて再トラウマ化した、などの報告もありました。そこに近年マインドフルネスが出てきたり、トラウマの研究が神経科学的に進んできて、それらと組み合わせることで現在ではより効果が増してきています。

 基本的に多くの人は潜在的な恐れを何かしら抱えているもので、そこに恐怖がやってくると回避しようとします。例えば高所恐怖症の人の場合は、高いところが怖いから、そもそも高いところには近づかないという行動をとる、などです。

マインドフルに恐れの感覚・反応に気づき感じてみる

 なので恐れの感情があると、無意識のうちに回避しようとするんですけれども、前回の記事でイーストコット氏がやっていたのは、恐れが来た時に「大丈夫大丈夫、ちょっと恐れを見ましょう」と。そしてよりマインドフル的なアプローチで見ると「体のこの部分が緊張しています」とか「ここにこういう感覚があります」といった、『Here and Now』で今起こっている感覚を具体的な恐怖の身体反応として気づき感じるんです。「恐れ」というふわっと漠然としたものではなくて。
 恐れの感情が起きるとそれがトリガーとなり、脳神経科学的にも身体反応・ストレス反応が出るはずなので、「そういう反応があるよね、あるよね」と気づき認め続けていくと、恐怖はずっとは続かないですよ、というのが基本的な考えです。

その結果、許容量が増える

 また恐怖から逃れるのではなくて、見ていく、ちゃんと感じられるっていうことができると、不思議と許容量が増えるんですね。
 今まで高所が怖くて行くのも怖かったんだけれども、ちょっと暴露して「あー大丈夫だった安全でした」と体験する。高い所の映像を見るだけで「怖い怖い」と思っていたけれども、怖いという感情が過ぎ去ったら「ただの映像でした」と気づくとか。

 こういったことを少しずつ繰り返していくと許容量も増えるし、暴露された分 大丈夫にもなってくるし、抑圧していた感情も解消され解放されていきます。この感覚や感情をマインドフルに見ていくことがマインドフルネスの応用のポイントになると思います。

 そして気づいたときにはそれはもう怖い対象ではなくなるので、例えばイーストコット氏のケースでしたら、クライミングの時にも高所も適切な恐怖で済むようになると思うんですよね。全く怖くなくなるような時折そういう人もいるみたいですけど、逆に危ないだけなので、適度な恐怖にまで落ち着くのがベストです。

潜在的な不安や恐れ・恐怖の解消にも応用可能

 同じようにこういった不安や恐れ、認知の歪みは実は誰もがみんな持っています。
 そして人が変わりたい、変化したいという時に何がブロックになるかというと、感情としては恐れなんです。だからこれらの不安障害へのアプローチは高所恐怖症の治療だけでなく、人が変化する際にも応用できます。

 例えば何かあるものに触れたときに奥底に恐れの感情があると、いろいろ反応的なアクションやブロックをするんですけれども、そこで「これが怖かったんだ、でも今は大丈夫なんだ」と認識すると恐れの感情が解放・解消されます。
 すると、そのすごい反応していたものを適切に落ち着いて見られるようになってきて、次のアクションが変わってきます。
 高所恐怖症を例にすると、「高いところは絶対ダメ、無理」というアクションから、高いところに対する不安と共にあることで少しずつ解消されると、「高いところは怖いけれど、クライミングも好きだからやってみよう」などのように、リアクションが変わっていくのだと思います。

スポーツでの失敗体験、トラウマの克服

小島美佳(以下 小島):この記事に関連してマツケンさんに聞いてみたいんですけれども、スポーツの世界、特に私の場合は乗馬ですけれども、馬に乗っていると恐怖が来ることがたまにあるんです。

 具体的な例を挙げると以前私が落馬した時、基本的に乗馬の世界って落馬した後は「乗れる場合はすぐに乗れ」って言われるんですよ。多分それって暴露療法に近いのかなと思っていて、残っている恐怖をその場ですぐに克服させるみたいな。そうしないと戻って来られなくなるっていうのが定説で、落馬後に「大丈夫ですか、乗れそうですか?」って絶対に聞かれるんですよ。

 なんか肉体的にアドレナリンが出ちゃってるのか「大丈夫だと思います」って言いながら大体みんな乗るんですけれども、私の場合は落馬した後に乗った時は感覚的には「あれ?なんで落ちちゃったんだろう?」って自分では冷静だと思っていたんです。

自己認識と恐れの乖離

小島:むしろ落ちた瞬間の力んでいた感覚はなく、思いの外リラックスして乗れちゃったから、自分の体にそんなに緊張は残ってもないのかもって思ったんですよね。でも落馬したポイントに馬が行った時に、手綱を握っている自分の左手を見たら震えていたんですよ。「何これ、手が震えてる」と思って自分の認識と体に残っている恐怖との間の乖離を目の当たりにすることができて、結果的にすぐ乗ってよかったなって思ったんですよね。
 でインストラクターもそういうのを何回も見てきているし、あえて少し難しい動きもさせたりして、その時は「まじか」と思って終わったんですけれども。

 振り返ると落馬後すぐに馬に乗って暴露療法的なことをやり、自分の手が震えていることにも気づきトラウマが残っている状態の自分を比較的マインドフルに捉えることができた、みたいな感じだったのかなと思って。
 この感覚はマツケンさん的にどういう風に解釈できますか?

暴露療法で成功体験を上書きできる

マツケン:落馬の恐怖が残らないようにすぐ乗せるのはさすがですね、まさに暴露療法だと思います。
 後は暴露療法によって一旦恐怖を感じ、潜在意識に眠っていた恐れの方が手の震えとして現れたんですよね。でも、認知の方では「ちゃんと安全に馬に乗れた、大丈夫だった」と体験して理解をつけておくと回復しやすいんですよ。

 恐れの体験が残ってそこにポジティブな経験が乗らないと、無意識のうちにどんどん乗馬から離れていってしまうということが起こりやすいし、また間が開いてしまうと潜在的な恐れから回復しにくいっていうのがあります。その点、スポーツの世界はさすがだなぁと言う気がします。

小島:なるほど。潜在意識に残ってしまった恐怖みたいなものを、すぐに乗ることによって認知の世界で「大丈夫」と上書きし恐怖心から早く回復することが可能になる、という理屈なんですかね?

マツケン:そうですね。
 その後少しトラウマ反応は残るかもしれないけれど、戻るときの手綱になりますよね。そこで失敗で終わりにしていないという点でも。

リーダーシップ変容でも課題になる『恐れ』

マツケン:リーダーシップ変容でも多くの場合ここがキーになるんですよね。コーチングで、『恐れ』までたどり着けない。でも本当は深く関わる時って、こういうところに触れられるといいですよね。
 暴露療法までいかなくとも「まぁそういう恐れがあったんだなぁ」とか「でも今の自分は大丈夫だ」みたいなリソースや体験・認知をしっかりと置いて、恐れの感情は解消しつつ、認知の歪みも書き換えると、かなり良い変化が起こると思うんですよね。

 多くの場合、その恐れの感情を奥に閉じ込めてしまって気づいていなくて、怖さに触れる前に防衛してしまうパターンができてしまっているんですよね。だから気付けないとなかなか変われないというか、「これってどうなんですか?」と尋ねると、触れられたくないと無意識に防衛されてしまったりとか。
 変わりたいのに変われない、という場合、奥底に残るトラウマみたいなのはきっとありますよね。恐れの感情の典型的な反応、認知の歪みみたいな。

パワハラをしてしまう人、されてしまう人にも

小島:そこまでやろうとすると誰かの助けを必要とするかもしれないけれど、これをビジネスへの応用という視点で考えると、パワハラをしてしまう人や受けて萎縮してしまった人にも応用できないかなぁと。まぁ暴露療法となると、「治療のためにもう一回その人に怒鳴られましょう」とかはきついと思うんですけれども(苦笑)。

s子:こういった療法をパワハラ被害からの回復などに応用できたら良いなと思いますが、一方で素人がやろうとするとすごい危険もあると思うんです。例えばVRで高所の克服をして無敵の人になってしまって、実際に事故も起こりかねないとか、、、日本でトラウマを本気で直したいと思ったら、具体的には心療内科とかに行ったら良いんですかね?

【アンガーマネジメント瞑想】

Source : 瞑想チャンネル for Leaders


マツケン:そうですね、これは精神科の分野ですよね。心療内科とか心理療法ができるセラピストか、トラウマの治療になってくるとカウンセラーもいる医療機関が望ましいです。

s子:なるほど。
 ではリーダーの方が自己変革したいけど、自身の中の恐れを認められない向き合えないみたいな方も、心理療法士の資格を持っている人のセラピーを受けるといいんですかね?
 個人的には日本はメンタルヘルスケアに関してはだいぶ遅れている印象があって、不安や恐れを解消する際に人の手を借りるよりも根性やストレス解消で乗り切れみたいな。ビジネスマンが自分で必要性を感じて自発的に心療内科とかに行くのって、まだまだ敷居が高いと思うんですよね。

恐れや不安に気づき、感じる方法

マツケン:健康を害するような症状のある人は、精神科とか心療内科に行ってくださいというのが大前提として、、、
 例えば日々の生活の中で自分を変えていきたい、と思った場合には「恐れを見つけたら感じてみましょう」とか、マインドフルネスをおすすめしますね。

マインドフルな観察が活きる

小島:そうですね、まさにマインドフルネスですよね。
 恐れを感じた瞬間に、自分の体のどの部分がどう反応していて、その中で起こっているマインドの状態はこんなであんなで、みたいな吟味すればいいってことですよね。

s子:あの、、、マインドフルネスを数年かじった私でも、カウンセラーさんやインストラクターさんなどのプロの方の経験やガイドなしに、まず自力で自分の中の不安や恐れに気づくことが難しいと思うんです。
 なので自分の中の不安や恐れによって出てくる身体反応を以下にまとめてみました。

■ 不安や恐れなどストレスを感じた時の身体反応の例

  • 不眠、過覚醒
  • 頭痛、肩こり、腰痛
  • 腹痛、吐き気、嘔吐、下痢、便秘
  • 疲労、倦怠感
  • 動悸、心拍数が上がる、胸が痛い、胸苦しさ
  • 発汗、息切れ、息苦しさ
  • めまい、ふらつき、気が遠くなる感じ
  • 感覚麻痺、うずき、痙攣、体の震え
  • 冷たい感覚、熱い感覚

引用元:厚生労働省HP『こころもメンテしよう』『こころの耳



小島:不安や恐れに気づいて吟味した後、ビジネス視点に立つと、「吟味した後はどう対処すればいいんですか?」って疑問が出てくるかと思うのですが。

マツケン:そうですね、認識・感覚・感情のサイクルを回すという感じです。
 なので「吟味した後は、自分の考えや行動は変わりましたか?」と聞きますね。

小島:なるほど。
 私の落馬体験を例に、あの時に自分の中で起こっていたことを回想して吟味してみると、、、
 自分の中の恐れに気づいた時、馬の力強さみたいなものが自分を凌駕しそうになっている怖さがあって、手の内にない、自分が馬についていけていない感覚、馬の方が優位になっている感じがあったのかもしれないですね。と吟味してみました。

 で、その次に出てくるマツケンさんの問いはどういうものになるんですか?

不安や恐れから逃げず、1分間でも感じ続けてみる

マツケン:「その恐れや不安と一緒に座ってみましょう。最初は1分間やってみましょう」とかまず先に時間を決めてやってみます。そして「その後どう変わりましたか?何か変化ありましたか?」とたずねます。その結果、変わっても変わらなくても、その変化のプロセスを感じていること自体に意味があります。

小島:不安と一緒に座るということをある程度やると認知に変化が起こります、という事ですか?

マツケン:そうですね、何かしら認知の変化は起こりますし「何も変化は起こりませんでした」と言う人もいますが、認知に変化を起こす土壌が整います
 なぜなら、仮にちょっと偏りのある認知が自分の中にあるとすると、それを作り出した恐れなどの感情があるので、そこに気づいて消化された分、変わりやすいんですよね。
 なので素直な人とか感度の良い人は、それだけで変化すると思います。逆にカッチカチな認知人間の方の場合は「変わりません。わかりません」と言ったりしますが「では、その認識でこれからも行きますか?」と聞くと「いや、変えます」みたいなお話になるので。

小島:なるほどなるほど。まとめると、
step1 不安や恐れと共に座る、そしてできる限り吟味します。
step2 その中で起こってくるほんのささいな事でもいいので何か変化があったら、自分でそれを認識しましょう。
 そこまで辿り着けたら大成功で、その後もし似たようなことが起こったときは、同じ反応が出るかどうか?を自分で検証してください。
 みたいな感じですね。

マツケン:そうですね、そういう風にやっていけるとまさに『認知行動療法 x マインドフルネス』の領域ですね。

【実践】不安と共に座る瞑想

 不安や恐怖などを感じたときに、自分の体がどういう風に反応するか観察し、リラックスしながら感情と共に座るための瞑想をガイドしましたので、よかったら使ってみてください。 

Source : 瞑想チャンネル for Leaders

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ABOUTこの記事をかいた人

大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの