マインドフルネスが適さない業種とは?良い効果を引き出すための4つの戦略

 アメリカでは、既に大企業の半数以上で従業員にマインドフルネストレーニングが提供されているとのこと。これ程浸透しているのは、やはりマインドフルネスの有用性・効果を実感している人々・組織が多いからだと考えられます。一方で、これまで『マインドフルネス瞑想をやってはいけない人 三つの層』でもお伝えした通り、マインドフルネスは全ての人に良い効果をもたらす万能薬ではないことも明らかになってきています。
 さらに最近の研究ではある特定の業種の人たちにとっては、一律的なマインドフルネス介入がむしろ悪影響・有害となることもわかってきています。

Where Mindfulness Falls Short(ハーバードビジネスレビュー)』の記事からのご紹介です。

マインドフルネス介入が適さない業種とは?

 職務上、不快と感じてもそれを表に出さないことが望ましいとされる業種(具体的には、営業、ウェイター、クレーマーとのやり取りの中でも笑顔を見せることが求められるカスタマーサービス担当者など)の場合、その瞬間に感じている自分の感情に注意を向けることが仕事に悪影響を与える可能性があります。このような感情労働(Emotional labor, 仕事をする上で自身の感情を管理し調整するプロセス)を求められる業種では、一般的なマインドフルネストレーニングを行うと仕事への満足度が下がる、といった調査結果もあります。

なぜ適さないのか?

 一般的なマインドフルネスでは、『今ここ』にある私たちの身体的および感情的な状態に集中します。 瞑想、呼吸法、ヨガやその他のトレーニングによるマインドフルネスの実践は、

  • ストレスや不安の軽減
  • 客観的な観察能力によるコミュニケーション能力の向上
  • 不眠の改善
  • 葛藤の解決
  • 攻撃性の減少や、意思決定への柔軟性
  • 依存症やうつ、認知症への効果

まで、様々な効果が報告されています。

 一方で感情労働では、仮に顧客に対して不快と感じる出来事があったとしても笑顔で貼り付けて仕事を続けることが、仕事の生産性にもつながると言われています。
 よって例えば、ストレスの軽減を目的にマインドフルネスを始めた結果、これまで気づかずに平気だと感じていた不快な感情・感覚に気付くことで、仕事に不快感を覚え仕事を続けることが難しくなるケースがあるそうです。

 マインドフルネスのメリットのみを享受することができれば、目的意識を持って仕事をし最善を尽くすこともできます。しかしそこに到達するまでにはかなりのトレーニングが必要となります。

 サービス業だけでなくビジネスの構成要素には気分が良くないものも含まれているもの。そこに一辺倒なマインドフルネストレーニングを行い『ありのままを評価判断することなく受け入れる』ことで、今まで気づいていなかった不快感への認識が深まり、スムーズに仕事を行う障害となる可能性もある、、、とのこと。

マインドフルネスの短所と長所を理解し、業種や個人にあわせた導入が望ましい

 こういったデメリットは表層演技(Surface acting)を必要とされる業種に携わる人たちに特に多く見られました。
 表層演技は内部または外部の利害関係者との対話を主に行う顧客対応には必須となる対人スキルです。仮にクレーマーに対して内心は腹が立っていたとしても、その場では笑顔を偽造することでスムーズに仕事が完了します。逆に自分自身の感情により気を配ると、これまで抑制していた不快な感情が前面に浮上し、クレーマーと対峙する時間が長引いたり、その結果仕事の満足度やパフォーマンスが下がることも報告されています。

 一方で、サービス業に関わる人たちは他の業種と比較して特にストレスが多いことも知られています。特に日本では東京2020でも『おもてなし』の精神が取り沙汰され、高いサービス精神が世界中でも注目されています。

 雇用主には、可能な限り従業員のストレスを減らし、より良い職場環境を提供する責任があります。しかし安易にマインドフルネスを導入しても仕事の満足度が下がってしまう可能性がある、、、
 ではどうしたらよいのでしょうか?

 『Where Mindfulness Falls Short(マインドフルネスが不足しているところ)』では、これまでの銀行、ヘルスケア、金融、販売、コンサルティングなど、さまざまな役割と業界の約1,700人の従業員を調査した結果を元に、マインドフルネスの負の作用も認識しながら、職場においてより効率的にマインドフルネスプログラムを取り入れるための4つの戦略が書かれていたのでご紹介していきます。

1, 慎重なターゲティング

 これまでの調査から、表層演技を行う頻度の少ない業種ではマインドフルネスの有効性は高く、逆に日常的に表層演技を行う必要がある従業員(ウェイターや営業担当者など)にはマインドフルネスを行うことで仕事への満足度が下がる傾向も明らかになっています。
 よって、雇用主は既存のマインドフルネスプログラムをただ提供するだけではデメリットとなるケースがあることも理解し、多数存在するマインドフルネスプログラムの中から業種や個人に合わせて慎重に選択する必要があります。

2, 適切なタイミング

 多くの企業では一日中いつでも自由なタイミングでマインドフルネスブレイクを取れるように導入しています。しかし表層演技を必要とするサービス業・顧客対応の人たちは仕事中にマインドフルネスブレイクを取ると逆に仕事の満足度や生産性が下がる傾向があることが指摘されています。
 またこれまでの調査結果からサービス業の方たちは、1日の終わりにマインドフルネスを行うことが効果的であることが分かってきています。その日の心身の疲れはその日のうちに解消、といったところでしょうか。

 このように、業種や従業員それぞれに合わせたマインドフルネス介入のタイミングもあることを、雇用主が理解した上で導入されることが望ましいですね。

 <感情労働を行う方々にオススメの休憩時間の瞑想(約6分間)>

 ストレスを解放しつつリラックスして、仕事への集中力をさらに高めることが期待できます。

Source : マインドフル瞑想チャンネル

3, 気晴らしをする(Distraction)

 表層演技が必要となる職種では、仕事中はマインドフルネスになることよりも、その瞬間の不快な感情から意図的にマインド(思考の矛先)を遠ざけるテクニックのほうが有用であるケースもあります。
 仕事中や仕事の休憩中などに、痛みや不快な感情と自分自身との間に距離をとる方法として、

  • 簡単なパズル
  • 落書き
  • 軽いストレッチ

などの健康的な気晴らし・気分転換を行うことで、不快な感覚への集中が散漫となり、パフォーマンスを維持できることも分かっています。最近では昼休みの短時間の仮眠も、午後の仕事のパフォーマンス向上に働くことも分かってきています。

4, 深層演技(deep acting)のトレーニング

 深層演技とは、従業員が組織のニーズに合わせて内面の感情や気分を変えるトレーニングを行うことで、より自然で本物の感情的な表現を生み出すプロセスです。
 深層演技のトレーニングは、実際に感じている感情と矛盾させて笑顔を偽造するのではなく、よりポジティブな感情を真に感じる(したがって真に示す)ことができるようになります。

 慈悲の瞑想の効果でもお話したような共感的関心(思いやり)を育むと、例えば医師や看護師などが患者の痛みや苦痛などネガティブな感情に必要以上に感情移入することが減り、より積極的で自分が取るべき行動をとり、肯定的な感情を感じられるようになります。
 このように深層演技は、仕事の満足度や幸福に悪影響を与えることなく、必要な感情を表現するために効果的であることもわかっています。

Source : マインドフル瞑想チャンネル

おわりに

 雇用主も従業員もマインドフルネスのプログラムが万人に良い作用をもたらすわけではないことを理解し、沢山存在するアプローチの中からどれがその人に合っているのかを検討してみる余地はまだまだありそうです。
 もちろんあまりにも仕事がストレスフルで心身が不健康になるようなら、転職を検討するタイミングなのかもしれません。一方で、一過的な不快な感情にフォーカスし過ぎてしまうことは、逆に人生全体を長い目で見た時にデメリットとなることもあります。『今ここ』に集中しご自身を丁寧に観察することも大事ですが、他にもまずは深呼吸をしてゆっくりと休息をとる、自分が好き・快適と感じる時間や環境に身を置く、とりあえず少し時間をおいてみるなど、上述の3, 気晴らしを積極的に行うことで、後からまた違った視点が浮かぶ場合もあります。
 それでももしずっと行き詰まりを感じるようでしたら、信頼できる友人や産業医、臨床心理士などプロの方に相談しても良いかもしれませんね。

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ABOUTこの記事をかいた人

ライター。 博士号を取得後、日本学術振興会特別研究員・博士研究員・大学教員として教育研究に計10年以上従事(専門は分子生物学)。9割以上が男性の業界で女性が中間管理職として働く難しさを感じつつ、紆余曲折を経て小島美佳さんからマインドフルネスを学ぶ。 現在は心理学や精神世界のエッセンスを科学の言葉で咀嚼して伝える方法を模索中の、瞑想歴1-2年の初心者です。