現代社会には老若男女問わず多種多様なストレスがあり、ストレスは多く人々が少しでも減らしたい・解放されたいと感じることの一つです。
以前ご紹介した早稲田大学の熊野先生のご著書では、ストレスへの対処法として大まかに分けて以下の3つの方法があると述べられています。
- ストレスを減らす(離れる)
- ストレスを発散する(運動・趣味など)
- ストレス抵抗性をつける
そして、3つ目の『ストレス抵抗性をつける』上でマインドフルネスが有用であるとのこと。
今回は海外のサイト “Mindful.org” の
『How to Manage Stress with Mindfulness and Meditation(マインドフルネスと瞑想を使ってストレスとうまく付き合うには?)』
という記事をご紹介しつつ、マインドフルネス瞑想のストレスへの効果について、科学的な根拠や臨床現場で経験的に分かっていることなどをまとめていきます。
目次
そもそも「ストレス」とは?
ストレスとは、外部から刺激を受けたときに生じる緊張状態のことです(厚生労働省 『みんなのメンタルヘルス』)。
またアメリカ国立衛生研究所(NIH)によると、ストレスとは変化、挑戦、または要求に対する脳と体の反応とのこと。つまり「ストレス」と聞くと漠然となんとなく悪いもの、排除すべきものと感じられるかもしれませんが、細かく分解してみてみるとストレスとは単に
ストレスを引き起こす原因によって起こる生体反応
そのものをさします。
ストレスを引き起こす原因(ストレッサー)
ストレス反応を引き起こす原因となる要因には以下の
- 天候や騒音などの環境的要因
- 病気や睡眠不足、過労など身体的要因
- 過去の出来事・体験やトラウマなどによる不安や悩みなど心理的な要因
- 就職や退職、結婚や離婚、出産や死別などの人生における大きなイベント・転機
- 人間関係がうまくいかない、など社会的要因
など様々あります。
ここで理解しておいた方がいいことは、ストレス要因は人それぞれ、ストレス反応の出方も人それぞれ、ということです。「自分にはストレスではないから、これはストレス要因ではない」といった振る舞いをすると家族・友人・職場などの人間関係で軋轢を生みかねません。
<ストレスをリリースする誘導瞑想>
ストレスを放置すると?
通常はストレスを引き起こす刺激や環境などの原因(ストレッサー)がなくなれば、体の恒常性(ホメオスタシス)維持の働きによりストレス反応は終了し通常状態に戻ります。しかしストレッサーが過剰、または継続して刺激を受け続ることでストレス反応が慢性化すると、ストレス反応によって引き起こされる血圧、心拍数、血糖値の上昇、血管の拡張や血流量の増大が続き、ストレス性の頭痛が起こったり、炎症の進行や免疫力の低下など、本人が気づかない間に心身の症状が悪化します。
その結果、うつ病・適応障害などの心の病気になったり、ストレス関連疾患(心疾患、例えば糖尿病、癌など)になってしまう可能性があります。さらに脳科学の研究によると、慢性的なストレス(具体的には後述するストレスホルモン コルチゾールによって)が大脳新皮質にある海馬と前頭前野を萎縮させ、ストレス反応の出発点である扁桃体を逆に肥大化させる可能性があると言及しています。
よってストレスは慢性化させず、早めに気づき適切に対処することがとても重要となります。
ストレスにもメリットがある
一方で青砥瑞人氏の著書『BRAIN DRIVEN』の中で、悪いことだけではなくストレスにも重要な役割がある、として以下の3つをあげています。
- 受け取った情報がどのような種類のものであるかを伝える役割(目の前の状況が危険か安全か判断するために必要)
- 記憶力を高める役割(例:テストや締め切り前に集中力や記憶力が高まる現象)
- 「直感力」への影響(根拠のない違和感を感じる、などの直感にもストレスが関与)
(BRAIN DRIVEN p150より引用)
つまり、ストレスを理解し、上手に付き合うことで、よりプラスに作用することもある、とのことです。
ストレス反応を引き起こすメカニズム
「ストレスを受ける」「ストレスの多い職場」と表現するなど、ストレスと聞くとストレスの原因となる要素(ストレッサー)を思い浮かべるかもしれません。しかし、細かく要素分解して見ていくと下の図1のように、ストレッサー、ストレスメディエーターが順次作用することで結果的にストレス反応(ストレス)が起こります。
「なぜマインドフルネスがストレスに効くのか?」というと、マインドフルな状態は主に図1のストレスメディエーターに作用し、よりストレス反応を起こしにくい状態を促進、すなわちストレス抵抗性を身につけることができるとのこと。そこで、まずはストレスメディエーターについて説明していきます。
ストレスメディエーターとは
図1に書いたように、ストレッサー刺激を受けてストレス反応を仲介するホルモンや自律神経系など生体内での変化のことです。ストレスメディエーターは主に、内分泌系を介したHPA軸と、自律神経系を介したSAM軸の二つが知られています。
1) HPA軸 : hypothamic-pituitry-adrenal axis (視床下部-脳下垂体-副腎皮質軸, 内分泌系)
大脳皮質で受け取ったストレッサーの情報が扁桃体に送られ、扁桃体からHPA軸を介して副腎皮質からストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が促進されます(下の図2の左側の経路)。コルチゾールはそもそも糖代謝などに働き生存に必須のホルモンですが、慢性的なストレスによって分泌が過剰となると、血圧や血糖レベルの高値が続き、免疫機能の低下なども引き起こされます。
2) SAM軸:sympathetic-adrenal-medullary axis (交感神経-副腎髄質軸, 自律神経系)
ストレス刺激を受け取ると脳幹からノルアドレナリンが分泌されます。ノルアドレナリンは自律神経系の交感神経の神経伝達物質として働き、交感神経を活性化します。交感神経によって心拍や血圧が上がる他、副腎髄質へ作用してアドレナリン・ノルアドレナリンの分泌を促します。副腎髄質から分泌されたアドレナリンやHPA軸で生成されるコルチゾールの前駆体(コルチゾン)は戦うか逃げるか反応(いわゆる火事場の馬鹿力)を引き起こします。
そのほかにも、抗ストレス作用のある神経伝達物質セロトニンの分泌低下、また免疫系も自律神経の制御を受けておりストレスによって免疫力が低下することも知られています。
なぜマインドフルネス瞑想がストレスに効くのか?
呼吸瞑想で副交感神経を優位に
マインドフルネス瞑想の基本である呼吸を意識する集中瞑想は副交感神経系を活性化します。副交感神経は主に交感神経とは逆のリラックスする方向に働き、心拍数、血圧、呼吸数を低下させます。その結果、身体は緊張状態から解放され、修復および回復機能に従事できるようになります。寝る前は交感神経をしずめ、副交感神経優位の状態にしてリラックスするのが良い、と言われるのもこのためです。
逆に副交換神経だけを優位にしていれば良いというものでもなく、昼間の活動や集中力・記憶力には交感神経の働きが重要です。何事もバランスが大事ですね、、、
しかし、現代社会には刺激や情報が溢れており普通に生活をしているだけでも交感神経が常に興奮・活性化している状態が続いているとのこと。よって特に寝る前や過緊張と感じた時に、意識的に深呼吸をしたりリラックスできることを行うことで、副交感神経を優位の状態にして、自律神経のバランスを取ることが重要になります。
<公式YouTubeで公開中 呼吸に集中してストレスを解放する瞑想ガイド(5分間)>
今現在の自分の状態に気づきやすくなる
さらに観察瞑想などマインドフルネスの実践で養われる『今ここ』の認識は、将来を不安に思ったり過去の出来事に囚われることなく、今現在の経験・体験を観察し注意し続けます。
最近の研究(Journal of Research in Personality, 2016) によると、この『今ここの瞬間』にとどまり続けるという在り方は、
- 知覚されるストレスレベルの低下
- 不安や抑うつ、気分の改善、
- 幸福感の改善
など、心身の健康に良い作用を及ぼすことが示されています。
では具体的にマインドフルネス瞑想はどのように作用するのでしょうか?
Mindfulの記事から引用してご紹介します。
1, 自分の思考に対して気づきを得ます。それによって外側の刺激(ストレッサー)に反応している自分にいち早く気づけるようになり、その刺激への反応から距離を取ることができます。その結果ストレス反応そのものが開始せず、ストレッサーはただ通り過ぎるだけになります。
2, 状況にすぐに反応する代わりに、一旦立ち止まり「賢明な心(wise mind)」で最善の解決策を考え出す時間ができます。
3, マインドフルネスはリラクゼーションをもたらし、あなたの心を「どうあるか?(being, 存在)」にスイッチします。 逆に「何をすべきか?(doing)」という思考パターンはストレス反応と深く関連があります。4, 自分自身の体のニーズにより敏感に気づくようになります。 痛みにより早く気づき、痛みに対して適切な行動を取ることができるようになります。
5,他人の感情に対してもより気づきを得ます。 あなたの感情的知性 (EQ) が上がるにつれて、周囲と対立することが減ります。
6, 自分自身や他の人に対する気づきと思いやりのレベルが上がります。 この思いやりの心はあなたを落ち着かせ、あなたのストレス反応を抑制します。
7, マインドフルネスの実践は、脳の中の扁桃体の活動を減らします。 扁桃体はHPA軸によるストレス反応をオンにする最初のスイッチにあたるので、扁桃体の活性減少によって効果的にストレスのバックグラウンドレベルが低下します(図2の左側の経路の沈静化)。
8, 集中力が高まり仕事をより効率的に完了することができるようになり、大きな幸福感を得ることが期待されます。その結果ストレス反応が減少し、心理学者 チクセントミハイが提唱する「ゾーン」または「フロー」に入る可能性が高くなります。
9, マインドフルネスはストレスの悪影響だけでなく、ストレスの良い面にも関心を向ける心の余裕をもたらします。 例えばストレスによって分泌されるホルモンのドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンは集中力や記憶力を上昇させる効果もあり、ストレスをうまく使うことで良い緊張感の中でパフォーマンスを行うことができるようになります。
How to Manage Stress with Mindfulness and Meditation
ストレスとうまく付き合う方法
元記事にはマインドフルネスの実践以外にも、ストレスとうまく付き合う11の簡単なコツも紹介されていたのでご紹介していきます。ご自分に合ったもの、無理なくできることを少しずつ習慣にできると良さそうです。
1, 散歩をする
自動車や公共交通機関などでの移動が増えて、自分の筋肉を使って歩く時間が減っていませんか?ウォーキングなど適度な運動で心拍数を少し上げることは、体だけでなく心にも良い作用をもたらします。また歩いて足の筋肉を使うことでリンパ液の循環を促し、疲労なども改善しやすくなります。(逆に長時間のデスクワークは寿命を縮めるなどの報告もあります)
2, いつもとは別の場所で昼食をとる
時間が足りないとデスクで昼食をとったり、仕事の資料やメールを読みながら食べたりしていませんか?仕事をしながらの食事では脳も心も仕事モードのままで休まりません。仕事から離れて外で同僚とランチをしたりと昼食の時間を楽しんでください。
3, ボディスキャンで筋肉をリラックスさせる
無意識に緊張して強張っている体の部分はありませんか?ボディスキャン瞑想で体のどの部分にストレスがかかっているかをチェックするのもおすすめです。目を閉じて足先から頭まで順番に意識的に筋肉を緊張させてから緩める、という動きをほんの数分間行うだけでも自分の体の緊張に気づき手放すことができます。
4, マルチタスクを最小限に抑える
多すぎるマルチタスクは、常に意識がたくさんの部分の間を行ったり来たりしつつ注意を払っている状態で、疲れ果て、非効率的で、非常にストレスがかかります。やむを得ない場合は仕方ありませんが、可能な限り一つの作業に集中するよう意識してみてください。意識的に食事をする食べる瞑想、意識的に散歩する歩く瞑想もおすすめです。
5, スマホから距離をおく
スマホは便利ですが、あなたの気を散らすデバイスでもあります。スマホの通知はあなたの集中力を奪います。食事中や人との集まりに参加しているときはスマホを触らないよう意識するなど、サイバーワールドから離れる時間を作ってください。
6, 緑(植物)を見る
いつもアスファルトやコンクリートに囲まれていませんか?コンクリートの箱から外に出て、太陽の光の下で成長し、呼吸をして、香りを放ち、風に揺れる木々を見たり、植物に囲まれた場所で過ごす時間をもう少し作ってみませんか?
7, 遊ぶ
遊ぶのは子供だけではありません。 『遊ぶ』とは、目的、計画、意図のないことをすることです。 通りをさまよい、トランプをし、ボーリングに行き、楽しみのための本を読んでください。 自分を手放すことでもたらされる驚きは、あなたを爽快にリフレッシュさせます。
8, 泳ぎに行く
水泳は全身の筋肉を使った運動という効果だけではなく、水の中では浮力を感じて重力から解放され、またデジタルデバイスからも解放されるよい機会です。
9, 何かを音読する
良い文章や詩を声に出して読むと、非常に落ち着く効果があります。 自分の声が好きでない方は代わりにオーディオブックを聴いてみてください。
10, 音楽を意識的に聴く
仕事・勉強しながら、走りながら、ではなく音楽だけを聴いてみてください。座ったり横になったりしながら、交響曲、オペラ、または好みに合った音楽を聴きます。 最初はスマートフォンに手を伸ばしたいと感じるかもしれませんが、すぐに音に沈んでいくでしょう。
11, 休暇を取る
アメリカでも労働者全体での有給取得率は57%程度、年収の高い人ほど休暇が少ない傾向があるそうです。休暇はストレス解消のみならず、あなたの生産性をむしろ向上させ、家族にも喜ばれ、自分自身をケアする時間とスペースをもたらします。
How to Manage Stress with Mindfulness and Meditation
就寝前に試したい 不眠解消のための4つの習慣
ストレスは不眠症の原因となるばかりでなく、不眠・睡眠時間不足・睡眠の質を改善することでストレス反応は減少します。つまり就寝前に副交感神経優位の状態になりストレス反応を和らげることで、睡眠中も心と身体がリラックスした状態が継続し、睡眠によって心身共により回復できるようになります。
最後にmindfulに紹介されていた就寝前のおすすめのリラックス法についてご紹介します。
1, マインドフルネス瞑想
マインドフルネスの効果として睡眠の改善も知られています。寝る前に行うマインドフルネスによって、睡眠、うつ病、倦怠感の改善が見られた、という報告もあります。瞑想アプリなどの入眠ガイド付き瞑想などもオススメです。
Source : マインドフル瞑想チャンネル
2, 深呼吸
就寝前に副交感神経を優位にさせリラックスするために、より深くゆっくりとした呼吸を行うのもおすすめです。
腹式呼吸:このテクニックは胸ではなく腹部に意識を向けて息を吸うことに集中します。10まで数え、同じペースでゆっくりと鼻から息を吐く、のサイクルを5〜10回以上、必要な回数繰り返します。研究によると、深くゆっくりとした呼吸をたった1回行うだけでも、血圧と心拍数を下げることが知られています。
4-7-8呼吸:このテクニックは、ヨガの呼吸法に基づき、アンドリュー・ワイルによって睡眠とリラクゼーションのための呼吸法として開発されました。まず、舌の先を上歯の後ろに置きます。口から完全に息を吐き「うなり声」を出します。口を閉じて鼻から4カウント吸い込み、 7カウントの間息を止めてください。口から8カウントのシューッという音を出しながら息を吐き出します。これらを3回繰り返します。
3, 音楽を聴く
音楽は落ち着きを取り戻しストレスとうまく付き合うのにも役立ちます。研究では、夜にクラシック音楽を聴くと、オーディオブックまたは何もない場合と比較して、睡眠が改善され、うつ病が減少することがわかりました。
就寝前に聴く音楽としては、クラシック、ライトジャズ、ストリングチューン、自然環境音のサウンドトラックなどからあなたの趣味に合ったゆったりとしたテンポの音楽を選ぶのがオススメです。横になって明かりを消し、音に身を委ねてみてください。
4, マインドフル ムーブメント
ヨガの効果としてストレスを軽減することも研究で示されています。ヨガは夜にリラックスするために利用することもでき、前屈、胎児のポーズ、などのヨガのポーズや、ベッドの上で仰向けになって行う穏やかなストレッチによってより睡眠の質を改善することも知られています。
ストレスとうまく付き合うためのあなたに合った方法を見つけ、ストレスの良い面を利用できるようになると、より快適で心身ともに健康な人生を送れるようになる、と期待されます。
ご紹介したMindfulの記事では(英語ですが)ストレス解放の瞑想音源や呼吸法なども数種類紹介されています。興味のある方は是非試してみてください☆