ストレスの脳科学:マインドフルネスで扁桃体を鍛える

現代社会において、ストレスは避けられない問題です。しかし、その影響は単なる気分の問題だけではありません。実は、ストレスは脳の扁桃体に直接作用し、私たちの思考や行動に大きな影響を与えています。

本記事では、ストレスが脳に与える影響、特に扁桃体との関係に焦点を当てます。さらに、マインドフルネス瞑想が扁桃体を鍛え、ストレスを抑える効果について、科学的な知見に基づいて解説します。ストレス脳を克服し、より健康的で生産的な生活を送るための具体的な方法をお伝えしていきます。

マインドフルネスと脳:ストレス解消への道

マインドフルネスとは、今この瞬間に意識を向ける練習です。禅の修行の一つである『数息観』とは、このマインドフルネスの基本となる瞑想法です。呼吸に集中して数を数えることで、最初は集中が途切れて雑念が湧いてきて、どこまで数えたか分からなくなることもあるかと思いますが、雑念が湧いたことに気づいたらまた1から数え直すということを5分、10分と続けていくと、集中力が徐々に高まっていきます。その結果、過去や未来への不安から解放され、今ここに在る、今この瞬間に意識を向けることができるようになります。

一方で、起こってもいない未来への不安や、過去の失敗やトラウマなどに引きずられることは、ストレスの大きな原因になります。またストレスが慢性化すると、脳の働きや形が変化し、心身にさまざまな不調や症状をもたらす状態・ストレス脳となります。

そこでマインドフルネスを実践することで、今ここへの集中が高まり、現実的にどう対処していくか?という意識、思考や行動力が生まれてくると、状況も少しずつ好転していきます。


マインドフルネスが目指す心の状態とは?

マインドフルネス瞑想が目指すのは、集中力とリラックス感の両立です。集中しながら力を抜くことができると、クリエイティビティが高まり、いわゆるフロー状態に入りやすくなります。

一方で、集中力は高いけれどもリラックス感が低い状態が続くと、ストレスが危険なレベルに達し、心身に悪影響を及ぼす可能性があります。 
そして、下の図のリラックス感も集中力が低い状態は、バーンアウト(燃え尽き症候群)の状態です。

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ストレスの脳科学:扁桃体の役割

ストレス刺激を最初に受け取る、つまりストレスを感じるのは脳です。
脳がストレス刺激を受け取ってからストレス反応へとつなげる経路は、以下の2種類が知られています。


扁桃体の位置
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1) 扁桃体へ伝達される経路:HPA軸

内分泌系を通じてストレス反応を引き起こします。

① 主に視床から大脳皮質を介して大脳辺縁系の一部である扁桃体(右図)へ伝達される経路と、

② 大脳皮質を経由せず直接 大脳辺縁系の一部である皮質下核から扁桃体に伝わり、
扁桃体からHPA軸 : hypothamic-pituitry-adrenal axis (視床下部-脳下垂体-副腎皮質軸, 内分泌系) へと繋がる経路

があります。


2) 自律神経系を介する経路:SAM軸

自律神経系を介してストレス反応を引き起こします。
ストレス刺激を脳幹で受け取り、SAM軸:sympathetic-adrenal-medullary axis (交感神経-副腎髄質軸, 自律神経系) へと伝わる経路です。

HPA軸への刺激入力に働く大脳辺縁系は大脳の中でも内側に位置し、古からの快・不快、恐怖、闘争逃避反応などの情動や本能(サバイバル反応)に結びつく機能に関与し、生存に必須な領域でもあります。

これらの経路の活性化により、副腎皮質からコルチゾールなどのストレスホルモンが分泌され、心拍数の増加や血圧の上昇などの身体反応が起こります。


ストレスが脳を変化させる – ストレス脳

最近の脳科学では、長期的なストレス状況下では

  • 扁桃体が肥大化
  • 記憶形成に関与する海馬が縮小(つまり記憶力の低下など)

のように脳の構造自体が変化することも明らかになっています。

これらの変化は、慢性的なストレス状態、いわゆる「ストレス脳」の形成につながります。ストレス脳では、思考を担う前頭葉の機能が低下し、冷静な判断が困難になります。


マインドフルネス瞑想により扁桃体が縮小する

マインドフルネスストレス低減法(MBSR)には、ストレス反応スイッチである扁桃体を縮小させる効果があることが科学的に証明されています。マサチューセッツ総合病院の研究によると、8週間のMBSR実践後、参加者の右側扁桃体の基底部灰白質密度の減少(つまり縮小)し、さらに自己報告でのストレス認知も低下しました。

(26人のマインドフルネス未経験者にMBSRプログラム実施し、その前と後にfMRIで脳を解析した結果。Stress reduction correlates with structural changes in the amygdala, Soc Cogn Affect Neurosci, 2010

マインドフルネス以外にもランニングやウォーキングなど、日々皆さんの心が落ち着くことをやる(副交感神経の活性化によるリラックス)と、ストレス反応の沈静化がよりスムーズになります。

ストレスの刺激によって扁桃体が活性化すると 思考などを担う前頭葉の働きが低下して、考えるよりもまず動け、という戦うか逃げるか反応が引き起こされます。これも後述するように火事場の馬鹿力的に瞬発力でその場の危機を切り抜ける上では必要なものです。

通常であればストレス反応はその役割を終えると、抗ストレスホルモンの分泌によって沈静化、ストレス状態の解消・正常な状態に戻ります。一方で過剰で慢性的なストレスにさらされ続けていると、ストレス反応が収まる前に次のストレス反応が引き起こされ、闘うか逃げるか反応が続く状態となり、その結果、心身に異常を来します。


キラーストレスとその影響

NHKスペシャルでも取り上げられたことがありますが、ストレスは決して軽視できません。ストレスは突然死の原因になることもあります。

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 ストレスはある日突然死因に変わる、ストレスの閾値を超えると病気が発症するメカニズムや、予防法としてマインドフルネスもNHKスペシャルで紹介され話題にもなりました。
 ストレスを引き起こす原因であるストレッサーは生きていたら避けることができない、私たちの周りにありふれているもので、それら刺激がストレス反応(血圧、心拍数、血糖値の上昇、血管の拡張や血流量の増大など、いわゆる闘争逃避反応)を引き起こします。しかしストレス反応が慢性化したり一時期に大量にストレッサーがやってきて閾値を超えると全てアウトプットできなくなり、その結果病気が発症する、というメカニズムが提唱されています。


ストレスが関係する病気

  • 蕁麻疹
  • アレルギー
  • 胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍
  • 脳卒中・心筋梗塞
  • 糖尿病
  • 円形脱毛症
  • エコノミークラス症候群、や
  • 精神疾患としてうつ病など

が挙げられます。脳卒中や心筋梗塞などは自覚ないうちに症状が進行して発症したときには致命的になりうるので、これらもキラーストレスと呼ばれる理由といえます。

ストレスによって免疫を担うリンパ球の一種、ナチュラル・キラー細胞(NK細胞)の活性が減少したり、免疫細胞間の情報伝達を担うサイトカインが減少することも知られており、それらによる免疫力の低下の結果、癌になりやすくなる、という報告もあります(日薬理誌, 2011)。

さらには日本整形外科学会と日本腰痛学会が作成した腰痛診療ガイドライン2019では、3ヶ月以上腰の痛みが続く慢性腰痛の原因の一つとしてストレスをあげており、その治療にマインドフルネス・ストレス低減法が有効、とも言及しています。


<ストレスの原因>

 主に、転居・結婚・離婚・死別などのライフイベントが多いのですが、昇進もストレスリスクになります。環境変化に対して人はそんなに強くないので、一時期にたくさんのストレス要因が重なる時は要注意です。

 実際に今自分自身はどのようなストレスの原因にさらされているか?を調べるには、厚生労働省のHPでストレスセルフチェックテストがありますので試してみてください。意外とたくさんのストレス要因を抱えているんだな、もう少し無理せずリラックスを心がけよう、と気づくきっかけにもなるかもしれません。

ストレスの二面性:脳と心への影響

ストレスの脳科学的メカニズムを理解したところで、次はストレスの性質についてより深く掘り下げてみましょう。ストレスと一言で言っても、実はその全てが私たちの健康に悪影響を及ぼすわけではありません。大きく分けて2種類のストレスがあり、その中には実は良い作用をするものも含まれているのです。


1, 適応的ストレス:パフォーマンスを高める原動力

これは主に体のストレス反応として現れます。仕事や学業に熱心に取り組む際に生じるストレスがこれにあたります。アドレナリンなどのストレスホルモンは、こうした場面で私たちの能力を引き出す重要な役割を果たします。

適度な緊張感は、実は私たちにとって有益な側面があります。やる気やモチベーションが高まり、その結果、集中力が向上し、課題に効果的に取り組めるようになります。つまり、このタイプのストレスは、私たちの潜在能力を最大限に引き出す触媒として機能するのです。



2, 我慢するストレス – 慢性化すると健康への潜在的脅威に

一方で、主に心のストレス反応として現れるのがこのタイプのストレスです。満員電車での通勤、職場環境の問題、難しい人間関係など、自分ではコントロールしづらい要因から生じることが多いのが特徴です。

このようなストレス要因が長期間続くと、ストレスは慢性化し、ある日突然、健康に深刻な影響を及ぼす「キラーストレス」へと変化する可能性があります。慢性的なストレスは、様々な疾患の危険因子となり得るため、適切な管理が不可欠です。


マインドフルネスによるストレス管理:心理的安全とレジリエンスの構築

ここで、マインドフルネスの重要性が再び浮かび上がってきます。第9講でお伝えしたようにマインドフルネスの実践は、考える力・思考力と感情的な反応のバランスを取る上で非常に効果的であることが科学的に示されています。さらに、マインドフルネスはストレスに対する「レジリエンス(精神的回復力)」を高める上でも重要な役割を果たします。

特筆すべきは、マインドフルネスが扁桃体の活動を沈静化させる効果です。これにより、恐れや不安などの扁桃体由来の強い感情反応が緩和され、過剰なストレス反応の減少につながります。同時に、この過程はレジリエンスの向上にも寄与します。ストレス状況に直面した際に、より柔軟に対応し、素早く回復する能力が養われるのです。

つまり、環境自体が変わらなくても、マインドフルネスの実践によって脳の神経回路が変化し、ストレス刺激に対する認知が変わっていきます。結果として、ストレス反応も自然と減少し、より心理的に安全な状態を維持できるようになります。これは、高いレジリエンスを持つ個人の特徴でもあります。

このように、マインドフルネスは単なるリラックス法ではありません。それは脳の機能を最適化し、ストレスに対する耐性を高め、レジリエンスを強化する強力なツールなのです。定期的なマインドフルネス実践を通じて、ストレスフルな状況に対してより適応的に対応し、心理的な安全を維持しつつ、迅速に回復する能力を培うことができます。


【実践】呼吸に全集中してストレスを解放する5分間瞑想

最初にお伝えした『数息観』自分自身の呼吸に集中して集中力を高め、ストレスを解放するための瞑想ガイドです。

Source : 瞑想チャンネル for Leaders

結論:扁桃体を鍛え、ストレスに強い脳へ

ストレスは現代社会では避けられませんが、その影響を最小限に抑える方法は存在します。マインドフルネスを通じて扁桃体を鍛えることで、ストレスへの耐性を高め、より健康的で生産的な生活を送ることができます。日々の小さな実践が、長期的には大きな変化をもたらします。自分自身の脳と向き合い、ストレスに振り回されない強い心を育てていきましょう。

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マインドフルネスおすすめ情報

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ABOUTこの記事をかいた人

大阪大学大学院博士前期課程修了。認定プロセスワーカー。臨床心理士。 瞑想経験20年以上。 マインドフルネス瞑想の土台でもある、10日間のヴィパッサナー瞑想リトリート(※)に15回以上参加。タイ、インドにて長期トリートで修行を積む。  深層心理学のユング心理学にルーツを持つプロセスワークの専門家。身体性やマインドフルネスを早くより研究、実践し、個人の心理のみならず、関係性やグループ、組織を対象に仕事をしている。ビジネスシーンにおいては、プロセスワークのコーチングや、組織開発やコンサルティングに従事。企業におけるマインドフルネス研修や、大手フィットネスクラブのマインドフルネス・プログラム開発や指導者養成も行う。著書に『日本一わかりやすいマインドフルネス瞑想"今この瞬間"に心と身体をつなぐ』BABジャパン2015、共訳書にアーノルド・ミンデル著『プロセスマインド』春秋社2013、ジュリー・ダイアモンド著『プロセスワーク入門』などがある。

(株)BLUE JIGEN 代表取締
バランスト・グロース・コンサルティング(株)取締役
(一社)日本プロセスワークセンター ファカルティ
日本トランスパーソナル学会 常任理事

(※) 10日間 話さずに座り続けるもの